中央暦1639年10月23日
ムー国の使節団を乗せたラ・カオス旅客機は、無事にロデニウス連合の港町リンスメシアに到着した。
使節団一行は、ロデニウス連合リンスメシアの空港に降り立つ。
「おお……ここがロデニウス連合か。想像以上に発展してるじゃないか」
空港のロビーから外を眺めたマイラスは感嘆の声を上げた。
「ええ、私も驚きました。ムーよりずっと発展していますよ」
アメリアも驚いている。
「大型機も戦闘機も洗練されたデザインをしているな」
戦術士官ラッサンは感想を述べた。
「ああ、そうだな。我が国の航空機とは明らかに異なるものだ」
マイラスは同意した。
「さて、我々も行くとしようか」
外交官たちはすでに列車でロデニウス連合の首都・クワトリングへ向かっていた。
マイラスたちは双発機「一式陸攻」に乗り換え、北東部へと向かった。
「ふぅ~。やっと着いた。しかし、空路だと早いなぁ」
ラッサンは背伸びをしながら言った。
「ええ、そうですね」
ここは旧クワ・トイネ公国北東部に位置する軍事基地、ハークライト。
現在、トラック泊地が所有する基地の一つである。
この基地には転移と共にやってきた欧州戦線の部隊が駐屯していた。
一行は一式陸攻から降り立ち、案内役の妖精によって誘導されるまま移動を開始する。案内された先は格納庫であった。途中、高射砲や網目状の物体も見ることができた。
そこは単葉機で埋め尽くされていた。
「おぉ!すごい数の機体だ!」
マイラスは興奮気味に言う。
「おお!本当だ」
ラッサンも同じだった。
右側にはBf109G、左側にはJu87Dといったドイツの主力機が並んでいる。
「ほう、これは凄い。どれも洗練されているな」
マイラスは感動していた。
「そうですね。ロデニウスは本当に優秀な国ですよ」
アメリアが相槌を打つ。
「ところで、あの機体はなんだ?」
ラッサンは、左端の方に置かれている奇妙な機体に気がついた。
それは形は左側のとは変わらないが対戦車砲のようなものを2門装備したものだった。
「まさか、エース専用機か!?」
ラッサンは目を輝かせていた。
「ほほう。やはりエース専用機があるのか」
マイラスは納得したようにうなずいていた。
ムーにもエース専用機は存在するが、基本的には機体の塗装を派手にする程度である。だが、ロデニウス連合にはそういった風習がないのか、全ての機体が同じ色に塗られていた。
「どうぞこちらへ」
妖精に促され、一同は格納庫を後にして陸軍の演習場へ向かう。
そこで待っていたのは、戦車であった。
「おお!!これは!!」
マイラスは思わず声を上げてしまった。
そこには「ティーガーI E」の姿があった
「これは……素晴らしいな。ロデニウスはここまで進んでいたのか……」
マイラスは唖然としながら言った。
自国の戦車「チャリオット」より何倍も大きく、そして何倍も重厚に見える。
ティーガーの後ろから変わった形の車両が姿を見せる。
「あれはなんですか? 見たことがないです」
アメリアは聞いた。
車体から大砲が生えているような形をしていた。
「あれはISU-152です。名前の通り152mm砲を搭載しています」
「「「……」」」
チャリオットに152mm砲が直撃すればひとたまりもない。
そもそも戦車に152mm砲を搭載するなど、常識では考えられない。だが、目の前にあるのは紛れもなく現実である。
「この国の技術力はどうなっているんだ……」
マイラスは頭を抱えたくなった。だが、すぐに切り替えて質問を行う。
「この兵器はどういうものなんですかね?」
「はい。これは『対戦車自走砲』と呼ばれる兵器になります。簡単に言えば、戦車の撃破を目的として開発された兵器です」
「なるほど……」
マイラスは理解した。
(確かに言われてみれば、そのとおりだな。しかし、こんな兵器を開発するとは……。我が国でも開発できないだろうか?)
