中央暦1640年4月 パーパルディア皇国皇都エストシラント 皇宮パラディス城 皇軍最高司令部会議室
「報告します・・・デュロがロデニウス連合の攻撃により陥落しました。なお、残存部隊は降伏したとのことです」
会議室に重苦しい空気が流れる。
デュロは皇国最大の工業都市であり、皇国軍の武器や弾薬の生産拠点でもあった。
そこが陥落したということは、補給能力を大幅に失ったことを意味した。
「何ということだ……」
将軍の一人が呆然と呟いた。
「現在、属領統治軍を撤収させ、兵力を集結させてデュロ方面に向かわせております。また、予備役を招集し、いつでも動員できる体制を整えました」
皇軍最高司令官アルデが現状を説明する。
「各都市が航空攻撃により、かなりの被害を受けています。特に工場は壊滅的です」
「港湾都市マジェランも、造船所、ドック、倉庫群が攻撃を受けました。また、第4艦隊も敵の超大型艦との戦闘により全滅しました」
「魔石鉱山地帯もです」
次々と報告がなされていく。
既に、皇国領内の都市や基地は大打撃を受けていた。
皇国は、ロデニウス連合に対し、大規模な反撃を行うべく準備を進めていたのだが、それも頓挫してしまった。
地獄のような会議は数時間も続いた。
◆◆◆
4月5日
パーパルティア皇国軍、東部方面軍は、皇国内に侵攻してきたロデニウス連合軍と熾烈な戦いを繰り広げている。
ロデニウス連合軍は異常な進撃速度を見せ、瞬く間に皇国の東部方面侵攻軍は窮地に立たされていた。
主力部隊の20万人の兵は包囲されつつあり、各地で激戦が繰り広げられている。
パーパルディア皇国の属領統治軍が撤収した各地の属領では、武装蜂起が発生した。
これが、ロデニウス連合の「春の目覚め作戦」であった。
属領統治軍の撤収、アルタラス王国王女ルミエスによる属領に向けた演説。
この二つが合わさり、蜂起へとつながったのだ。
鎮圧部隊を送り込んだものの、ゲリラ戦法をとる反乱軍に対して有効な対策が取れず、被害ばかりが増大していた。
さらに、第三文明圏の国々がパーパルディア皇国に宣戦布告。
これにより、戦局は悪化の一途を辿っていた。
◆◆◆
4月10日
東部方面に増援部隊として派遣されていた第3軍団は、一本の道を進軍していた。
突然、ブーンという音が聞こえたかと思うと、飛行機械が現れ、第3軍団の上空を飛び去っていった。
「なんだあれは? ワイバーンか?」
第3軍団の指揮官は首を傾げた。
しかし、今見たものは、明らかに違うものであった。
「ファシスト共に死を! ファシスト共を殺し尽くせ!」
Il-2のパイロットが叫ぶ。
その声は、無線を通じて僚機に届いていた。
そして、ロケット弾の発射ボタンに指をかける。
「撃て!」
彼の叫びと同時に、無数のロケット弾が放たれた。23mm機関砲も撃ちまくる。
敵兵の体がバラバラに砕け散る。
「うわああぁ!!」
「助けてくれえぇ!!」
悲鳴を上げながら逃げ惑う皇国軍兵士。
彼らの後方で爆発が起こる。炎が舞い上がり、黒煙が上がる。
まるで、地獄の光景だった。
一方的な虐殺だ。
「畜生!なんなんだあいつらは!」
「あんなものまで持っているのか!」
皇国兵たちは、混乱しつつも必死に応戦する。
しかし、空からの攻撃にはなすすべがなかった。
「ちくしょう! こんなところで死んでたまるかよ! 俺はまだ死にたくないぞ!」
皇国軍の兵士たちが、次々と命を落としていく。
爆弾が馬車の近くで炸裂し、横転して馬が暴れる。
馬に乗っていた兵士が振り落とされ、地面に叩きつけられた。
「おい、しっかりしろ! 死ぬんじゃない!」
別の兵士は倒れた仲間を助け起こそうとする。
だが、次の瞬間、 7.62mm弾が、その兵士を撃ち抜いた。
「ぎゃああっ!」
断末魔の絶叫。
「お、おい……そんな馬鹿な」
仲間の無残な姿に、唖然とする。
「た、助け……ぐふっ」
助けを求めようとした兵士も、背中に銃弾を受けて息絶えた。
皇国兵たちは、絶望に包まれつつあった。
◆◆◆
4月13日
東部方面軍司令部では、将軍たちが集まり、戦況について議論を交わしていた。
「現在、ロデニウス連合の侵攻は止まっておりますが、依然として我が方の優勢とは言いがたい状況です」
「ロデニウスの奴らめ、一体どこからあの兵器を手に入れているんだ!?」
将軍たちが口々に不満を述べる。
「現在、敵の補給線を遮断すべく、各部隊を派遣しております」
「しかし、敵の攻勢は激しさを増すばかりで、とても阻止できそうにありませぬ」
「敵の新型兵器による攻撃も苛烈を極め、被害ばかりが増大しております。このままでは戦線の維持すらおぼつきません」
報告を聞いた将軍の一人は頭を抱えた。
「まさか、ここまで一方的にやられるとは……」
「敵は我々よりも強力な武器を持っているようだ。我が国の魔導砲を上回る射程と威力を持つ兵器らしいではないか。いったいどうやってそれを手に入れたのだ?」
