ありがとナス!
中央暦1640年4月22日 パーパルティア皇国 アルーニの街。
平和だったこの街も今は戦場と化していた。
街の西からは連合軍、北からは反乱軍が迫っている。住民達は、必死に避難を進めていた。
しかし、無慈悲にも150㎜砲の砲弾が降り注ぐ。
住民達が悲鳴を上げながら逃げ惑う。
「助けてくれぇ!」
「殺されるぅ!」
「きゃああああああ!!」
砲弾が次々と着弾する。
そして、爆風と衝撃が襲う。
「うわああああああ!!!!」
「ぎゃああっ!」
人々が吹き飛ばされ、あるいは倒れる。
砲撃により建物が倒壊する。
「ひぃっ! 助けてぇ!」
「もう駄目だぁ!」
「神様お許しください!」
恐怖に怯え、人々はパニックに陥る。
「ちくしょう!なんでこんなことに!」
「嫌だよ!死にたくないよ!」
「どうして俺たちが死ななけりゃならないんだよ!」
人々の嘆きが響き渡る。
しかし、彼らの叫びはすぐに止むことになる。
ドゴォン!!
「うわああ!!」
爆発音と共に人が宙を舞う。
皇国軍は魔導砲の砲撃だと理解したが、何処から撃たれているのかはわかっていなかった。
「どこからだ!?」
「わかりません!」
「探せ!探し出せ!」
しかし、見つかることはなかった。
代わりに、敵の大軍が接近していることを知る。
「敵軍です!数およそ5万!」
「なに!?」
5万人という数字を聞いて、誰もが驚愕した。
(バカな!いくらなんでも多すぎないか?)
彼らは知らなかった。敵の侵攻速度が異常であることを……。
「き、北側からも敵が来ています!」
「なんだと!?」
「数は3万以上!このままでは包囲されます!」
「全部隊に伝えろ、可能な限り持ち場を死守せよ!」
「は、はい!」
伝令が走る。
◆◆◆
西側防衛ライン
「敵が来たぞ!」
鉄の怪物を先頭に、歩兵の大軍が続く。
「何だ、アレは?」
兵士たちは困惑する。
「戦車だ……」
誰かが呟いた。その言葉に誰もが反応する。
「センシャ?」
「聞いたことがあるな。確か、ムーの兵器じゃなかったか?」
兵士の一人が思い出したように言う。
「そういえば、前に読んだ新聞に載っていたような……」
「まさか実物を見るなんてな……」
誰もが呆然と見つめていた。
すると、指揮官が叫ぶ。
「撃てぇー!!」
号令と同時に魔導砲の砲撃が始まる。
轟音が鳴り響き、砲弾が飛んでいく。
しかし、戦車に命中したものの、塗装を焦がすだけに終わった。
(硬い……)
兵士達は戦慄を覚える。同時に絶望感を覚えた。
今度は、戦車の反撃が始まった。
「敵戦車発砲!」
兵士が叫ぶ。
次の瞬間、砲弾が爆発した。
「うわああ!」
爆風で吹き飛ばされる者、倒れ込む者が続出する。中には重傷を負った者もいた。
魔導砲も数門が破壊された。
「負傷者は後方に下がれ!」
「すぐに治療します!」
衛生兵が駆けつけるが、その表情には焦りがあった。
「ちと砲撃が甘かったようだな。フンメルに支援砲撃を要請しろ」
「はい!」
そう言われた武装SS隊員がフンメルに座標を送信する。
すると、しばらくして空から砲弾が降ってきた。
「おお!」
砲弾は敵部隊に直撃し、爆発する。
爆風と破片が、敵兵を吹き飛ばし、殺傷する。
「くそっ!!またあの砲撃だ!!」
「なんなんだ?いったい、どこから攻撃されているんだ!?」
皇国兵は悪態をつく。
彼らにとって未知の敵であった。
「クソッ!どこからだ!」
「わからん!」
皇国軍は混乱していた。
追い打ちをかけるように機関銃の弾丸が飛来する。