彼はそんなことを考えていた。その後T-34-85やM4A3といった車両も見学したが、特に特筆すべき点はなかった。
しかし、そのどれもが洗練されたデザインであり、性能も高そうであることはわかった。
歩兵用の銃火器に関しても、ムーの物とは比較にならないほどの高性能さを誇っていた。
ムーの武器はボルトアクション式ライフルがほとんどで、半自動小銃や携帯式機関銃はまだ存在していない。
そのため、ロデニウスの銃火器はムーにとって非常に興味深かったのだ。
マイラスたちは、再び「一式陸攻」に乗りトラック泊地へと向かった。
数時間後、マイラスたちはトラック泊地へと到着した。マイラスは「一式陸攻」を降りると、周囲を見渡した。
「あれが港か」
マイラスは呟いた。彼の視線の先には大きな建物があり、周囲には数多くの艦艇が停泊している。
埠頭には多数の輸送船も見えた。
「ロデニウスは本当に栄えているな」
マイラスはこの国の豊かさを改めて実感した。彼らは港へと向かう。
港の入口には、数人の警備兵が立っていた。彼らはマイラスたちを見つけると敬礼を行った。
持ち物検査が行われ、問題なしと判断されたところでマイラスたちは中に入る。
港の中に入ると、多くの人で賑わっていた。しかし、ほとんどが女性である。
「なんだここは……女性がたくさんいるじゃないか」
マイラスは不思議そうに言った。
容姿や服装も様々だ。学校の制服のような服を着た少女、軍服姿の女性、水着を着た女性たちもいる。
「ここは一体どこなんだ?」
ラッサンは困惑していた。
「ああ、ここはロデニウス連合海軍特別軍の基地ですよ」
妖精は答えた。
「「「ロデニウス連合海軍の基地!?」」」
マイラスたちは驚きの声を上げた。
「ええ、そうですよ」
妖精は平然と答えた。
「彼女たちはいったい何者なんですか?」
アメリアは妖精に問いかける。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。彼女たちは『艦娘』と呼ばれるものです」
「「「かんむす?」」」
3人は同時に首を傾げた。
「そう、彼女たちは『軍艦の記憶を持った少女たち』なんですよ」
「「軍艦の……記憶?」」
3人は再び首をかしげた。
「はい。彼女達はかつて戦争で活躍した軍艦たちの魂が宿った娘たちなんです」
「「「!?」」」
マイラスたちは驚愕する。
人であると同時に軍艦でもあるということだ。つまり、ただの人間ではないということになる。
「信じられない……」
ラッサンはつぶやくように言った。
「まあ、無理もないでしょうね。でも、事実なんです。彼女たちは軍艦の能力を使うことができるんです」
妖精の言葉に、マイラスは反応した。
「それは本当なのか?」
「はい、本当ですよ」
妖精はうなずきながら言う。
「それなら是非とも見せてもらいたいものだな」
マイラスは言った。
「わかりました。それじゃ、行きましょう」
妖精は3人を案内し始めた。
しばらく歩いて埠頭まで行くと、そこには鋼鉄製の物体を身に着けた少女たちがいた。
すると彼女らは海へ飛び込んで海面を滑るように移動していく。その動きはまるで水を得た魚のように生き生きとしていた。
「すごい……」
「あれが……『艦娘』か」
マイラスは呟いた。
「はい、そうです。ちなみに、彼女たちの艦種は『駆逐艦』です」
「駆逐艦?小型艦ではないのか?」
マイラスは駆逐艦と小型艦の違いがわかっていなかった。
「それにしても、あの装備は何なのだ? 見たこともないぞ」
「あれは『61cm四連装酸素魚雷』といいます。対艦攻撃用の兵器ですね」
「対艦用兵器だと……」
マイラスは呆れたような声を出した。
「ええ、水中を自走して攻撃する兵器なんです」
妖精の説明を聞いて、唖然とした表情を浮かべていた。
こんなものを喰らったら、戦艦だろうとひとたまりもない。浸水により沈没してしまうだろう。
「な、なるほど……。恐ろしい兵器だな」
マイラスは冷や汗を流した。
「ええ、でも使いどころが難しい兵器なんですよ」
「どういうことなんだ?」
「まず、魚雷は射程距離が短いです。そのため、敵に肉薄しないと命中させることができません。さらに、敵が回避行動をとった場合は外れてしまうこともあります」
「そうなると、当たらないということか」
「その通りです。あと、駆逐艦は装甲が薄いので敵の攻撃を受けると簡単に沈んでしまいます」
「そうか。なかなか難しい兵器なんだな」
マイラスは納得した。確かにこの兵器を扱うのは難しいかもしれない。
その後も、重巡洋艦や戦艦などの艦船を見学したが、どれも素晴らしい性能を誇っていた。
プライドをズタズタにされながらも、あっという間に時間が過ぎていくのであった。
グラ・バルカス帝国の脅威が存在する状況下において、友好的であるロデニウス連合を拒否する理由は無く、無事国交を結ぶことになった。