「なぜアタシのライバルにはブレーキがないのか」 作:アメざいく
・・・にしても、スイープさんの行動も言動も、自分の心に(いい意味で)ぐさっと来るものが多かった印象です。・・・スイープさん・・・。
「おっはよ~、いや~、今日も暑いね・・・
・・・って、あれ?」
8月10日早朝。メジロドーベルはいつものように、旧寮の一室に住まわせていたとあるウマ娘へのモーニングコールをしに来ていた。
だが・・・見当たらない。旧とは名前についていても、しょせん寮は寮なのだ。そんなに隠れられるような場所なんてない。
そういう冗談は心臓に悪いからやめてよ、と自分に言い聞かせるように言うと、クローゼットも開け、洗面所などの部屋たちも一通り調べる。・・・いない。
どこかに見落としがあったのかもしれないと思い、再度部屋の中をくまなく探し回る。・・・床下、ベッドと壁の隙間、天井裏・・・常識的に考えればそんなところにはいないだろなんて場所もしっかりと探した。だが・・・その姿はおろかシルエットすら確認できない。
「・・・あと探してないのは・・・えっと・・・うん?」
机の上に一枚のメモが置かれているのが見える。そしてそれにペーパーウェイトのようにのせてあった5円玉も。
そのメモには何回も書き直した形跡が残り、それに伴ってか少しぼろぼろだった。
5円玉をどかして、メモを拾い上げる。・・・メモ、というよりかは書置きやそれに満たなかったものといったほうが正しいかもしれない。
―――『ありがとう、さようなら』。
その文字の後ろには、恐らく言葉へと昇華しきれなかったのだろう文字たちが、消されかけの状態で残されていた。
「私は生きます。だから心配しないで。それと・・・応援してる、から。だってドーベルちゃんは、とっても強いウマ娘、なんだから・・・」
瞳の奥からなにか熱いものがこみあげてくるのが分かる。・・・なんで?なんで・・・?
「なんで・・・?わかんないよッ・・・」
「―――本当に何もわからないんですか!?」
「いやそうは言われてもだねぇ、わからないものはわからないのだよ・・・」
オレの問いにそう答えるタキオン先輩に、手に持っていたファイルをぽいっと投げ渡す。
・・・例の『人間をウマ娘に変える薬』に関する研究ファイルである。
人間とはなんだ?そして何のためにこれを作ったのか?まぁそんなことを明らかにするべく再びラボにやって来たのだが・・・この有様である。
「わからないなんてことはないだろ、これアンタが書いたんだから。1年も前の事なんて忘れたなんて逃げの定型文、今日は受け付けないからな。・・・というかアンタ差しでしょ」
「これまた情報量が多すぎる言葉だねぇ・・・もうちょっと簡略化して」「先輩!!」
またしてものらりくらりとかわそうとするタキオンをきっとにらむ。・・・蛇に睨まれた蛙、なんて言葉があるが、先輩は睨まれたところでなんだみたいな態度を貫いていた。あちら側が睨まれるサイドの蛙なら、睨むサイドのこちらはせいぜいバッタちゃんといったところだろうか。
「・・・まぁ、そうは言ってもだな。わからないとは言っても、推測はすることが出来る」
・・・?
「この薬の仕組みを見る限り、対象となる代物はウマ娘に近い生命体・・・まぁ最低でも『哺乳類』の分類に入る『二足歩行の生物』だということがわかる。」
・・・なるほど?つまりだ、この『人間』っていうのは生命体で、哺乳類で、二足歩行で、なんか知らんけど世間一般的には認知されていない存在という事だ・・・うん?
『ウマ娘から耳としっぽを取り除いたような謎の生物の目撃情報が、ネット上にたびたび投稿されてるんだ』
あれはいつの事だったか、確かただの暇なウマ娘の集いと化していた寮長会を、明確な目標を持たせて組織化しようという風潮になったときにフジ先輩が言っていた言葉だったような気がする。それがきっかけで暇な集いはオカルト研究へと方向性が決まり、組織として稼働を始めたわけだが・・・
・・・耳としっぽのないウマ娘。二足歩行。ネットの都市伝説上の存在=世間的に認知されていない。
(・・・まさか・・・)
・・・いや、ただの考え過ぎだろう。きっと深読みが過ぎたんだ。
「・・・あぁ、そう言えば、数日くらい前に、君と同じくこのファイルについて尋ねてきたウマ娘がいたねぇ・・・質問内容は全然違ったけど」
「?・・・誰です、それ」
「ん~・・・私は基本的に、相談者のプライバシーは守るのだが・・・今回はウオッカ君と私の友情に免じて、特別に教えてあげよう」
友情もへちまもないから、とっとと教えてください。いや教えろ。
「あぁ。ドーベル君さ。メジロのご令嬢の」
・・・え?