ヘスティアの灯火   作:ダンブルドア同好会会長

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前話の修正

修正前:九月一日
修正後:七月二十七日

夏休み終わったその日なので.......


第十八話 誰も寝てはならぬ

 

夜の帳が降りた。見上げれば、数多の星が身を寄せながら瞬いている。

木々が地面に影を落とす。何者かが囁きあっているような音がする。風が吹き抜け、たちまちあたりは静かになった。

森の奥を行くと、ひとつの洋館が建っている。闇が蠢く中で、扉の隣に下げられたランタンが揺らめいていた。

木製の扉を開けその館に入ると、目の前に迎えるのは長い長い廊下。

歩けば忽ち音が立ちそうな、大理石で造られたそれは、まるで磨かれたばかりのように艶めいている。

廊下を抜けると広間が待っている。そこの右手の部屋の更に奥に、ひっそりと地下に通じる階段がある。石で固められた階段を十段、二十段、三十段……一頻り降りると、黒い柵が現れる。まるで罪人を閉じ込める中世の牢獄のようなそれは、未だ使われていることを思わせるかのような邪悪さを孕んでいた。

 

中に入ると、奥に人が一人。ランタンの灯りも届かないような暗がりで、魔法使いが膝を抱えて、顔を腕の中に埋めていた。手や足には頑丈な鎖。冷たい鉄の塊は、女の身体をじわじわと痛め付けていた。身に纏う白のワンピースは本来の純白の面影もなく、胸元まで綺麗に整えられていた髪は肩まで荒く切られている。艶やかな黒髪は、血がこべり付き、闇を纏っていた。部屋の隅には宝石のなくなった蝶の髪飾りが転がっている。

 

静寂の満たす地下牢で、何かが聞こえる。女が、英語とは違う―――何か、奇妙な言葉を囁いている。

何かに気が付いたように、女は面をゆっくりと上げた。乱雑な流れの髪が、ゆっくりと揺れた。その髪に隠れて、1匹の白いハツカネズミがちろりと周りを見渡す。鼻をひくひくと動かすと、そのまま小さな手足で女の肩を降りていった。

女は、柵の向こうにある暗い階段を見つめている。ランタンのオレンジ色が、階段の石壁に映った。その光は、段々と大きくなっていく。

女はただただその光景を見ていた。

濁った水色の瞳には、爛々と光が点っていた。

 

それが希望の灯火なのか、復讐の業火なのかは、誰も知らない。

 

 

◇◇◇◇

 

「どういうことですか、ダンブルドア」

 

咎めるような声が、廊下に響いた。

炎が等距離につけられたホグワーツの廊下を、ダンブルドアとマクゴナガルは早足で歩いていた。ダンブルドアは答える余裕も無いのか、ローブを強く蹴り飛ばしながら出来るだけ早く校長室に向かっている。靴音が辺りに響いていた。

 

ガーゴイルを抜け、校長室を開けると、そこにはリーマス・ルーピン、そして―――シリウス・ブラック。

罰の悪そうに、そして絶望を携えながら、シリウスは黙っていた。リーマスは責めるように彼を見ている。まるでシリウスが罪を犯したようだった。

校長室に吊り下げられた月時計が十時の方向を指し、黒曜玉のからくりが音を立てて一周する。一言も言葉が飛び交わない地獄のような空気の中に、ダンブルドアは突っ切って自身の机の隣に立った。

 

「急な呼び出しに、困惑している者もおるじゃろう。しかし何としても早く集まらねばならなかったのじゃ」

 

険しい顔でダンブルドアは周りを見渡した。

リーマスが重い口を開く。

 

「ヘスティアが拐われた、というのは」

「事実じゃ」

 

空気がピリとひりついた。守護霊の伝達がなされた時に、耳を疑った内容であった。この場の全員がダンブルドアに注目している。

ダンブルドアが手を高く上げ手招きをすると、二階から一匹のフクロウが舞い降りてきた。茶色の体躯の立派な梟。

リーマスが目を見開いた。

 

「……ヘスティアの梟だ」

「その通り。彼女のトランクも梟が持っておった」

 

ダンブルドアが呻くように言った。マクゴナガルが眉を吊り上げる。冷静な様に偽っているが、その実マクゴナガルの心臓は早鐘を打っていた。

 

「しかし、それで拐われたと騒ぐのは総計ではありませんか。家には?」

「既に行った。人はおらなんだが、ちと手荒な方法でな」

 

ダンブルドアが含みを持たせながら、ローブの中から“あるもの”を取り出す。

誰が息を飲んだ。もしかしたら全員かもしれない。ヘスティアの梟、フェルディナンドは目を細めて、その様を見ている。校長室の窓からは月明かりが差し込んでいた。

 

ダンブルドアが懐から取りだしたのは、精巧に紋様が彫られた、白い象牙のような色の棒切れ。太陽と雲の形が浮かび上がるそれは、特徴的ゆえにこの場の誰もが何を意味するか分かっていた。

