「なぜアタシのライバルにはブレーキがないのか」 作:アメざいく
「アヤベさーん、何読んでるんですか?」
「え?・・・あぁ、冥王星についてちょっとね・・・」
「めいおうせい?」
ぱたん、という音と共に本を閉じると、アヤベさんことアドマイヤベガは、意識の対象を冥王星からカレンチャンへと移す。
「オペラオーが冥王星の冥王っていうワードに興味を持ってね、今のうちに調べておこうと思って」
なんかそのうち冥王星絡みでオペラオーが変なことをしだすだろうから、とアヤベさんは付け足すように言う。
「どんな星なんですか?冥王星って」
「もともと太陽系の第9惑星だと『考えられていた』星よ。実際は準惑星という、別の分類に入る星なんだって」
「・・・そういえば、水金地火木なんたらかんたら~にも、冥王星の文字はありませんもんね」
「えぇ。・・・【冥界の王】なんてたいそうな名前を付けられた割には、月よりも小さな、惑星ですらない星・・・」
だがそれでも、完全なる名前負けという訳ではない。この星には本当に、【冥界の王】たるポテンシャルがあるのだ。
「プルトニウムという物質があってね。これの名前の由来は、この冥王星から来てるのよ」
「プルトニウム・・・あぁ~、なんか、アクチノイドだかランタノイドだかの列に並んでる子ですよね。・・・何に使うんですか?」
「プルトニウムは有名な放射性物質で・・・
・・・爆弾の材料として使われていた過去があるのよ」
8月9日、午前11時。夏真っ盛りの日の夏真っ盛りな時間という、夏を感じるには夏要素があまりにも多すぎるこの時間。そんな時間帯に和気あいあいと屋外活動できるはずもなく、商店街巡りと称して意気揚々とやってきた3名はクーラーの効いた食堂に閉じこもっていた。
「・・・今日は昨日より涼しくなるって話、あれなんだったんでしょうね?」
メロンソーダを片手にそんなことを言うのはセイウンスカイ。タンホイザは知っている。スカイがこの日のためにわざわざ下見を行っていたという事を。そしてナイスネイチャは知らない。スカイがこの時のためだけに多大な時間を消費してプランを立てたという事を。
「・・・3時くらいには涼しくなってるかな・・・いやもっと暑くなってる可能性も・・・」
外の青空とは裏腹に、スカイの表情はどんどん曇っていく。・・・あぁ、まずい。花が似合うウマ娘にはちょっとした不幸が襲い掛かるジンクスでもあるのだろうか。
これはまずい、とタンホイザは思う。とにかく話題を別のものに転換しよう。・・・え~っと、どうしようかな・・・う~ん・・・
「――――ふたりとも緑が似合っててずるい!!」
・・・・・。
「・・・・・。」
「・・・・・・。」
(・・・ボキャ貧です、はい・・・)
さぁどうしよう。空気もメロンソーダのグラスもどんどん曇っていってるような気がする。
「・・・緑と言えば、」
ネイチャの人差し指の先がスカイのメンコを示す。・・・確かにスカイのは緑色だけど・・・
「スカイのイメージカラーと言えばほぼ満場一致で青色。なのにメンコは緑色・・・
それに対し、緑がイメージカラーとして浮かぶキングヘイローのメンコの色は・・・」
(・・・あっ・・・!!)
「・・・青色・・・?」
「そういうこと。
・・・キングとスカイって、ジキルとハイドというか、対照的というか、でも根はどこか似てるというか・・・まぁそんなふたりが、お互いのイメージカラーのメンコをつけている・・・
・・・は~っ、やっぱり青春してる若い方々は違うね~?」
「はっ!?いやちょっ・・・違うからね!?」
顔をやや紅潮させながら、スカイは手をぶんぶんとふって必死に否定する。・・・これはただの照れ隠しなのか、はたまた本当にただの偶然なのか・・・どのみち、真相はスカイとキングにしかわからないのだろう。ウンスキンのみぞ知るなんとかってやつである。
「この一流鬼ングめ・・・」
「いや違う!!というかなんで私が欲望にとらわれる前提!?」
「う~ん・・・イメージ?」
「ちょっと!!」
・・・にしても、こうしてみるとスカイって案外交友関係広いんじゃなかろうか。私たちにキングやフラワーはもちろん、マヤノやターボとも仲が良い気がする。・・・やっぱり性格だろうか。なんてことをタンホイザは思う。
「というか、それを言うならネイチャだって・・・
・・・って、あれ・・・?」
スカイの視界に見慣れたロングヘアのウマ娘が映る。・・・間違いない。
「・・・あれメジロドーベルじゃない?」
「え?」
メジロドーベル。最近意味深な行動が目立つウマ娘だが・・・今回は別のウマ娘と共に、楽しそうに商店街を歩いていた。一見するとごく普通のありふれた光景に見えるが、一緒にいるそのウマ娘が誰なのかは、スカイは知らない。
「ドーベルと一緒にいるあの子、・・・あんな子うちの学園にいたっけ?」
「少なくともあたしは見たことない・・・タンホイザは?」
「いや~、私もさっぱり・・・」
この3メンバーがそれぞれ揃って誰も知らないとは・・・あのウマ娘がただ影が薄いだけなのか、はたまた学園の生徒ではないのか。
まぁいずれにせよ・・・『タイミング悪い』のひとことに尽きる。
(うぅ・・・なんでこんな時に限ってドーベルを、しかもいつもと違う行動をしている状態を見つけちゃうんだ・・・)
このままドーベルを放置してネイチャたちと遊ぶか、それを切り上げてドーベルを追うか。・・・う~ん・・・
(・・・ま、放置してていっか・・・)
どうせ楽しそうに遊ぶドーベル&見知らぬ誰かさんのコンビを放置したところで、なにか大問題が起きたりはしないだろう。多分。
「・・・さ!!暑くならないうちに、そろそろ活動しましょー!!」
ネイチャのそんな言葉で、スカイははっと現実に引き戻される。・・・暑い。夏。猛暑、涼しい・・・あっ。
「そうだ!!今日の夜さ、心霊スポットに行こうよ!!」
何を思いついたのか、スカイが突然そんなことを言う。・・・そうだ。あるじゃないか。ネイチャたちと遊びつつドーベルに関しての調査が出来る、しかも今のプランとは別に実行できるものが・・・
「お、いいじゃん!!・・・で、どこの心霊スポット?」
「ほら、あるじゃないですか、学園からものすごく近くて、雰囲気もばっちりで、不気味なうわさが絶えない場所。
・・・学園はずれにある旧寮に」