「なぜアタシのライバルにはブレーキがないのか」 作:アメざいく
―――あれは確か、土砂降りの夜だった気がする。
「・・・・ん。」
差した折り畳み傘を片手に小走りで学園へと戻ろうとしていた時、アタシは見つけてしまったのだ。・・・道路わきに倒れている、ウマ娘のような何かを。
バケツをひっくり返したような、なんてありがちな比喩がしっかりと合うくらいの大雨に打たれていたその『なにか』には、耳も尻尾も存在しないように見えた。
奇形?それとも・・・都市伝説で騒がれている怪物?
そんな得体のしれない物体を助けるほど、アタシは優しいウマ娘ではないはずだった。だが・・・
・・・どうしても、他人とは思えなかったのだ。
「・・・大丈夫?」
倒れている『なにか』の方をゆさゆさと揺さぶる。今思えば、この出会いが何かのはじまりで・・・終わりだったのかもしれない。
「・・・この寮にはもともと、ひとつの噂話があってね?」
・・・時刻は午後8時。真夏特有の夕方と夜の区別があいまいになる時間帯にて、セイウンスカイはそう口を開く。
学園外れの旧寮。学園随一の心霊スポットにして、深夜にメジロドーベルがひとりで向かっていったというこの場所。
「ここはかつて、栗東、美浦に次ぐ3つめの寮だったんだとか。そして今から十数年ほど前、この寮にひとりのウマ娘が所属していた。そのウマ娘は一見すると何の変哲もない普通の子だったが・・・実は彼女は二重人格者だったらしい」
淡々とそう語りながら、懐中電灯を片手に廃墟と化した建物の中を進む。床はところどころ傷んでいるようで、歩くたびにどこかがきしむような音がした。
・・・にしても、スカイがなぜ唐突に心霊スポットに行こうと言い出し、そしてその行先にこの場所を選んだのか・・・何か別の目的があるのではないだろうか?なんてことをネイチャは考える。
ちらっと横にいるであろうタンホイザに視線を移すも、彼女はスカイを特に疑うようなそぶりもなく、ただシンプルに心霊スポットという存在の雰囲気とスカイの話を楽しんでいるように見える。・・・やれやれ、これは自分ひとりで考えるしかないか・・・。
「・・・二重人格?」
「そう。もう片方の人格はものすごく凶暴なものだったらしくてね?それを気味悪がったルームメイトが当時の寮長に相談して、その子をひとり部屋に閉じ込めたんだと。窓には鉄格子をはめて」
スカイが懐中電灯の光を床のほうに向ける。・・・何年も放置されていたという割には埃が少なく、むしろ綺麗な印象を受けた。
「まぁそうやってその子が閉じ込められてからしばらく経った頃、事件は起こった。ある日、極限状態まで追い詰められた少女の人格は、もうひとつの凶暴な人格に支配されてしまったのだ」
音声読み上げソフトのそれのように、そんな残虐なストーリーを淡々と語るスカイ。・・・この話になんて興味などないのか、はたまたそういう対比で不気味さを出す策略なのか。いずれにせよ・・・ネイチャにはそんな光景がものすごく不気味に見えた。
「・・・ねぇちょっとタンホイザ、なんかスカイの様子がさっきから変じゃない?」
「えぇ~?私にはいつも通りに見えるけどな~・・・眠いんじゃないの?」
・・・さいですか。
「にしても怖いね~二重人格って。ギムレットさんとかそういうの好きそうだけど」
「そういう事言うといろんな方面から怒られるよ・・・」
「・・・ん。」
そんな話をしていると、スカイが明後日の方向に懐中電灯の光を向ける。・・・照らされた先にあった扉は、どうも他の扉とは違ってどこか綺麗だった。・・・いや装飾がという意味ではなく、掃除が行き届いているというニュアンスで。
「・・・ま、この話のラストはお察しくださいという事で」
半ば強引にそう話を断ち切ると、スカイはひとりその部屋の中へと入っていく。
「え?・・・あぁっ、ちょっと!!」
―――のどかで、のんびりとしていて、何かにせかされることもなくて、隣にはフラワーがいる。
それが私・・・セイウンスカイの望む日常のはずなのだ。
でも、なんでだろう。そんな日常の中に、・・・・なにかぎらぎらとしたものを求めてしまうのは。
もっと・・・私が青春を懸けて成し遂げたいような何かを、私の存在を証明してくれる何かを、・・・無意識に求めてしまう。
メジロドーベルが奇行をしだしたのは、私がどこまでも湧いてくるそんな感情にいい加減うんざりしてきた頃だった。
・・・これだ、と直感した。実際のところもうなんでもよかった。だが自分の求めているものが何なのかを明らかにするためには、メジロドーベルという存在が非常に便利で手ごろな獲物だったってわけだ。
(―――このエリアだけ、不自然に掃除されている・・・。なぜ?
・・・逆にいえば、なんでこのエリアだけを掃除する必要があったのか・・・)
・・・もしかすると、使おうとしていたのではないだろうか。建物全体の掃除はできなくても、せめて自分が使うエリアとその周辺くらいは綺麗にした・・・のだろうか。
ではなぜわざわざこのエリアを使う必要があったのか?そもそも何に使っていたのか?・・・そしてそのことを、なぜ誰にも話さなかったのか。
(・・・ここでいったい何が行われていたんだ・・・うん?)
懐中電灯の光が、なにやら細い糸のようなものを見つける。・・・これ、髪の毛か・・・?
(・・・いや、でもドーベルの髪にしては明らかに長さが短すぎる・・・
・・・ドーベルの他にも誰かいたのか・・・?)
この場所は、ドーベルとそのショートヘアな誰かとの共有スペースだったのだろうか。
・・・ドーベルがカフェにさえ存在を隠し続けていた、その『誰か』との。
(う~ん・・・メジロドーベル・・・)
「・・・なにやってんの?」
「は?」
突然背後から聞こえてきたそんな声に、思わず間抜けな声が飛び出る。・・・思考回路をターンしろ、思考の対象をこの声の主に・・・うん?
「メジロ・・・ドー、ベルぅ・・・?」
その声の主は他でもない、そのメジロドーベルである。後ろにはお昼ごろに一緒にいるのを見かけた見知らぬ子も。・・・あ、これはまずい。
「あ~・・・え~っと、これにはその、そこまで深くはない深~い理由が・・・」
急いで思考回路を言い訳考えるモードへと急転換する。・・・なんか考えろなんか考えろなんか考え・・・あ。
両腕を誰かにつかまれる感触がした。・・・右を向けばネイチャ、左を向けばタンホイザ。・・・うん?
私の両サイドをキャッチ(ホールド?)した2名は、そのままものすごいスピードで出入り口へと突っ込んでいく。・・・ちょっと、・・・逃げるんかい!!
「これで勝ったと思うなよー!!」
どこか既視感のする台詞を叫ぶ。・・・さて、どうしよう・・・。
ちなみにドーベルと一緒にいる見知らぬウマ娘は、黒髪ショートヘアの気弱そうな子というイメージでお願いします(何の話)。