ヘスティアの灯火 作:ダンブルドア同好会会長
星空が覆い隠した、ホグワーツが黒い湖の近く。少し高い丘の上にヘスティアとギルデロイは座っていた。遠くで、湖の向こうに漕がれていく小舟の灯りがぽつぽつと見えている。隣で大号泣しているヘスティアに添えたハンカチはもう使い物にならないだろうな、と遠い目をしながら、ギルデロイはその光をただただ眺めていた。一年に一度、唯一ホグズミードから夜行汽車が出発する日。七年生がホグワーツから旅立った日でもあった。
「ポッター…兄さんの首席の位置を奪っていきやがった…許せない」
おどろおどろしい声でヘスティアは呟く。酷く悔しそうに言った言葉は、先程大広間の前でヘスティアがジェームズに噛み付いた時、アルフレッドを困らせた言葉だった。アルフレッドは優秀で、努力家だったが、ジェームズはそれを上回る程の才能を持ち合わせていた。
しかしギルデロイは知っている。この涙は悔し涙ではないことを。ギルデロイは知っている。この涙はアルフレッドの為だけに流された涙ではないということを。
ヘスティアと悪戯仕掛け人…主にジェームズとシリウス。
いままで散々魔法をぶつけ合い、罵倒しあった彼らだったが、心の底から憎み合っていたわけではなかった。勿論、後輩にちょっかいを掛けているような心持ちだったジェームズらはともかく、彼らを毛嫌いしていたあのヘスティアにも彼らの卒業を悲しむ気持ちが残っているなんて、彼女自身微塵も自覚していなかった。
卒業だからと縁があった悪戯仕掛け人やギルデロイ、リリーとアルフレッドで集合写真を撮った後、ヘスティアは急に涙を流し始めた。皆がびっくりして声も出せない中、隣にいたアルフレッドだけがすぐ気が付いたように彼女を抱き締める。アルフレッド意味深に微笑まれた笑みに周りの人間が、ははあ、涙脆いんだな。と気が付いた頃には、ジェームズやシリウスはうざったいほど満面の笑みを浮かべていた。嗚咽が止まらない彼女はアルフレッドのローブに頭を埋め、顔を見られないように泣いている。今日、いつもと比べて彼女は幾分か威勢が弱かったが、そういう事か。
「おーや、ヘスティアちゃん。俺らが卒業するのが悲しいんだ」
「バンシーみたいになられちゃかなわないねえ」
リリーやリーマスが呆れたような目で見る中、二人は生き生きとヘスティアを弄り始めた。ヘスティアもヘスティアで、またいつものように馬鹿正直に応えようと、涙に濡れた面を上げた。
「誰があなたたちに涙を流すものですか。兄さんが卒業するから悲しいの!」
ツンデレの王道の様なセリフを吐いて、行こうギルデロイ!とヘスティアは城の玄関から走り出した。ギルデロイも慌ててその後に続く。なんやかんやあそこがくっつくだろう、とタカをくくっていた一同は、これはギルデロイ尻に敷かれるな、と笑っていた。
幸せな、暖かい場所から走り出す。ヘスティアにとって、学校でこれが最後かと考えると、胸がいっぱいになってとてもじゃないがあの場所にはいられなかった。手紙送るから返事書けよ、と誰かの叫ぶ声が聞こえる。絶対送るもんか、と去勢を張って、ヘスティアは丘に逃げ込んだ。
そしてこの大号泣である。
弄ったりしてくる人間がいないからか、ヘスティアは本格的に泣き始めた。ギルデロイはタジタジである。気の利いた言葉も言わず、むしろ言わない方がいいと分かっていたため、彼はそっと彼女の背に手を添えて摩り始めた。ギルデロイにも思うところはある。数え切れないほどに。しかし、彼女があんな後輩としての顔を出すのは彼らだけだったから、余計思いが強いんだろう。
黒い湖を、無数の灯りが滑っていく。まるで星空と一体化したようだった。
向こう岸に行って、見えなくなるまで、彼らはその光を見つめていた。もうすぐで暑い夏がやってくる。ふと柔らかい風が匂った。7月のある日の出来事である。
◇◇◇◇
8月になった。日差しはひどく眩しいが、カラリとした気候が何処か涼しさも感じさせる。
イングランドの北西部にあるパトソンという小さな街で、ジェームズとリリーの結婚式が行われようとしていた。ポッター家の広い中庭で、親しい人間のみ呼んだ簡素なもの。
