ヘスティアの灯火 作:ダンブルドア同好会会長
「おおい、ヘスティア〜!ギル〜!」
「出たわね」
遠くの方で手をブンブン振っている天パ陽キャ眼鏡男子に向かって、ヘスティアは物凄い形相で睨みつけた。一方隣を歩くギルデロイは乙女がそんな顔をしていいのだろうかとドン引きしている。仮にもあの男は学校の人気者であった。
あれから一年が経ち、ヘスティアとギルデロイは二年生となった。あの時貰ったダンブルドアとニュートが変なテンションで作った『おれらがかんがえたさいきょうのひみつきち』内蔵のトランクにはすっかり大きく成長したプスもおり、世の中に闇の帝王(笑)が蔓延っていなければ、ヘスティアは順風満帆な生活を送っているはずだった。
しかし人生そう上手くいくはずもない。ヘスティアはある時を境に、悪戯仕掛け人なる学校の人気者に目を付けられてしまったのである。
そもそも、ヘスティアの兄、アルフレッドはジェームズ・ポッターやシリウス・ブラックなどと同学年であった。同じ監督生ということでリリーやルーピンなどと兄が仲が良かったこともあり、入学直後からヘスティアも薄らと顔は覚えられている状態だった。
しかし昨年度の学年末試験でその状況は一変する。
元々学業においては中の上に位置するギルデロイと、学年トップの秀才・ヘスティア。普段の授業でもレイブンクローの点をばこばこ入れていた二人ではあるが、ヘスティアの変なスイッチが入ってしまったため、ギルデロイも尻を蹴られ二人して学年ワンツーを掻っ攫っていったのである。
性格は置いておいて顔良し頭良し運動神経良しの三拍子揃った男女なんて注目されるに決まってる。悪戯仕掛け人が、新しく入ってきた新鮮な疾風に悪戯をしたくなったことは言うまでもない。あんま調子乗るなよという牽制と、気に食わないという嫉妬と、単純な興味を優先した結果だった。
二年生に上がってから彼らは随分と色々な悪戯の餌食にされた。
新入生がドン引きするほどの苛烈さであったが、ヘスティアが馬鹿正直に応戦してしまうもので盛り上がる盛り上がる。ギルデロイは自分が目立つと分かったらしく、如何に悪戯を華麗に避けるかという事に精を出し始めた。昼は城のどこかの廊下でバチバチの戦闘が繰り広げられているので、偶然通りかかった者はこれは幸運と観戦し始めるまでに至った。ギルデロイはもっと調子に乗ったし、ヘスティアの怒りのゲージは天元突破した。
後にスネイプは語る。
アイツらが虐めに手を回す暇が無くなったので感謝している、と。
後にヘスティアは語る。
ギルデロイが気持ち悪いほど華麗にクネクネ避けるものだから大変気が散った、と。
そんな訳で、ヘスティアにとってジェームズ、シリウス、以下2名は天敵なのである。ギルデロイは寧ろ目立つ切っ掛けを与えてくれた彼等に満更でもなさそうだったが、ホグワーツにおいて自分より目立っていることは間違いないので早く卒業しやがれ、とは思っていた。
そして本日、クィディッチ初日である。
二年生にしてクィディッチのシーカーに選ばれたギルデロイは、今朝の朝食中でも如何にしてグリフィンドールシーカーのジェームズを負かすかということを考えていた。完全に運とネームバリューと女子の熱烈な応援とガリ勉の多いレイブンクローだったからシーカーになれたのだが、ギルデロイにはそんなこと関係ない。自分が勝ち、世界の中心となり、色んな女の子に褒め称えられるのが彼の目標とするところなのである。
一方ヘスティアもここ一週間はクィディッチの本を溺れるように読み漁り、ギルデロイに完全に手を貸していた。彼女にしては珍しい事だったが、今は共通の敵、ジェームズ・ポッターがいる為協力を惜しまない。とにかくジェームズをボコボコにしろ、ファウルも構わないとギルデロイ並びにレイブンクローチームに散々言い含め、彼女は準備を整えた。完全にスリザリンと化しているが、彼女はレイブンクロー生である。
「あら、クソ眼鏡。ご機嫌いかが?」
親指で首を掻っ切る動作をしながらヘスティアは言った。入学当初の貴族然とした礼儀正しさは欠片も残っていない。染まったというか、朱に交わったというか。しかし彼女の親の前では元の清楚なお嬢様に戻るのだから大したものである。ギルデロイは女性は生まれながらにして女優なのである、という言葉を完全に信じきっていた。
「いかがも何も、絶好調だよ。リリーに応援してる、頑張ってって言われちゃったしね!」
「さっき聞いた話だと、精々無様な姿は晒すなって言われていたらしいけれど?ポッターの耳は随分と都合よく出来ているのね」
