ヘスティアの灯火   作:ダンブルドア同好会会長

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第二話︎︎ 大魔法使いは微笑みかける

「ギルデロイ、あなたの杖は?」

「桜にドラゴンの琴線」

「桜?珍しいね。……桜にドラゴンの琴線、自制心と精神力の高い所有者のみ扱うことが出来る……この本は今度暖炉の燃料にしましょう」

 

ほら見た事か、と鼻を高くするギルデロイの額に、ヘスティアは持っていた本を軽く叩きつけた。大広間の喧騒の中、ギルデロイの呻き声に数人がちらりと二人を振り返る。『あなたの杖はどんな性格?―杖と私のはじめの一歩―』という如何にもな本を受け取ったギルデロイはパラパラとページを捲りはじめた。

ヘスティアはそれに興味を失ったように、皿にのったソーセージに齧り付く。

 

「ヘスティアのは?僕が見てあげるよ」

「いいよ、それ嘘っぱちしか書いてないもの。ギルデロイので既に証明されたでしょう?」

「いいから」

「イトスギにサンダーバードの尾羽」

「サンダーバード?そっちも随分珍しいね。イトスギ、イ、イ……好戦的で独善的、将来に難アリ……分かった、分かったよ。違うから。勇敢で機転が利くんですって」

「悪くないね」

「ようございましたね」

 

ギルデロイは睨みつけるヘスティアに肩を竦めながら、取り皿にスクランブルエッグをのっけた。それにしてもヘスティアがこんな馬鹿らしい本を持ってくるとは。気でも触れたのか?ホグワーツ内では既にヘスティアの二番目の理解者となっていたギルデロイは疑問を抱く。11月も半ばの時だった。

ヘスティアは割と本についての学がある。レイブンクロー出身の母親が集めた書籍と兄のお下がりですっかり目の肥えたヘスティアは、度々粗悪な本に出会うとボロクソに評価するのだった。本を読んでいたヘスティアの機嫌が悪くなる度、ギルデロイはそれを楽しみにしていたのである。コレは見るからに……彼女の好きそうではない粗悪品だ。楽しむことの出来る診断だったらまだしも、ここまで違うと笑えない。ギルデロイはエベレストの標高並に自己肯定感が高かったが、自身の優れている部分は、高潔な精神力だとか、忍耐強い自制心だとは決して思っていなかった。いや、高潔な精神力に関してはあんまり否定しないかもしれないが。

 

「何、この馬鹿らしい本」

「オリバンダーが監修してるから、間違っているということは無いのよ、多分。きっと多くの人は当てはまる。でもこんな身近に例外が二人もいると読む気が失せるものね」

「オリバンダーが?ヘスティアはなんでこんな本持ってるのさ。君もアルフレッドもそういう趣味は無さそうに見えるけど」

「杖職人を目指していたからね」

「おどかさないでよ!」

 

そろりとヘスティア背後に近寄り、突然肩に手を置いたアルフレッドが悪戯が成功した笑みで言った。隣に座っていたギルデロイは薄々気付いていたらしく、驚いていない事をヘスティアに睨まれていた。ヘスティアは肩に置かれたアルフレッドの手に自分の手を重ねながらため息を吐いた。

 

「小さい頃の話よ。今は違う」

 

バツの悪そうな顔をしてヘスティアは言った。アルフレッドはいじらしい妹にニコニコと笑顔を向ける。2ヶ月以上この距離の近い兄妹を見てきたギルデロイは死んだ目でスルーした。

 

「なんで?」

「そうか、ギルデロイは知らないのか。僕たちの一家のことを」

「聖28一族としか?凄い純血家系なんでしょう?」

「私たちの家は代々魔法省に勤めているの。もし魔法省の役人にならなかったら、家を出なきゃならないわ」

「なれなかったら?」

「笑わせないでよ、これでも純血なのよ?」

 

ヘスティアのナチュラルな純血主義が顔を出したところで、ギルデロイは少し黙った。アルフレッドはその様子を見て笑う。

 

「言い方が悪いよ、ヘスティア。僕たちの家は純血家系、代々魔法省に勤めていることもあってコネだけは腐るほどあるんだ。それで魔法省に入れなかったらそれはもう勘当されても文句は言えないんじゃないか?という話だよ。単純にね」

「成程ね、しかし魔法省に入らなかっただけで勘当って少し酷いんじゃない?よその家に口を出すことじゃないかも知れないけど、君たちはこんなに仲がいいじゃないか。ヘスティアがどうしても他の職業に就きたいと思ったらアルフレッドは縁を切るのかい?」