この情勢では命がいつまであるか分からないから、と結婚式が大幅に早まった結果だった。死喰い人に襲撃される可能性もあるので、人数も最小限に。しかしそれでも、結婚式が行われることが分かった彼らの両親は涙を流して喜んだ。
リリーの結えられた鮮やかな赤毛に差す小ぶりな花を選びながら、リリーの母親は鼻歌を歌う。マグル界で有名なブライド・ソングであったが、生憎その部屋で知っているのは娘のリリーだけだった。
花嫁の待機室では、リリーと彼女の母親、そして彼女の友人二人、そして何故か呼ばれたヘスティアが、沢山の花があしらわれたドレスを着せられていた。何故ここにあなたが?とリリーの友人たちに見られる中、ヘスティアは目を白黒させてぎこちなさそうに部屋の端に立っている。どんなに目を擦っても、ヘスティアが着せられているのは所謂“ブライズメイド”、花嫁の付き添い人のドレスだった。
ヘスティアは確かにリリーと仲が良かった。スラグ・クラブではお世話になったし、あの眼鏡を通じて雑談に興じることもままあった。ヘスティア自身も彼女を慕っていた。ホグワーツでは兄の次に1番と言うほどに。しかし、それだけである。ただの後輩だと思われていると思っていたので、ヘスティアは困惑していた。
一方リリー、彼女はヘスティアの事をとても可愛がっていた。
スラグ・クラブ云々は勿論のこと、ジェームズが色々迷惑を掛けていたので、ヘスティアには人一倍目を配っていたのだ。ホグワーツに入ってから姉が自分を嫌って疎遠になったこともあり、ヘスティアの事を心の拠り所としていた部分もある。自分にはツンデレのデレの部分を八割ぐらい見せてくれることもあって、ヘスティアはリリーにとって自分を慕ってくれる妹のような存在だった。
「リリー」
リリーの母親と友人たちがブーケを取りに行き静まり返った部屋で、ヘスティアは彼女に話し掛けた。ドレッサーの前に座っていた彼女は、笑みを浮かべて後ろを振り返ったが、ヘスティアは酷く悲しそうな顔をしていた。
「酷い顔よ」
急な悪口。リリーが驚いた顔をしてドレッサーに向き直っても、鏡の向こうには綺麗に着飾られた美しい女性がいるだけだった。チークで赤みの帯びた頬に、綺麗に結えられた髪。レースの入った純白のドレス。どこを取っても完璧だった。ジェームズが見たら失神するだろう。しかしヘスティアは悲しそうな顔だ。リリーはそこで、自分の心のうちを見透かされていることに気付いた。この式に来ていない“あの人”への、悲しみを。
「リリー、私が魔法をかけてあげる」
「私…」
「何も言わないで。私が勝手にやることだから」
ヘスティアがリリーの背後に近寄る。鏡の向こうに見えるヘスティアが杖を取り出しているのを見て、リリーは諦めて目を閉じた。
「今日が、リリーにとって最高の一日になりますように」
リリーの頬に、一筋の水が伝う。
今までの後悔を洗い流すように、薄紅色の頬をその清らかな涙は流れていた。リリーのこめかみから銀色のキラキラとした糸が抜け出した。無数に依られたその糸たちは、ヘスティアがひと吹きすると空中から消え失せた。
目を開けた時、彼女には悲しい気持ちなどすっかり無くなっていた。
式の内容が一通り終わり、立食パーティーが始まった。最早リリーたちにセットと思われているらしいギルデロイと一緒にヘスティアがケーキを食べていると、本日の主役たちが腕を組んで近付いてくる。彼女が幸せに笑いながら目尻から涙を零しているのを見て、ヘスティアは満足そうに笑った。
「やあ、ヘスティア、ギルデロイ。今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、お招きいただきありがとう」
「ジェームズもリリーも素敵だね。リリーなんて、絵本から天使が出てきたかと思ったよ!ジェームズはそのネクタイとても似合ってるね。仕方無い、今だけ世界で一番美しい男の座を譲ってあげよう!それにしても花があしらってあるドレス、やっぱり素敵だね!リリーの髪は赤色だから、パステルカラーの花は似合うと思ってたんだ!レースは細かくてまるで…」
