ヘスティアの灯火 作:ダンブルドア同好会会長
『冬休みにはダンスパーティーが開かれますが、それに際して立候補したペアのみでのコンペティションを設けたいと思っています。事前に選抜をし、勝ち上がった十組が当日争うことが出来ます。優勝チームのペアの寮にはそれぞれ20点ずつ差し上げます。希望の方はマクゴナガルの元まで』
そんな文言が大広間前の掲示板に貼られたのはついさっき、今朝のことだ。
朝の大広間が大騒ぎしている中、ヘスティアとギルデロイは分厚い何かの本を読みながら、大量のピラフを口に流し込んでいた。二人の間に漂うのは無言、張り詰めた静寂のみである。
『ギルデロイ、あなたなんとかしなさいよ』
『嫌だね。僕もほとほと疲れ果てているんだ』
『レディのご機嫌とりは慣れたものでしょ』
『あの子はいささか積極的すぎる』
そうチラチラと目で会話しながら。ヘスティアがちらりと見る視線の先には件の勝者、ミラベル・トッド。ギルデロイがペアを組んでいるスリザリンの女子である。長テーブルをふたつ挟んだ場所にいるにも関わらず、愛の熱視線がバッチバチに感じられる。彼女は目をハートにしてギルデロイを見ながら、おぼつかない手つきで口元に運んでいるピラフをスプーンからぼとぼと落としていた。彼女もかなり名家の出なので、周りの人間は何が彼女をそうさせてるんだとびっくりしながらその有様を見ていた。愛じゃよ、愛。
「きっとあの子は今日僕をマクゴナガル先生の元まで引っ張り出すんだ」
ギルデロイがボソリとごちた。
前々から話を聞いているヘスティアが思うに、ギルデロイはダンスの経験が皆無なばかりか、そちら方面のセンスもないらしい。リズムに合わせるのがどうしても苦手なようで、自分の苦手な事や恥をかく事を極力したくないギルデロイは、彼を公衆の面前で見せびらかしたいミラベルに生気を奪われているようだった。
あらまあ、お可哀想に。
そうヘスティアは内心ニヤニヤしながら心にも無いことを言った。
こんなにしおらしくしているギルデロイなんて滅多に見れるものじゃない。今のうちに傷に揉みこめるだけの大量の塩を吐き出しておこうという魂胆である。再三言うが、彼女はレイブンクロー生である。
大広間の天井近く、数多くの長開きの窓が一斉に開いた。朝日が大広間に直に入ってきて生徒たちは目を細める。日曜日であることも相まって、生徒たちの魂は半分抜けているようだ。
太陽を背に、梟たちが滑空してくる。皆一様に主の家族の生きている証を携えて飛んでくる。
その中に自分の梟が居ないか、生徒たちは生徒たちは目を凝らして、時に手を挙げて知らせながら必死に探していた。
ヘスティアの梟もまたやって来た。つい、と滑らかに空を切って彼女の腕に着地する。一つの薄っぺらい手紙が括り付けられた大きな箱を持っていたらしく、ヘスティアがそれを受け取るとすぐに飛んでいってしまった。重い荷物を長い距離持たせられたことに腹を立てているらしかった。
「なに、それ」
ピラフを食べ終わりパニーニを口に詰め込み始めたギルデロイが聞いた。こんなんだからニョキニョキ身長が伸びるんじゃタケノコ野郎、とヘスティアは一瞥し、手紙に目を落とす。差出人はウィリアム・フォーリー。親愛なる父上であった。
大きな箱は少しひらべったく、長方形。若干中身が分かったヘスティアが手紙を開くと、
『怖い思いさせてごめーん!マルフォイさんちの坊ちゃんとやり合ったんだけど、取り敢えず魔法省側にバレないように書類改竄する、という方針で決まりました。私たちは今から汚職役人でーす笑
まあ大丈夫だとは思うけど、一応死なないでね。父さんたちは死ぬとなったら何人か道連れにするから安心してね。あと、箱にはドレスを入れておいたからね。あ、これ読んだら燃やしてね!じゃ!冬休み帰ってくんなよ!』
という事が大体書いてあった(意訳)
