「くそ! なんてことだ!!」
後方の司令部で皇国軍司令官は苛立ちながら叫んだ。
「我々が攻めていたはずなのに、いつの間にか逆に攻められてましたね……」
参謀が答える。
「ええい!! こうなったら、我が軍の精鋭部隊を投入してでも、敵を撃滅するんだ!!」
「しかし、それだと我々の被害も大きくなります。ここは慎重に行きましょう」
「慎重になってどうなる? このままやられっぱなしで良いのか!?」
司令官が怒鳴ったとき、伝令兵が駆け込んできた。
「報告します!! 連合軍がこちらへ向かっております!!」
「なにぃ!? もう来たというのか!」
「はい! すでに領内に侵入しております!!」
「ちいっ! 仕方ない! 全部隊に戦闘準備を下命せよ!!」
「はっ!!」
陸軍は、連合軍との戦闘によって大きな損害を被り、戦力の大半を喪失した。
海軍戦力も大打撃を受けており、本国からの増援を待たなければ行動不能の状態であった。
しかし、パーパルディア軍は最後まで戦い抜く覚悟だった。
「皇国の未来のためだ!絶対に勝つぞ!!」
パーパルディア軍司令官は、天幕の中で叫ぶ。
「はっ! 必ず勝って見せます!」
参謀は敬礼すると、部下の元へ走った。
パーパルディア軍に残された兵力は約3万人。
対する連合軍には、その数倍以上の兵がいると見積もられている。
「ふんっ……。だが、我々は負けん。たとえ勝てずとも……最後の一人になろうとも、必ず戦うのだ!!」
司令官は拳を握りしめ、そう呟いた。パーパルディア軍は、陣地構築を行いつつ、迎撃の準備を行っていた。パーパルディア軍が陣を構えているのは、アルタラス島の北部にあるルアコック平原である。この平原は起伏が激しく、大軍の展開が難しい地形であった。
しかし、防衛に適した地形であり、ここならば敵の侵攻を食い止めることが出来ると踏んだのだった。ここを突破されれば後方には港しかないため、敗北が確定してしまう。そのため、何としても守らねばならない場所であった。
そしてついに、ルアコック平原にアルタラス王国軍が姿を現した。その数は約2万。
対するパーパルディア軍は、約3万人の兵と、魔導砲が30門。ワイバーンロードが約20騎ほど。
ルアコック平原の戦いが始まった。
最初に動いたのは、皇国軍のワイバーンロード隊だった。制空権を確保するために攻撃を仕掛ける。
しかし、ロデニウス連合軍の「一式戦 隼III型甲」「三式戦 飛燕一型丁」と空戦に突入。制空権を確保出来ず、逆に地上の友軍に爆撃を受ける羽目になった。
パーパルディア軍も反撃を開始する。魔導砲の砲弾がアルタラス王国軍に降り注ぐ。馬や兵士が吹き飛び、大地が血に染まった。
アルタラス王国軍は怯むことなく突撃を続ける。パーパルディア軍の砲兵隊が、一斉に砲撃を開始した。砲弾の雨がアルタラス兵を襲う。
「うわぁああっ!!」
叫び声と共に、兵士が宙に舞う。その光景を見た兵士達の士気は落ち、戦列が乱れ始める。そこへ銃弾が降り注ぎ、アルタラス兵の身体を撃ち抜いていく。
「くそっ! 魔法攻撃用意!! 目標敵左翼!!」
皇国軍の将軍が命令を発する。同時に呪文詠唱が始まり、火炎弾が発射される。アルタラス王国軍の左翼が炎に包まれる。
「よし! いいぞ! 続け!!」
将軍の号令の下、次々と魔法が放たれていく。
「ぎゃああああ!!!」
アルタラス兵が絶叫を上げながら倒れ伏す。
「後退だ!! 早くしろ!!」
アルタラス王国軍の左翼が崩れ始めた。それを見て、パーパルディア軍から歓声が上がる。
「このまま押し込め!! 一気に殲滅するんだ!!」
皇国兵達は勢いづき、そのまま進撃しようとする。
その時、上空から何かが降ってきた。
ドォン!! という轟音とともに、地面が爆発する。
「なんだ!?」
皇国軍の兵士は思わず叫んだ。
爆発は連続して起こり、地面が大きく揺れ動く。
「なっ……なんですか!?」
参謀のひとりが叫ぶ。
「いかん! 伏せろ!!」
誰かが怒鳴った。その直後、爆風が押し寄せ、兵士たちを吹き飛ばす。
「ぐぅ!」
地面に叩きつけられた兵士はうめき声を上げる。なんとか起き上がった彼の眼前には地獄が広がっていた。
数えきれないほどの小さいクレーターが発生し、その中で味方の死体が転がっている。あるものは上半身が無くなっており、またある者は下半身だけになっている。
「くそっ! 一体なにが起きた!?」
別の兵士が怒鳴りながら立ち上がる。
「「「「Ураааааааа!!!!」」」」
遠くで雄たけびが聞こえる。
