平和なひと時
中央暦1640年5月10日 ???
「よし、あと少しで……」
山の頂上付近で男が作業をしている。
男の名はダクシルド。
アニュンリール皇国の政府機関の役人である。
「よし(適当)」
彼は作業を終えると、機械を作動させた。
すると、風が吹き始める。そして黒い光の柱が立ち上った。
「うわぁっ!」
男は慌てて飛び退く。
やがて、風は止み、黒き柱も消えた。
「……成功したのか?」
恐る恐る近寄ると、そこには生物のような何かが存在していた。
「やったぞ、成功だ」
男は歓喜の声を上げる。
その生物の身長は3.5m程。全身が黒く角が生えており、どう見ても人間とは思えなかった。
「忌々しい勇者共め……我をこんな結界に閉じ込めおって……」
その生物は魔王ノスグーラ。
かつて、全世界を支配した古の魔法帝国の生物兵器である。
「勇者パーティー」と呼ばれる魔王討伐隊との戦いの末、封印されていたが、時間の経過と共に弱くなってきた封印魔法を破り、復活を果たしたのだ。
「ん?誰だお前は」
ノスグーラは男に気づく。
「俺はダクシルド。この私がお前を復活させたんだ。お前の創造神である古の魔法帝国の光翼人の末裔だ」
「グワーッハッハッハッハ! 貴様が魔帝様の末裔だと!? 面白い冗談を言うではないか!」
ノスグーラは大声で笑う。
「何だと!」
感謝されるかと期待していたダクシルドは激怒した。
「そもそも貴様の翼は実体化しているだろうが。嘘をつくならもっとマシなことを言うんだな! グワーッハッハッハッハ!」
ダクシルドのプライドはズタズタに引き裂かれる。
「こいつ……調子に乗りやがって……」
「まあいい、お前はその辺の雑魚とは違うようだな。我の気が変わる前に立ち去るがいい」
「畜生めー!」
怒り心頭のダクシルドは、山から降りて行った。
「ふん、つまらん奴だった」
そう言って、ノスグーラは空を見上げる。
◆◆◆
ロデニウス連合、トラック泊地。
パーパルディア皇国との戦争が終わり、平和な日が訪れていた。
哨戒任務、艦娘同士の演習、訓練……。
いつもと変わりない日々が続いている。
ドックではある潜水艦娘の大規模改装が行われていた。
鋼材をクレーンで持ち上げ、妖精さんが溶接する。
突然、クレーンで運んでいた鋼材がけたたましい音と共に落下した。
幸いにも巻き込まれた者はいない。
「またですか……」
工作艦「明石」は溜息をついた。
「すみません、本当に申し訳ありません……」
クレーンを操作していた妖精さんが頭を下げる。
「まあ仕方がないですけどね……。それで、原因はなんでしょうか」
「それが、原因不明でして……最近よく起こるんです」
「困りましたねぇ……。原因がわからなければ対策も立てられないし……」
明石は腕を組む。
「はい、そうなんですよ」
妖精さんたちは、疲れ切った表情をしていた。
この潜水艦とその周りでは不可解な現象が起こっている。
例えば、乗組員が1人多かったり、艦内や甲板にその1人が居たり……。
ロデニウス連合海軍の対潜訓練の際、浮上航行中に発見して、報告のため3秒ほど目を離した隙に消えたり、甲板に一人の男が立っていたこともあった。
そして極めつけは、補給作業中に突然、魚雷が爆発する事故が起こったことだ。
「う~ん……」
明石は頭を悩ませる。
すでに何人かの妖精さんたちが、精神を病んで休んでいる状態だ。
このまま放っておくわけにはいかない。
「ちょっと、提督に相談しますかね……」
彼女は、この奇妙な現象の原因を突き止めるため、動くことにした。
◆◆◆
「というわけで、提督の知恵をお借りしたいのですが」
明石は、執務室へ来ていた。
「ふむ……」
提督は難しい顔をしている。
「俺の予想だが、これは『幽霊』じゃないかと思うんだよなぁ」
「ゆっ、ゆうれい?」
「ああ、ほら、たまに聞くだろ? 夜中になると、誰かが廊下を歩いている音が聞こえてくるとか、そういう話」
幽霊のせいにしてしまえば、全て説明がつくのだ。
だが、その娘の前世である史実の出来事が影響しているのかもしれない。
「確かにそれは……あり得るかもしれません」
「だろ? じゃあ、その娘に聞いてみるか」
「はい。そうですね」
2人はさっそく、潜水艦娘の寮へと向かった。
潜水艦娘達の寮は2階建てになっており、1階は日本艦で2階はドイツ艦となっている。
「ここか?」
提督と明石は、2階の左側の部屋にたどり着いた。
ドアの横には表札があり、潜水艦娘の名前が書かれている。
「U-65」
「U-181」
「U-505」
「U-511」
「U-534」
がこの部屋を使っている。
提督はドアをノックをする。
「どうぞ……」
返事があった。
「失礼するよ」
提督と明石は部屋に入る。
部屋の左側にはベッドが並び、右側には本棚とタンス、中央には大きめのテーブルが置かれている。
突然、ドアが勢いよく閉まる。
「なっ!?」
明石は驚いて振り返る。
「大丈夫だよ。ただのいたずらだから……」
「はぁ……」
1人の少女が、答える。
彼女はU-65。白に近い銀色の髪に赤色の目をしている。
目にはハイライトがなく、まるで幽霊のような雰囲気だった。
「工事、終わった……?」
「えーっと、そのことなんだけど……」
明石は事情を説明する。
「だって……リヒター……」
U-65は、左側の壁に向かって話しかけた。
提督と明石に寒気が走る。
だがU-181、U-505、U-511、U-534は特に気にした様子はない。
「リヒターって誰なんです?」
明石が尋ねる。
「知らん」
