ヘスティアの灯火   作:ダンブルドア同好会会長

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第七話 少女は強さを所望す

ガタガタと揺れる汽車の上で、ヘスティアとギルデロイは言葉もなく微睡んでいた。時折虹色のマシュマロやかぼちゃパイを啄みながら、外の景色を見ている。4回目の夏、彼女たちも四年生になった。

 

「ヘスティアって結局今回も行かなかったんだね」

 

ギルデロイがまったりとした口調で喋りかける。彼の言葉には目的語が欠けていたが、生憎ヘスティアはそれを察することが出来るほど気が知れていた。

まあ、面倒臭いし、とヘスティアが呟くその言葉は柔らかい。

スラグ・クラブに入ってもう3年目になるヘスティアだったが、行きのホグワーツ特急で開催される昼食会と、スラグホーンのオフィスで開催されるクリスマスパーティだけはどんなに誘われても首を縦に振らなかった。

 

幼いながらも魔法薬学の分野に才があり、それに(これが一番重要と言っても過言では無いが)生粋の魔法省キャリア家庭。曾祖伯父は元イギリス魔法大臣、曽祖父は対グリンデルバルド戦の英雄、祖父はウィゼンガモットの裁判官で父親は魔法法執行部の次長に昇進し、兄は魔法法執行部隊の新星。そんな眩しすぎるヘスティアが重要な食事会に出席しないことをスラグホーンは常々残念がっていたが、魔法薬学に光るものなしのギルデロイが誘われていないので仕方ない。ヘスティアはスラグ・クラブよりもギルデロイを優先した。それがギルデロイはどうしようもなく誇らしかった。

 

しかし、いくら魔法薬学が苦手だからといって、ギルデロイは優秀だ。苦手であるそれも平均レベルには習熟出来ているし、彼の得意とする呪文学についてはこの学年では完全に敵無しである。その縁もあってレイブンクロー寮監のフリットウィック先生には目をかけられているし。ヘスティアとも無二の親友レベルで仲がいいし。優良物件をフリットウィックにかっさらわれる前にスラグ・クラブに入れるだろう、とヘスティアは読んでいた。

ヘスティアが異常なだけで他は五年生より上が多いし、監督生に選ばれる来年辺りだろう。

 

そんなこんなで揺られること一時間。

時折彼女らのいるコンパートメントをチラチラ見て通り過ぎていく人達にうんざりし始めた頃、ヘスティアは透明なガラス部分に杖を向け、強い曇りの呪文を掛けた。若干ギルデロイが残念そうにするのが憎たらしい。注目されたいという意識だけは立派なのである。

恐らく年齢的に新入生あたりなのか、きゃあきゃあ言いながら通り過ぎて言ったり、コソコソ会話しながら通り過ぎていったり。

 

無駄に顔がいい学年一の秀才で純血貴族・ヘスティアと、クィディッチのシーカーで絶世の美丈夫ギルデロイ。設定盛りすぎだとツッコまれそうな二人は、中身が残念なことを知らない下級生に随分と人気だった。新入生は新しい学校生活に夢膨らませ、彼らのようになるのだと憧れを抱く。頬杖をついて憂い気に外を眺める彼らは、まるで1枚の絵画のようだった。

 

「ヘスティア、なんで隠そうとするのさ。私たちには何も隠すことなどないというのに…」

「キッショ」

 

瞼を閉じて無駄にキメ顔のギルデロイが朗々と言った。幸せそうなリリーとジェームズを見て触発されたのか、シリウスに引き取り手が無いと言われ焦っているのか、今年はガールフレンドを作ると息巻いているギルデロイは一味違う。これまで散々彼への食べきれない量の贈り物を横流しにされ、無駄に惚れ薬への耐性がついたヘスティアは、今年はついに魅惑万能薬が来るのでは無いだろうかと戦々恐々としていた。

 

◇◇◇◇

 

来たる12月。ヘスティアはホグズミードのゾンコでお菓子を見ていた。今日は稀なホグズミードへ外出出来る日だったが、ギルデロイが今年度できた四人目の彼女と遊びに行ってしまったため、ヘスティアは仕方なく一人で回ることにしたのだ。まあゆっくりショッピング出来るので良いだろう、早めに切り上げてプスと遊ぼう。ヘスティアはそう考える。胸元まで伸びてきていた髪を弄りながら、彼女は青のマフラーに顔を埋めた。