 

考えたこともなかった、と言う風にヘスティアとアルフレッドは顔を合わせた。

 

「ギルデロイは素直に言ってくれるからいいね。確かに僕は縁を切れないかもしれない」

「縁を切るっていうのは、家に追い出されることじゃないの。家から出ることなのよ。周りの家族が魔法省の役人なのに、自分だけ家の責任を逃れてのうのうと暮らすなんて無理でしょう?」

「僕たちの家はあまり他とは関わらないから、その分家族への愛が強い。家族の為にならこの身を捧げる覚悟がある」

 

その覚悟を持っていない者が家から出るんだよ、とアルフレッドは笑った。

純血、責任、覚悟。ギルデロイは口を開けることも出来ずこくこくと頷いた。確かに汽車では純血の癖に一緒にいる人がいないらしかったし、家族愛が強いのはもう目の前の光景でおなかいっぱいなぐらい理解している。

ギルデロイだって汽車であのコンパートメントに乗り込む時、決して緊張しないわけではなかった。緊張してあの有様なのはそれはそれで問題だが。

 

「一応僕たち…僕と両親も、ヘスティアに強制してはいないつもりだったんだけどね。夢を見ることは罪じゃない」

「ええ、でも子供はいつの間にか気づくものなの」

「立派な妹を誇りに思うよ」

 

またイチャイチャしだした兄妹を尻目に、ギルデロイはじっと『あなたの杖はどんな性格?―杖と私のはじめの一歩―』という馬鹿らしい題名の本を眺めた。その本はまだ真新しく、読み込まれた跡もない。まるで、つい最近買ったような。

ヘスティアはあんな風にケロリとした顔で言っていたけれど、もしかして……

ギルデロイは後悔した。

「馬鹿らしい本」なんて、間違っても言ってはいけなかったんだ。

 

◇◇◇◇

 

六本足の猫、プスは成長期である。仔猫から成猫にあるにあたって、凄まじい勢いで成長しているなあと、ヘスティアも薄々気が付いていた。

とどのつまり何が言いたいのかというと、運動量が足りないのである。時間がある時はホグワーツの裏の山に放して遊ばせたりしているが、猛獣の子供だけあって体力がとてつもない。仔猫なので外敵には一溜りもなく放し飼いに出来る訳でもないので、ヘスティアは早朝におもむろに城から抜け出して山に足を運ぶのだった。

 

「遊んできなさいよ、いつでも来れる訳じゃないんだから。ほら、プス」

 

貴重な日曜日、足元でじゃれつくプスを適当にあしらいながらヘスティアは魔法史の課題の本を読んでいた。寮の同室の強気そうな子がヘスティアに良い感情を持っていないと知ったからか、彼女は寮の中でもプスと触れ合うことは避けていた。人が見ていない時に撫でるだけで、あとはキャリーバッグのような入れ物に入って貰っている。ヘスティアは子供だったが、こんな生活はいくらなんでもプスが可哀想だとは分かっていた。流石に見通しが甘すぎた。ヘスティアはプスのふわふわな毛並みを撫でた。

 

「プス、と言うのかな?」

 

低い凛とした男性の声だった。

ヘスティアは掛けられた声にビクリと震え、反射的に背後を振り向いた。最近はよく人に驚かされる気がする。ヘスティアはなんとなく声を掛けてきた人の検討が着いていたため、やはりその人だと分かるとひどく顔を歪めた。

 

「ダンブルドア先生」

「ヘスティア。君も気付いているはずじゃな、プスをこのままここで育てる訳にはいかないと」

「…はい」

 

憧れの大魔法使い、そしてホグワーツの校長にこんな現場を見られては、ヘスティアはもう言い逃れを出来なかった。バツの悪そうな顔を俯かせてヘスティアはプスを抱きしめる。ダンブルドアには早朝城を抜け出していることがバレていたのだろう。最近魔法史の授業に居眠りすることが多かったからかもしれない。ヘスティアはそう考えたが、そもそも魔法史の授業に起きていられる生徒自体が少なかったため、それは関係なかった。

ダンブルドアはローブをしりびかせながらヘスティアの隣の岩に腰掛けた。酷く優しげな顔でヘスティアを見るものだからその眼差しが眩しくて、ヘスティアは顔を上げることが出来ない。

 