因みに、「グリフィンドールが負けないようにしてね」が正解である。ギリヘスティアの方が近い。完全にフィルターが掛かってしまっている二人に何を言っても無駄なのだとギルデロイは既に学んでいたので、彼らの思考を止める者はいなかった。
「ギルデロイ、アイツをギャフンと言わせてやって頂戴。暴力は正義よ」
ジェームズが嵐のように過ぎ去って行った後、ヘスティアはそうギルデロイに囁いた。
「永遠にクィディッチ場に入れなくなるから嫌だね」
ギルデロイは一瞬考えたあと、首を横に振った。
◇◇◇◇
ヘスティアはレイブンクローの一番位置が高い特等席に早くから陣取りを始めていた。レイブンクローは元々ガリ勉ばっかりの陰キャ集団であったが、我らがミスターハンサム・ギルデロイが出ることによって、レイブンクローの席は史上最高の盛り上がりを見せていた。見るとハッフルパフやスリザリン、グリフィンドールまでいるカオスっぷりだ。グリフィンドールの女子の何名かは、身を隠すようにマフラーを外し、理解ある他寮のお姉さま方によってグリフィンドール席から見えにくい位置に隠されていた。観客、八割方女子である。高そうなカメラを抱えている者もいるし、後で飛ぶように闇取引がなされるのだろう。ヘスティアはお金に困っていないしそういう事に全く興味はなかったが、もしそうでなかったら容赦なく売り捌いていただろうなと確信していた。ヘスティアとギルデロイの関係は意外とドライなのである。本人曰く。
「こっちよハグリッド。スウーピング・イーヴルは連れて来てくれた?」
「ンな危ないもん連れてくるわけないだろうが!まったく…」
ホグワーツ一の大巨漢、ハグリッドが入口から姿を表したのを見て、ヘスティアは取っていた席の荷物を退けた。女子生徒たちは場所をとる彼の出現にイライラとしたが、生憎連れてきたのがギルデロイの一番の親友だったため、口に出す者はいなかった。ヘスティアを制する者がギルデロイを制すとまで言われている始末であるので。
「グリフィンドール出身だから本来ならあっちで見にゃならんのだがな」
「森番なんだから寮とかは関係ないのよ。平等に接しなきゃ」
ヘスティアはそれらしい正論をぶん回してハグリッドを丸め込んだ。そうか、とハグリッドは何も疑わず納得する。
選手入場が始まった。パシャパシャと記者会見並みにフラッシュが焚かれる中、意気揚々とジェームズとギルデロイが登場してくる。学校で一二を争う目立ちたがり屋二人であった。
一方ヘスティアは両親にねだって買って貰った万眼鏡を通して彼らを見ている。バッチバチに髪の毛キメてんなーと思いながら、彼女はピントを合わせていた。
「あんな高いところで細い棒に跨りながら速度制限無しのスポーツをするなんて狂ってるわね。そう思わない?」
「まったくだな」
ヘスティアは運動神経が良い方であったが、生憎箒の才能はなかった。乗りこなせはするし、低空飛行なら可能だが、人が豆粒に見えるほどの高度で乗りたいとはどうしても思えなかった。ハグリッドもその体躯で箒を折ったことがあるのであまりいい経験はしていない。
試合が始まり、クアッフルの応酬が始まった。基本運動部のような性格のグリフィンドールと文化部のレイブンクローだとグリフィンドールが点を多く入れる傾向にある。たまーに文化部レイブンクローにも光り輝く逸材が現れることもあるが、ごく稀だ。
開始から30分がたち、既に170-30にまで点数差が開いてしまっていたレイブンクロー席はお通夜状態だった。ここでギルデロイがスニッチを取れば、10点差でレイブンクローが勝つ。沈んだ気持ちに鞭を打って、レイブンクローその他もろもろはギルデロイに応援を叫んでいた。ギルデロイが気に食わない男子も今は別である。ヘスティアは応援をする暇もなく、万眼鏡でスニッチを死に物狂いで探していた。
誰もがもうダメだと思ったその時、遂に、彼女の万眼鏡が黄色い閃光を捉えた。
「ギル!!!!」
その瞬間に彼女は叫んでいた。ギルデロイの耳はその応援に掻き消されん小さな声を拾い上げる。長い間共に居た結果だった。ヘスティアが指さす方向に、ギルデロイは一直線に向かっていく。ギルデロイにはスニッチが見えなかったが、この場面で彼女を信用しないという選択肢は無かった。遅れて気が付いたジェームズも動き出す。
カラン、とベルが響いた。レイブンクローのゴールにクアッフルが入り、点差は150点となったが、生憎観客はそれどころじゃなかった。ギルデロイとジェームズのデッドヒートに皆固唾を飲んでいる。これでギルデロイが勝ったら、同点!!!!