「ぐあああっ!!」
銃弾を受けた皇国兵の身体に穴が開き、血飛沫が上がる。
「うわああ!」
「助けてくれぇ!!」
阿鼻叫喚の地獄絵図となる。
「後退だ!下がるんだ!」
指揮官の命令により、市街地へ撤退する。
「西側の部隊が市街地へ後退しました。このままでは挟み撃ちにされます!」
伝令の報告を聞き、指揮官は決断を下す。
「仕方ない、防衛ラインを下げる!全軍、南の街道まで撤退せよ!」
「了解です!」
命令を受け、部隊は一斉に動き出す。
アルーニ基地司令部では、状況報告が行われていた。
「西側、北側の部隊が市街地まで後退しています」
「敵はムーの戦車を有するようです。我が軍の魔導砲でも破壊できませんでした」
部下の言葉に、司令官は顔をしかめる。
「ムーの兵器だと!?なぜ奴らがそんなものを持っているのだ?」
「わかりません」
「チィ!忌々しい連中め!」
司令官は苛立ちを隠せない。
「とにかく、今は敵の侵攻を止めることが先決です」
「うむ、そうだな」
司令官は指示を出す。
「歩兵部隊を市街に展開させ、敵を迎撃させる」
「はい、直ちに」
伝令が走り去る。
しかし、この判断は後に間違いだったと気づかされることになる……。
◆◆◆
皇国軍は、市街地への撤退に成功したものの、苦戦を強いられる。敵は圧倒的な火力を有していたからだ。
「クソッ、何なんだあいつらは!?」
「知らねえよ!それより、どうするんだよ!」
「敵の攻撃が激しいぞ!」
「なんとか持ちこたえろ!」
「うわああ!」
兵士の悲鳴が響く。
その時、上空からサイレン音が聞こえてきた。
「ん?」
見上げると、無数の飛行機械が急降下してきた。
「敵機急降下!!」
「なにぃ!」
慌てて武器を構える。だが、その必要はなかった。なぜなら、彼らの目の前に爆弾が投下されたのだから……。
ドガアアン!!
大爆発が起こり、大量の土煙が舞う。建物は崩れ落ち、瓦礫の山ができ、多くの兵士が死傷した。
「後方より、味方ワイバンーン!!」
「おお!!」
歓喜の声があがる。
しかし、それは悪手となった。
援軍として駆け付けた、皇国軍竜騎士団は敵地上部隊と引き返してゆく敵飛行機械に集中していた。
「上空! 敵騎だ!」
「しまった!!」
気づいた時には遅かった。
Bf109G「メッサーシュミット」の13㎜機銃と20㎜機関砲が火を噴いた。
ダダダッ!!
連続した銃声が響き、竜騎士の身体がバラバラになる。
MG 151/20の薄殻榴弾を喰らった者は、ミンチ肉と化する。
体制を立て直し、反撃しようとする者もいたが、最高速度、機動性の差で追いつけず、逆に撃墜されるか、逃げ回ることになる。
メッサーシュミットを無視して地上部隊を攻撃しようとした者は、対空戦車の攻撃によって阻止され、返り討ちにあう。
「なっ……!」
「バカな……」
「こんな事が……」
次々と撃ち落とされていく同胞を見て、皇国兵達は言葉を失う。
その光景はまさに悪夢であった。
ついに連合軍と反乱軍はアルーニの市街地へ突入する。
「突撃ーッ!」
「進めェ!」
連合軍と反乱軍の兵士たちが、市街地へと殺到する。
「撃て! 撃て!」
「殺せぇ!」
両軍の兵士が入り乱れる。
銃弾や砲弾が飛び交い、爆発が起こる。
「うわああ!」
「ぎゃあ!」
死体が転がり、血が流れる。
逃げ遅れた民間人も容赦なく攻撃され、死んでゆく。
地獄のような戦場であった。
「うおぉ!」
「死ねい!」
剣を持った反乱軍兵士が斬りかかる。
ガッ! ザシュッ!