ヘスティアはペラペラと二人(と言ってもほぼ一人に対して)に賛辞を送り続けるギルデロイの口を塞いだ。不服そうにもごもごしているギルデロイはまだ喋りたそうだ。ヘスティアは手短に済ませよう、と目で会話した。ギルデロイはこくこく頷く。
「ジェームズ、リリーを悲しませたら私たちが地獄に落としにいくから」
「首を長くして待ってるんだな」
「新居に着いたら連絡して頂戴」
「子供が産まれたら見に行くよ」
「きっと可愛い子供でしょうね」
「子供用おもちゃ調べとくから」
「じゃ、私たちがあなた達を独り占めするわけにもいかないからこれで!」
「人生最高の日を!」
二人が呆然としている間、ヘスティアとギルデロイはまるでどこかの双子のように息のあった言葉を矢継ぎ早に話すと、最後に敬礼をキメて、小躍りしながらダンススペースに走っていった。ジェームズとリリーは顔を見合せ噴き出す。
「そう言えば、アイツにジェームズって初めて呼ばれた気がする」
ジェームズは感慨深げに言った。
あの生意気な後輩はクソ眼鏡だのポッターだの言ってきていたから。
「だって私も今日からポッターだもの、見分けがつかないでしょ?」
確かにそうかもしれない。
柔らかく笑ったリリーに驚いたように目を見開くと、ジェームズは嬉しそうにキスをした。見逃さなかった周りの人達が一斉に囃し立て始める。照れたように笑う二人は、誰が見てもお似合いの夫婦だった。
◇◇◇◇
結婚式も終盤に近づいていた。シリウスとリーマスとピーターの素晴らしい魔法の余興を挟み、残すはブーケトス、ただ一つである。花嫁のお色直しの間、シリウスとヘスティア、ギルデロイはお菓子を摘んで駄弁っていた。卒業までに告白し損ねたピーターは、気不味いのかなんなのかヘスティアに一向に近付いてこようとしない。ヘスティアが段々イライラしてきているのを、今までずっと隣にいたギルデロイは冷や汗をかいて察していた。
告白するならする、諦めるなら諦めるではっきりしろ。ヘスティアがそう心の中で怒鳴っている声が聞こえてくる。重度の幻聴だった。
ヘスティアとて臆病者のヘナチョコピーターは嫌いだけれど、彼の能力には一目置いている節があった。本番に弱いらしい性格が無ければ、恐らくジェームズの次に繊細な魔法が得意なのはピーターだろう。ああ見えて立派な魔法使いであるので、怯えてこなければ会話はしてみたかったな、とヘスティアはほんの少し残念に思っていた。機会をいつまでも逃すのが彼らしいというかなんというか。怒りを通り越して呆れさえ覚える。
しかし告白を勇気出してして来やがれ、と考えるぐらいには、ヘスティアもピーターを気にかけていた。なんやかんや言って気になるのである。年頃だし。絶対OKしないけれども。
「そう言えばヘスティアのとこ、迎えには来る?」
「ポート・キー貰ってるわ」
「魔法省に申請出来たのか?」
「魔法省はうちの家の庭よ?」
何言ってんだこいつ、という目で、シリウスとヘスティアはギルデロイを見た。今回ばかりはシリウスもあっち側であった。無自覚ボンボンどもめ、とギルデロイは心の中で吐き捨てる。確実にヘスティアの悪影響を受けていた。
「フォーリー家からはヘスティアだけなの?」
「うちの家族はみんな来ないわ。仕事が忙しいから…」
「アルフレッドも?」
「ええ、うちのところはもう内定貰ってるようなものだから。早い頃からこき使われてるのよ」
「うへぇ、大変そ」
「シリウスだって結局魔法省の闇払いでしょ?今結果待ちらしいけど、あなたが受からなかったらこの代は誰も受からないわね」
「うちの親が圧力をかけて来るなら落ちるかもな〜!」
ケラケラと笑いながらシリウスは言った。16の時に既に彼は家を出ているので、完全に家族とは絶縁状態である。純血云々で家族仲が良くないことは知っていたため、ギルデロイはぎこちなく笑い、ヘスティアは有り得る、と口を挟んだ。魔法省は純血貴族の庭と言っても過言では無い。機嫌ひとつで簡単に手入れが出来てしまうのである。そこが魔法省の腐ったところ。
因みにヘスティアの家族は、あえてこの場に来ていなかったりする。こんなダンブルドア派が多く出席したところに出たら、何を考えられるか分かったものでは無いので。ヘスティアが出席するのにも色々訳があるのだが、今は割愛しよう。
