ヘスティアの灯火   作:ダンブルドア同好会会長

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第一話 レイブンクロー寮へようこそ

1975年、ダイアゴン横丁グリンゴッツ魔法銀行1階玄関フロアにて。

木製の長椅子の上で、二人の仲の良い兄妹が肩を並べて談笑をしていた。ある方はすっきりとした顔の賢そうな眼を相手に向けて、またある方は真っ白の肌に赤みが差しながら忙しなく口を動かしている。新聞を読んでいた老紳士が煩わしそうに眉をひそめた顔を上げたが、子供たちの会話に概ね察しがついて表情を柔らかくした。

 

「ホグワーツってゴーストがいるんでしょ?寮付きの」

「サー・ニコラスと太った修道士、血みどろ男爵にヘレナだね。レイブンクローはヘレナ・レイブンクロー。創始者の1人ロウェナの娘だよ」

「怖くない?」

「優しいよ、むしろ。ゴーストは学生を助ける仕事も負ってるからね。血みどろ男爵は別だけど」

 

一足先にホグワーツに入学した兄が今年入学の妹に色々と教えているのだろう。

二人とも恐らく純血の家出身だと思われる上流階級の良質な服を纏っており、革の靴はぴかぴかに磨かれている。ひとつ珍しいとしたら、少女の方がパンツスタイルだったことぐらいだろうか。肩まで伸びた黒髪とスーツが嫌にアンバランスで、果たして少女なのだろうかと微笑ましく見守っていた面々には疑問が浮かぶようだ。可愛らしい少年である可能性も否めない。因みに兄の方も子供用に仕立てられたスーツだったが、彼は生まれ持った整った顔立ちのお陰で大人顔負けに着こなしていた。

 

少しばかり経って、黒い髪を撫で付けた美丈夫が彼らを迎えにやって来た。無事用事は達成されたらしく、少しばかり遠くで母親らしき人物が手招いている。

そこで魔法省関係の仕事に就いていた者たちはああ、と合点がいった。

父親はある種の人間には知るに知られた人間、ウィリアム・フォーリー。現役魔法法執行部隊隊長というエリート中のエリートである。

聖28一族がひとつ、代々レイブンクローのフォーリー家。魔法省キャリアの人材を排出し、魔法省役人にあらずんばフォーリーにあらずと囁かれる厳しい純血家系である。

ウィリアム・フォーリーは1人づつ生まれた愛息子と愛娘を心底可愛がっているという噂を知っていれば、あの子供の性別は最早自明であった。

 

◇◇◇◇

 

ヘスティア・フォーリーは、一人きりのコンパートメントでずっと変身術の本をぼーっと読んでいた。傍らのバッグの上にはあの日にオリバンダーで購入した真新しい杖が置いてあるが、使えない。兄も監督生用のコンパートメントに行ってしまったし、ここには誰も来ないし、入学初日に既に退屈な時間を過ごしていたヘスティアは少しばかり不機嫌だった。

がたがたと時たま汽車が揺れる為、眠気も起きない。

別に一人の時間が嫌いという訳では無い。元々ホグワーツに来るまでは同年代の友人が居ないこともあって一人でも十分暇を潰す能力はあるつもりでいた。

しかし限度というものがあるのではないだろうか。空いているコンパートメントを探しているらしい子も、ここのコンパートメントは一瞥してから無視していくんだもの。三席も空いているのに。自分の服装が変なんじゃないかしらとヘスティアは何度もシャツを正したが、組んでいた足に収まった見るからに質の高そうな靴のせいで避けられているとは考えもしていなかった。

 

質の高い靴イコール上流階級、イコール貴族、イコール純血家系。

 

純血家系出身は専ら純血主義と気難しさを引っさげていることもあって、ヘスティアは新入生に避けられていた。純血家系は大体集団で行動しているし、性格に難アリと判断されたのだろう。因みにマグル生まれはヘスティアの魔法族然とした堂々のオーラに気圧されていたりする。

 

しかし遂に彼女のコンパートメントの扉は開けられる事となる。ノックぐらいはして欲しかったものだが、ヘスティアにそんな贅沢は言っていられない。せめてマトモな人間であってくれ、とヘスティアは心の底で祈った。が。