ヘスティアは頭を抱えながら、手に持っていた手紙を無言呪文で燃やしていく。ギルデロイはギョッとした顔でそれを見ていた。
うちの家族はなんでこう外面はいいのに中身は残念なんだろう。人の振り見て我が振り直せが出来ないヘスティアはため息をついた。子煩悩の両親、色々とネジが外れているヘスティア。歴史ある純血フォーリー家の良心はアルフレッドお兄様だけである。
「どうやらこの中にはドレスが入ってるらしいわ」
「ああ、そういえば僕も届いたよ、昨日。つい最近やっと姉さんたちが独り立ちしたからお金に余裕があったらしくってね。随分質が良かった」
「貴方のそのゴミクズの思想、もう少し直した方がいいわよ」
「君のその口の悪さもね。レディとは思えない」
超合金で作られたハートと彼の学ばない精神を熟知したヘスティアは、友人に向けたとは思えない言葉をギルデロイに豪速球で投げた。ギルデロイもまた打ち返した。
「君、この後レギュラス・ブラックとダンスの練習するんだって?」
「そうね」
「マンツーマン?」
「勿論」
「なにかされない?」
「何もされないわ。彼、意外と意気地無しだもの」
それに、多分私を勧誘する理由もなくなったろうし。ヘスティアは肩を竦めた。ダンブルドア派だと思われていた娘を揺さぶってフォーリー家全体を陥落させようとしていたに違いないけれど、両親たちが仲間になったのだったら最早私は用済みだろう。割とヘスティアは楽観視していた。実際そうなのだが。
「なんか、いい場所が見つかったらしくって。連れて行ってもらうの」
「極めて心配だな。着いていこうか?」
「ミラベルと一緒にいたくないだけでしょ」
ミラベルも別に容姿は可愛いのだ。胸元までウェーブする金髪、少し甘ったるいタレ目。なんだ、女版ギルデロイみたいじゃないか。実際はギルデロイの方が何倍も顔はいいんだけれど。
ご飯を食べ終わったヘスティアは、大きな箱を空に浮かせ、その上に読んでいた分厚い本をのっけた。手にはこれから履くであろうダンス用のヒールがぶら下げられている。ヘスティアがミラベルの方に口角を上げて手を振り、ここが空きますよと指で示すと、彼女は笑顔でこっちに来ようと移動し始めた。ギルデロイはミラベルに見えない角度で項垂れる。
「精々頑張るのね」
「生きていたらまた会おう」
「お元気で、友よ」
ヘスティアはひらひらと手を振って歩き始めた。と思ったら、数歩歩いたところでピタリと立ち止まった。
顔を振り向かせて、最近プレイボーイ気取って遊びまくっていた罰だざまあみやがれという綺麗な笑顔でヘスティアはガッツポーズをした。綺麗なガッツポーズだった。
ギルデロイは彼女の事が少し嫌いになった気がした。
◇◇◇◇
ヘスティアは、目の前で廊下を右往左往するレギュラスに疑念の眼差しを向けていた。
「場所が見つかってなかったんならいいわよ」
「いや、待て、もう少しで出てくるはずなんだ…」
「部屋なんて何処にもありませんが?」
呆れながら彼女はため息をつく。ここの廊下までの道のりが長く、だいぶ階段を登らせられたためヘスティアはブーツを履いた足を揉んで解す。レギュラスは顎に手を当てながら焦った様子で廊下を行ったり来たりしていた。
「ホグワーツには隠し部屋があるんだよ。“必要の部屋”…なるべく君には教えたくなかったんだけどな」
レギュラスがきっかり3回廊下を往復すると、壁に扉が現れ始めた。ヘスティアが立ち上がって駆け寄る頃には、すっかり立派な入口になっている。
「ほんとにあったのね…ホグワーツ、ビックリ箱みたいなところだとは思っていたけど」
どうぞ、と促されてヘスティアは中を覗き込んだ。
ボールルームのような内装になっており、少し段になった床の上には蓄音機とグランドピアノがぽつんと置かれている。アッパークラスの二人はちゃんと質の高い内装に満足したように深く息を吐くと、部屋の中に入って行った。
