中央暦1640年2月25日 神聖ミリシアル帝国、港街カルトアルパス
とある酒場の店の中央に、平面水晶体が吊り下げられている。
今日は、週1回の「世界のニュース」が放送される日であり、店内にいる人々は、それを見るために集まってきているのだった。
酒場の店主は、店のテレビに表示された画像を眺めながら、酒を飲んでいる客に話しかけた。
「いやあ……パーパルディアの連中、可哀想なことをしたねぇ」
「ああ、列強国がどうとか言ってたが、所詮蛮族は蛮族だったということだな」
「そうだな。蛮族どもに列強国の力は理解できないだろうさ」
「全くだ」
2人はそう言い合い、酒を飲み始めた。
すると水晶体が光り、映像が流れ始める。
『世界の皆さんこんにちは、世界のニュースの時間です。まず最初のニュースはこちらです』
水晶体には、先ほどまで話題になっていたパーパルディア皇国に関する記事が表示されていた。
『パーパルディア皇国は、アルタラス王国への侵略作戦に失敗しました。』
「「「!?!?!?」」」
その言葉を聞いた周囲の人間は、驚きのあまり固まってしまった。
そして、次の言葉を固唾を呑んで待つ。
『これは、我が国の情報機関が入手した情報ですが、今回の侵攻作戦において、第3文明圏最強の国家であるパーパルディア皇国は、ロデニウス連合の支援を得たアルタラス王国の反撃により、大敗を喫したようです。なお、パーパルディア皇国の軍船はすべて撃沈され、ロデニウス連合軍の軍艦の被害は確認されていません。
一方、アルタラス王国では、この勝利をきっかけに、パーパルディア皇国からの離脱を宣言する動きが活発化しており、今後の動向が注目されています。』
「ま……マジかよ……」
「列強国の面目丸つぶれだな」
「ロデニウス連合ってどこだっけ? 聞いたことない国だな」
「最近、新しい国ができたんだとさ。確か……ロデニウス大陸のクワ・トイネ公国だかクイラ王国とかいう国が1つになったらしいぜ」
「へぇ~。じゃあそこが助けてくれたのか」
「そのようだな」
「でも、なんで列強国に喧嘩売ったんだろう?」
「そりゃ、戦争になるからじゃないか?」
「だよなぁ。普通、文明圏外国が列強国に勝てないと思うんだけど……」
「だな」
「それより、パーパルディア皇国は、これからどうなるんだろう?」
「さあ……? もう滅ぶんじゃねーの?」
「そんな気がする。俺も」
「同感」
酒場にいた人々の大半は、この後起こるであろう出来事について、大方の予想を立てていた。
同日、パーパルディア皇国、首都エストシラント 皇宮パラディス城の会議室で、緊急会議が行われていた。
「一体何が起きたのだ!?」
皇帝ルディアスが叫ぶ。
彼の目の前にあるのは、たった今届いたばかりの報告書であった。
それは、アルタラス王国に対する作戦の失敗を告げるものであった。
「陛下! お気をお静めください! 現在、詳しい状況を調査しておりますゆえ!」
重臣の一人が声をかける。
「これが落ち着いていられるか! なぜ我が軍は敗北したのだ!? 敵は蛮族ごときではなかったのか!」
「は……はっ! おそらく敵の新型兵器によるものと思われます」
「なんだと! 新型だと? 詳しく説明せよ!!」
「は……はい!」
1人の将軍は、震える声で報告を始めた。
「はい。アルタラス王国は、ロデニウス連合という新興国の援護を受け、我が軍の戦列艦、竜母、輸送船200隻以上を撃滅した模様です……それから」
「そんなことは聞いていない!! その新型兵器とはいったいどのようなものなのだ!?」
「は……はいっ! まず、ロデニウス連合の艦艇ですが、彼らは魔法を使わずに動く巨大な鉄の船を持っており、我が軍を一方的に攻撃できる能力を持っているとのことです」
「鉄の船だと? そんなものが作れるはずがないではないか!!」
「しかし……現にそのロデニウス連合の艦艇は、我が軍が建造した戦列艦より遥かに強力な大砲を装備しており、我が軍の魔導砲では歯が立ちませんでした……」
「ええい! そのような戯言を信じろと言うのか!!」
ルディアスは机を拳で叩きつけた。
「し……失礼しました……それから、ロデニウス連合の鉄の怪物ですが、これはムーの車や神聖ミリシアル帝国の魔導車に大砲を積んだもので極めて厄介な相手だということです」
「ばかなことを言うな! どうやってその技術を手に入れたのだ!?」
「わかりません」
