中央暦1640年3月22日
パーパルディア皇国海軍、ロデニウス攻略艦隊。
「もうすぐだ! あと少しでロデニウス大陸に到達するぞ!」
シウス将軍は興奮気味に言った。
彼は部下たちに向かって叫ぶように言う。
「各艦は警戒を怠るな! 特に空には注意しろ!」
「了解!」
部下たちの元気の良い返事を聞きながら、シウスは笑みを浮かべた。
その時だった。
「艦長! 右側から敵騎!」
「なに?」
シウスは双眼鏡を手に取り、そちらの方向を見る。
確かに海面ギリギリの高度で、数機の飛行機が飛んでいるようだ。
「おい!対空魔力感知器はどうなっている!」
シウスは隣にいた乗組員に尋ねる。
「故障ではありません! ちゃんと作動しています!ですが……」
「なんだ? はっきり言え」
「はい。敵騎は、我々が装備している対空魔力感知器では捉えられないのです」
「どういうことだ!?」
「はい……。敵は、我々の知らない魔法を使っているようです!」
「なんだとぉおおお!!」
シウスは絶叫した。
見張り員は敵騎が、どんどん大きくなっていくのを見ていた。
敵はまっすぐこちらに向かってきている。
すると敵騎は何かを海に投下し始めた。
それは海に落ちると白い線を伸ばしながらこちらに近づいてくる。
見張り員はそれが何なのかわからなかったが、本能的に危険を感じた。
「なんだあれは!?」
「わかりません!!」
見張り員は、次々と投下される物体の正体がわからず混乱していた。
「落ち着け!! とにかく海面の白い線を躱かわせ!!」
シウスの命令を受け、全艦艇が回避行動を取る。
しかし、時すでに遅し。
その白い線は戦列艦に突き刺さると、凄まじい大爆発を起こした。
「なっ!?」
シウスは絶句する。
戦列艦は一瞬にして火だるまとなり、轟沈した。
「敵は何をしている!?」
「わかりません! 海に落ちたものが爆発しています!!」
「クソッ! いったいなにが起きている!?」
次の瞬間、さらに信じられないことが起きた。
「敵騎直上急降下!!」
見張り員の声が響く。
「なんだと!?」
見上げると、そこにはこちらへ向かってくる敵の飛行機械の姿があった。
敵は真っ直ぐに突っ込んでくる。
その動きは、まるで獲物を狙う鷹のようであった。
飛行機械は竜母の上空で何かを落とした。
それは竜母に直撃すると大爆発を起こす。
ドオオオオン!! 凄まじい爆音とともに、船体が真っ二つに引き裂かれた。
その威力を見て、シウスは悟った。
(あの兵器……我が軍の魔導砲に匹敵する破壊力がある!)
彼は、敵の飛行機械が爆弾を積んでいることを瞬時に理解した。
そして、それは的確に命中させたことから、自分たちが相手にしているのは素人ではないということがわかった。
彼らは、自分たちの実力を正確に把握した上で、戦いを挑んできたのだ。
そうでなければ、こんな真似はできないだろう。
シウスの背中に冷たい汗が流れる。
敵の飛行機械は、次々に爆弾を落としてくる。
そのたびに、戦列艦が破壊されていく。
「おのれぇ!! 蛮族どもめ!」
シウスは叫んだ。
その声には、焦りの色が含まれていた。
「敵艦隊発見!! 13時の方向!!」
見張り員が叫ぶ。
シウスは、双眼鏡を覗き込む。
確かに13時の方向に、敵艦隊らしきものが見える。
それはとてつもなく大きい大きな船だった。
どの船にも巨大な魔導砲が搭載されている。
しかも、その数は10隻以上あるように見えた。
「でかい……」
シウスは呟いた。
すると
「敵艦発砲!」
という叫び声が上がった。
彼は慌てて、敵の攻撃に備えるよう指示を出す。
その直後、シウスは見た。
パーパルディア皇国の艦隊に砲弾が降り注ぐ光景を。
驚愕の表情を浮かべるシウス。
彼の視界には、敵艦から放たれたと思われる砲撃が、パーパルディア皇国艦隊に降り注いでいる姿が映っていた。
戦列艦が一撃で大破炎上し、沈んでいく。
「ばかな……」
シウスは絶句した。
たったの1発で戦列艦が沈むなどということは、常識では考えられないことであった。
彼の目には、戦列艦の防御力が紙のように破られているようにしか見えなかった。
「将軍!敵艦突撃してきます!」
「なにぃ!?」
シウスは我に返って、前方を見た。
確かに、敵艦隊はまっすぐこちらに向かってくる。
(やはり蛮族だな。接近しての白兵戦で勝てると思っているのか?)