「手始めに有名なものから踊る?」
「そうだね、君の力量が知りたい」
ヘスティアはダンス用のヒールに履き替え、ローブを脱いだ。レギュラスもローブを脱ぎ、腕まくりをしながら近付く。レギュラスが杖を振り、蓄音機からは馴染みのあるクラシックが流れ始めた。二人はお互いの前に吸い込まれるように立って、両手を合わせる。
ゆったりと流れるようにステップを踏み始めた。
「なかなかやるね。君の家はあまり社交の場には出てこないから踊ったところは見た事なかったけど」
「お褒めに預かり光栄ね。そういえばあなたのお兄様、私のダンスの相手があなただと知った瞬間発狂してたわよ」
「嫉妬で?」
「いいえ、ブラック家期待の次男の頭が遂にイカレ始めたって」
「兄さんじゃないんだからって言っておいて」
「もう言ったわ」
曲も終盤に差し掛かりレギュラスがそっと手を離すと、ヘスティアはくるりと回って一礼した。レギュラスもまた胸に手を当ててお辞儀をする。うん、まあいいんじゃないかな、と彼は言って、また次の曲をかけようと蓄音機の方へ足を進め始めた。
一方ヘスティアはグランドピアノの方に足を向ける。レギュラスはレコードを選びながら、ヘスティアの様子をじっと見ていた。
「弾けるの?ピアノ」
「まあ、家にあったし」
「上手?」
「上手よ」
ヘスティアはピアノの縁にもたれかかった。
「ピアノってマグルの楽器よね。いつの間にかこっちにも入ってきたけど」
「そうだね」
「…私、6歳の頃、マグル界に旅行に行ったわ。電車にも乗った。電車って分かる?電気を使って機械仕掛けの乗り物が動いてるんですって。空を飛ぶ乗り物もあるわ。魔法が掛かっていないのに、信じられる?」
「なに、僕にマグルの素晴らしさを教えようっていうのかい?」
「違うわ。ただ…魔法界とマグル界は既に道を分かちすぎている。そう思わない?マグルの技術の革新っていうものは素晴らしいわ。魔法に胡座をかかず、多方面の分野に秀でている。反対に、見て?魔法界の現状を。マグルには魔法以外の多くの点で劣っている。屈辱的だけど、そういうこと。マグルに世界の大半が奪われるのは嫌だけど、その裏で利用することも出来るはずよ、私たち魔法族なら」
「君は何も分かっちゃ居ないね。その技術がこの星を汚しているんだ。それがいつ僕たちに牙を剥くか。マグルはまったく、自分たちのこと以外何も見えていない…」
「だから皆殺し?」
「百年経てば彼らの存在すらも忘れるだろうさ」
ヘスティアは口を噤んだ。少しはなにか出来るかと思ったが、どうもヘスティアは舌戦に弱いらしかった。マグルの事をあまり考えてこなかったせいもあるかもしれないが。皮肉なことに、マグルに寛容な普通の魔法族なんてマグルのことを考えすらもしない。案外マグルのことを一番考えているのは死喰い人だったりして。
魔法族とマグル、両者の隔たりは今、魔法界に深刻な歪みを生み出している。長年魔法族はマグルに背を向けて、その問題から逃げ続けてきた。そのツケが回ってきたのだ。
レギュラスはにこりと微笑んでヘスティアに手を差し出した。
「この話はやめよう、どうせ君は勝てない」
ヘスティアはとんでもなく嫌な顔をしてその手を取った。
「悔しいけど事実ではあるわね」
「君がこちら側に来たら嬉しいんだけどな。もっと楽しくなる」
「楽しい?楽しいですって?」
「楽しいに決まってるだろう?憧れの人の元で働けて、この手で政治を動かしているんだ」
「あら、政治を動かすなら正規の方法を取って欲しかったわね」
「失敬、君の家は魔法省の役人一家だったね。でも本当に凄いんだよ、闇の帝王は」
レギュラスは夢見がちな乙女のように目を細めた。恐らくまだ“一線”は超えていないのだろう。いずれ知る。どれほど恐ろしいことに自身が加担しているかを。ヘスティアは自然と冷めた心で彼を見ていた。コイツ洗脳でも受けてんじゃないか?
