クソチャラお兄さま 作:おこめイーター
■
時間は少し戻って、デビュー戦の二週間くらい前。
いつもみたいに、練習前のミーティングをしている時だった。
「おコメちゃん、これなーんだ?」
なんて聞いて来るトレーナーさんが持っていたのは、一封の小さな封筒で。
「えっと……?」
「ヒント。デビュー戦に挑むときに確認しなきゃいけない、大事なもの」
……あ。
「もしかして、出走表?」
「ぴんぽーん」
ライスの答えに、トレーナーさんはそんな返事をして、封筒を手渡してくれた。
出走表。デビュー戦でライスと一緒に走る子が書かれてる、大事な書類。
基本的に出走表っていうのは二段階あって、今回のこれには出走するメンバーが書かれてる。
もう一つは、枠番とか出走番号とかが割り振られたもので、レース当日に発表されるはず。
ライスはレースに出たことないから、こうして実物を見るのは初めてだった。
……でも、少しだけ気になるのは。
「もう、届いてたんだね」
「そうそう。思ってたより早くてさー。いやまあ、遅いよりはいいんだけど」
普通は一週間前とか、遅くても三日前とかになるはずなんだけど。
トレーナーさんの言葉を聞くに、やっぱり少しだけ早いみたい。
……確かに、遅いよりはいいのかもしれないけど。
早い、っていうことは、このレースに前々から出走するって決めてた子がたくさんいて。
つまり、それだけこのデビュー戦に向けて調整してる子たちがいる、ってことだよね。
「不安?」
なんて考えていると、トレーナーさんがライスの顔を覗き込みながら、そう聞いてきて。
「じゃあさ、せーので俺と一緒に見ようよ」
「……うん」
頷くと、トレーナーさんはライスの隣に来てくれた。
封を開けると、中には四つ折りになった一枚の紙が入ってる。
それをゆっくりと机の上に出してから、一回だけ深呼吸をして。
「せーのっ」
掛け声と一緒に、その紙を開いた。
当然だけど、書かれていたのはデビュー戦に出走する、八人の名前。
並ぶ名前の中は、ちゃんとライスの名前も載ってる。
……でも、それに気づいたのは、一人のウマ娘の隣にライスの名前があったから。
きっと、ライスもトレーナーさんも、まず始めにその名前が目に入ってきたんだと思う。
だって二人とも、その名前に見覚えがあったし、そこに並ぶはずなんてなかったもん。
どうして、とかなんで、とかいう言葉ばっかりが、頭の中に浮かんでくる。
そうやって驚くライスよりも先に、トレーナーさんが口を開いて。
「……やりやがったな、あの野郎」
え?
「ごめん、ちょっと行ってくるわ」
「と、トレーナーさん?」
ひょいっと出走表を手にすると、トレーナーさんは急ぎ足で部屋を出て行って。
「ま、待って……!」
とにかく今のライスは、その後を追うことしかできなかった。
■
そうやって、すたすたと歩いていくトレーナーさんについていくこと、しばらく。
やってきたのは、共用トレーニングコートの、A面だった。
「どうして、急に……」
学園の共用トレーニングコートは、大きく二つに分かれてる。
一つは、校舎の裏にある、主に中・長距離のコース練習ができるB面。
ライスが前から使っていたコートで、トレーナーさんに注意を受けた日もそこで練習してた。
そしてもう一つが、校舎のすぐ前にある、全距離がまんべんなく練習できる、A面。
ダートとか坂路の練習もできるから生徒の使用率も高い、人気の場所。
お昼が終わってすぐの今でも、コースではたくさんの生徒が練習してる。
そこにやってきたトレーナーさんは、きょろきょろと辺りを見回してから、急に。
「おーい、後輩ちゃーん!」
誰かを見つけたかと思うと、大きな声で誰かを呼んだ。
「ちょっと、トレーナーさん……!」
突然、そんなことをするから、練習をしていた生徒のみんなもこっちに振り返っちゃって。
なんだなんだ、どーしたの、いやわかんない、みたいな声まで聞こえてくる。
ど、どうしよう。みんなに見られてると思うと、すごく恥ずかしくなってきた。
こういうのに慣れてないから、いつもはBコートで練習してたのに。
なんて考えていると、すぐに近づいてくる足音が聞こえてきて。
振り返ったそこに、立っていたのは。
「先輩……と、君は……」
……あ。
もしかして、模擬レースの申し込みの時にお世話になった、トレーナーさん?