 

「やあ、ここのコンパートメントは空いているようだね!座ってもいいかな?因みに僕の名前はギルデロイ・ロックハート。気軽にギルデロイと呼んでくれたまえ」

 

ヘスティアの言葉も待たず、どっかりと席に座り空を浮いていた手を取って握手した美少年。ワックスで固められた巻き毛の金髪とぱっちりとした蒼眼を乗せたその顔には「自分に自信があります」とありありと書かれていて、ヘスティアは早速嫌な予感がしていた。

因みにその予感は的中する事になる。彼女の後の占い学の成績はO優であった。

 

 

先の美少年、ギルデロイ・ロックハートはおしゃべりもびっくりのマシンガントークで、自分の過去の武勇伝を延々とヘスティアに聞かせていた。やれ三歳で空中浮遊の魔法が使えただの、六歳で箒に乗って大陸を渡っただの、小さな子供でも嘘っぱちだと分かるような内容の話だった。ヘスティアが遮ろうとしても息継ぎの暇がないため止めることも出来ず、彼の演説は熱を増してゆく。喉は乾かないのだろうかとヘスティアはふと考えたが、多分通常運転なのだろう。彼女も一時間もすると彼の扱いが分かってきて、適当に相槌を打ちながら車内販売のおばさんからドルーブルの風船ガムと蛙チョコレート、バーティ・ボッツの百味ビーンズを買った。

百味ビーンズを齧りながら彼の話を聞く。割と物語を作るのは上手いらしく、ただの冒険物語と思えばヘスティアにも楽しむことが可能だった。ギルデロイ、顔だけはかっこいいし。美少年が面白い冒険記を語るのは一種のエンターテインメントコンテンツとして客を呼びそうなものである。

 

「あ、蛙チョコレートのカード、ダンブルドアだ!」

「そう、ダンブルドアといえばあれは僕が4歳だった頃・・・」

「ちょ、待って待って。一回落ち着いて百味ビーンズでも食べなよ」

 

蛙チョコレートを口に放り投げながらヘスティアはギルデロイに百味ビーンズの箱を押し付けた。勿論めぼしいものはもう食べてあるが。ギルデロイは何も疑わず素直にそれを受け取った。少し驚いたような顔でヘスティアを見据えるギルデロイにハテナを浮かべながら、ヘスティアはもぐもぐと口を動かす。

 

「次は私が話す番ね。ホグワーツのことあんまり知らないんでしょ、私兄さんが在校生だから結構聞いてるの。教えてあげる」

「ホグワーツって・・・」

「あ、私が話す番だから口挟むのなしね」

 

遂にギルデロイの顔は面白いぐらいに歪んだ。

話を流し聞いた感じお姉さんは二人ともスクイブだったって言うし、あまりホグワーツについては詳しくないだろう。ヘスティアがそう考えていた通り、ギルデロイの饒舌に動いていた口はもごもごと止まった。

 

それから1時間くらい、ヘスティアはギルデロイに延々とホグワーツについて語っていた。途中途中でギルデロイの持っていた不味い味しか残っていない百味ビーンズの中から、気持ち悪い味を口に放り投げて。ギルデロイも最初は不満げな顔で何か言いたげだったが、ヘスティアもヘスティアで話は上手いので、数分経てば聞き入る様になっていた。

いつの間にかギルデロイの手の中の箱からはビーンズが無くなっていた。その頃にはギルデロイはすっかり百味ビーンズの事が大嫌いになっていた。日が傾き、ローブに着替え、汽車がホグズミードの駅に着く頃には二人は友達であった。

暗い湖の上を二人の乗った船が滑っていく。

ヘスティアの機嫌はすっかり治っていた。

 

◇◇◇◇

 

「私?私はね、絶対にレイブンクロー。間違いない」

「なんで?」

「うちの家が代々レイブンクロー寮なの。入れなきゃ殺される。ギルデロイもレイブンクローだったらいいわね」

「まあ、僕は将来魔法界のトップになる予定だからね。勤勉努力を推奨するレイブンクローの素質はあると思うよ」

「魔法大臣になるんだったらもう少し自重を学ばなきゃね」

 