提督は首を横に振った。
「リヒター……そこにいるよ……」
そう言ってU-65は左側の壁を指差す。
提督と明石は確かに見た。1人の男の影を。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!」(高音)
「ひぃっ!」
2人は思わず悲鳴を上げて、部屋を飛び出した。
「ど、どういうことだ!?」
「わ、わかりません! でも確かにいました!」
2人は混乱していた。
「落ち着け……。そうだ、こういう時は素数を数えるんだ……。 2、3、5、7、11……」
「落ち着いてください、提督」
提督は素数を数えて気持ちを静める。
「とりあえず、あの男の正体を突き止めましょう」
「そうするか……。よし、部屋に戻るぞ」
2人は提督室へ戻った。
そしてパソコンを立ち上げ、ブラウザを開き、「u65 潜水艦」と検索する。
すると、あるサイトが表示された。
『呪われた潜水艦』
というタイトルのページだ。
「うげぇ……」
明石は、嫌そうな声を出す。
「まあ、見てみよう」
そのページを開く。
U-65は元々、第一次世界大戦時にドイツ軍が建造した潜水艦、UB-65だった。
道理で他のUボートより古かったわけだ。
UB-65は建造時から不可解な現象に悩まされていた。
「これだな……」
提督は次の文章を読む。
・UB-65は補給作業中に、突然魚雷が爆発する事故が発生し、乗組員5名が死亡。その中にはリヒターという名の二等航海士が含まれていた。
・その後、リヒターの姿を見かけたという報告が後を絶たなかった。
「なるほど、これが原因か……」
「う~ん、なんとも言えませんね……」
「そうだなぁ……。これはちょっと手には負えないかもしれない」
「ですね……」
UB-65は悪魔祓いの儀式が行われたものの、効果はなかった。
結局、解決策を見つけることはできず、そのままにしておくことになった。
◆◆◆
ロデニウス連合のとある空軍基地。
「今日は新しい機体が届いたので、紹介する」
パイロット達は、格納庫前へ来ていた。
「こちらです!」
格納庫の扉が開かれ、中から飛行機が出てくる。
「「「おおっ……!」」」
パイロット達からは歓声が上がる。
銀色に輝く、美しいフォルムの戦闘機がそこにはあった。
P-51マスタング。アメリカ製の戦闘機である。
「どうですか? かっこいいでしょう?」
整備員が自慢気に言う。
「ああ、最高だよ」
「こいつは凄いぜ……」
「早く乗りたいな」
パイロット達が口々に感想を言う。
乗りこなすため、P-51の説明を聞くのであった。
◆◆◆
5月14日 第二文明圏、ムー国のとある空軍基地。
「これよりロデニウス連合空軍の全金属製、単発単葉機の試験飛行を始めます」
滑走路では1機の航空機が離陸の準備をしていた。
その機体は九六式艦上戦闘機。ムーが研究のため設計図と数機を購入した。
「テイクオフ!」
その言葉とともに、エンジンが轟音を響かせながら、徐々に速度を上げていく。
やがて、その機は大空へと飛び立った。
「おぉ……」
それを見ていた技術者や「マリン」のパイロットは感嘆の声を上げる。
マリンの翼を一枚にして飛ばしたことがあるが、安定性が悪くすぐに墜落してしまった。
だが、この九六式艦上戦闘機は非常に安定して飛んでいる。
技術者たちは単発単葉機の研究に全力で取り組むのであった。
◆◆◆
ロデニウス連合、ハークライト基地。
ムー国の技術士官・マイラスは、ある戦闘機を眺めていた。
スーパーマリン スピットファイア。イギリス空軍で運用され、イギリスをドイツ空軍から救った「救国戦闘機」と言われている機体だ。
「うーむ、素晴らしい……」
彼はスピットファイアをじっくりと観察していた。
スーパーマリンという名前を聞いた時、彼はピンと来たのだ。
これは今の主力戦闘機「マリン」の後継機に成り得る存在だと。
「これは是非とも開発したいものだ……」
彼の心の中でメラメラと炎が上がった。
◆◆◆
ロデニウス連合、クワ・トイネ州にある名誉囚人収容施設。
この名誉囚人収容施設はもともと貴族が建てた城であり、現在は収容所として利用されていた。
収容所には旧パーパルディア皇国軍の司令官や高級将校などが収監されており、ロデニウス軍の監視下に置かれていた。
その中には旧皇軍最高司令官アルデの姿もあった。
「……」
彼は無言のまま、窓の外を見つめている。
ここは城の最上階であるため景色が良く見える。
外は快晴だ。鳥たちが楽しげに飛び回っているのが見える。
ロデニウス連合軍に降伏してからというもの、連合軍の真実に気づき、自分の愚かさに気づいた。
ムーの兵器の何十年先を行っているかのような先進的な装備の数々。皇国とロデニウス連合の力の差は歴然だった。
収容所に収容されると聞いた時は、不安に思ったが悪くない。
皇国の収容所は酷いところだ。食事は残飯のような物で、看守もろくな奴がいない。
毎日のように殴られたり蹴られたりし、ストレス発散のためにサンドバッグ代わりにされる。
だが、ロデニウス連合の収容所は違う。
食事はきちんと出るし、暴力を振るわれることもない。
この収容所は名誉囚人を収監していることもあり、生活環境は非常に恵まれてた。
書物室(図書室)では自由に本を読むことができるし、運動できるスペースもある。
そして何より、飯が美味い。
一流のシェフが作るのもあってロデニウス連合の料理は、今まで食べたことがないほどに美味い。
捕虜にこのような待遇を与えるとは、ロデニウス連合という国は寛大な国家なのだと思った。