なんだか軽快な調子で重苦しい話をしている中、ギルデロイはヘスティアの髪についた見覚えのない髪飾りに気が付いた。ハーフアップ用のバレッタとでも言えばいいのか。蝶があしらわれており、青色の石が付いている。
「ああ、リリーに貰ったの。今日は何から何まで貰いっぱなしだわ。子供が産まれたらうんと返さないと」
ヘスティアは髪を弄りながら言った。彼女の肩で切りそろえられた髪に、その飾りはよく似合っていた。
「お嬢さん方、集まって〜!!!」
リリーの母親の声が聞こえた。行ってこい、とシリウスがヘスティアの背中を押すと、そのままギルデロイに生暖かい眼差しを向ける。完全に誤解されている。ギルデロイは悟った。
リリーは二階のベランダからブーケトスを行うようだった。リリーはヘスティアのほうに投げようかな、と一瞬迷ったが、ギルデロイという相手がいるので無しになった。むしろどんな運があっても恋が成就する可能性が一番低いのが彼女だろう。叶わなすぎる恋をしている彼女だったが、彼女の想い人を知っている人間は数少なかった。
結局ブーケはリリーの友達の手に渡った。落胆しながらヘスティアはギルデロイ達の元に帰ってくる。ヘスティアの考えていたことが分かったらしく、いつになったら諦めるんだ、とギルデロイは呆れたような顔をして彼女を迎え入れた。事情を知らない人から見たら完全に恋人同士、それにお節介を焼きたくなるのがシリウスである。
「なに、遂にお前ら付き合う事にしたの?」
「は?なんでこんなのと」
「これでも女性の趣味は良いつもりなんだけどね」
「そういうのいいから。経緯教えろよ」
シリウスの言葉に二人は顔を合わせる。
ヘスティアとギルデロイは無二の仲良しであるが、コイツはナイ、とお互い恋人としての相手を下に見ていた。勿論年頃だから、相手と付き合ったらとかそういうことを考えなかった訳では無い。考えた結果こうなったのだ。
恋人になることを考えた時に、ヘスティアはどうしようもないダンブルドア信者にして独善的、ギルデロイは勢いあまりすぎるナルシストにして虚言癖持ち。余っ程懐の深い人間でない限り、彼らの相手をするのは無理である。つまるところ二人は恋愛にことごとく向いていないのであった。
「私たちのキスするところ想像出来るわけ?」
「ぅぷ」
「ギルデロイは嘔吐かないで」
「ホントに無理なんだなお前ら、付き合えれば良かったんだけどな。このままじゃ引き取り手なしだぜ」
「「シリウスに言われたくない」」
「俺はもう取っかえ引っ変えだから。お前らと違って」
「イケメン貴族のドラ息子野郎ぶっ殺してやる」
「ナメクジ喰ら…」
「やめろよ」
スっと無表情で杖を掲げたヘスティアに、焦ったようにシリウスは手で制止した。ヘスティアに影響されたのかなんなのか最近お口が悪くなっているギルデロイは虚ろな眼差しでシリウスを見ていた。
「私、もう既に好きな人いますし。別に」
売り言葉に買い言葉のようにヘスティアが言う。
その時だった。ヘスティアたちには偶然、そっと式場から離れていくピーターが視界に入る。急に無言になった三人は、背を向けて庭から出ていこうとするピーターに目線を向けた。
あ、これ俺やったな。シリウスは何となく察した。
一方ヘスティアとギルデロイも察した。これ今日告白するつもりだったんじゃ?と。
ピーターと今まで談笑していたらしいリーマスにも目を向ける。
彼は座り込んで、今までに見た事ないぐらい落ち込みながら顔を覆っていた。
あ、これ私たちやったわ。三人は確信した。
おい、お前行ってこいよ。嫌よ、なんで行かなきゃならないの。
シリウスとギルデロイVSヘスティアの無言の口論が始まった。
結局ピーターが建物の角を曲がって見えなくなるまでそれは続き、姿が見えなくなった瞬間、三人は口を開いた。リーマスも小走りで近寄ってくる。
「なんで私が気を使わなきゃならないのよ。あっちが告白してくるのが道理でしょ!?」
「頼むよヘスティア。彼は今日ずっと緊張してたんだ。食べ物だってろくに喉を通らないくらいに」
「そうだよヘスティア、君の圧が強すぎたんだ」
「そんな私を好きになったピーターは一体何なのよ!」