「ぐああっ!!」
斬られた男は倒れる。そして、動かなくなった。
ある建物に反乱軍が高濃度の亜硫酸ガスを撒き散らす。
立てこもっていた皇国兵は、咳込み、苦しみだす。
耐えられずに建物から飛び出すが、そこに待ち構えていた反乱軍の弓兵により射殺される。
また別の建物の屋上には、武装SS隊員が大通りに展開している皇国兵に向けて、銃弾をばらまいている。
混乱している皇国兵の前にティーガーI Eが姿を現す。
機関銃を連射しながら、皇国兵をなぎ倒していく。
「撃て! 撃つんだ!」
皇国兵が叫ぶ。
だが、すでに遅い。
「うおっ!?」
発射された榴弾は、魔導砲に着弾。爆発を起こす。
密集していた皇国兵たちは木端微塵となる。
皇国軍は市街地の各所に陣地を構築していたが、連合軍と反乱軍の攻撃により次々に撃破されていく。
アルーニ基地司令部には、続々と報告が入る。
「市街地北区の部隊と連絡が取れません!」
「東区では逃げ遅れた市民が反乱軍に虐殺されています!」
「教会付近に展開している第5小隊が援軍を要請しています」
司令官は顔をしかめる。
戦況は悪化の一途を辿っている。
◆◆◆
教会付近では第5小隊と援護に駆けつけた第11中隊が交戦していたが、敵の数が多く苦戦していた。
「畜生!敵が多すぎるぞ!」
「怯むな! ここで敵を食い止めるのだ!」
隊長が激を飛ばす。
しかし、状況は絶望的だった。
「うわああ!」
「た、助けてくれえ!!」
味方が次々と殺されてゆく。
敵の銃は射程、威力、連射性においてこちらを上回っている。
それでも、彼らは勇敢に立ち向かう。
「諦めるんじゃない!」
「そうだ! 俺達が奴らを足止めするんだ!」
「そうよ! 私達の街を守るのよ!」
女性魔導士も必死になって戦う。
敵の戦車が現れ、魔導士が爆裂魔法を放つ。
ドガアアン!!
大爆発が起きる。
爆裂魔法はⅣ号戦車H型の操縦手用の覗き窓に直撃した。
「うわぁっ!」
彼は操縦を誤り、Ⅳ号戦車は近くの建物へ突っ込んだ。
「やったか?」
煙が晴れると、そこには無傷の敵戦車が見えた。
「そんな……」
絶句する。
敵戦車の魔導砲がこちらに向く。
「退避ぃーッ!!」
隊長の声が響く。しかし、もう遅かった。
砲弾が放たれ、近くにいた兵士を吹き飛ばした。
「ぎゃあ!」
「うげっ!」
「ぐぅ……」
仲間が倒れ、うめき声をあげる。
機関銃の弾幕が途切れることは無い。
生き残った兵士達は恐怖で顔を引きつらせる。
追い打ちをかけるように、敵の歩兵が襲いかかってきた。
「死ねーッ!」
ダダダッ!!
「ぐっ……」
「がはッ……!」
次々と兵士が倒れる。
皇国軍の兵士は、圧倒的な火力を前に為す術がなかった。
ついに教会内部に連合軍が侵入してきた。
「撃て! 撃ちまくれぇーッ!」
分隊長の怒号が飛ぶ。
「うおお!」
「死にさらせェ!」
皇国兵は必死に迎え撃つ。
だが、連合軍の勢いを止めることは出来ない。
M24型柄付手榴弾が投げ込まれる。
この手榴弾は爆圧で相手を殺傷するため、閉鎖空間では高い殺傷力を発揮する。
爆発音と共に、皇国兵の悲鳴が聞こえる。
「うわああ!」
「ぐわッ!!」
さらに火炎放射器による炎が襲う。
ゴオオオオッ!
という音がして、瞬く間に皇国兵に火がつく。
「熱いィイイッ!!!」
皇国兵はのたうち回り、やがて動かなくなる。
教会内部はたった数分で制圧された。
教会の屋上に狙撃兵が陣取り、皇国兵に対して銃撃を加える。
「クソッ! 奴らめぇ!!」
皇国兵が叫ぶ。
その瞬間、彼の頭を撃ち抜かれて死亡した。
「なんだ!?」
「どこから撃たれた!?」
「おい! あそこだ!」
皇国兵が指差した先は、教会の屋上であった。
◆◆◆
地獄の市街戦は数時間続いた後、終わりを告げた。
連合軍、反乱軍、皇国軍兵の死体が至る所に転がっている。
市街地には戦闘の爪痕が深く刻まれていた。
「勝ったのか……」
誰かが呟いた言葉に答える者はいない。
誰もが勝利の余韻に浸っていたからだ。
こうして、アルーニ攻防戦は連合軍と反乱軍の勝利に終わった。
この戦いで皇国軍は12万人以上の戦死者、負傷者を出し、1万人が捕虜となった。
連合軍と反乱軍は2000人以上の戦死者と4000人近くの負傷者を出した。
アルーニ市民の被害は死者1000人以上、負傷者は5000人を超した。