「親御さんはウィリアムとメイジーじゃな?フォーリー家の」

「連絡するんですか」

「いいや、まず君の言い分を聞いてからじゃよ」

 

ダンブルドアのゆったりとした口調に覚悟を決めたヘスティアは、たどたどしく言葉を紡ぎ始める。小さい頃から憧れていた人とこんな形で初めて会話をするとは、ヘスティアは最悪な気持ちだった。

 

「八月に、私ダイアゴン横丁に行ったんです。親と兄と一緒に。その時、突然死喰い人に関する不正魔法使用の取り締まりが始まったとか言って父がノクターン横丁に駆り出されて―――父は魔法法執行部隊の人間ですから―――でも私、どうしても父の仕事をしてる姿が見たくて。ノクターン横丁とダイアゴン横丁の境のところまで、母や兄に何も言わず覗きに行ったんです。その時この子を見つけました。随分とボロボロで、やせ細っていて、向こうの方でこの子を探すならず者の声も聞こえましたから、つい」

「家に連れて帰ったんじゃな?」

「はい。その後、父が魔法生物が逃げたと教えられました。貴重な生物で、偉い方々が血眼になって探していると。それを聞いて私、とても言い出せなくて」

 

ヘスティアは、自分が悪いことをやったとは微塵も思っていなかった。この子にとって何が一番幸せか考えた結果だ。それが、ここでプスを閉じ込めて、自由にさせてあげられないものだったとしても。

プスの事を語る父・ウィリアムの口調でヘスティアは勘づいてしまったのだ。貴重な魔法生物は、いい魔法道具の材料になる。

 

「ダンブルドア先生、私、この子を自由にしてあげたいんです。この子の本当の種族も、何も知らないけれど、魔法族が勝手にこの子の運命を決めるべきじゃない」

「群れに帰してあげたいということじゃな?」

「魔法族の手が及ぶ前に」

 

プスがごろごろと喉を鳴らす。ヘスティアは愛おしいものを見るようにプスの毛を撫で付けた。

ダンブルドアはそんな様子を見ながら、懐から1冊の本を取りだす。

 

「ヘスティア。これにプスの事が書いてある。読んでみなさい」

「あ、ありがとうございます」

 

題名は…『幻の動物とその生息地』…?確か有名な本だった筈だが、生憎ヘスティアが読んだことはなかった。パラパラと本を捲り始めたヘスティアに撫でられることを諦めたらしいプスは、次にダンブルドアをロックオンし始めた。

 

「ヘスティア、プスがこちらに飛びかかって来ようとしておるのじゃが…」

「大丈夫ですよ、噛みませんから」

 

頁に手を掛けるヘスティアの目は本に注がれたままだ。真剣な目をして読んでいる彼女に悪いと思い、ダンブルドアは開いていた口を閉じた。

数秒後、腹に突撃されたらしいダンブルドアがホッホーウ!!と呻く声が辺りに響いた。ヘスティアは集中しているらしく憧れの大魔法使いの情けない声に反応もしない。何処かの森番と気が合いそうだ、とダンブルドアは遠い目をした。その間にもプスはダンブルドアの手を嗅ぎ、信用出来ると確信したらしく彼の膝の上で丸まっていた。

 

「『ワンプス・キャット』?」

「見つけたようじゃの」

「MOM分類、XXXXX……イルヴァーモーニーの寮の象徴動物……原住民でも入手できたのは毛のみ……?」

 

ヘスティアの顔はみるみる真っ青になっていった。ヤバいですね、と呟くと、ダンブルドアは頷く。

 

「こんなの、マクーザとの外交問題になりかねない。しかも、今のマクーザの議長って、ガスパー・デイヴィス?」

「あちらに行ってもあまり、いい待遇は望めんじゃろうな」

「ガスパーならプスをアメリカ魔法議会のマスコットとして侍らせかねません」

 

最悪だ、とヘスティアは頭を抱えた。これでも純血、魔法省幹部の娘。魔法界の世界情勢には詳しいのである。

現議長のガスパー・デイヴィスなんて過去100年の間でも最低の支持率を叩き出し、与党だからまだ議長の椅子に座れているような問題児である。次の議長戦では必ず引きずり下ろされると言われているし、昨今跋扈する闇の帝王に対しての失言も有名。ヘスティアの信頼なんてないに等しかった。

 