 

「シコバ・ウルフの杖……ヘスティアのものじゃ。広間に落ちておった。彼女が杖を携帯し忘れ、更に床に投げ捨ててあった、なんて望むのは不可能に等しい。何処かに連れ去られる前、杖を折られないよう床に投げ捨てたか……」

「なら、今すぐ助けに行かないと。…….ベラトリックスの拷問は大人でも三日耐えられるかどうか分からない。闇祓いを招集する」

 

今まで口を固く閉ざしていたシリウスがやっと腰を上げた。何も言わぬ癖にこの場の視線を全て集めていたシリウスの厚顔さに苛ついたのか、負けじとリーマスも身を乗り出す。あれだけヘスティアが好いているのに、黙ったままのダンブルドアにも腹が立って仕方が無かった。

 

「じゃあ、もう隠していることを明かしたらどうだ」

「……無理だ」

 

シリウスが扉から逃げようと足を向けると、リーマスが道を塞いだ。

目も合わさぬ友人に、彼の顔が険しくなる。

 

「拐われただけなのに、なぜ拷問されていると分かる?」

 

シリウスは答えない。

 

「君の従姉、ベラトリックス・レストレンジは闇の帝王の右腕だ。ヘスティアは何か大きな事に巻き込まれているんだろう……ジェームズとリリー、ピーターの事だな」

「お前が知るべきではない事だ」

「いつから私は君の敵になった?判断を誤るなよ、今の君は目が濁っている。見るべきものが何も見えていない!」

「万が一のことを想定しているまでだ!」

 

シリウスが声を荒らげた。場がしんと静まる。

 

「狼人間だろう」

 

静かに言った一言は、酷く重かった。リーマスは取り乱しもしない。その様は酷く憐れで、しかしシリウスには裏切り者の印に感じた。

眼に見えぬだけだ。シリウスの言葉の剣は、確実にリーマスの心を穿いていた。

 

「じゃあ、ヘスティアやギルデロイのことも疑っていたのか?あんなに……あんなに仲が良かったのに?」

「フォーリー家の噂は知っているか?何やら怪しい動きをしているとマッドアイが言っていた。今だってヘスティアの安否を気にしてもいない。おそらくクロだったんだろう……。ギルデロイだっていつ秘密を漏らすのか分からん。彼奴は」

「確かに口は軽いが……重要な事をべらべらと喋る程彼は馬鹿じゃないぞ。ヘスティアだって、スパイが出来るような性格か?現にヘスティアは杖も持たぬまま拐われている。シリウス、考え直せ。味方を敵と見紛うな」

「それは結果論だろう!……元より二人は警戒してなかった。こちらの情報を引き出せる程、騎士団に入れ込んでいなかったからな……しかし、お前は違う。ここ数ヶ月、一人行動ばかりだっただろう。奴に組みしているのかもしれん」

 

シリウスがリーマスから距離を取るように後ずさった。マクゴナガルとダンブルドアは顔を険しくして会話を聞いている。止める者は無かった。

 

「ダンブルドア、正直俺は、何故リーマスをこの集まりに呼んだのか分からない。疑いの芽は取り除くべきだ」

 

後ろのダンブルドアに向かって、囁くようにシリウスは言った。リーマスはダンブルドアに助けを求めるような眼差しを送ったが、目が合うことは無かった。

 

「疑わしきは罰せずじゃよ、シリウス」

「しかし……」

「なら、私はここから出ない」

 

リーマスはハンズアップして、降参するように手を振った。

顔には覚悟が浮かんでいる。疑われていたとしても、何としてもこの場所に居たかった。嫌な汗がたらりと額を伝う。シリウスは顔を顰めた。

 

「ホグワーツの中にいる。それならば良いだろう?ダンブルドアの目の下だ。迂闊なことは出来ない」

「ならば、私も見ていましょう」

 

マクゴナガルも口を開いた。目には深い悲しみが浮かんでいる。

 

「あなた方がこれ以上争っているのは見たくありません……何より、ヘスティアのことが今は先決です……」

 

夜が深けていく。ついぞ、校長室の灯りが絶えることは無かった。

光を纏った雲が、夏の足跡をつけながら、ホグワーツの上を矢継ぎ早に過ぎ去っていった。

 

◇◇◇◇

 

あれから……何日が経ったのだろう。アントンの出す食事がきちんと一日二食出されているのであれば、丁度五日が経ったはずだ。そう、一日二食。基本的人権はどうやらこの地下牢では適用されないらしい。

 

ヘスティアにはアントン、バーティ、ベラトリックス以外に面会する機会は無いのか――寧ろ、他の者が許されていないのか――休む間もなく拷問されるということは無かった。

ベラトリックスも腐っても人。身体が二十個ある訳でもなく、暇では無いので、二日に一ぺんのサイクルでこの地下牢に拷問に来るだけだった。なんだか拍子抜けだな、とヘスティアは思っていたが、それは虚栄でしか無かった。既に彼女の心は疲弊しきっている。身体はボロボロで、皮膚はベージュ色も見えぬ程の無数の切り傷で覆われていた。

