ヘスティアの灯火   作:ダンブルドア同好会会長

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第三話 魔法生物学者との邂逅

ダンブルドアはヘスティアを連れて、校長室にやって来た。

完全に出来の悪い不良が説教に連れ込まれる図であったが、今のヘスティアのご機嫌は完全に大フィーバーである。

これが、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア校長先生(魔法戦士隊長、上級大魔法使い、ウィゼンガモット主席魔法戦士)の普段使っている机、これがアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア校長先生(魔法戦士隊長、上級大魔法使い、ウィゼンガモット主席魔法戦士)の普段食べているキャンディ、これがアルバス(以下略)の普段見ている鏡……

内心そんな変態チックな事を考えているヘスティアに気が付かず、キラキラした眼差しで校長室を見回す生徒に、ダンブルドアは酷く優しげな眼差しを向けていた。頼むから早く逃げてくれ。

 

「会わせていただけるというのは、どのような方なのでしょうか」

「その本の作者…わしの古い友人じゃよ」

「ニュート・スキャマンダーさんですか?」

 

確か対グリンデルバルドでの戦いで素晴らしい活躍をされた御方だ。うちの曽祖父と祖父がその戦いに関わっていたこともあり、白黒の写真がうちに残っていたように思う。妙に顔が良いハンサム・ガイだった。ヘスティアはそんなことを考えながら、ダンブルドアの腕の中からぬるりと抜け出したプスを受け止めた。

 

「ニュートはワンプス・キャットを実際に見た事がある。我々の良き助けをしてくれるじゃろう」

 

我々って!!!!!我々って言った!!!!!!私とダンブルドアのことだ!!!!!

遂にヘスティアの興奮は最高潮に達した。まるでプロポーズされたようなテンション、本日n回目の発狂である。ダンブルドアがつらつらと何かを話しているが、生憎放心状態のヘスティアには左から右へと流れていく音に過ぎない。必死で精神を建て直した頃には話はすっかり終わっており、ヘスティアはダンブルドアの締めくくりに神妙に頷いた。ダンブルドアの言うことなら間違いないだろう、と。

コイツ、中々の妄信具合。

 

「手を」

 

ダンブルドアが手を差し出す。まるで王子様の手を取る姫のように、ヘスティアはそっとその手に自分の手を重ねた。心做しか頬が赤らんでいる。

 

「もう少ししっかり握って貰えると嬉しいのじゃが」

 

ダンブルドアは困ったように眉を下げて言った。

もう少ししっかり握る!?!?!?一方ヘスティアは動揺した。なんて大胆なことを仰るんだろう。ヘスティアは勇気を出して、もう少ししっかり握ってみた。細い指がするりと滑る。所謂、恋人繋ぎと言うやつだ。

 

ダンブルドアは暫し思考がフリーズした。僅か1秒のであるが、この百戦錬磨の大魔法戦士をその間でも思考停止に出来たのだから上出来だろう。彼の背後に意味もわからない小難しい数式が無数に浮かんだ気がした。

ダンブルドアのこれでもかと見開かれたブルーの視線が恋人繋ぎにされた手に落ちる。ダンブルドアが力を弛めてもヘスティアの指は離すまいとしっかりと握られていた。「もう少し」レベルでは無いのは確かだ。

次に彼の視線は段々と上にあがり、遂にヘスティアの蒸気せんばかりの赤らんだ顔を捉えた。頬の手の熱を逃がすためか左手を頬に当てており、その腕に抱かれていたであろうプスはヘスティアのローブに爪をたててなんとかしがみついている状態だった。既に布が数箇所破れている。この調子だと肌にも食い込み始めているのではないだろうか。

 

え?恋愛感情ある?もしかして。

その時、やっとダンブルドアは自分の置かれている立場を理解した。

キラキラと自分を見る目、恋人繋ぎ、赤らんだ頬、入学式ですまなそうに会釈していたヘスティアの兄、アルフレッド――――パズルのピースが次々とはまっていく感覚に、ダンブルドアは何処か寒気を覚えた。こういう時に限って灰色の脳細胞は高速回転してしまうのだ。