「じゃあ、プスを取り逃したイギリス魔法省もかなり不味いことになっているのでは…?」

「いや、あくまでプスを取り扱っていた売人はアメリカ人じゃったからな。アメリカでは魔法生物の規制が厳しい事もあって、イギリスで取引しようとしたそうじゃ。マクーザは売人が出国した後に闇取引の調べがつき、イギリス魔法省に協力を要請したそうでの。恐らくその時に魔法省の外交官が魔法生物の安否が確認できなくとも文句は言わない節の誓約書は書かせておる」

「でも、売人を入国審査で通し受け入れた魔法省にも責任が行くのでは?」

「鋭いのう。まあワンプス・キャットは保護できる気でいたのじゃろう。マクーザとはそれでトントン、いやもっと大きな借りが作れると。現にここで寝っ転がっている仔猫を見ていると説得がなくなってくるが」

「じゃあ、父は大丈夫なんですか。責任が追及されるなんてことは」

 

魔法省上役でも無いのに何故そうポンポン機密であろう情報が出てくるのだという考えがヘスティアの頭を過ったが、生憎そんなことに構っている場合では無かった。

上層部に父親が圧を掛けられているなんて、死んでも考えたくない。ヘスティアの身体からはいよいよ汗が吹き出てきた。ワンプス・キャットなんて、そんな貴重すぎる生物だとは思わなかったんだ。精々サンダーバード、悪くても不死鳥程度。ヘスティアはかなりこの仔猫の事を見くびっていた。だってただの猫じゃない。実際に見た人がこの世に数人レベルの魔法生物だなんて誰が想像つくだろう。

ダンブルドアはヘスティアのそんな言葉に目を細めた。子供のヘスティアは気付いているはずもなかったが、後に彼女は、ダンブルドアはこの言葉を待っていたのだと懐古する。

 

「父君が追求されておったとして、君はプスをどうするつもりなのじゃ?」

 

ぐ、とヘスティアは言葉に詰まった。

父親と引き換えにこの仔猫を差し出すなんて、実質プスを捕まえた売人と同じだ。自分の金銭的な利益の為に、自分の父親の為に。そこにどれ程の違いがあるだろうか。

いつの間にか日は登り、黒い湖に眩しい光を反射していた。もうすぐ朝ご飯じゃなかろうか。

どうでもいい事に寄り道しながら、ヘスティアは遂に決意を固めた。

 

「…マクーザの議長はもうすぐ変わります。ガスパーと提携してもあまり意味をなさなくなるはず。私はプスを守り続けようと思います」

「ウィリアムの地位が危うくなるとは」

「父は、そんなことでは揺らがない地位を築いています。私は彼を信じる」

「たまたま出会った、一魔法生物にそこまですると?」

「私が気に入っただけです。それだけ。無茶なことを言ってるのは分かってます。でも、無茶なことを言えるのは子供の特権でしょう?」

 

ヘスティアは探るようにダンブルドアの瞳を覗いた。キラキラとした夜空のようなブルーの瞳。……好き……。

ではなく!!!ヘスティアは揺らいだ自身の心をぎゅんと元の位置に戻すと、また元の怒られ仏頂面に戻った。

ダンブルドアはいつの間にか微笑んでいた。ヘスティアは昇天しそうになった。

 

「ヘスティアはそれでいいのじゃな?プスと共に暮らすことも考えていないと?」

「はい。私の環境下ではこの子は自由に過ごせない」

 

ヘスティアのその言葉を聞いて、よろしい、という風にダンブルドアは頷いた。

どうやら彼のお眼鏡には叶ったらしい。ヘスティアはほっとため息を吐いた。

 

「着いて来なさい。君に会わせたい人がおる」

 

ダンブルドアはそう言って、両腕にプスを抱えて立ち上がった。子どもの癖にプスはなかなか重いので若干ダンブルドアの足はおぼついていなかったが、有無を言わせないようだった。

ヘスティアはダンブルドアが背を向けた瞬間、だらしなく破顔し、顔に手を当てた。

やっぱりダンブルドアは尊い。ムリ。死んでしまう。マーリン様ありがとう。

ダンブルドア特化の“病気”もそうだが、こんな激情をあんな会話の中で押さえ付けているなんて、ヘスティアの演技力も中々のものである。




ダンブルドア豆知識その2
メガネを掛けている
ニュート時代はメガネ掛けてなかったくせにハリポタ時代は掛けているとは、ギャップ萌えを狙っているのでは?最近目が悪くなってきたなあと感じてメガネを選びにいくその瞬間に何故私は存在していなかったのか。怒りと悲しみで前が見えない
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