クソチャラお兄さま   作:おこめイーター

5 / 13
アンケ思ってるよりたくさん回答あっててうれC
みんな許してくれそうなのでちょくちょくやっていきます


05

■

 

 翌日。

 

「あ、制服のままで来たんだ?」

 

 お昼ご飯を食べ終えてから、昨日お話をした自販機の前で。

 車にもたれ掛かっていたトレーナーさんは、ライスを見てそう言った。

 

「私服の方が、よかったかな……?」

「いや、おコメちゃんがいいなら、それでいいんだけどさ」

 

 昨日と同じ缶コーヒーを飲みながら、トレーナーさんはそう笑った。

 

「今日のトレーニングお休みします、ってちゃんと先生に言った?」

「う、うん……いいよ、って許可ももらったよ」

「そっか」

「……トレーナーさんは? もしかして、また今日もサボり?」

「あーあ、ついにおコメちゃんにまでそう言われるようになっちゃったか」

「ち、違うの! ただ、ライスのせいでまた何か言われたら、って思って……」

「まあ、普通にサボりなんだけどねー」

 

 からかうように笑うトレーナーさんに、ライスも思わず言葉を失った。

 ダメだよ、なんて言えるような立場じゃないけど、やっぱりちょっと心配しちゃう。

 こんなにサボってばっかりで、お仕事とか大丈夫なのかなあ。

 でも、外部研修とかに参加してるし、本当はすごく優秀な人なのかも。

 ……分からない。やっぱり、トレーナーさんのことは、ひとつも。

 

「立ち話も何だし、そろそろ行こっか」

「うん……」

「助手席でいいよ」

 

 空っぽになった缶をゴミ箱の中に投げて、トレーナーさんが車のドアを開ける。

 初めに感じたのは、コーヒーの強い香りだった。

 それから、これは……タバコ?

 よく分からないまま振り返ると、トレーナーさんはなんだか申し訳なさそうに笑っていて。

 

「ちょっと前にやめたんだけどね。匂いだけ、まだちょっと残っちゃって」

「ううん。ライスは……大丈夫だよ」

「ごめんね、ほんと」

 

 謝らなくてもいいのに、って思ったけど、それは言わなかった。

 きっとそれは、ライスだけじゃなくて、自分にも向けた言葉だと思ったから。

 助手席に腰を下ろして、シートベルトをしっかり締める。

 運転席にどさ、って座ったトレーナーさんは、ハンドルを握った。

 

「それじゃ、出発ー」

「しゅ、しゅっぱーつ……」

 

 それから、ライスとトレーナーさんを乗せた車は、静かに走り始めた。

 

「帰ってくんの、ちょっと遅くなるかもね。一応、寮長さんに伝えといた方がいいかも」

「なら、もう連絡しておくね」

「その方がいっか。……ちなみにおコメちゃんって、どっちの寮?」

「えっと、美浦寮だから、ヒシアマゾンさんに連絡しようと思って……」

「あー、アマさんか。なら、俺のことも伝えといてよ。一応、顔見知りだから」

「うん……」

 

 携帯の電源を点けて、ヒシアマゾンさんに連絡しようとしたところで、ふと。

 ……そういえば、トレーナーさんのお名前、知らないや。

 どうしよう。お名前が分からないと、ヒシアマゾンさんにもちゃんと伝わらないよね。

 でも、今は運転してるから、話しかけるのはダメな気がするし。

 うーん……。

 

『ヒシアマゾンさんへ。

 今日は、帰りがちょっと遅くなるかもしれません。

 例のトレーナーさんと一緒にいます。

 何かあったら、ライスかトレーナーさんに連絡してください』

 

 結局、ヒシアマゾンさんへ送ったのはそんなメッセージだった。

 ライスとトレーナーさんは噂になってるから、きっとこれで分かるはず。

 かなり、というか、ものすごく不本意なことではあるけど、仕方ないよね。

 なんて考えていると、ヒシアマゾンさんからの返信がすぐにきて。

 

『分かったよ。気を付けてね。

 何かされそうになったら、すぐに蹴(・)り(・)上(・)げ(・)て(・)やるんだよ!』

 