「ティア、せめて聞いてやるだけでも…」
「い、や!!!絶対いや!!!!」
あんな奴に期待なんてした私が馬鹿だったわ、もう少し勇気があると思ってたのに。と告白される分際でありながらヘスティアが零す。お前どうせ突っぱねるだろとは誰も言わなかった。言ったら彼女は絶対ピーターの元に行かなくなる。
「じゃあジャンケンだ。良いよね?」
ギルデロイが不意に言った。ギルデロイとヘスティアは、意見が食い違った時ジャンケンをして解決することが多々ある。これは所謂“絶対”なので、ヘスティアも渋々それに頷いた。
しかして、結果はヘスティアの勝ち。何やってんだとギルデロイはシリウスに足を蹴られた。チョキを出したまま固まるヘスティアを見たギルデロイは、ははあと勘づいた。
「負けてしまったものは仕方ない…行こう、シリウス、リーマス」
「いや、俺はまだこいつを説得するぞ…いいか、」
「シ、リ、ウ、ス。行こう」
半ば引き摺られるようにして遠くに連れていかれた彼らは、勝手なことをするギルデロイをなじった。
「なに早めに諦めてんだよ!お前やっぱりティアの事好きだろ!」
「酷い侮辱だね、まあ見てなって」
5、4、3とギルデロイがカウントダウンしていく。
視線の先にいたヘスティアは視線を忙しなく動かしたあと、ギルデロイが1、と言った瞬間、持っていたグラスのジュースを煽って空の容器をテーブルに置き、走ってピーターのあとを追いかけ始めた。
「…お前なんか呪いかけたの?」
「いや、ヘスティアはああ見えて意地っ張りだから、僕たちが居なくなれば追いかけるかなと思って」
シリウスはギョッとした顔でギルデロイを振り返る。ギルデロイはなんともないような顔をしていた。伊達に四年間毎日顔を合わせていないものである。彼らは開心術いらずの仲だった。
◇◇◇◇
さて、場面は変わってツンデレ女王ヘスティア。すっかり姿を見失ってしまったピーターを探すこと10分、なんで私がこんな苦労せねばならんのだと虚無になりかけていた時、ヘスティアは遂にピーターを見つけた。ポッター家のお隣のお爺さんが所有するの葡萄畑の一角、隅の方でピーターは地面の上に座りこんでいた。ゼェゼェと息を吐くヘスティアを見たピーターは驚いたように目を見開いた。
「なんでこんな遠くにいるのよ!」
半ば言葉を投げつけるようにヘスティアが言った。いや、なんでと言われましても、とピーターは呆然とヘスティアを見ていた。ヘスティアは手を膝から離し、ビシ、と人差し指をピーターに向けた。
「告白、するなら今しかないわよ」
「え…」
「つまらないものを待てるほど私もヒマじゃないの。情熱的に言って頂戴」
真っ赤になって口をぱくぱくするピーターを見て、ヘスティアはカウントし始めた。10…いや、20秒経ったら何も聞かず帰ろう。来ただけ無駄だったと私が思い直さないうちに告白してきなさい、とヘスティアは横柄な態度で仁王立ちしていた。
「あ、あの、ヘスティア」
「なに」
「君はもう勘づいているとは思うけど、僕は…」
情熱的な台詞って何だろうか。男として危機的状況に陥ったピーターの頭の中には走馬灯が駆け巡った。
ヘスティアの要求が更にピーターを困惑させていると見えて、彼女は呆れたようにため息を吐いた。こんなこと、言わなきゃ良かったかしら。ヘスティアは猪突猛進で少々言葉を選ばない節があるので、自分の言動を省みて落ち込むということがよくあった。案外傷つきやすい性格であることは彼女をよく知る人物なら知っていたこと。つまり、彼女を誰よりも好きだという確信があるピーターも気が付いているということであって。
ピーターは丸め込んだ背中を伸ばし、震える鳥肌を押さえ付けて、おもむろに立ち上がった。体格のいい彼はヘスティアより一回り二回り大きい。ヘスティアはぐんと高くなった彼の顔を見上げた。
「僕、ヘスティアのことが好きだよ」
「…そうね」
「ヘスティアが同じ気持ちを持ってくれているなんて事、無いことは僕にも分かってる。僕が君に見合う男じゃないってことも」
また卑屈になり始めやがった、とヘスティアが口を開きかけるも、すぐに閉じる。ここで私が軽々しく否定の言葉をかけてしまったら、彼の気持ちはどうなる?