「何、二人とも知り合いなの?」
「ええ。前に一度、顔を合わせたことがあって」
「……ちょっと、俺の担当また盗るつもり?」
「しませんよ。僕は今、彼女のことで精一杯なんですから」
あはは、なんて笑いながら、その人が答えて。
ということは、やっぱりこの人が……。
「ところでさあー」
「うわっ」
ぐい、なんて強引に、トレーナーさんがその人の肩に手を回すと。
「これ、どういうつもり?」
そのまま、さっきからずっと持っていた出走表を、見せつけた。
「……どういうつもり、というのは?」
「言わないと分かんねーか? そんな不出来なヤツじゃねーだろ、お前」
あ、これトレーナーさん、怒ってる。間違いない。
だって、この前みたいな話し方になってるもん。
するとトレーナーさんは、呆れたようにため息を吐いてから、改めて。
「なんでミホノブルボンのデビュー戦、中距離で出してんだよ」
そう。
ライスシャワーの隣に並んでいた、ウマ娘の名前は。
ミホノブルボン、だった。
「デビュー戦はマイルで出るっつっただろ。それとも、何だ。出るレース、一ヶ月間違えたか?」
「……そんな初歩的なミス、するはずないでしょう。ちゃんと確認しました」
「だよなー? じゃあこれ何だ。言ってみろ」
ほら、なんて出走表を顔に近づけながら、トレーナーさんが聞いてみるけど。
その人はばつが悪そうに、顔を背けたまま口を噤んでいた。
……トレーナーさんの味方をするわけじゃないけど、確かにライスも気になる。
別に、ブルボンさんは二〇〇〇までなら走れると思うけど、マイルの方が得意なのは、確か。
それなのに、どうしてわざわざライスと同じ中距離を……?
「俺への当てつけ……は、無いな。お前はそんな捻くれたヤツじゃねーし」
「当たり前です。これでも、先輩のことは尊敬してますから」
「じゃあ、その尊敬する先輩の担当と、自分の担当被せた理由は何だよ」
「……それは」
問いかけに続いたのは、トレーナーさんの言葉でも、ライスの呼びかけでもなく。
「私の意志です」
いつの間にか二人の後ろに立っていた、ブルボンさんだった。
「ブルボン……」
「……ミホちゃんじゃん。おひさ」
「お久しぶりです、元マスター。ふた月と三日ぶりですね」
「何、その元カレみたいな言い方。今すぐやめろ」
小さく笑うと、トレーナーさんはブルボンさんのトレーナーを、強く突き飛ばして。
「ちょッ」
転がるブルボンさんのトレーナーさんを無視して、ブルボンさんの前に立った。
……ど、どうしよう。確か二人って、ケンカして別れちゃったんだよね。
ということは、このままじゃまた、ケンカが始まっちゃうんじゃ……。
「……それで? ミホちゃんの意志ってどーゆーこと?」
「オペレーション:三冠制覇を達成するためです」
「だから、そのために何でデビュー戦を中距離で走るのか聞いてんだって」
一触即発、って多分、こういうことなんだと思う。
トレーナーさんもブルボンさんも、睨み合ったままその場から一歩も動かないし。
なんか、ごごご、みたいな効果音も聞こえてくるし。
「デビュー戦で二〇〇〇メートルを走り切る実力がなければ、目標達成は難しいと判断しました」