シウスは思った。
「各艦、砲撃用意!」
シウスは命令を下す。
あとは魔導砲の射程圏内まで引きつけてから撃てばいいだけだ。
彼は勝利を確信していた。
一方的に攻撃できると確信していた。
しかし……敵艦はまっすぐ突っ込んできた。
まるで、こちらの攻撃を恐れていないかのように……。
次の瞬間、敵の魔導砲から発砲炎が上がる。
同時に、戦列艦も轟沈した。
「バカな!?」
シウスは叫んだ。
20ノット以上の速度で敵は攻撃を仕掛けてきたのだ。
「面舵一杯!! 避けろ!!」
シウスは命じた。
しかし、回避行動をとる間もなく、戦列艦が2隻撃沈された。
「おのれぇえ!!」
シウスは激怒した。
なんとしても敵を撃滅しなければならない。
だが、魔導砲の射程圏外から一方的に撃たれているため、どう対処すれば良いかわからなくなっていた。
「敵艦3隻が我が艦隊の側面に回り込もうとしています」
見張り員が報告する。
シウスは双眼鏡を覗いて確認する。
敵艦が3隻、戦列艦の側面に回ろうとしていた。
「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」
「綾波が、守ります!」
「しっ! 来んな、来んなよ!」
敵艦からそんな言葉が聞こえてくる。
その声を聞いた瞬間、シウスは背筋が凍るような感覚に襲われた。
なぜそう感じたのかはわからない。
ただ、シウスは本能的に危険を感じたのだ。
その予感は的中する。
敵艦が側面を見せたとき、ものすごい数の発砲炎が上がった。
「回避ィイ!!」
シウスの命令を受け、全艦艇が回避行動を取る。
だが間に合わず、数隻の戦列艦が敵の魔導砲によって撃沈される。
戦列艦が大爆発を起こし、黒煙を上げる。
「なんだとぉおお!!」
シウスは絶叫した。
信じられない光景だった。
たかが蛮族に、列強パーパルディア皇国が翻弄されているのだ。
「ば……馬鹿な……」
シウスは呆然としながら呟いた。
「将軍! 敵の飛行機械が!!」
見張り員の声が響く。
見上げると、また敵の飛行機械が爆弾を落としてくるところであった。
ドオオン!!という音が響き渡る。
戦列艦が真っ二つに割れた。そして、船体が爆散した。
「うわぁああ!!」
「ひいぃいい!!」
悲鳴があちこちで上がる。
シウスは、その光景を見て震え上がった。
恐怖が全身を駆け巡る。
彼は生まれて初めて、死というものを意識した。
そして、彼が乗る戦列艦も敵の攻撃を受ける。
幸いにも至近弾であったが、その衝撃で戦列艦に穴が開いた。
彼はそれを見ると、すぐに命令を下した。
「総員退艦せよ!! 急げぇ!」
彼は叫んだ。
戦列艦の船員たちは、甲板から海へと飛び込んでいく。
彼はそれを横目で見ながら、艦橋から脱出していった。
シウスには、もはやこの艦と共に運命を共にするつもりはなかった。
パーパルディア皇国海軍ロデニウス攻略艦隊は、旗艦を失い全滅した。
ロデニウス沖海戦 終わり
「パーパルディア皇国艦隊、全滅しました!」
「よし!!」
通信士の報告を聞き、提督は笑みを浮かべた。
「重爆撃機隊に伝令だ! パーパルディア皇国皇都エストシラント軍事基地を爆撃しろ!」
「了解!」
アルタラス王国王都ル・ブリアス郊外 ルバイル基地
ムー国が「ルバイル空港」と呼んでいる飛行場である。
そこには、大型の航空機が並べられていた。
「B-17G」と呼ばれる機体だ。
全部で30機あるだろうか。
1機ずつ滑走路に侵入し、飛び立って行った。
目標は、パーパルディア皇国皇都エストシラント軍事基地。
後の歴史書では340機以上の飛行機械が、パーパルディア皇国の主要都市や施設を攻撃し、激しい地上戦が本土各地で展開されたと言われている。
また、その攻撃の凄まじさから、「魔の一ヵ月間」などとも呼ばれている。その魔の一ヵ月間の幕開けとなった攻撃だった。