ピーターの顔は、今まで彼女が見てきた中で一番真剣だった。
「だから、僕、頑張るよ。ヘスティアに見合う素晴らしい人間になれるように、今からじゃ遅いかもしれないけど」
「ピーター、あなた私を買い被りすぎよ」
「いや、いや。君こそ自分を低く見すぎだ」
首をぶんぶん振るピーターに、ヘスティアは首を竦めて応えた。このまま言い合いしていても堂々巡りだろう。ヘスティアの艶やかな黒髪の間から覗く耳が仄かに赤く染っているのに、ピーターは気が付いていた。
「だから、僕はまだ君に告白しない。堂々と君の前に立てるまで、君のことを好きでいていいかな」
「ええ、勿論」
ただし早くしないと私は売れちゃうわよ?とヘスティアは微笑んだ。
実際そんなことは無いのだが。ピーターは表情を固くして頷く。大丈夫、叶わぬ恋だから。
帰りましょうか、とヘスティアは呟いた。この気まずい空気から早く抜け出したかったのである。不思議と今までと違って、ピーターと一緒にいることにあまり抵抗を感じ無くなっていたが、こんな話の終わりにぎこちなくならないという方が無理だろう。
「ヘスティア、一緒に帰ろう」
ピーターは少々音量を間違えた大声でヘスティアの背中に声を掛けた。ヘスティアが振り向くと、ピーターの大きな手が差し出されている。
「エスコートしてくれるの?」
ヘスティアが悪戯っぽい笑顔を向けた。無駄に美人なので似合っている。今までロクな笑顔を向けられたことのなかったピーターの血管は今にも破裂しそうだ。
「え、あ、」
「してくれるの?」
「はい」
「よろしい、きちんと案内して頂戴」
ヘスティアのほっそりとした柔らかな手がピーターの肘を掠め、腕が組まれた。ピーターの心臓はバックバクである。恋愛経験ゼロの彼には荷が重過ぎた。
二人は揃って結婚式場に帰って行った。
腕を組んで微笑みを浮かべてエスコートされるヘスティアにシリウスら大半の男子は顎を外し、リリーたち女子はキャア、と黄色い声をあげて口に手を当てる。その場の注目はほぼ二人に集まっていたと言っても過言では無かったが、不思議とピーターは恥ずかしくなかった。
猫背気味の背が伸ばされ、体格の良さが顕になった彼に親友たちが跳ねながら近付いていく。誰も彼も満面の笑みを浮かべていた。告白は延期にしてアプローチを頑張ることにした、とピーターが言っても場が盛り下がることはなく、寧ろ盛り上がりを極めていく。シリウスはピーターと肩を組み頭をわしゃわしゃと掻き回していたし、ジェームズはありったけの酒を運んできていた。恐らく酒で潰して色々聞き出すつもりだろう。
その時、ピーターは誰よりも誇りを持っていた。
幼い頃から憧れていた級友たちと肩を並べ、恋焦がれた女の子を隣に抱え。
勇気が無かった自分が、初めてグリフィンドール生として認められた気がした。
隣を見ると、ヘスティアが笑っている。
普段の微笑みではなく、口を開けた笑い方だった。八重歯がちらりと唇の下から見える。
その笑顔を見た時、ピーター・ぺティグリューの中で何かが変わった気がした。
ダンブルドア豆知識その6
リドルとグリンデルバルドを相手取るハイスペックさ
何気に知らない人が多いと思うのですが、ダンブルドアがグリンデルバルドを破った1945年、リドルはホグワーツ教職員の件を断られているんですよね。闇の二大巨頭を相手にしていたダンブルドア、そこにシビれる憧れるゥ!
余っ程のハリポタジャンキーで無い限り、ハリポタの年表なんて見ないと思うので言ってみました。元恋人のヒ○ラー似ソシオパスと闇の芽が急成長している青年をいっぺんに面倒見るとか、ダンブルドアの胃が心配です。