 …………。

 

「アマさん、何て?」

 

 横目で聞いてきたトレーナーさんに、ライスは。

 

「気を付けて、だって」

「……どっちに?」

「トレーナーさんに」

「信用ねえー」

 

 呆れたように笑いながら、トレーナーさんはそう呟いた。

 

「俺、そんなヤバそうなヤツに見えるかな?」

「ライスはそう思わないよ? けど……」

「……けど?」

「この前、一緒にサボったら、その、そういう噂になっちゃって……」

「え、マジ?」

 

 意外そうに驚いてるトレーナーさんに、ライスもまた驚いた。

 ……そっか。トレーナーさんは研修に行ってたから、噂のことを知らないんだ。

 どう説明しよう。言葉に困るっていうか、どう言い換えても変になっちゃうって言うか。

 そうやって迷っていると、トレーナーさんはすぐに察してくれたみたいで。

 

「あー……なんか、ゴメンね? おコメちゃん、色々言われたっしょ?」

「ち、違うよ! トレーナーさんが謝ることじゃ、ないし……」

「でも、俺のせいで迷惑かけちゃったしなあ。どうしよ、とりあえず髪黒く染めてみるか?」

「大丈夫だから! トレーナーさんはそんなことしない人だって、ライスは分かってるから!」

 

 思わず声が大きくなっちゃったけど、それは本当のこと。

 ……逆に言えば、ライスが分かってるのは、それくらいしかないもん。

 

「それに、噂は噂だし……ブライアンさんも、気にするな、って言ってくれたから」

「え、アンちゃんが?」

 

 アンちゃん。

 

「……もしかして、ブライアンさんのこと、アンちゃんって呼んでるの?」

「そーだけど……変かな?」

「えっと……」

 

 変、っていうか。怖いもの知らずっていうか。

 ……前々から思ってたけど、トレーナーさんのあだ名のセンスって独特だよね。

 

「ま、アレだ。アンちゃんの言う通り、噂は噂だから。ほっとけば収まるよ」

「だよね。なら、よかった……」

「でも時間はかかるかもね。おコメちゃんくらいの女子って、そういう噂とか好きそうだし」

 

 それは……うん。仕方ないと思う。

 ライスはそういうお話にあんまり興味ないけど、みんなはよくするし。

 それに、トレセン学園は……なんていうか、その、女子高だから。

 多分ライスの噂がすぐに広まっちゃったのは、それもあるんだろうなあ。

 

「恋に恋するお年頃ってかさ、マセてる子って意外といんのよ」

「うん……ライスも、身をもって知ったよ」

「それにしたって、俺とおコメちゃんが、ってのはやりすぎだと思うけどね」

「え、そうなの?」

「他の子ならまだしも、おコメちゃんみたいなマジメでいい子に手ぇ出すわけないのに」

「……もしかして、他の子ならそういうことしたこと、あるの?」

「……………………」

「……………………」

 

 ……………………。

 

「まあ、カワイイ子はたくさんいるよね」

「トレーナーさん?」

 

 あ、あれ? そんな、ウソだよね?

 ちょっと、え、トレーナーさん?

 

「……てかさ、おコメちゃんとアンちゃんって知り合いだったの?」

 

 ろ、露骨に話題を……!

 

「その、この前トレーナーさんを探した時に、手伝ってくれて……それで」

「俺を? なんで……」

「ライスとトレーナーさんが噂になっちゃったのを、相談しようと思って……」

「ああ、なるほど。で、俺が研修に行ってたから見つかんなかった?」

「うん……」

「そりゃタイミング悪かったね」

 

 ごめんね、ってトレーナーさんが笑ってから、そこで一度会話が終わった。

 ふと窓の外を見ると、そこにはライスの知らない景色が流れていた。

 話に夢中になってたから、気づかなかった。そっか、もうこんな遠くまで来てたんだ。

 ガラスを一枚挟んだ向こうには、知らないお店の看板や、見たことのない通りばっかり。

 たまに遠くにお出かけはするけど、こんなところまで来たのは初めてかもしれない。

 なんて考えていると、目の前の信号が赤くなって、トレーナーさんが車を停める。

 