「……今のミホちゃんに出来んの? まだ二〇〇〇はキツいっしょ」
「課題であるスタミナのトレーニングは十分に行いました。マスターも協力してくれています」
「あっそ」
はきはきと答えるブルボンさんに、トレーナーさんは冷たい言葉を返すだけで。
……ダメだ。このままだと本当にケンカになっちゃう。それだけは、止めないと。
で、でもどうやって……ライス、二人の関係なんてほとんど分かんないし……。
「にしても、よかったじゃん。自分の言うこと聞いてくれる、都合のいいヤツが見つかって」
「私は、私の目標に挑戦したいだけです。あなたを無下にしている訳ではありません」
「俺の言ったこと全部無視した挙句、隠れて練習してたくせに?」
「全て目標達成のために必要なことでした。これだけは、元マスターだとしても譲れません」
「……俺のこと裏切ったのも、目標達成のため?」
「では、私が三冠制覇の目標を相談したとして、あなたは聞いてくれましたか?」
あ。
ダメだ。
今、止めないと絶対、取り返しのつかないことになる。
「あ、あのっ!」
思い切って声を出すと、二人の眼がぎろり、ってこっちに向いて。
ああこれやめておけばよかった、なんて言葉を、無理やり飲み込んで。
「えっと……その、ふたりとも、ケンカは……よく、ないってライスは……思う、から」
「……………………」
「……………………」
「だから、どうにか仲直り、できない……かな?」
ぜ、ぜんぜん中身のない内容になっちゃった……!
でも、今のライスがかけられる言葉なんて、これくらいしかないし。
二人をあのままにしておくくらいなら、この方がまだ……。
「ライスシャワー、さん」
「は、はいっ!」
「ご心配、ありがとうございます」
しばらく続いた沈黙のあと、先に口を開いたのはブルボンさんで。
ぺこりと頭を下げると、またトレーナーさんの方に向き直った。
「……あなたは、
「なわけねーだろ。俺の専門はマイルの指導だよ」
「えっ」
は、初耳なんだけど……。
「だからミホちゃんのことスカウトして、トレーニングメニューまで作ったのに」
「では、どうしてあなたはライスシャワーさんの担当を?」
「向こうから持ち掛けられたの。俺も……まあ、おコメちゃんならいいか、って思って」
「今の時期にデビューすれば、いずれ私と衝突することは想定済みだったのでは?」
「……そーだね。で、それが何か問題?」
答えるトレーナーさんに、ブルボンさんは静かに俯いた。
角度からして、横にいるライスにしかブルボンさんの横顔は見えない。
……ううん、違う。きっと、トレーナーさんに見せたくなかったんだと、思う。
ブルボンさんの長い髪の隙間から覗く、その表情は。
なんだか、とっても寂しそうで。
「そこまでして、あなたは私の夢を阻みたいのですか?」
「……は?」
顔を上げるブルボンさんは、またいつもの無機質な表情に戻っていた。
「受けて、立ちましょう」
「何が」
「元マスターと、ライスシャワーさん。あなたたち二人の挑戦を」
……ライスが? どうして? なんでライスまで巻き込まれてるの?