ヘスティアの何気ない毒をものともせず、ギルデロイは輝いた目で前を見据えていた。どうやったらこんな鋼メンタルが育つんだろう。ヘスティアは不思議に思った。

新入生が大広間に案内され、列の真ん中の方にいた二人は周りに合わせて歩き始めた。二人が話していると、不意にヘスティアの背中が叩かれる。後ろを振り返ると、上級生としてテーブルに座っていたヘスティアの兄、アルフレッドが意味ありげにヘスティアに向かって頷いていた。

 

「今のがヘスティアの?」

「そう、アルフレッド。レイブンクローの監督生やってるの。今五年生」

 

きっとレイブンクローに入れってことなんでしょ。

マクゴナガル女史が振り返って新入生の顔を見渡すと、二人ともさっと口を閉じた。

 

大広間の段の上の、一番目立つ位置に木製の椅子が置かれ、その上で組み分けは行われるようだった。気の弱い子はどうしようと顔を青くさせ、一方ギルデロイは目立つことに気が付いたのか、僕の組み分けはハットストールで、恐らく1時間は掛かるだろうとヘスティアに豪語してみせた。

 

「フォーリー・ヘスティア!」

 

Fから始まるからか比較的早く呼ばれたヘスティアは、若干緊張しながら段に昇った。

段の上の教員席の真ん中に座っているダンブルドアを見て、ヘスティアの顔は赤くなる。密かに憧れていた大魔法使いを直で見ることが出来て、ヘスティアの心は有頂天になっていた。

 

椅子に座るか座らないかのところで「レイブンクロー!!」と組み分け帽子が叫び、上気した顔でヘスティアは兄の元に走っていった。周りの上級生に拍手されながら兄に抱きついて隣に座ったあと、ふとダンブルドアの方を見ると、ダンブルドアも丁度ヘスティアを見ているところだった。

運命かな?ヘスティアはそう血迷う。懐に大事にしまっていたダンブルドアの蛙チョコレートのカードを取り出してそっとダンブルドアに見せると、ダンブルドアは持っていたゴブレットを小さく掲げた。ヘスティアは我慢ならず机に突っ伏した。ヘスティアの“病気”を知っていたアルフレッドはダンブルドアに会釈をする。可愛い妹の残念なところを改めて見て、やはりホンモノだったかとアルフレッドは少し頭を悩ませた。

 

そんなこんなをやっているうちにギルデロイの番が来た。

少し、いやだいぶいけ好かない奴ではあるけれど、初めて出来た友人であることに代わりはない。ヘスティアはギルデロイがレイブンクローに入ることを心の中で祈りながら組み分けを見守っていた。

長い時間が経った。恐らく五分は経っている。宣言していた通り長めのハットストールだ、とヘスティアが驚いていると、ふふんと満足げに笑んでいるロックハートの顔が帽子の下から覗いた。やっぱ今のなし、とヘスティアは誰に言う訳でもなく、ギルデロイを過大評価していたことを取り消した。恐らくどの寮の適性もなかったから悩まれているんだ。考えてみればあんな奴が誇り高きレイブンクローに来れる訳が無い。そんなことを考えながら、心の底ではレイブンクローに来いと考えていると、ようやっと長考の末に組み分け帽子の「レイブンクロー!!」と叫ぶ声が響いた。

ヘスティアはほっとした。そのほっとした顔をギルデロイに見られた。ギルデロイは持ち前のハンサムフェイスを綻ばせた。周りの女子が沸き立った。ヘスティアは無言でこちらに走ってくるギルデロイの脇腹を殴った。ダンブルドアは小さく噴いた。

 

「あ・・・大丈夫かい?ロックハートくん。うちの妹がすまない。普段はこんなに暴力的では無かったはずなのだが・・・」

「いいの、兄さん。ほっとけば治るわ」

 