 

そんなヘスティアを周りにいる生徒たちはチラチラと見ていた。昨年度の卒業式で涙を流すヘスティアを目撃した男子生徒の中には脳をやられた者が数多く居たようで、モテている度合いでいえば彼女はギルデロイと肩を並べ始めていた。ヘスティアからすれば余計なお世話である。ただでさえダンブルドアへのアプローチが大変だと言うのに。

 

「やあ、ヘスティア」

「あら、レギュラス、久しぶり」

 

後ろから上級生の集団がやって来たと思ったら、その中心には件のバカ息子の弟、レギュラス・ブラックが居た。スラグ・クラブで交流のあったことは勿論、シリウスが散々迷惑を掛けているから、とレギュラスが菓子折り持って謝りに来たことがあったの事もあり、割とレギュラスの好感度が高かったヘスティアは笑顔で挨拶した。しかしその笑顔も直ぐに消えうせる。メンツがどうしようもなく悪かったからだ。

レギュラスが引連れていたのはスリザリンの連中、その中でも特に闇の帝王(笑)にお熱な人達のようだった。周りの生徒たちが少しザワつく。対して話すことも無いくせに、無言でヘスティアの前に佇むレギュラスは微笑みを浮かべる。ヘスティアも負けじと微笑んだ。相手は五人、分が悪すぎる。

 

「場所を移動しようか」

 

レギュラスが朗らかに言った。しかし声は酷く冷たい。ヘスティアは気が付かれないように唾を飲み込んだ。

 

「嫌よ。人を待ってるの」

「誰を?」

「誰でもいいでしょ?レディの待ち人を聞くなんてナンセンスだと教わらなかった?」

「お生憎様。女性に精通している兄とは違ってね」

 

痺れを切らしたかのか、無理やり手を引っ張ろうとしてくるレギュラスの取り巻きの一人の手を、ヘスティアは叩いた。途端に空気が氷点下まで下がる。レギュラスの笑っていない目を見つめて、ヘスティアは本気であることを察した。

多分、ここで無理やり逃げることも出来る。しかし後々よろしくないことになるのは明白だろう。魔法省で働いている家族のこともある。ヘスティアは深い深いため息をはいた。

 

「分かったわ。ただし、何も危害を加えないこと」

「危害を加える?可愛い後輩にそんな事しないよ」

「私に指一本でも触れてみなさい」

 

ヘスティアは、先程腕を掴もうとしてきた男を一瞥した。

 

「ただじゃ済まないわよ」

 

その時だった。

先程手を掴もうとした男の鼻がボコボコと沸騰したように肌が隆起したと思えば、どんどん大きくなっていった。周りにいた男たちが驚いたように飛び退く。見る見るうちにその鼻は顔には収まらなくなり、テングザルのように腫れ上がったところで、ようやくその成長は終わった。男は絶句して声も出ないらしいらしく、ヘスティアの目を見て怯えたようにゾンコから飛び出して行った。

 

カランカラン、とドアベルが揺れる音だけが取り残された店内では、最早喋る人間はいなかった。皆しんとして話の行先を見守っている。身を守れない弱い者は身動ぎもしなかった。喩えではなく、本当に何かが崩れればここで魔法の撃ち合いが始まる気がしたのだ。

一方レギュラスは落ち着いていた。まるで予期していたように。

先程ヘスティアが後ろ手であの男に巨大鼻の呪いを掛けたのを見ていたのかもしれない。

 

「やっぱりヘスティアは魔法の腕がいいね」

「お褒めに預かり光栄ね」

 

低い声でゆっくりとレギュラスは言った。ヘスティアも応える。

それじゃあ行こうか、と彼はなんともないように言った。ヘスティアは逃げようとしなかった。ただ、これからどう立ち回ろうかと脳を急速に回転させていた。

ドアベルが鳴る。彼らの一番後ろで歩くヘスティアがドアを閉めた音だった。その瞬間、店の中は途端に騒がしくなった。

 

ヘスティア・フォーリーが危ない。

 

生徒たちもまた、突然のことにアドレナリンが出て、収拾がつかないようだった。

 

 

 

「ここら辺でいいかな」

 

ゾンコから遠く離れた森の近く。薄気味が悪いびちゃびちゃとした雪が敷かれ、向こうの方に叫びの屋敷が見えるデートには絶好のスポットで、ヘスティアとレギュラスらは対峙していた。