レイブンクローのキャプテンがクアッフルを持ちながら負けじとグリフィンドールの選手の間をすり抜けて行った。後輩に頑張らせて、何がキャプテンか。
完全にレイブンクローの波が来ていた。ギルデロイは余計なことを考える暇もなく身体を倒し、ロケットのように一直線にスニッチへ向かっていた。その時、誰よりも彼は主人公であった。逆境の中勝利を追い求めるヒーローに、万眼鏡から目を外し懸命に叫ぶヒロイン、最後まで諦めない仲間に、応援する観衆。
カラン、とベルが鳴った。レイブンクローのキャプテンがグリフィンドールのゴールに見事クアッフルを投げ入れたのだ。しかし、観客は声を挙げなかった。皆の目線の先、ある一人の男が、勝利を勝ち取っていたのだ―――――!
◇◇◇◇
日も傾き始めたホグワーツ医務室。グズグズと泣きながら蹲る男に、ヘスティアは色々思いの籠った視線を投げかけていた。
「もう少しで、勝てたのにッ」
蹲った膝を抱えるギルデロイの右手にはギプスが巻かれていた。
もう少し、あともう少しでジェームズより早くにスニッチを取れる。その瞬間だった。グリフィンドールのビーターがブラッジャーを打ち返したのは。その荒くれ者のボールが一直線にギルデロイの伸ばされた右腕にあたり、ものの見事に彼の腕は折れてしまったのである。グリフィンドールのビーターにレイブンクロー側からブーイングが飛んだが、彼も彼でこんな素晴らしいチェイスを邪魔したことに意気消沈しているようだった。しかしこれもまた勝負のひとつ。彼は素晴らしいプレイングをしたに過ぎない。330-40。なんでや阪神関係ないやろ。スポーツの世界は厳しかった。
「ギルデロイ」
医務室に運ばれる際に散々皆から同情や慰めの言葉を貰い、プライドがけちょんけちょんになったナルシストにヘスティアは話し掛ける。その声に面を上げた彼の顔には、ハンサムのハの字も残っていなかった。真っ赤になった頬と鼻水が垂れた口周りで色々台無しである。ヘスティアはベッドに腰掛けて、セットが崩れたギルデロイの前髪を横に撫で付けた。
「残念ね。あんなの、ブラッジャーがなかったらあなたが勝っていたに違いないわ」
「うぅ」
「と、言いたいところだけど」
ヘスティアはおもむろにギルデロイにデコピンした。ギルデロイは呆気に取られたように目を見開く。
「負けたのは事実よ。目も当てられない点差でレイブンクローが負けたのも事実。私ジェームズに負けたこと、怒ってたんだからね」
だからこのデコピンでチャラ、とヘスティアは微笑んだ。
「それくらい信じてたってこと。来年はアイツを目も当てられないくらい悲惨な状態にしてやるわよ。いい?ギルデロイ・ロックハート」
ヘスティアはにこりと笑ってギルデロイの肩を叩いた。ギルデロイは魅入られたようにその笑みを見つめる。
これでダンブルドアにご執心じゃなきゃ、惚れてたかもしれないな。
ギルデロイはそう思ったが、口に出さなかった。ヘスティアのおかげで随分と空気を読む力が身についたものである。
ダンブルドア豆知識その4
服のセンスがいい
ファンタビ時代ではスーツをバシッとキメていたのに対し、ハリポタ時代では緩やかなローブを着ている。それが意味するものとは何か?自分のファッションスタイルをきちんと確立しているということである。ダンブルドアの服選びの店が知りたい。言い値で買おう。