皇国軍の兵士達は顔を見合わせ、お互いに疑問符を浮かべていた。
「おい! あれ見ろよ!」
ひとりの兵士が指さした方向を見る。そこには深緑色の怪物と歩兵の大軍がこちらへ向かってくる姿があった。
そう、ロデニウス連合所属のソ連軍(妖精)である。
先程の爆発は「BM-13 カチューシャ」による攻撃である。
「なっ……!なんだありゃあ!」
「ばかな! あんな化け物がいるなんて聞いていないぞ!」
「知るか! とにかく撃て!!」
皇国軍の生き残った魔導砲が怪物に砲撃を行う。しかし、全く効果が無いようだった。
「だめだ! 効いていない!!」
「畜生! どうなってるんだよ!!」
混乱状態に陥ったパーパルディア軍に対し、戦車の一斉砲撃が行われる。
「うわぁぁぁぁ!!!」
「助けてくれぇ!!」
阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。しかし、ロデニウス軍は容赦しない。
T-34-85が機関銃を乱射しながら突っ込み、パーパルディア兵をミンチに変えていく。
「うわああっ!!」
「ぎぃやああ!!」
パーパルディア兵は恐怖に駆られ逃げ惑おうとするが、次々にハチの巣になり、血と肉片と化して大地に吸い込まれていった。
彼らはISU-152、IS-2といった強力な兵器を装備しており、パーパルディア軍を蹂躙していった。
T-34-85の後ろからソ連兵が続く。
「撃て! 撃ちまくれ!!」
PPSh-41やモシン・ナガンM1891/30を乱射して、パーパルディア兵をなぎ倒していく。
皇国軍は奮闘するが、連合軍の勢いを止める事は出来なかった。
「撃て!」
運よく生き残った魔導砲が、最後の抵抗として怪物に砲弾を放つ。しかし、至近距離だというのに怪物を仕留めることはできなかった。
「避けろ!」
T-34-85は魔導砲に体当たりする。
「なっ! なんて奴らだ!」
「化け物が! 死ね!」
避けた兵士が、T-34-85に向けて発砲するが、その程度の豆鉄砲ではT-34-85の装甲を貫くことは不可能であった。
「ああっ! 俺の身体が! 腕がぁ!!」
「おのれぇ!! 殺せ! 殺しちまえ!!」
「くたばれ! この野郎!!」
狂ったように銃弾を撃ちまくる兵士たちであったが、やはり無駄な努力に過ぎなかった。
「ちくしょう! 何なんだこいつらは!?」
「悪魔だ! 化物だ!!」
「うわぁーっ!!」
パーパルディア軍の兵士が次々と殺戮されていく。その様子を見ていた将軍は、震えながら呟いた。
「な……なぜだ? 列強国の精鋭がこんなにも簡単に負けるなどと……そんなはずはない」
彼は、アルタラス王国軍が攻めてきた時点で、すでに勝負はついていたと思っていた。
しかし、現実は違ったようだ。
「将軍!! 我が軍の左翼が崩壊しました! このままでは右翼も危ないです!!」
参謀のひとりが、悲鳴のような声で報告してくる。
「馬鹿者!! たかだか蛮族ごときに何をしているのだ!?」
「しかし……あの怪物は、我々には手に負えません!!」
「だからといって降伏できるわけなかろう! それに魔法があるではないか!」
「無理です! 敵の方が数が圧倒的すぎる!」
「くそっ! 蛮族の分際で!!」
「将軍! ここは撤退しましょう! 敵の数は多すぎます!!」
「うるさい! 貴様は黙っておれ!!」
その時、突如轟音が響き渡った。
ズガァンという音とともに、皇国軍の陣地の一部が吹き飛ばされる。そして、土煙の中から巨大な物体が現れた。
「あれは……まさか……」
それは、かつてムー大陸で見たものと似たような形状をしていた。
将軍は呆然とした表情になる。
「ば……ばかな! なんなんだあれは!?」
「化け物かよ!」
「おい! 逃げるぞ! 早く逃げろ!!」
皇国兵たちは蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出す。
「逃がすか! 追うぞ!!」
「「「
連合軍は、皇国軍の残存部隊を殲滅するため追撃を開始した。
「クソッ! なんだあいつらは!!」
「あんな化け物がいるなんて聞いていないぞ!」
皇国軍の兵士は必死に逃げた。
「はあはあ……なんとか逃げ切れたか?」
皇国軍の指揮官は、安堵のため息をつく。
しかし次の瞬間、背後から猛烈な爆発が襲い掛かってきた。
「うわあああっ!!」
指揮官を含め、その周辺にいた兵士達は全て死んだ。
こうしてルアコック平原の戦いは終結した。
パーパルディア皇国は歴史上はじめての敗北を経験することになる。