中央暦1640年1月29日アルタラス沖
パーパルディア皇国海軍輸送船団は、アルタラス島の皇国軍へ補給物資や人員を輸送するため、アルタラス島北方海上を航行中であった。輸送船60隻からなる大船団である。
アルタラス島に展開する皇国軍は、ロデニウス連合との戦闘で大きな損害を受けていた。そのため、今回の輸送には、陸戦要員、兵站部隊などが動員されていた。
この海域は、パーパルディア皇国の制海権下にあり、危険度は低かった。
皇国海軍の誇る戦列艦12隻が護衛として随伴していることもあり、安心しきっていたのだ。
しかし突然、戦列艦の1隻が爆発した。
轟音とともに船体が真っ二つに折れ、海中へと沈んでゆく。他の船でも同じような爆発が起こり、沈没していった。
「敵襲! 敵の攻撃です!」
見張り員の叫び声が上がる。
「何だとぉ!!」
艦長が叫んだ瞬間、自身が乗る戦列艦も炎に包まれた。
輸送船を護るはずだった戦列艦はあっという間に全滅してしまった。
次に輸送船が標的となる。
次々に爆発炎上してゆく。見えない敵に一方的に攻撃されているのだ。
「馬鹿な! 一体どうなっている!?」
船員たちは、必死にマストに登り周囲を見渡すが何も発見できない。
攻撃が終わったかと思うと、再び輸送船が撃沈された。
「終わったのか……?」
船員の一人が呟いた。
「おい! 何を寝ぼけた事を言ってるんだ! 敵はまだいるはずだ!」
別の別の船員が怒鳴った。
その時だった。突如、海面が盛り上がったかと思うと、何かが姿を現した。
「なんだあれは……?」
それは、灰色の細長い物体だった。
長さ70メートル程の細長く巨大な鉄塊が、ゆっくりと浮上してくる。甲板にいた水兵たちが慌てて避難する。
やがてそれは、完全に水面から姿を現す。その全貌が明らかになるにつれ、誰もが唖然とした表情を浮かべる。
「ば、化け物だ……」
誰かがそう漏らすのも無理はなかった。それほどまでに異様な存在だった。
魔導砲らしきものが装備されているのが見て取れる。
すると人が出てきて魔導砲を操作を始めた。
「まずい! 撃ってくるぞ!」
水兵が叫ぶと同時に、砲弾が放たれた。空気を切りさくような音が響き渡ると、着弾地点が炸裂する。衝撃で船が揺れ、燃え上がる。
「退避しろーっ!!」
船員たちは、慌てて艦内に駆け込む。次の瞬間、先ほどまで彼らが立っていた場所が吹き飛んだ。
「なんてことだ……あんなものが相手では勝てるわけがない……」
海中に潜んでいた敵艦は輸送船団を取り囲むように浮上していた。逃げ場も反撃能力もない。一方的な狩りが始まるだけであった。
爆発が起きるたび、輸送船は次々と沈み始める。
そして、羊の群れはオオカミにすべて食い尽くされた。
◆◆◆
2月1日 アルタラス島
パーパルディア皇国軍の戦線は崩壊しつつあった。
ここ数日でなぜか輸送船の被害が拡大しており、弾薬や人員の補給が困難になっていたのだ。
皇国軍は、なんとか本国からの増援を得て立て直そうとしたが、それすらもかなわない状況に陥っていた。
アルタラス島南方海域へ出撃した艦隊は1隻も帰ってこない。偵察に向かったワイバーンロードも戻って来なかった。
皇国軍は、連合軍の猛攻により、総崩れとなっていた。
もはや組織的な抵抗力を失っており、各部隊は個別に戦っている状態だ。
(クソッ!! こんなはずではなかった!)
ベルトラン将軍は、歯噛みしながら撤退命令を出すしかなかった。