というより、挑戦って? ライスはどっちかというと、挑戦する側な気が……。
「ライスシャワーさん」
「え? あ、はい!」
「私はこれから、目標とするクラシック三冠路線へ挑戦します」
「……そ、そうなんだ。がんばってね……」
「ですので、あなたも私のところまで勝ち上がって来てください」
……は。
「はい!?」
「ライスシャワーさん、これよりあなたを私の『ライバル』と設定します」
「ら、え、なに?」
「次のメイクデビューは前哨戦に過ぎません。そして……」
困惑するライスをそのままにして、ブルボンさんはトレーナーさんの方に振り返ると。
「来年の菊花賞。そこで私は、目標を達成してみせます」
「……何、宣戦布告のつもり?」
「いえ。ただ、私はあなたに証明したいだけです」
「証明?」
「元マスターであるあなたの選択が、間違っていたことを」
「……あっそ。勝手にしてなよ」
突き放すようなトレーナーさんの言葉に、ブルボンさんは口を閉ざしたまま。
それからしばらくトレーナーさんを見つめていたブルボンさんが、ライスの方を向いて。
「父が、言っていました。才能は努力で越えられる、と」
「……そ、そうなんだ」
「私はそれを示して見せます。あなたのステイヤーとしての才能を凌駕する、努力によって」
まっすぐとライスの眼を見て、そう言い放った。
……どうして、だろう。
ブルボンさんの言葉には、ライスへの対抗心や敵意が込められているけど。
そのずっと奥に、うまく言葉にできない悲しさが潜んでいる気がして。
「では、私はこれで。失礼します」
頭を下げると、ブルボンさんはすぐにコートの中へと戻っていった。
……な、なんだかとんでもないことになっちゃった。
トレーナーさんとブルボンさんの関係は、結局なにも分からなかったし。
ブルボンさんは、ライスのことをライバルだ、って言ってくるし。
なぜか、ライスも三冠を目標にすることになっちゃったし。
いったい、どうすれば……。
「おコメちゃん」
慌てるライスと違って、トレーナーさんはすごく落ち着いていて。
「戻ろっか。デビュー戦に向けて練習しないとね」
「う、うん……」
それから、トレーナーさんはデビュー戦の日まで、いつもの調子に戻ってくれたけど。
ブルボンさんと話したその日だけは、ずっと沈んだ表情のままだった。
……そして。
■
デビュー戦、当日。
「改めて、本日はよろしくお願いします、ライスさん」
「よ、よろしくお願いします……」
ゲート越しに頭を下げてきたブルボンさんに、戸惑いながら答える。
結局、あの日以来ずっと、ライスがブルボンさんと顔を合わせることはなくて。
あんなことがあった手前、どんなことを話せばいいのか分からないまま、今に至る。
……それに、しても。
まさか、本当にブルボンさんと一緒のレースを走ることになるなんて。
「ライスさん」
「は、はいっ……!」
なんてことを考えていると、またブルボンさんから声がかかってくる。
「先日、このデビュー戦はあなたとの前哨戦、とお伝えしました」
「……うん。覚えてるよ」
「ですが、私は手を抜くつもりはありません。最大出力で、あなたに挑みます」
「えっ」
「それでは。二〇〇〇メートル先にて、あなたを待っています」
会話はそこで終わって、ブルボンさんはそこから何も話さなかった。
……正直、様子見や小手調べをしてくると思ったけど、ぜんぜん違う。
ブルボンさんはこのレースで、確実にライスを潰しに来るつもりなんだ。
「……わかったよ」
ウソ。ほんとはライス、何も分かってない。
ブルボンさんとトレーナーさんの関係も。
ライスのことをライバル、って呼んだ理由も。
あの時のブルボンさんの表情の意味も、ぜんぶ。
でも。
受けて立つ、とまではいかないけど。
ライスだって、ただで負けるわけにはいかないもん。
『各ウマ娘、ゲートに入って体制整いました』
姿勢を整えて、集中。視線はコーナーよりもずっと遠くへ。
ゆっくりと肺に空気を入れてから、静かに息を吐き出す。
少しだけ梅雨の香りがする、重たい風が頬を撫でた。
『スタート!』
がこん、と開いたゲートを越えて、走り出す。
スタートダッシュは成功。トレーニング通り、綺麗にできた。
あとは練習通り、コース取りとコーナーでの立ち回りを意識しながら走るだけ。
そう、いつもみたく……あ、違う。それじゃ、ダメだ。
レースの時は、横目でもいいからちゃんと他の子を確認しないと。
第一コーナーに入る直前にそのことを思い出せたのは、運がよかったのかも。
そうして、コーナーに突入してから、ちらりと後ろを向いた、そのとき。
ライスのすぐ右後ろを走っているブルボンさんと、目が合って。
「……え」
まばたきをした、次の瞬間。
ブルボンさんは既に、ライスのことを追い抜いていた。
「な、は……!」
そうやって驚いている間にも、ブルボンさんはぐんぐんと距離を伸ばしていって。
あ、これダメだ。他の子のことを考えてるヒマなんて、一切ない!
何としてでも、ブルボンさんに追いつかないと!