 

「で、何の用よ」

 

杖を構えていつでも撃てるようにしたヘスティアが吐き捨てるように言った。こいつらを学生だと見くびってはならない、未来の死喰い人達なのだから。ヘスティアの脳はそう警笛を鳴らす。

 

「おい、立場を弁えろ」

 

睨みつけるヘスティアに苛立ちが抑えられないのか、一人の男が言った。ヘスティアはその人物に目を細める。

 

「バーテミウス・クラウチ・ジュニア…そういえば貴方もスリザリンだったわね。レイブンクローのお父様と違って」

「白々しいことを言うな。闇の帝王側の人間の名前を全員覚えてる癖に」

「あら、バレてた?」

「小賢しいことを」

「処世術と言って欲しいわ」

 

にっこりと微笑むヘスティアは、恐怖をおくびにも出さず言った。ただ杖を向ける方向が変わったことは言うまでも無い。これまたクラウチJrもスラグ・クラブのメンバーなので、キレやすいことは重々承知であった。スラグホーンは死喰い人の子供はクラブに入れないらしいけれど、もっと考えた方がいいわね。ヘスティアは眉をしかめた。

 

「僕たちの言いたいことは分かってるんじゃないかな?」

「まったく検討もつかないわね」

「そうかい?君のお父様とかにも話はいっているはずだけど」

 

ヘスティアは一瞬息をとめた。しかし直ぐに思い直す。話が来ていたら、私に教えられるはず。

 

「話?」

「聞いてないのかい?本当に甘やかされているんだね」

 

レギュラスは嘲るように笑った。

 

「闇の帝王はフォーリー家に、決断をご所望だよ。どちらにつくのか、痺れを切らしておられる」

「少し我慢が足りないんじゃないかしら?」

「冗談じゃないんだよ、ヘスティア。我が君は…」

「“我が君”?」

 

ヘスティアは愕然としたように呟いた。しまった、と言うふうにレギュラスは初めて焦った顔を見せる。バーティ始め、取り巻きたちは意気揚々と、まるで自分の権力を見せびらかすように左腕の服を捲った。そこにあるのは闇の印。蛇が黒々ととぐろを巻いた、髑髏が彫られている。レギュラスが腕をまくろうとしなくても、そこに同じマークがあるだろうということはヘスティアにも明白だった。

 

「死喰い人なのね」

「そうだ。もう死喰い人の子供じゃない、“死喰い人”なんだ!」

 

誇らしげに取り巻きが言った。ヘスティアは理解出来ないという風に呆然としていた。

 

「あなた達、自分が何をしたか分かっているの?もう守られることは無いのよ、自分の行動に責任を持たなくてはならなくなる」

「そんなの分かってるよ、ヘスティア」

「軽々しくファーストネームで呼ばないで頂戴」

 

侮蔑するような眼差しで、ヘスティアは彼らを見回す。どいつもこいつも顔に自信と、誇りが浮かんでいた。救いようがない。ヘスティアは初めてホグワーツ生に本気で失望した気がした。

 

「純血だからって調子に乗るなよ?先月プルウェット家の人間が殺されたこと、知ってるだろ」

「なるほど、脅しを掛けてるわけね」

 

ヘスティアは鼻で笑った。

 

「じゃあ、この際言ってあげる。“私”はそちらには付かないわ」

「…本当にいいんだな?」

「ええ、勿論。あなた達の態度で気が変わったとあなた達のご主人様に伝えて頂戴」

 

フォーリー家の人間を囲み損ねたとなったら、大目玉でしょうね、とヘスティアはせせら笑った。レギュラスは静かな目で彼女を見る。そして口を開いた。

 

「君のお父様達は、こちらに付く動きを見せているけど、それも嘘なのかな?」

「それは分からないわ。だって私はなんにも知らされていなかったんですもの」

 

でも、とヘスティアは続ける。

 

「もし彼らがそちら側につくとなれば、絶縁するわ」

 

淡々とした口調だった。

 

「私、それくらいの覚悟があるの。あなた達のお粗末な脅しには屈しない。お分かり?」

 

レギュラスは何も言わないことをいい事に、取り巻きのひとりが一歩前に出た。ヘスティアがそちらに杖を向ける。

 

「よーーーく分かったよ、このクソアマ!」

 