アルフレッドが再度ギルデロイを見てみれば、なるほど、早速上級生のレディたちに可愛がられて有頂天になっているようだった。顔が可愛い下級生は目に入れても痛くないのだろう。呆れと軽蔑の目をギルデロイに向けているヘスティアを見て、いつの間にそんなに仲良くなったんだとアルフレッドは不思議に思った。因みにギルデロイがお姉さん方に可愛がられて有頂天になっている顔と、ヘスティアがダンブルドアに微笑まれて有頂天になっていた顔はだらしなさでいったらどっちもどっちである。ダンブルドアはこの面白い新入生二人の顔を早速覚えた。

 

新入生たちは寮に案内された後、各々就寝の支度を始めた。ヘスティアの相部屋相手は気の強そうな眼鏡女子と早口で捲し立てるオタク、なんにも喋らない無口な子だった。

友達になるのは諦めた方が良さそうだな。三人(実質二人のようなものだが)が校長、アルバス・ダンブルドアのあることないことの噂をぺちゃくちゃ喋りだしたのを見て、ヘスティアはそっと話の輪から抜けた。

少し擦り切れた青色の毛布に横になり魔法薬学の本を読んでいると、何やらトランクからガタガタと揺れる音がする。生憎ルームメイトはその音に気がついていない様だったので、ヘスティアは周りを注意をしながらそのトランクを開けた。

 

「プス、おいで」

 

小声で囁くと、大きな目をわくわくと潤ませた仔猫がトランクの中から顔を出した。これで大きめのテディベアぐらいの大きさはあるが、まだ仔猫である。山吹色と黒色のヒョウ柄のふわふわの毛を逆立たせて、プスはトランクからベッドの上に六本足で飛び乗った。なんで六本足なのかって?それはどうでもいい。

見れば見るほどジャガーのようだし、足は六本だけれど、今は猫っぽいのでヘスティアには問題ない。例え猛獣サイズになっても手放す気は無いし、言い訳も丸め込む主張も何個か考えてある可愛げのない子供であった。因みに猫と梟、ヒキガエルはきちんとした籠に入れてホグワーツ特急の職員に手渡す手筈であったので、ヘスティアは確実に確信犯である。六本足の猛獣なんてどんな言い訳を尽くしても受け入れられる訳が無いのはヘスティアも心の底では分かっていた。

 

プスがゴロゴロベッドの上を転がる横で、ヘスティアはトランクから分厚いハードカバーの本を取り出した。この間の誕生日に母親から貰った日記帳だった。フォーリー家は望んだら買ってもらえる裕福な家庭であるので、誕生日プレゼントには値段関係なく自分があげたいと思った物を贈ることになっている。何の変哲もなかった日記帳であったが、貴族としての余裕がそれを高級品のように仕立てていた。高いものに頓着しない上流階級特有のアレだ。

ヘスティアは日記帳を今まで一回も書いたことがなかったし、書きたいとも思わなかったが、母親の好意とあればせめて一日くらいは書いてあげようと思った。

 

『1975.9.1 ギルデロイ・ロックハートと友達になった。レイブンクローに組み分けをされた。プスはバレなかった。』

 

何を書けば正解なんだろう。これじゃただの報告では?

ヘスティアはトランクの中に日記帳を放り投げた。毛布の解れを爪で引っ掻いていたプスは音に肩をビクリとさせると、ヘスティアの方をちらりと見た。尾っぽが奇妙な角度で止まっており、ヘスティアの機嫌を伺っているらしかった。

 

「もう寝よ。これ以上起きてちゃ駄目だ」

 

プスを布団の中に入れながら、ヘスティアは杖を振って周りの私物を片付けていく。一方プスの額にキスを落とした自身もベッドの中に身体を沈めていった。ぬくぬくと安っぽい毛布にくるまり、シルク生地では無い枕に顔を埋める。

窓から月光が差す中、彼女はいつの間にか眠りに落ちたのだった。

 




ダンブルドア豆知識その1
スーツが似合う
多分ファンタビ時代、ハリポタ時代と両方似合うと思われる。髭を細い紐とかで結んでいたらベスト。何故ハリポタ時代の服飾店はダンブルドアにスーツを着せなかった?貴様らは狂っているのか?
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