「わからないだとぉ!?」
「はい、どうやらロデニウス連合には『異世界』から来た者がいるようでして……」
「だからその『異世界』とは何だ!! いい加減にしろ!!」
「はい。この世界とは別の世界でありまして、そこでは我々の住むこの世界の何十倍も進んだ文明を持つ国家があるようです」
「なんじゃ、それは……。まったく理解できんぞ」
「ムーも似たようなことを言っています。彼らによると、『地球』と呼ばれる惑星があり、そこには我々が住むこの世界よりも優れた文明を持った国がいくつもあるそうです」
「ふむぅ……。それではまるで神の世界だな……」
ルディアスは少し落ち着きを取り戻したようだ。
「はい。ですから、彼らが言うところの『異世界』の技術を、ロデニウス連合の連中は持っているようです」
「な……なるほどな」
皇帝は腕を組んで考え込んだ。
(つまりアルタラス王国への侵攻に失敗したのは、その未知の技術によって敗北を喫したということか)
ルディアスは頭の中で思考を整理した。
彼が考えている間、会議室は重苦しい沈黙に包まれる。
やがて、ルディアスが口を開いた。
そして彼は驚くべき命令を下した。
◆◆◆
パーパルディア皇国皇都防衛隊の竜騎士オルカは、皇都エストシラントの北方に位置するワイバーン基地で、次の作戦に備えて待機していた。
彼の所属する部隊は、アルタラス王国侵攻部隊であった。
「オルカ、聞いたか? 例のロデニウスの話」
同僚の声が聞こえてきた。
「ああ、あのロデニウスとかいう国だろ?」
「そうだ。なんでも、奴らは飛行機って空を飛ぶ機械に乗っているらしいぜ」
「へぇ~。じゃあ、こっちの攻撃は届かないのか」
「そうなんだよ。それで一方的に攻撃されて、あっという間にやられちまったんだ」
同僚たちは、ロデニウス連合について話している。
オルカとしては、そんな蛮族ごときに我が軍が敗れたことが信じられなかった。その時だった。
突然、サイレンが鳴り響く。敵襲を告げる音であった。基地内が一気に騒然となる。
すぐに通信兵が走って来た。
そして報告した。
皇都エストシラントの南方から正体不明騎が1騎接近中、敵性勢力の可能性大、至急迎撃されたし……とのことだった。
オルカは慌てて出撃準備に取り掛かった。
「おい! 急いでくれよ!」
「わかっている! お前こそ遅れるなよ!」
オルカは相棒のワイバーンを竜舎から引っ張り出す。
「よし、行くぞ!!」
彼と相棒は空へと舞い上がった。
僚騎も次々と飛び立っていく。
しばらく飛ぶと、南の方角に何かが見えてくる。
「なんだありゃ!?」
それは奇妙な物体だった。
細長い筒状のような形をしている。
その両脇に、翼のようなものがついていた。
「あれが……ロデニウス連合の飛行機械なのか……? なんとも面妖な形だな……」
オルカはつぶやく。
「我々より高い位置を飛んでいるな……」
彼らは一気に高度を上げ始める。
「お、おい! あいつ、上昇限度より高い高度で飛んでる!!」
隣を飛行する僚騎が叫んだ。
ワイバーンの上昇限度は4,000m程度だが、それより遥かに高い位置にその飛行体はいた。
「ばかな!! あんな高さまで昇れるはずがないだろ! 化け物め!!」
オルカは叫ぶ。
B-17Gは高度8000m以上の高高度を、時速500km近い速度で飛翔していた。
ワイバーンは必死に追いかけるが、B-17Gに追いつくことはできない。
その差はどんどん広がっていく。
B-17Gは爆弾の代わりに搭載されたカメラでエストシラントの街を撮影している。
オルカたちとは既にその距離は200キロ以上離れていた。
ロデニウス連合の誇る最新鋭爆撃機B-17Gは、エストシラント上空に侵入し、皇都全域を撮影した後、悠々と帰還した。その後、皇宮には大量のビラがばらまかれた。
「これは……」
執務室でそれを読んだ皇帝は絶句した。
そこにはこう書かれていた。
『フェン王国、アルタラス王国に対する賠償』
そしてその下に細かい条件が書き込まれている。
・賠償金は、金貨にして約2億枚とする。
・二週間以内に、会談及び、要求締結のため使節団を派遣すること。
「な……何だとぉ!?蛮族どもがぁ!! 舐めた真似をしおってぇ!!!」
皇帝の怒りが爆発した。
「こうなったら、ロデニウス連合を殲滅してやる! あの蛮族の国を滅ぼして、二度と我が国に逆らえぬようにしてくれるわ!」
皇帝はそう決意すると、伝令兵を呼んだ。