空襲から数時間後の皇都エストシラント、パラディス城内のパーパルディア皇国皇軍司令部では、緊急会議が行われていた。
出席者は、皇軍最高司令官のアルデ将軍をはじめ、参謀や各部署の長など合わせて二十数名。
「それで、被害状況はどうなっている?」
アルデが質問する。
「はっ、現時点で判明しているだけで、死者・行方不明者あわせて2万人以上、負傷者は重軽傷者合わせて1万人以上となっております。さらに未確認情報ではありますが、リゼルの工場地区の被害も甚大なものとなっている模様でありまして……」
「馬鹿な……我が軍の精鋭たちが……そんな簡単に……全滅したというのか?」
その報告を聞き、アルデの顔が蒼白となる。
「はっ! 残念ながら事実のようでして……。敵の規模は不明ですが、敵の飛行機械は我々のワイバーンロードよりも遥かに高性能の兵器を持っていると思われます」
「何だと!?」
「敵の飛行機械は、ワイバーンロードの倍以上の速度で飛び回り、一方的に攻撃を行っています。しかも、上昇限度は4,000mよりも遙かに高く、とてもではありませんが我々では太刀打ちできません」
「なんてことだ……」
会議室は重苦しい空気に包まれた。
「しかし、このまま黙って見ているわけにはいかない。我々は誇り高きパーパルディア人だ。ここで尻尾を巻いて逃げ出すようなことは許されないのだ!」
アルデの言葉に、その場にいる者たちは力強くうなずいた。
「しかし、どうすればいいのだ? ワイバーンロードでは、あの飛行機械を相手にするのは厳しいだろう?」
「最新鋭のワイバーンオーバーロードならどうでしょうか?」
ワイバーンオーバーロードは、ワイバーンロードの上位種である。
最高速度は時速430㎞に達し、旋回能力、戦闘行動半径共にワイバーンロードを凌駕している。
「ワイバーンオーバーロードは、まだ配備が始まったばかりだ。訓練が十分ではない。それに、ワイバーンロードより高価だ。予算を回せるかどうか……」
「しかし、他に手があるのですか?」
「……」
会議室にいる面々は沈黙した。
「海軍の損害も無視できない状況です。皇都防衛艦隊、第6艦隊は壊滅し、降伏。ロデニウス本土攻略艦隊は全滅しました。残存戦力は、第4、5、7艦隊のみです……」
「そんな……海軍戦力の半分が失われたというのか……」
「はい……」
アルデは再び頭を抱えた。
◆◆◆
数日後、パーパルディア皇国陸軍デュロ防衛隊基地にて。
「なんということだ……我が国がここまで追い詰められるとは……」
基地司令官であるストリームは、部下の報告を受けて絶句していた。
「敵は、おそらく近いうちにここデュロを攻撃するでしょう」
「わかっている。敵は皇都を攻撃したらしいな。ということは、次はここだ」
「はい。そして敵の飛行機械は、ワイバーンロードの倍程度の速度が出ています。高度もそれ以上に高いということです」
「そうだな。となると、奴らはこの基地を爆撃するつもりなのか?」
「まず、飛行場を潰してから都市部への攻撃を行うはずです」
「そうか……そうなれば、ここは終わりか……」
基地内の司令部は重い雰囲気に支配されていた。
「ところで、対空魔光砲はどうなったんだ?」
「問題なく稼働しますが、魔術回路が複雑で、解析が間に合いません。現状では、複製はできません」
「そうか……まあ、仕方あるまい。あれは超がつくほどの技術だからな……」
「はい……」
基地内に再び静寂が訪れる。
「この基地を放棄するしかないかもしれんな……」
基地司令であるストリームは、ぽつりと呟いた。
同じころのトラック泊地では
「作戦計画概要をご説明します」
大淀の聞き飽きたセリフと共に会議が始まった。
そして黒板には「春の目覚め作戦」と書かれた文字と矢印が書き込まれている。
◆◆◆
ロデニウス連合のとある軍港では、大勢の人がロデニウス連合の国旗手旗を振りながら出航する軍艦や輸送船を見送っていた。
その中には、家族や恋人といった大切な人たちに見送られている者もいる。
「それじゃあね」
「ああ、またな」
「元気でね」
「そっちも」
そんな短い別れの言葉を交わして、男女が別れた。そして男は船に乗り込むべく階段を上り、女は桟橋の上でいつまでもその背中を見送った。
やがて男を乗せた船はゆっくりと動き出し、港を出て行く。