中央暦1640年11月6日 早朝
ミナイサ地区の解放にひと段落がつき、トーパ王国軍とロデニウス連合陸軍第1親衛戦車旅団の隊員たちは、朝食を摂っていた。
突如として緊急事態を知らせる鐘が鳴り響いたのはその時だった。
さらに緊急魔信放送が響き渡る。
『こちらトーパ王国軍司令部、ミナイサ地区に魔物の大群が迫っている!総員、至急戦闘配置につけ!』
「なんだって?」
食事中だった隊員たちが騒然とする。
「まさか……」
「とにかく、俺たちも戦う準備をしなくちゃ」
「そうだな」
隊員たちは慌てて、走りだす。
数十分後。
「嘘……だろ?」
彼らは信じられない光景を目の当たりにしていた。
ゴブリンやオークなど魔物だけでなく、機械のような人型兵器まで迫ってきているのだ。
「おいおい、冗談じゃないぜ!」
「何だよ……あの鉄の巨人みたいなのは?」
「知らんよ!俺に聞くんじゃねえ!」
そんなことを言い合っているうちに、敵の第一陣が彼らの元へ辿り着く。
「来るぞ!応戦しろ!」
弓兵が一斉に矢を放つ。
だが、人型兵器は何事もないように前進してくる。
「ダメだ!全然効いてない!」
「魔法攻撃も試してみてくれ!」
何人かの魔法使いが火球を飛ばす。しかし、これも全く効果がない。
「化け物め!」
「ちくしょう!」
悪態をつくものの、敵が近づいてくる以上どうしようもない。
「仕方ない、後退するぞ!」
騎士団が前に出て、彼らを援護した。
人型兵器が拳を叩きつけると、その衝撃波で騎士団は吹き飛ばされる。
「ぐわあっ!」
「ぎゃあああ!!」
悲鳴を上げながら、何人もの騎士が宙を舞った。
「なんて威力だ!」
「気をつけろ!奴ら、とんでもない強さだ!」
トーパ王国軍は必死に抵抗するも、次々と倒されていく。
「この野郎ぉっ!!」
剣を持った騎士が斬りかかる。しかし、人型兵器は片腕で軽々と受け止めた。
そのまま腕を振り回し、叩き付ける。
グシャッ!! 骨が砕ける音が響き渡った。
「あ……」
声にならない叫びをあげながら、ぺしゃんこになった騎士は倒れる。
「逃げろーっ!!」
恐怖で動けなくなったトーパ王国軍の兵士は、我先にと逃げ出した。
それを追撃しようとする人型兵器だったが、突然爆散する。
「!?」
上空には、飛行機械が飛んでいた。
それが大砲のようなものを撃ちまくっているのである。
「あれは、飛行機か?」
トーパ王国の兵士が呟く。
やがて、飛行機は飛び去っていった。
「遅くなった!」
今度は黒いローブを着用し、金環を頭に載せた集団が城壁の上に立つ。
「あ……あれは!」
「王宮戦闘魔導隊!」
トーパ王国が誇る、古の勇者すらも凌駕すると言われた魔導の超エリート部隊である。
「魔王軍どもよ!貴様らはここで全滅する運命なのだ!」
隊長らしき人物が叫ぶ。
「行くぞ!」
そして、10名の大魔導士が詠唱を始めた。
〈大海より出でしその姿は虚ろ、岩より重く月より軽い、声なき叫びが大樹を穿つ。貧食の翁に供物をささげよ、花嫁は英雄を産むだろう〉
「「「ライトニング・テンペスト!!!」」」
呪文が完成すると同時に、強烈な竜巻が発生した。
それは魔物を巻き込みつつ、凄まじい勢いで空へと昇っていく。さらに強力な雷雲を発生させ、落雷が降り注いだ。
トーパ王国軍の兵士は歓喜した。
「やったぞ!」
「さすがだぜ!魔王軍の雑魚どもがゴミのようだ!」
「これで終わりだな!」
しかし、彼らの希望はすぐに打ち破られることになる。
「馬鹿なっ!」