「研修って、何しに行ったの?」

 

 大きな通りなのかな。青になるまでは、少しだけ時間がかかるみたいで。

 携帯をいじり始めたトレーナーさんに向かって聞くと、すぐに答えが返ってきた。

 

「学生やってた時、お世話になった先生がいてさ。その人の手伝いに呼ばれたの」

「お手伝い?」

「そ。ま、言っちゃえば雑用だったね。教え子なのをいいことに、コキ使われてさあ」

「大変だったね……」

「ホントにね。でも、色んな話を無料で立ち聞きできたから、ノーカンっちゃノーカンかな」

 

 そうやって話すトレーナーさんは、どこか楽しそうだった。

 信号が青に変わる。車が、静かに動き出す。

 

「研修って、他のトレーナーさんたちもよく行くよね? それって、どういうお話するの?」

「んー……基本的には効率のいいトレーニング方法を共有したり、あとは担当のコとうまくやってく方法とか話し合ったりじゃない? 俺が行ったのはどっちかってっとセミナーより研究会って感じだったから、それ以外にも色んなお話してたよ。一番面白かったのは、ご褒美にあげるとやる気上がるからオススメします! ってデザート纏めて発表したヤツかな。全部高ぇヤツしかなかったから、そりゃそーだろ、ってなってさあ」

「へえー……やる気が上がる、デザート……」

「興味ある? そうだ、よかったら帰りに一コ買ってこっか?」

「あ、いや、そうじゃなくて!」

「いーよ、遠慮しなくて。てか正直、それくらいしかタメになる話なかったもん」

「え?」

 

 不思議に思って聞き返すと、トレーナーさんは、

 

「研修で育成論とかの話、聞いたんだけどさ」

「うん」

「実は俺、今担当してるコとかいないから、聞いてもあんま意味なかったんだよね」

「そうなんだ……そうなんだ!?」

 

 びっくりして、思わずトレーナーさんのことを二度見しちゃった。

 確かに、担当してる子がいない、って話も聞いてないけど、それでも。

 

「意外だった?」

「うん。だって、その……昨日、ライスに色んなこと教えてくれたから」

「アレくらい、ウチ(トレセン学園)のトレーナーなら誰でも教えられるって」

「そうなの?」

「つーか、担当いるのにこんなサボってるヤツいたら、ヤバいっしょ」

 

 それは、そうだけど。

 でもトレーナーさんって、どうしてか分からないけど、要領良さそうだから。

 仮に担当してる子がいても、どうにかして上手くサボってるんじゃないかなあ。

 

「おコメちゃんも、今フリーなんだっけ?」

「うん……この前の選抜レースも、出られなかったから」

「そっか」

 

 答えたトレーナーさんは、少しだけ時間を置いてから。

 

「いつか頼れる人、見つかるといいね。俺、応援してっからさ」

 

 ……ああ、そっか。そう、だよね。

 トレーナーさんにも、自分の担当を選ぶ権利はあるんだもん。

 すっかり忘れてちゃってた。ライスが、何もできないダメな子だって。

 ここにいるのが、ライスとトレーナーさんだけだから、勘違いしちゃった。

 そうだよ。よくよく考えれば、そんなことあり得るはずがないもん。

 もしかしたら、トレーナーさんがライスの担当になってくれるかも、なんて。

 ……期待してた? ううん、違う。押し付けてたんだ。ライスが、勝手に。

 だから。

 ライスは今、勝手に悲しくなってるだけ、なんだ。

 

「音楽つけてもいい?」

「…………うん」

 

 トレーナーさんの言葉にうまく答えられているのかも、今のライスには分からなくて。

 それからライスはずっと、窓の外を流れる知らない景色を眺めていた。

 スピーカーからは、少し前に流行ったポップスが流れている。

 メロディーはどこかで聞いたことあるけれど、その歌詞をライスはぜんぜん知らなかった。

 ……知らない。ライスは、何も。トレーナーさんのことも、他のことも、ぜんぶ。

 そんな何も知らないライスに、色々なことを教えてくれる人がいるとすれば。

 きっとそれは、トレーナーさんなんだと思う。

 

■

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。