中央暦1640年5月3日 神聖ミリシアル帝国、港街カルトアルパスのとある酒場。
今日は週1回の「世界のニュース」が放送される日であった。
そのニュースを楽しみにしている人々が集まる中、水晶体の画面が光り、司会の男が口を開いた。
「えー、皆さんこんにちは。今週の『世界のニュース』の時間となりました。本日は第三文明圏より、パーパルディア皇国に関するニュースをお送りしたいと思います」
『パーパルディア皇国、無条件降伏』
画面にテロップが表示され、アナウンサーが説明を始めた。
「4月28日から5月1日の4日間にかけて、パーパルディア皇国の首都エストシラントでは激しい市街戦が繰り広げられました。その結果、市街地はほぼ全域が制圧され、皇宮は陥落しました」
アナウンサーの後ろのスクリーンに赤旗を掲げられたパラディス城が映し出される。
パーパルディア皇国の降伏調印式の映像が流れた後、アナウンサーの説明が続く。
放送が終わると、商人や酔っ払いがワイワイと話し始める。
「いやあ、一時はどうなるかと思ったけどね」
「これで平和になるといいんだがなぁ……」
◆◆◆
神聖ミリシアル帝国、帝都ルーンポリス、帝国情報局の局長室。
部屋の主である情報局長アルネウスは頭を悩ませていた。
「困ったことになったものだ……」
彼は呟いた。
列強パーパルディア皇国が、文明圏外国のロデニウス連合に敗北したのだ。
これは彼にとって衝撃的事実であった。
「まさか、文明圏外国の国家がこれほどの実力を持っていたとは……」
アルネウスは顎に手を当てて考え込む。
列強国が文明圏外国に敗れたのは2回目である。
今回のロデニウス連合と少し前に現れたグラ・バルカス帝国の件は、彼の脳裏に深く刻み込まれた。
まだ、正式な報告書は上がってきていないものの、ロデニウス連合については、既に報告を受けていた。
特に、グラ・バルカス帝国は謎だらけの国であり、今後、何らかの対応を考えなければならないだろう。
◆◆◆
ロデニウス連合、トラック泊地。
ムー国の技術士官・マイラスは新聞を眺めながら、コーヒーを飲んでいる。
見出しには「パーパルディア皇国、ついに無条件降伏」と書かれている。
「やはりか……。ま、当然の結果だな。あんな魔法のような兵器があるんじゃ勝てるはずがない」
彼はこの前、本で見た第二次大戦期の兵器を思い出した。
そして、ロデニウス連合から技術を学ぶため今日も本を片手に研究を始めるのだった。
◆◆◆
数日後の神聖ミリシアル帝国、帝都ルーンポリス、帝国情報局。
アルネウスの元に一人の局員が駆け込んできた。
「アルネウス様! 大変です!」
彼は息を切らしている。
「何事かね?」
アルネウスは冷静に対応する。
「パーパルディア皇国、皇都エストシラントで撮影された写真が届きました」
「見せてくれ」
局員が部屋に案内した。そこには、大量の写真が置かれている。
彼はそのうちの一つを手に取った。
「こ、これは……!」
そこに写っていたのは、ムーの飛行機械と天の浮舟を足して二で割ったような天の浮舟の姿があった。
これだけでも頭をスレッジハンマーでぶん殴られる程の衝撃である。
別の写真を手にとって見る。
「な、なんだこの化け物は!?」
アルネウスは思わず叫んだ。
それは、自動車のような乗り物に大砲を乗せた陸戦兵器の写真だった。
「恐らく、ムーの戦車と呼ばれる兵器でしょう」
「これが、戦車か……」
その日、アルネウスと局員らは徹夜で調査を続けた。
◆◆◆
グラ・バルカス帝国、情報局技術部。
情報技官ナグアノは頭を抱えていた。
原因はパーパルディア皇国に送り込んだ諜報員からの報告だった。
ロデニウス連合は最低でも帝国と同等の技術力があることが確定してしまった。
「これは……ロデニウス連合に諜報員を送り込むしかないな」
彼はそう結論付けた。
◆◆◆
ロデニウス連合本土。
本土の各地にある港に輸送船が入港していた。
その船は、陸軍兵士を満載しており、パーパルディア皇国本土で戦ってきた部隊だった。
彼らは戦闘によって疲弊していたが、無事に帰還を果たしていた。
「やっと帰って来れた……」
多くの兵士が安堵の声を上げる。
「帰ったぞ~」
そんな声と共に、ロデニウス連合陸軍の兵士たちが続々と上陸する。
大勢の一般市民たちが彼らを出迎える。
恋人や家族、友人など、彼らを待つ人々は大勢いた。中には涙を流す者もいる。
「よかった……本当によかった……」
「生きて帰ってきたんだな……」
ある者は無事を喜び合い、またある者は戦死した者への追悼を行う。
◆◆◆
一方、パーパルディア皇国、聖都パールネウス
パールネウス地方は非攻撃地域に指定された地域であり、難民はこの地に流れ込んでいた。
この地方の名前の由来となった聖都パールネウスでは、戦後処理が進められていた。
皇帝ルディアスが自殺し、皇位継承戦に敗れていた共和制派の「ミルミオン」が新皇帝に即位。
「パーパルディア皇国」から「神聖パールネウス共和国」へと国名を変更した。
独立できない元属領は神聖パールネウス共和国の領土として組み込まれることとなった。
元属領の人々に好き放題していた統治職員らは裁判にかけられ、全員処刑されることとなった。
元アルタラス駐在大使カストもその一人であり、アルタラス王国に身を送られ極刑となった。
◆◆◆
アルタラス王国 王都ル・ブリアス、アテノール城地下室。
元アルタラス駐在大使カストは地下牢に幽閉されていた。
「ちくしょう! なんで俺がこんな目に……」
彼は石の壁に向かって愚痴る。
彼の前に、木の棒を持った兵士たちが現れた。
兵士は地下牢の鍵を開け、中に入る。
「この木の棒はロデニウス連合海軍から貰ったものでな……。新兵の教育に使われたものだそうだ」
その棒には「軍人精神注入棒」という文字が書かれている。
「おい、やめろ!! 何をする気だ!!」
カストは叫ぶ。
「はいじゃあケツ出せ!」
その言葉と同時に、兵士に強引に向きを変えられ、尻を突き出させられる。
「ひいっ!」
「よし、じゃあぶちこんでやるぜ!」
そして、バチンッ! という音とともに、カストは絶叫を上げた。
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!」
その叫びは、地上まで届いたという。
その後彼は4日間、精神注入棒でシバかれた後、処刑された。