「どうして生きているんだ?」
荒れ狂っていた嵐が止むと、そこには不気味な化け物と魔王が立っていた。
「フハハハッ!人間ごときがよくやるではないか」
笑いながら現れた魔王ノスグーラを見て、兵士たちは愕然とした。
魔王ノスグーラは王宮戦闘魔導隊に手をかざし呪文を唱える。
その手の先から、黒い炎が噴き出し、形を変え翼を広げた鳥の形になっていく。
「……行け!ダークフェニックス!」
その言葉とともに、漆黒の鳥が放たれ、王宮戦闘魔導隊を襲った。
「うわぁあああっ!」
「ぐあああああっ!」
10人の大魔道士は灰も残らずに消え去り、城壁の一部は高温で溶けている。
「そんな……バカな……」
「嘘だろ?」
「あんなの勝てるわけないじゃないか」
絶望に包まれるトーパ王国軍。
その時、ロデニウス連合軍の戦車が咆哮を上げた。
◆◆◆
(しかし、レッドオーガやブルーオーガがやられたのは想定外だったな。我が眠っている間に下種どもは力を増していたのか)
王宮戦闘魔導隊を一瞬で全滅させた魔王ノスグーラは考えた。
(まあいい、魔帝様の最新兵器が奴らを殲滅してくれるはずだ)
そう考え、彼は視線を移す。
「ん?」
視線の先では城門がちょうど開いたところだった。
城門の中から現れた「もの」には見覚えがあった。
「あれは……ま……まさか!た……た、太陽神の……太陽神の使いの鉄竜!?」
ノスグーラの顔色が変わり、冷や汗が流れる。忘れるはずがない。
フィルアデス大陸を制圧し、ロデニウス大陸ももう一息で手中に収められるというところで現れた謎の軍隊。
エルフどもは「太陽神の使い」と呼んでいた。奴らよって魔王軍は甚大な被害を受けたのだ。
「汝よ、奴らを殺せ!」
ノスグーラの命令に従い、不気味な化け物が動き出す。
「バカな!なぜ奴らがここにいるんだ!?」
第1親衛戦車旅団、第2中戦車中隊の中隊長が叫んだ。
目の前にいる敵を見間違えるはずがない。どう見ても深海棲艦の陸上戦力である。
「全車停止!」
中隊長の指示により、全車両が停止する。
「撃てぇっ!」
号令と共に、85㎜砲が火を吹き、榴弾が発射された。
着弾と同時に爆発が起こり、煙が晴れると敵の姿が見えた。
「何!?」
しかし、そこにいたのは無傷の化け物であった。陸上型深海棲艦は砲撃など意にも介さず、こちらに向かってくる。
「榴弾じゃダメか。目標変更、弾種徹甲弾!」
再び砲弾が撃ち出された。今度は手前の深海棲艦の戦車に直撃する。
「よしっ!」
「やったぞ!」
命中箇所は車体正面であり、気色悪い戦車を1両撃破した。
味方も次々と攻撃を開始し、さらに3両が撃破される。
「後方より友軍機です」
通信手が言った。
上空からIl-2とJu87が飛来し、爆撃を開始する。爆弾が投下され、4体の陸上型深海棲艦が倒れた。
爆炎の中から魔王ノスグーラが50mほどの高さまで飛び上がる。そして、魔法の詠唱を開始する。
「あれが魔王か……37㎜砲が効くかな?」
1機だけのJu87G型を操縦する、空の魔王ルーデルは呟いた。
「喰らえっ!魔王め!」
ルーデルは37㎜砲の発射ボタンを押した。
旧式のJu87に無理やり乗せた、2門の37㎜砲が火を噴き、徹甲弾が次々と魔王ノスグーラに襲い掛かる。
「ぐおおおっ!」
その衝撃でノスグーラは吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけらた。
ルーデルは機体を旋回させながら、魔王の様子を確認する。