「それがわかれば苦労はない。敵の情報はまったく入ってこないし、敵の装備も謎だらけなのだ」
会議場が重苦しい雰囲気になる。
「何か対策を立てなければ……」
「対策と言っても、我々はただひたすら防戦に徹することしかできないだろう」
会議場がざわめく。
その時、伝令兵が会議室に飛び込んできた。
「申し上げます! 敵軍の航空攻撃により、第3軍団が壊滅いたしました!」
「なんだと!?」
第3軍団といえば、第1、第2軍団と並ぶ精鋭である。
「第3軍団の生存者はいるのか? 」
「現在、確認中であります。」
「すぐに確認せよ! 急げ!」
「はッ!」
伝令兵は敬礼すると、走り去った。
「第4軍団は大丈夫なのか?」
「第4軍団は現在、北方の山岳地帯を進軍中でありまして、敵の攻撃範囲外となっております。そのため、現在のところは無事と思われますが……」
「わかった。しかし、この事態を早く知らせねばなるまい。通信兵! 至急、第4軍団に連絡を取れ!」
しかし、第4軍団は連絡がつかなかった。
「どういうことだ? 第4軍団からの応答がないぞ」
「魔信障害でしょうか?」
「それにしてもおかしい……。通信兵! もう一度呼びかけろ!」
「はっ!」
再び、伝令が走る。
◆◆◆
第4軍団はそれどころではなかった。反乱軍との戦闘の最中であったからだ。
「ちくしょう!!なんなんだあいつらは!!」
皇国兵の叫び声が聞こえる。
敵兵の悲鳴が響き渡る。
「殺せぇー!!」
「皆殺しだぁ!!」
狂気に満ちた言葉が飛び交う。
「怯むな! 撃ち返せ!」
「撃て! 敵を殲滅しろ!」
両軍の兵士の声が響く。
戦場に銃声が轟き、悲鳴が上がる。
「クソ! なんて数だ!」
「多すぎる! どうなっているんだ!」
双方ともに多数の死傷者を出し、血で大地が染まる。
まさに地獄絵図だった。
「突撃ぃ!!」
反乱兵の怒号が聞こえた。
「なんだ!?」
見ると、反乱軍が槍を構え、突進してくるところだった。
「しまった! 伏兵か!」
慌てて応戦する。
「うわあああ!」
「ぐえぇ!」
皇国兵が槍に突かれてと倒れていく。
「ちくしょう!」
「よくも仲間を!」
味方が次々と倒されていく光景を見て、怒りに燃える。
「ぶっ殺してやる!」
「死ね!」
「覚悟しろ!」
「かかってこい!」
皇国兵たちは銃を構えると、反撃を開始した。
「ぎゃああっ!」
「ぐふっ!」
皇国兵たちの銃撃を受け、反乱兵が倒れる。
「やった!」
「ざまあみやがれ!」
皇国軍の士気が高まる。
「まだ来るぞ!気をつけろ!」
「畜生め! 死にさらせ!!」
激しい攻防戦が数時間続いた。
◆◆◆
「申し上げます!第4軍団との連絡が取れました!」
「おお、そうか。それで、第4軍団は今どこにいるのだ?」
「現在、反乱軍と交戦中のようです」
「交戦中だと!?」
将軍たちは驚愕した。
「まさか、全滅したというのか?」
「いえ、戦闘は継続中の模様。しかし、敵の攻勢が激しく、苦戦しているとのことです」
「そうか……」
将軍たちが沈黙する。
「しかし、いつまで持ちこたえることができるのだろうか?」
「このままでは戦線が崩壊しかねない」
将軍たちが顔を見合わせる。
「ロデニウス連合の奴らめ……」
その時、2人目の伝令が駆け込んできた。
「失礼します!中央主力部隊より緊急報告がありました!」
「なんだ?」
「現在、敵に包囲された模様。救援を要請しております!」
「何!?」
会議室がざわめく。
「敵の規模はどれほどなのだ?」
将軍の一人が尋ねる。
「それが……敵の規模は不明。現在、中央部隊は敵軍の包囲網の中で孤立しています」
「バカな!?」
「そんなことが……」
会議室が再びざわめく。
敵の異様な進撃速度に誰もが驚きを隠せなかった。
◆◆◆
4月19日
西部方面軍の司令官も頭を抱えていた。
ロデニウス連合、パンドーラ大魔法公国とマール王国、反乱軍の対処のため、戦力を分散せざるを得なかった。その結果、各個撃破される形となり、戦況は悪化の一途を辿っていた。
(これはマズいことになった)
彼は焦りを感じていた。
敵は非常に強力なようだ。その証拠に、たった数日で防衛線は崩壊しつつある。このままではまずい。なんとかしなければ……。
彼は思考を巡らせた。
(アルーニから援軍を送るか?)
しかし、すぐに思い直す。
ダメだ。とても間に合わないだろう。それに、あの地域は最前線に近い。下手をすればこちらが挟撃されてしまう。
では、どうするか? 彼が考えていると、伝令が入ってきた。
「失礼いたします!」
「今度はなんだ!?」
思わず怒鳴ってしまう。
「アルーニ地方より連絡が入りました!」
「なんだと? それで内容はなんだ?」
「はッ! 敵の部隊がこちらに向かっており、あと3日ほどで到着する模様!」
「なんだとぉー!!」
彼は叫んだ。
「敵の動きが早すぎる!どういうことだ!」
彼は狼のように吠える。
「とにかく迎撃の準備だ! 急げ!」
伝令が走り去る。
(クソ! なぜこうなったんだ!)
彼には分らなかった。