シリウスからちらりと聞いた話だと、昔は闇の帝王のスクラップ帳を作っていたらしいし。
歪んだファン精神なんだろうか。闇の帝王が推される時代とは、全くもって世紀末。
「この調子だと他のペアも随分苦労してそうだね」
死んだ目をし始めたヘスティアに気がついたレギュラスが言った。
「ええ、でも私たちには他と決定的に違うところがあるわ」
「なに?」
「前は仲良かった」
「前“も”だろ?」
レギュラスはヘスティアの腰を抱き寄せた。二人の顔が驚くほど近くなる。ヘスティアはひゅっと息を飲んだ。
「なに、色気出してるつもり?」
「ダンスには妖艶な要素も必要だからね」
「見解の相違ね。計画変更してサンバにしましょうか」
「大胆だな、君にそんなことをさせたら責任を取らなきゃならなくなる」
「結構よ」
「ヘスティアとの結婚はうちの親も歓迎だろうね」
コイツ、全く人の話を聞いていない。ヘスティアは眉を顰めてヒールの先をレギュラスの足の甲目掛けて思い切り叩き付けた。
「なんで避けるの」
「なんで避けないと思ったの」
少しばかりの睨み合い。睨み合いに負けたヘスティアはレギュラスを押し返すと、フン、と鼻息荒く髪を振り乱しながらツカツカと部屋の出口へと出ていった。ちゃっかり荷物も持って行ったあたりもう戻ってくるつもりは無いんだろう。
レギュラスは、久しぶりにまともに話した友人に実に上手く意地悪してやることが出来て、とても満足だった。彼一人のボールルームでニヤニヤと笑いが零れる。その表情は、彼の兄・シリウスにそっくりだった。
◇◇◇◇
冬休みに入り、ダンスパーティー当日。
外では雪がしんしんと降り、城の中には暖かい空気が漂っていた。
ヘスティアとギルデロイは人のいない廊下で自身の格好の最終チェックを行っている。さきのクリスマスパーティーで遂にスラグ・クラブにお呼ばれしたことが余っ程嬉しかったのか、こんな憂鬱な日にもギルデロイは満面の笑みであった。
「僕、カッコイイかな?」
ギルデロイは手を広げて言った。ヘスティアは顎に手を当てて下から上まで舐めるように見回す。
「まあいつもだけど、ビジュアルは最高ね。多分ホグワーツの生徒に並び立てる者はいないわ」
ヘスティアはとても真剣そうな表情で言った。
ギルデロイはいつにも増して髪の毛をばっちりキメており、抜群のスタイルで着こなされた細身の黒のスーツを纏い、下のベストには銀色のチェーンがぶら下がっている。
世界中の女性がミラベルに嫉妬しそうなほどギルデロイは格好良かった。
「それが似合う人間で良かったわね」
「まったくだね」
ギルデロイはターンをすると顔を斜め45度に傾け決めポーズをした。謎に似合っているのが腹立たしい。
ギルデロイの母親は自身の息子が自分の一番の財産だ、という風に思っている。その一番の財産を飾り立てるのも、おそらく彼女が一番上手いんだろうとヘスティアは考えていた。
「私はどう?」
ヘスティアもくるりとターンした。彼女の胸元まで伸びた髪がふわりと靡く。ロイヤルブルーのパーティードレスが上質に揺れ、キラキラとした宝石の飾りが胸元のレースに散らばっている。貴族の財力で殴ってくるような美しさに、ギルデロイは目を瞬かせた。
「うん、上手く騙せてる。これなら学校一も夢じゃないよ」
「私、普段から学校で一番美しいし、誰にも負けてないわよね?」
「ソウデスネ」
「今日はメイクもしてるんだからこれで一番じゃ無かったら勘弁して欲しいわ」
ヘスティアは腰に手を当てて、自分のドレスの具合を見た。
彼女は一応いつもすっぴんだが、今回はメイクをバチバチにキメている。普段のヘスティアを見ている者でも数秒は理解に時間を要するだろう。
流石身内に顔だけコンビと揶揄されるだけある二人である。
「こんなに美しく着飾っているのもレギュラスのため?」
「そんな訳ないでしょ。今日はダンブルドア先生も来るの。絶好のアピールポイントじゃない」