大きな動きで、杖が出される。その瞬間、ヘスティアの右手は恐ろしい速度で空を切り、赤い閃光を発した。男は白目を剥いて倒れる。彼の魔法は不発に終わった様だった。

 

「ごめんなさい、先制攻撃は私の杖の十八番なの」

 

ヘスティアはレギュラスに向き直る。これが彼に会う最後であることを願って。

 

「あなたの素晴らしいお兄様に散々鍛えられたから、簡単には倒れないわ。彼の愚行は蚊に刺されたとでも思って見逃してあげる。でも、1回だけよ」

 

レギュラスとヘスティアは睨み合った。

遠くの方からある人物が大急ぎで走ってきているのを視界に止めて、ヘスティアは杖を仕舞う。レギュラスも後ろを向くと、マクゴナガルの姿をみとめた。

 

「あなた達、これは…何をしていたのです」

 

マクゴナガルは言葉も出ない、と言う風にヘスティアを見た。

先程のゾンコで時間稼ぎをした時、床に『マクゴナガルを呼べ』と焼き付けておいたのだ。勘づいてくれて良かった、とヘスティアはため息を吐いた。

 

「いえ、何も」

「何もということは無いでしょう、ミスター・ブラック!現にミスター・パーキンソンは倒れています!」

「先生、僕たち、少しお話をしていたんですが、彼、貧血で倒れてしまって」

「そんなこと信じられるとでも…」

「マクゴナガル先生、本当なんです」

 

ヘスティアがここで初めて口を挟んだ。マクゴナガルがびっくりとした顔をする。助けに来たと思ったら、ヘスティアが彼らの肩を持つのだから。

 

「まさか三年下の後輩に気絶されられる訳ないでしょうし…」

 

ヘスティアは眉を下げて言う。

どの口が言ってやがる、とレギュラス達は思ったが、口には出せなかった。

 

「でしょう、レギュラス?」

「そうだね」

 

口角を申し訳程度に上げて、レギュラスは言った。

 

「では、あなた達は行きなさい。…あなたはミスター・パーキンソンを医務室に連れて行って」

 

マクゴナガルがレギュラスら四人をこの場から追い出した。若干疲れの見える声色は勘違いではないだろう。ヘスティアは少しマクゴナガルに申し訳なく思った。

 

「ミス・フォーリー、どうしてあんな事になったのです。何を吹き込まれたのです」

 

彼らの姿が見えなくなるまで遠ざかった後、マクゴナガルは口を開いた。吹き込まれた前提で話が進んでいる事に苦笑しながら、ヘスティアは近くの切り株に腰掛ける。眉間を揉みながら、顔を疲れで滲ませていた。

 

「吹き込まれてはいませんが、少しね」

「どちらの陣営につくかと聞かれたのですか」

「察しが良くて助かります」

 

マクゴナガルはその質問の答えを聞こうとしなかった。聞けなかったとも言う。

ヘスティアは足を組んだ。冷たい息は空気中で白くなり、消えていく。彼女の目は酷く悲しそうだった。

 

「これから、ホグワーツには嵐が来ますよ」

「彼らが何か起こすと?」

「いえ、寧ろ闇の帝王側、ダンブルドア側どちらもやらかす感じで」

 

ヘスティアは暗い顔でそう言った。マクゴナガルも彼女の言わんとしていることが何となく分かった気がした。

 

「ボクシングでも始めましょうか…」

「ボクシング?」

「マグルの格闘技らしいですよ。ギルデロイが言ってました」

 

私はもっと強くなりたい。マクゴナガルはヘスティアのそんな意思を感じ取った。そして同時に、彼女とレギュラスがどんな事を話していたのか、大体検討をつけていた。

マクゴナガルとヘスティアは、降り始めた雪を見ている。まっすぐと刺すように降る柔らかな雪は酷く冷たい。これから起こるであろう事態に、マクゴナガルは深く思いを馳せた。




ダンブルドア豆知識その7
変幻自在なお髭
ジュード・ロウ版では短く切り揃えられていたのに対し、リチャード・ハリス版の時には長くたわわな白髭になっています。完全にギャップ萌えを狙っていますね。憎たらしいほど愛おしいです。
映画版ではリドルの学生時代の描写でも白髭ですし(勿論その時にはファンタビの事なんて考えられていないということも知っていますが)、頑張って伸ばしたんですね。
ほら、あなたはだんだんダンブルドアが愛おしくなる…愛おしくなる…
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