 

「……先生?」

「あ、ああ。では、い、行こうかの」

 

グリフィンドール寮出身特有の勇猛果敢さを欠片も見せないうちに、ダンブルドアはこの状況をスルーすることにした。戦略的撤退である。まあ、うん、こういう事もあるかもしれないし、気の所為ってこともありうるから。ヘスティアは蒸気した頬をそのままに、大きな二重の瞳を不思議そうに瞬かせた。

そういえば、ヘスティアの祖父、ウォードから「孫があなたのことを気に入っている」と手紙で聞いた気が――――?

ダンブルドアは、考えるのをやめた。ダンブルドアの心強い相棒・フォークスがダンブルドアの精神面の危険を察知し、上の階から一直線に飛んでくる。ダンブルドアの挙げた右腕がフォークスの羽に触れた瞬間、その場から彼らは消えた。

 

◇◇◇◇

 

イギリス、ウィンダーミア湖がほとり。ピチュピチュと小鳥囀る田舎に姿を表した二人の魔法使いは、ある家の前に着いた。

小ぶりな花をつけた蔓がクリーム色の壁に縦横無尽に張り巡らされ、オシャレな窓が奥から覗いている。オレンジ色の屋根からは三本の細い円筒の煙突も突き出ており、まさに平和な暮らし、を体現しているようだった。ダンブルドアは繋いでいた手を何気なく離し、少し奥ばった場所にある入口のドアを叩きに行った。ヘスティアにはここに留まるように言い置いて。ヘスティアが手が解けたのを残念そうにしているのを見て、ダンブルドアは更に確信を深めた。

ヘスティアは日当たりの良い土の道にプスを下ろした。こんなに長閑なところはプスも初めてだったらしく、暖かい花をくんくんと嗅いでいる。ところどころ生える青い草、ぽかぽかと暖かい気温。ヘスティアは首に巻いていたマフラーを外しながら、不思議そうな顔で辺りを見回していた。今って11月だよね?と。

11月のイギリスは10℃程にまで冷え込む。現に先程居たホグワーツの裏山では息が白くなりかけるほど寒かった。この場所だけがまるで春のようだ。何らかの魔法なのだろうか。

 

「ヘスティア、来るのじゃ」

 

プスに気を取られていたヘスティアに声を掛けて、ダンブルドアはドアの奥へと消えていった。ヘスティアもプスを抱き上げてそちらへと向かった。

 

中は居間になっていた。赤茶色の革張りの大きなカウチや、使い込まれたどこか懐かしさを感じるキッチン、木製のテーブルの上に置かれている花柄のティーポット。温厚そうな人が住んでいるんだろう、とヘスティアは何処かほっとした気持ちになった。ニュート・スキャマンダー氏に面と向かって糾弾されることは無さそうだ。部屋の奥に行くと、安楽椅子に座った白髪の老人が座っている。肩まで伸ばされた髪は緩やかにカールし、少々猫背気味の背を丸めて紅茶を飲んでいる。優しげな蒼色の瞳、しかしダンブルドアとは毛色の違う視線を浴びて、ヘスティアは居心地悪くプスを抱き直した。

 

「こんにちは、ヘスティアさん。そちらはプスだね…ワンプス・キャットの」

「はい、お初にお目に掛かります」

 

ヘスティアはプスを抱きながら、形だけのカーテシーをした。プスはグル、と喉だけで返事をする。ニュートは少しばかり微笑んだ。手に持っていたティーカップを脇のテーブルに置いたので、ヘスティアはプスをニュートに渡した。繊細な指先がプスの身体を調べていく。

 