「うん、大体察してはいた」
「隙を見て話しかけようと思うわ。忙しくされていなかったらいいんだけど」
一頻り会話を終えると、ギルデロイはミラベルをエスコートしに行った。ヘスティアも時間を置いてから下の大広間に向かう。流石に一緒に向かう程、ミラベルを慮らないわけじゃなかった。これからダンスする男が別の女引っさげてやって来るとか、普通にビンタ案件である。
ヘスティアは階段を降りながら、意識を切り替えた。
私は今から、フォーリー家の娘。魔法族の中で最も誇り高き純血の一族。マグル生まれなんかにオーラで負けちゃいけない。
彼女が段を踏みしめる度、普段の彼女はなりを潜めていった。まるで薔薇が花開くように、気高い香りを一弁一弁纏っていく。諸君、こういう類の人間は意識すればオーラを身に纏えるものなのだ。所作なり、言葉遣いなり、視線の動かし方でさえも。
ヘスティアは横を通っていた生徒たちを見た。
彼女の流し目に釘付けになって皆棒立ちになって動けない。その瞬間、新しい性癖の扉を開いた人間が何人かいたとか。
自身がきちんとオーラを纏えていることを確認すると、酷く優雅な足運びで彼女は大広間に降りていった。
レギュラスは大広間前の階段の近くにいた。ヘスティアを目に止めると、彼は手を差し出してくる。視線が交わった時、彼らは瞬時に悟った。
コイツ、オーラを纏ってやがる…!!と。
何処かのバトル漫画のように水見式だとかがあるわけでは無いが、彼ら貴族にはそういうものが見えるような習性が脊髄に染み込んでいた。
ヘスティアはレギュラスの手を取った。流れるように腕が組まれる。
視界の端にギルデロイが映ったが、ヘスティアは一瞥して目を細めたあと微笑して、レギュラスの方に向き直った。
格の違いを思い知らせてやろう。
言葉外に、彼らは頷きあった。
◇◇◇◇
「疲れた」
「少し休もうか」
パーティーも終盤に差し掛かり、ヘスティアとレギュラスは近くのテーブルに向かった。
コンペティションは無事彼ら一強で終わり、レイブンクローとスリザリンにはそれぞれ二十点ずつ与えられた。その後色々箍が外れた彼らは狂ったように踊りまくり、疲労困憊で今に至る。
着いたテーブルには上着を脱いでベスト姿になった完全に終わりモードのギルデロイと、そのギルデロイに目をハートにしたミラベルが座っていた。
「やあ、もう終わり?」
「流石に疲れたからね」
「これ飲んでみてよ」
「嫌よ」
「いや、ほんと美味しいから」
ドラゴンの肝を混ぜたドリンクを受け取ったヘスティアは、無事に嘔吐きギルデロイの足を踏む。無言で呻く彼にレギュラスは苦笑した。
後ろの方からもバーティとリアーナのペアが近づいてきた。どこかで見たメンバーに早変わりである。
「それにしてもコレ、上手くしてやられたよな」
バーティがしみじみと言った。普段険しい顔をしている彼が何処か憑き物が落ちたような顔をしているのは、このふざけて緩んだ雰囲気のせいかもしれない。レギュラスも驚いたようにバーティを見つめていた。普段ならダンブルドアへの嫌味が二つ三つ出てきていそうなものだが。
「ペアそれぞれの寮に点を入れることで小競り合いを無くしてる」
「スリザリンとレイブンクローにね。確かに」
「他の寮と差を付けられるって意味で協力関係も生まれるし」
「グリフィンドールには点が入らなくて残念ね、リアーナ」
「ハッフルパフに入らなかっただけいいわ」
その場にいた全員が飲み物を噴き出した。ゲホゲホとレギュラスは嘔吐き、ギルデロイやバーティはケラケラと意地悪く笑う。
アレだ、皆心の底ではコンペティションの時にハッフルパフ同士のペアが二組も出ていたことが気に食わなかったんだろう。そこらが優勝したらハッフルパフに40点入ることになるので。
やっぱり集団で話す時に悪口が盛り上がるのは世界共通なのだろう。