 

しかし失血死をする訳でもなく、貧血さえも起こらない。ベラトリックスが上手く出血を操作しているらしい。妙にそこら辺がしっかりしているあたり、相当の数をこなして来たのだろう。予想が当たっても全然嬉しくないな。人質を殺さないように……と言うより、面白い時間はより長くというマインドなのだろう。ヘスティアも少し理解出来る節がある。

 

もうひとつヘスティアにとって幸運な事は、彼女はあまり開心術が得意ではなかった事だろうか。闇の蛇面同様、馬鹿の一つ覚えのように拷問ばかりして情報を聞き出していた彼女は、あまり開心術が得意ではなかった。

そもそも、慎重に相手を伺い、深層心理に入り込み、記憶を探るなどという細々とした事はやりたがらないタチなのだ。ヘスティアが口を閉ざしていれば、秘密は漏れぬままだった。

 

「晩御飯だぞ」

「今日のメニューは?」

「鱈のソテーと、ほうれん草のスープ、あと……」

「ライ麦のパンに、苺?」

「正解だ!鼻が利くなあ、ヘスティアは」

「ま、美味しそうな匂いだしね」

 

ヘスティアは嫌に機嫌よく答えた。アントンが少し嬉しそうな声を出したのが聞こえる。少し待っていると、目を覆う布が解かれた。

 

「さあ、たんと食べるんだぞ。実は死喰い人に食べさせるよりハリのいい魚を使ったんだ」

「ありがとう、アントン」

 

ヘスティアは痛む頬を最大限引き伸ばして、笑みを作った。アントンもぎこちなく笑う。お互いが無理をしているのだと分かっていたが、二人ともそれには触れようとはしなかった。

 

「それにしても、今日のベラトリックスは機嫌が悪かったな」

「私の拷問が長引いてるからだろうね。小娘ごときなら一日で下せると高を括っていたんだろう」

 

率直に言えば、ヘスティアは作戦を変えた。

あれから試行錯誤を重ねてみるに、どうやらアントンは酷くヘスティアに罪悪感を感じているようだった。うーん、これは流石ハッフルパフ。触れるのも怖いといった情けない様子で、これはバーティの言う通り、ヤツに仕える者として使い物にならないはずだ、とヘスティアは納得していた。

 

彼に必要なのは頼れる人間だ。アントンだって怖いんだ。だからヘスティアは、話し言葉を頼りがいのある口調に変えた。この数日でゆっくりと、確実に、捕らえられた哀れでか弱いお嬢様から、復讐のときを待つ頼れる魔法使いとしてアントンの認識を変えていったのだ。

事実、自分が悲観的な素振りを辞めてからは、露骨にほっとした様な、肩の荷がおりた様な顔をしていた。

 

多分彼とは、男友達のように接するのがキョリを狭めるコツだろう。品の良い言葉で話すとナイーブスイッチが入ってしまう。口調はギルデロイ・ロックハートがモデルだ。ああ見えて下級生からの支持がある。

 

……しかしアントンと友好関係を築くに当たって、一つ難点があった。

初日のように悪態ばかりついていれば、心に棘の鎧が出来たものを、アントンと話すと変に心が柔らかく、落ち着いてしまうのだ。ハッフルパフ的セラピー。善良な心に触れ、少しづつヘスティアの心がほぐれ始めていた。

飴と鞭という言葉がこの世にはある。

もしもアントンを“そういう”目的で使っているのだとしたら、あっぱれとしか言いようがない。バーティもいい厄介払いが出来て今頃ホクホクなんじゃなかろうか。ヘスティアはそれが心配だった。

絶対に守らねばならない秘密があるのだ。ヘスティアの命に替えても、必ず.......

 

 

 

 

ヘスティアへの拷問の目的は、現時点で四つだった。

予想された通り、ポッター夫妻の居場所、ピーターの居場所がその内のふたつ。

 

そして…………

 

 

 

 

レギュラス・アークタルス・ブラックの生死と、

 

不死鳥の予言について。

 

 

ヘスティアは、ライ麦のパンを咀嚼しながら、悟られぬ様にアントンの様子を伺っていた。

不死鳥が一体何を指すのかすら分からないが、ベラトリックスは焦っている。重要なことである筈だった。

逃走を早めねば。




ダンブルドア豆知識12
半月型のメガネ
“半月型”というのがミソ。
これ以上何も言うことは無い。
考えるな、感じろ。

P.S.余談
多分ハリポタ時空まであと5話ぐらい。
ハリポタでダンブルドア以外の推しは、リーマス・ルーピンとルーナ・ラブグッドです。
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