『さあ、ここで先頭に立つのはミホノブルボン! バ群からどんどんと差を……あ、え?』
「……ッ!」
スピーカーから聞こえる実況の声も、後ろから追い上げてくる他の子の足音も、無視。
見据えるのは、ブルボンさんの後ろ姿。その背中に追いつくためだけに、ぜんぶ。
脚を必死に回して、空気を無理やり肺の中に入れて、痛む心臓を必死に抑えつけて。
ライスは、ただひたすらに前を向いて走り続けた。
「……やっと、っ!」
気づけば、レースはほとんど終盤に差し掛かっていて。
第四コーナーを抜けたあとの、最後の直線へ突入したとき。
ブルボンさんの背中は、すぐそこにあった。
「あと、少し……!」
残り三〇〇メートル。追い抜くタイミングはもう、ここしかない。
脚の感覚はほとんどないし、絞り出せるようなスタミナも残っていないけど。
やるしか、ないんだ。ここでぜんぶ吐き出すしか、ない。
もっと、速く。走って、走って――ッ、走れ!
「は、ァ……っ!」
声も枯れて、息もまともに吸えなくなったけど、それでも。
ライスは、ブルボンさんに、並ん、だ――
「ふッ……!」
………………。
あ、れ?
どうして、さっきまで隣にいたはずの、ブルボンさんが。
もう、ライスのずっと前を走ってるんだろう。
おかしいよ、こんなこと。
このままじゃ、ライスは負け――
『一着はミホノブルボン! 圧倒的な走りを見せ、今ゴールインしました!』
『いやあ……素晴らしい逃げでしたね。特に最後の加速、凄まじいものでした』
『続いて二着はライスシャワー、三着は……』
レース場に響き渡っているはずアナウンスも、耳にほとんど入って来なくて。
見上げた電光掲示板のいちばん上には、ブルボンさんの数字が光っていた。
それがどういうことか理解するのに、少しだけ時間が必要で。
……ああ、そっか。
ライス、負けちゃったんだ。
「あは、は……」
乾いた笑みが、漏れる。
今まで詰まっていた何かが、一気に抜けていくような、そんな感覚。
それと一緒に全身の力も、どこかに消えちゃったみたいで。
ぽすり、とその場に座り込むと、じんじんとした両脚の痛みだけが鮮明に伝わってきた。
「……はあ」
追いつけると思った。でも、ダメだった。
……考えてみれば、当然だよね。
ブルボンさんは、三冠を目標にしてるすごいウマ娘なんだから。
そんな人に、ライスが追い付けるわけ、なかったんだ。
謙遜でもなんでもない。これは、ただの事実。
……でも、だからこそ不思議に思うのは。
どうしてこんなライスのことを、ライバルって言ったんだろう。
「ライスさん」
近づいてくる足音に振り返ると、ブルボンさんが立っていて。
「まずは、私の勝ちです」
そう、ライスのことを見下ろしながら、言ってきた。
「……まず、は?」
「はい。もちろん、次のレースも負けるつもりはありません」
「次、って……ライス、もうブルボンさんには負けちゃったんだよ? なのに、どうして……」
やっぱり、分かんない。ブルボンさんのことは、何も。
一度勝っただけじゃ、満足できないの? そんなに、ライスに勝ちたいの?
いったい、ライスに勝つことに何の意味があるっていうの?
ライスはブルボンさんと同じレースに出られるかどうかすら、分からないのに。
「ライスさん」
疑問で埋め尽くされる頭の中に、ブルボンさんの綺麗な声が響いて。
「あなたが、私のライバルだからです……」
ぱたん。
「………………」
「おえぇ………………」
…………あ、え!?
「ブルボンさん!? え、うそ! ブルボンさん! ちょっと!」
「え、エネルギー残量の低下を確認……もう、立てません……」
「ブルボンさあぁぁあん!」
なんて。
顔が泥みたいな色になったブルボンさんを、なんとか介抱しながら。
ライスのデビュー戦は、二着って結果で幕を閉じた。
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