ヘスティアは少し笑いながら、目の前で陽気に踊る生徒たちをふと眺めた。今は丁度外から招いたロックバンドが演奏しているようで、みんな揉みくちゃになりながらジャンプしていた。視界の端に映ったミラベルの肩も少しその音楽にのっているようで、ヘスティアも首を僅かに揺らす。
「こんなご時世にダンスパーティーなんて、やっぱりイカれてるわね。ダンブルドア」
ミラベルは嬉しそうに言った。
「イカれてないとホグワーツの校長なんて出来ないわよ」
ヘスティアはなんでもないように言った。ミラベルと目が合って、二人はにやりと笑い合う。
なんて素晴らしい景色だろう。
多分、この中にはこの戦争について並々ならぬ想いを持っている者が多くいる。
大事な人が殺された人、拷問を受けた人、行方知れずになった者…言い出したらキリがない。誰もが闇を抱えている。スリザリンの信奉者たちに怨みを抱いている者も無数にいる。
だが、この場では誰も彼もがそんな事全て空き箱に放って、笑いあっていた。最初は誰もが身構えて無意識に壁を作っていたが、今ではそんなものは無い。
ヘスティアだって脳天気な馬鹿じゃない。
最近はよく食事の席で泣き崩れる生徒を見る。梟が運んできた手紙に訃報が書いてあるのだ。それが誰かなんてヘスティアには分からない。どんな最期を迎えたかなんて分からない。だが、彼らの悲痛に叫ぶ声を聞いて、彼女はどうしようもなく泣きたくなるのだ。
私は何を出来ているんだろう?純血は魔法族を守らなければならないのに。
こんなところで平和ボケして、何が誇り高き一族か。
彼らに顔向けが出来ない。
そんな事を考える度ヘスティアは自分のことが嫌いになって、レギュラス達のことも嫌いになって行った。何も考えていないような意地の悪い顔で、死喰い人の印を無邪気に見せた彼らが。
庇護するべき人間たちを傷付ける人間が、ヘスティアは一番嫌いだ。
でも同時に、彼らとこうして笑い合う時間が楽しいと感じる自分もいる。
何もかもを忘れて、闇の帝王もいなくなって。
そんな時が訪れればいいと何回願ったか、彼女は知らない。
彼らは恐らく間違ったことをしている。間違った信念を抱き、間違った正義を振りかざしている。忌むべき人間たちなのだろう。
ヘスティアも自分の正義のために反抗する。正義のために杖を持ち、人を守るために力を振りかざす時がきっと来る。彼らに杖先を向ける日もきっと遠くない。
彼らが機械ならよかった。同じ人間だから、どうしても苦しくなる。
笑い合うことの出来る人間だからこそ、どうしても憎む気持ちが鈍ってしまう。
なんて残酷な景色だろう。
目の前の生徒たちはみんな、このふざけた空気の中で何も考えず、ただ笑っている。
ヘスティアは分かっていた。
ダンブルドアの考えが読めるようになった彼女だから、分かってしまった。
いつか彼らが杖を向けあった時、お互い躊躇うように。
このダンスパーティーの記憶はいつか彼らの身体を毒のように蝕み、心を縛り付けるのだろう。
ヘスティアはどうしようもなく立ち尽くした。かき鳴らされたエレキギターの音が耳に入らなくなって、部屋の向こうで座りながら生徒たちを暖かい眼差しで見守るダンブルドアしか目に入らなくなった。
私、ダンブルドア先生が好きだ。
こんなに憎たらしい事をやってのける先生が大好きだ。
今までで一番幸せそうな笑顔をしていた生徒たちが溢れる大広間の中で、ヘスティアはただ一人立ち尽くしていた。
ダンブルドア豆知識その9
カルカロフの裁判の時のビジュの良さが異常
この時は既に第二形態『イケお爺』に至っていた彼ですが、妙に髪型や髭がワイルドチックなところが最大のポイント。
ハリポタ時空では髪や髭をストレートに伸ばしている彼ですが、カルカロフの裁判の時はウェーブしてます。そしてその時の鋭い眼光の素晴らしさったらどんなに言葉を尽くしても尽くしたりません。
やっぱりカルカロフ裁判はいいですね。罪人に対する厳しさと勘ぐる際の訝しみのようなものが見れますもん。
ぜひみんな見てね。見ろよ。な?な?