「やったか!?」
「まだ生きてますよ!!」
「チッ、しぶといな」
相棒のガーデルマンが叫ぶ。
「ならばもう一撃だ!もう一度いくぞ!」
そう言ってルーデルは魔王に向けて照準を合わせ、発射ボタンを押した。
だが、魔王は防御魔法を展開させたらしく、その身体に傷一つついていない。
ガチンという音と共に37㎜砲の弾が切れた。
◆◆◆
地上では地面に叩きつけらた魔王ノスグーラの追撃が行われていた。
矢から 12.7mm機銃、迫撃砲に至るまでありったけの火力を叩きつける。
「ぐおぉっ!」
ノスグーラはダメージを受けながらも反撃を試みる。だが、攻撃も激しさを増し、85㎜砲まで撃ち込まれ始めたため、それもままならない。
「このまま押し込め!」
兵士たちの怒号が響く中、猛獣ハンターが動いた。
122mm砲がゆっくりと魔王に狙いをつける。
「……撃て」
次の瞬間、轟音が響き渡り、防御魔法に命中。爆発が起こった。
「やったか?」
兵士の一人が声を上げる。
爆煙の中から現れたのはボロボロになった防御魔法を展開する魔王ノスグーラだった。
「バカな!?」
「なんて奴だ……」
誰もが驚愕する。
今度は152㎜砲が動き出した。砲身を魔王に向ける。
「撃て!」
号令一下、152mm砲弾が放たれた。
パンターの正面装甲すらぶち抜ける砲弾が、ノスグーラを襲う。
「ぬうぅっ!」
魔王は必死で防御魔法を展開し、それを防ごうとする。
しかし、ついに限界が訪れた。
魔王を守っていた魔力の壁はガラスのように砕かれ、砲弾が直撃する。
「がああぁっ!」
ノスグーラは悲鳴を上げ、頭と胴体が切断された。
「やったぞ!」
「魔王を倒した!」
「ざまあみろ!」
歓声が上がる。
「いや、待て」
歓喜の声の中、誰かが言った。
「あれを見ろ!」
全員が視線を向ける。
そこには、頭だけが宙に浮いている魔王ノスグーラの姿があった。
「何だと!?」
驚愕の表情を浮かべる。
「おのれぇぇぇ……太陽神の使いめぇぇぇ! 一度ならず、二度までも我が野望を打ち砕きおってぇぇ!!
よく聞け、下種どもよ!! 近いうちに、魔帝様の国が復活なさる! お前たち下種どもの世界も終わりだ!! 圧倒的な魔帝様の力によって、お前らのような下種は1人残らず魔帝様の奴隷と化すだろう!! 今から心しておくが良い! ハーッハッハッハ……」
笑い声が次第に小さくなっていき、やがて石化して砂となった。そして、頭部を失ったノスグーラの身体も徐々に崩れ落ち、やがて完全に消滅した。
「た、倒しちまった……」
傭兵ガイは、目の前で起きた事が信じられず呆然としていた。
そして、それは彼だけではない。他の仲間も同じであった。
魔王を倒すなど、誰も想像していなかったのだ。
魔王ノスグーラを討ち取られた魔物たちは、グラメウス大陸へ逃げ帰っていった。
◆◆◆
その日の夜、魔物の死体やらを片付けていた兵士たちはトルメス城へ帰還すると、疲れ果てて泥の様に眠ってしまった。
ガイとモアは部屋に戻る途中、ミハイルに会いう。
「そういえば、ガングートさんはどうしたんだ?」
「あー、彼女はベルンゲン沖に緊急展開して、警戒に当たっているよ」
「そうなのか? 大変だな」
そんな会話をしながら二人は自分たちの部屋に戻ってきた。
幸いにも別働隊による奇襲攻撃はなく、ガングートは翌日に戻ってきた。
モアはベッドに腰掛けると、大きく息を吐いた。
「今日は色々あったなぁ」
そう言って、モアは今日の出来事を思い返した。