中央暦1640年3月11日
「今日が最終日だが来ないな」
今日はパーパルディア皇国が要求締結のため使節団を派遣できる最終日だった。
しかし、この期に及んでもまだ皇国からは誰一人として使節が送られてきていない。
結局、使節団は誰も来ず交渉は決裂となったわけである。
その二日後。
「提督、緊急伝です!」
執務室に艦娘の大淀が勢いよく入ってきた。提督は書類から顔を上げる。
彼女は息を切らせながら、提督の机の上に手紙を置いた。
見ると、送り主はパーパルディア皇国。
内容は……殲滅戦の宣言であった。
曰く、ロデニウス連合は我が国に対し、宣戦布告もなく突如攻撃を仕掛けてきた。
よって、我が方はこれを自衛権の行使であると判断し、これよりロデニウス連合に対して殲滅戦を宣言するものである。
また、ロデニウス連合は蛮族であり、話し合いによる解決は不可能であるため、実力をもって制圧することをここに表明する。
列強たる我がパーパルディア皇国の正義と力によって、蛮賊どもに鉄槌を下すものである。
手始めにフェン王国を攻撃目標とし、同国への懲罰作戦を実施する
というような内容だった。
どうやら向こうさんはやる気満々のようだ。
「いいだろう。お望み通り、やってやる。戦争だ」
提督は不気味な笑みを浮かべると、大淀に命令を下した。
その2日後。
フェン王国の西の方に位置するニシノミヤコでは、沖合いを見張る監視所が設けられていた。
その見張り員の一人は、遠くから近づいてくる多数の帆船を発見した。
双眼鏡を覗き込むと、帆船の帆にパーパルディア皇国の紋章が描かれていることに気付く。
「敵襲! 敵襲ーっ!!」
彼は声の限り叫んだ。ニシノミヤコは慌ただしくなった。
防塁に立てかけられたバリスタには兵士が集まりつつあった。
やがて見張り員が報告したとおり、沖合いから多数の戦列艦が現れた。
「全砲門開け! 砲撃開始!!」
第6艦隊司令官バルスレイは命じた。
轟音とともに、大砲が火を噴き始めた。
フェン王国軍は、慌てて退避しようとするが、時すでに遅し。
砲弾が着弾し始めた。
戦列艦は、次々に砲撃を開始する。
その一発が、ニシノミヤコの城門を吹き飛ばした。
「ぎゃあああ!!」
「うわぁ!!」
城壁の上にいた兵士たちが、爆風で吹き飛ばされる。
ニシノミヤコは瞬く間に火の海になった。
バルスレイはその様子を満足げに見つめていた。
「ふむ……思ったよりも脆いな」
彼の乗る旗艦の甲板からは、炎に包まれたニシノミヤコの街が見える。
「よし! このまま進撃だ!! 港を破壊しろ!!」
「はっ!」
「撃ち続けよ!」
艦隊は、停泊することなく前進を続ける。
「蛮族どもめ。目にもの見せてくれるわ」
艦長は、不敵に笑う。
「しかし……あの国は何という国なのだ?」
バルスレイは疑問を口にした。
「何でも、ロデニウス連合とかいう国らしいですが……」
「聞いたこともない国だな。新興国か? まあよい。いずれにせよ、この調子で行くぞ!」
「はっ!!」
パーパルディア皇国艦隊はフェン王国を包囲するように進軍した。
「ロデニウス、貴様らがフェン王国を助けに来た時が破滅の時だ。精々、無駄な努力をしてみるんだな」
バルスレイはそう呟くと、笑った。
同時刻、トラック泊地執務室
「お前らの作戦はお見通しだよ」
提督はパーパルディア皇国がとった作戦を見抜いていた。
「さて、どうしますか? 」
大淀が尋ねる。
「こちらに夢中になっている間にパ皇本土を攻撃する。まずは第1艦隊をフェン王国に出撃させてくれ。次にロデニウス本土に接近する部隊がいるはずだから、それを叩く」
「了解しました!」
こうしてフェン王国救援、ロデニウス本土に接近する部隊の迎撃、パーパルディア皇国本土攻撃を含めた特号作戦が発動された。
3月14日、フェン王国救出艦隊、本土防衛艦隊、皇国本土攻撃艦隊が出撃した。
第1艦隊
戦艦「金剛」(旗艦)「比叡」
正規空母「翔鶴」「瑞鶴」
軽空母「龍鳳」「瑞鳳」
重巡洋艦「妙高」「那智」
軽巡洋艦「神通」「那珂」
駆逐艦「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「巻波」
第2艦隊
戦艦(旗艦)「Bismarck」「Scharnhorst」
正規空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」
重巡洋艦「高雄」「愛宕」「摩耶」
軽巡洋艦「Atlanta」「Nürnberg」
駆逐艦「時雨」「夕立」「綾波」「朝潮」「大潮」「満潮」「秋雲」「夕雲」
第3艦隊
戦艦(旗艦)「大和」
軽巡洋艦「阿賀野」「矢矧」
駆逐艦「秋月」「照月」「涼月」「初月」「冬月」「雪風」「浜風」「磯風」
その他、多数の艦艇が出撃していた。
ロデニウス連合の首都クワトリングにあるムー国大使館では、大使が執務室で考え事をしているところだった。
「失礼します! 緊急の報告が入りました!」
ノックもせずに、職員が飛び込んでくる。
「何事かね?」
「ロデニウス連合はパーパルディア皇国本土攻撃を計画中とのことです!!」
「なんだと!? それは本当なのか!!」
「はい! そのため、民間人を避難させてほしいとのことです」
「わかった。すぐに準備を始めよう。国民には徹底して警告を発するのだ」
ロデニウス連合がパーパルディア皇国を滅ぼそうとしていることは、既にムーにも伝わっていた。
この情報は神聖ミリシアル帝国にも届いており、列強諸国に衝撃を与えている。
(やはり、この国は侮れない……!!)
ムーの外交官は思った。
◆◆◆
パーパルディア皇国海軍、ロデニウス攻略艦隊旗艦「レクス・オキュラ」艦橋。
「艦長、ロデニウス連合とかいう連中についてどう思いますか?」
副長が尋ねた。
「蛮族どもの考えることなどわかるはずもない。だが、我が国に楯突こうというなら容赦はせん」
シウス将軍はそう答えた。
「それに奴らはフェン王国で手一杯だろう。我々の相手はできまい」
シウスは楽観的であった。
フェン王国は、我が軍の艦隊によって包囲されている。
いくらロデニウス軍が強力な兵器を持っていたとしても、蛮族どもが勝てる道理はない。
シウスは、ロデニウス軍を「蛮族の軍」と認識していた。
「まあ、ロデニウスなどという国があること自体、私は知りませんでしたがね」
「私もだ。しかし、蛮族は蛮族よ」
「確かにそうですね。まあロデニウス軍とやらも、我々には敵うまい!」
「うむ。そうだな」
シウスと副長は笑い合った。
この後襲い掛かる悪夢を知る由もなく……。
フェン王国、王城。
「私はパーパルディア皇国軍第6艦隊司令官バルスレイ少将だ。貴国はわが艦隊によって包囲されている! おとなしく降伏せよ!!」
「ふざけるな! 我が国を侵略する気か!?」
「侵略ではない。平和的な話し合いに来ただけだ」
「そんな見え透いた嘘に騙されるか!」
パーパルディア皇国第6艦隊はフェン王国の首都アマノキに砲撃を加え、多くの市民が死傷した。