「大体、見たところ生後半年、うん、うん…よくお世話されているようだ。ワンプス・キャットは警戒心が強いから、苦労したでしょう」

「はい、かなり」

 

ヘスティアは照れたように笑った。初めて趣味があった友人を見つけたというように、瞳の中には少しばかり喜びの色が浮かんでいる。どうぞ、とプスがヘスティアへと返された。

 

「ダンブルドアから聞いたよ。自然に帰したいんだってね?」

「はい、私の手にはどうしても余ってしまうので」

「しかしね、自然に帰したらそれこそこの子は悲惨な目にあってしまうだろうよ」

 

ヘスティアの笑みが固まった。ニュートは不器用な笑みで気まずげに口角を上げる。彼の視線はヘスティアの持つ本にスライドした。

 

「ワンプス・キャットは警戒心の強い生き物だ。その本――――『幻の動物とその生息地』にも書いたけれどね、まあ滅多に人間に姿を見せない。僕が見つけたのも脚を怪我した幼体の子がいたからだ」

 

ニュートは悲しげに目を細める。

 

「その時の僕はまだ若く、馬鹿だったから、何も考えずにその子を世話し、群れに返そうとした。群れは見つからなかったけれど、生息地は粗方予想が着いていたから森に帰してしまった。次の日同じ場所に行ったら、その子は死んでたよ。恐らく同じワンプス・キャットによって殺されてね」

 

ワンプス・キャットは人間への警戒心がとてつもないと言う。だからこそこの長い間、誰にも姿を見られることなく繁栄して来ることが出来たのだ。

その子が同族に手を掛けられたのも人間の匂いが付いていたからだろう、とニュートは締め括った。

 

「その子を育て始めたのは何か月前からかは知らないが、匂いが付きすぎている。もう彼が群れに戻ることは無理だ。君に出来ることは、その命に責任を持つ事、そう思わないかい?」

 

ヘスティアは掠れた声で、はいと言った。殴られたように放心するヘスティアを見て、ニュートが慌てて弁明をした。

 

「アメリカで捕まった時にはもうダメになっていたよ。何も君が悪い訳じゃない」

「…私、でも、プスを十分に育てる場所がありません」

「親御さんに預けることは出来ないのかい?ウィリアムだろう、お父さんは」

「父は魔法省の人間ですよ。仮に私をどれだけ愛しているとしても、魔法省への従順は我が家では絶対ですから。築きあげてきた信頼もありますし」

 

ああ、フォーリー家はそうだった、とニュートはヘスティアの曾祖父や祖父を思い浮かべて納得する。中々にアグレッシブな人間だったが、確かに魔法省には恐ろしく忠誠を誓っていた。

 

「じゃあ…そうか、君の手元に置いておくしかないね。生憎僕はこの歳だし、残念ながら預かることは出来ない」

 

ああそうだ、と白々しくニュートは呟き、着いてから一度も口を開いていないダンブルドアの方を見た。

 

「僕のトランクのような物をあげてはいかがでしょう?」

 

ほら、ここにこんなに心強い大魔法使いがいる事ですし、とニュートはダンブルドアを指す。以前はダンブルドアになんやかんや丸め込まれていた彼だったが、長年ダンブルドアと接するうちに段々扱い方が慣れてきているらしかった。ううむ、と何やら考え事をしているダンブルドアを引き連れて、ニュートは地下室へと下がっていく。

 

「ニュートさん、ダンブルドア先生と仲が良さそうで大変羨ましいわ。そう思わない?プス」

「グルル」

 

ヘスティアはリビングにいるようにと言われ、またもや置いてきぼりを食らったのであった。




ダンブルドア豆知識その3
蒼色の瞳を持っている
ブルーの瞳が星空の様にきらきらと輝く。
なんて素敵な響きでしょう。しかしこれはダンブルドアが天から何万物も与えられた物のうちのたったひとつに過ぎません。私たちのような凡人は何ひとつ持っていないというのに。これが“格”です。
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