中央歴1639年4月13日
「あぁ^~たまらねぇぜ」
そのうちの1隻の上で、艦隊司令官・海将シャークンが呟いた。
見渡す限り船が多すぎて、海面が見えないくらいであった。
その一隻一隻に多くの水夫や海軍陸戦隊を乗せて、艦隊はクワ・トイネ公国の経済都市マイハークを目指す。
6年をかけた準備期間、パーパルディア皇国からの軍事援助を経て、ようやく完成した大艦隊。これだけの大艦隊を防ぐ手立ては、ロデニウス大陸には無い。
もしかしたら、パーパルディア皇国でさえ制圧できそうな気がする。
(いや……パーパルディア皇国には、砲艦という、船そのものを破壊することが可能な兵器があるらしいな……)
彼は一瞬野心を覗かせたが、理性で野心を打ち消した。
「ん?」
その時、彼の視界に小さな影が入った。
それは、鳥のようにも見えたが、どう見ても鳥ではなかった。
その物体はぐんぐん近づいてきて、やがて、はっきりとその姿を見せた。
「なんだあれは!?」
思わず声が出る。
「てっ……敵騎!!」
少なくとも100騎を超える飛行生物が、艦隊を目指して飛んでいる。
「敵襲!」
シャークンは叫ぶように命令を出す。
「通信士、司令部にワイバーンの航空支援を要請しろ!」
「了解しました! 」
通信士は魔信で司令部に連絡を取る。
「敵、来ます!!」
見張り員の声が響く。
「来るぞ!」
F4U-1DとF6F-5が降下しながらHVARロケットを発射する。
発射されたロケットは、帆船に次々命中していく。
木片をまき散らしながら炎を吹き上げる。
「うわぁー!! 助けてくれぇ!!」
水兵の悲鳴が聞こえる。
「畜生め!」
ロケット弾を打ち尽くしたF4U-1Dが、機銃掃射を行う。
ガレー船の甲板にいた者はバタバタとなぎ倒されていった。
流星と彗星一二型甲が急降下し、爆弾を投下する。
爆発があちこちで聞こえる。
さらに流星の20mm機関砲が弾丸の雨を降らせる。
「ぎゃああああっ!!!」
「うわああああ(発狂)なんだなんだなんだなんだなんだ!!」
血まみれになりながら、ロウリア王国海軍陸戦隊員が逃げまとう。
その様子を見て、ロウリア王国海軍の将兵はパニックに陥っていた。
「敵があんな化け物を持っているとは聞いていないぞ!」
ワイバーンは導力火炎弾や火炎放射で燃やすことしかできない。
しかし、今回の敵はその常識をひっくり返すような、圧倒的な攻撃力を持っていたのだ。
ある1機のF6F-5が12.7mm機銃のシャワーを浴びせる。
シャワーを浴びた船は油の入った壺に引火したのか、火災が発生した。
流星の20mm機関砲でミンチになる者もいた。
火が服に燃え移ったのか、海に飛び込む者もいる。
その光景を見て、恐怖に駆られた陸戦隊員も海へ飛び込む。
「おい! お前ら逃げるな!」
指揮官らしき男が部下に怒鳴りつけるが、もはや統制など取れなかった。
その船にも60㎏爆弾が命中し、大穴が開く。そして、そこから大量の海水が流れ込み、船は沈んでいった。
やがて弾薬切れになった流星や彗星一二型甲が帰還していく。
それと同時に航空支援のワイバーン350騎が到着する。
ワイバーン隊は背を向けた流星や彗星一二型甲に狙いを定めて追いかける。
だが、その動きは遅かったため、F4U-1DとF6F-5によって撃墜されていく。
さらに上空で待機していた烈風が襲い掛かる。
ワイバーンの翼を引き裂き、海へと叩き落とす。
「何だあの空戦は……」
シャークンはそう呟いた。
援護に駆け付けたワイバーンが何もできずに落とされていく。
数の差があるのに敵騎は1騎も落とせていない。
烈風の20mm機関砲でワイバーンと共にミンチ肉になる竜騎士もいた。
肉片と血の雨が降り注ぐ。
「なんて奴等だ……」
彼は震えていた。
「艦長! 敵が撤退していきます」
「なに?」
確かに、艦隊に向かってきたはずの飛行生物は、撤退を始めている。
(どういうことだ?)
彼は首を傾げた。
ロウリア軍のワイバーン隊と艦隊は半数近くまで減らされていた。
「……このままマイハークまで進撃する」
シャークンはそう命令を出した。艦隊がゆっくりと進む。
「敵艦隊発見!」
見張り員の声が響く。
「何だと!?」
シャークンは双眼鏡を手に取り、前方を見る。
そこには、巨大な敵艦がいた。
「な……なんだあれは!?」
彼の知る限り、あんな大きな鉄の塊は見たことが無い。それは、まさに鋼鉄の城であった。
ワイバーン隊が先陣を切る。
地上や船からの攻撃ではワイバーンを撃ち落とすのは非常に難しい。だから、まずはワイバーンによる航空攻撃である。
竜騎士の誰もが、味方艦隊の仇を打とうと意気込んでいた。この後の運命も知らずに……。
「行け!」
ワイバーン隊の隊長は命令を出す。
一斉に180騎を超えるワイバーンが敵艦隊へ向かう。
「撃てぇ!!」
艦隊の高角砲、両用砲が火を噴き、空に灰色の花が咲く。
飛竜は飛竜でしか落とせない。その常識を覆すようにワイバーンが次々と撃ち墜とされる。
何とか死の花を潜り抜けた者に待っていたのは、対空機関砲の暴風雨だった。
「Scharnhorst」に搭載された2cm 四連装FlaK 38改が凄まじい勢いで空薬莢を排出する。
次々と放たれた40mm機関砲弾がワイバーンの胴体を貫き、バラバラにする。
25mm機銃弾が、翼を切り裂き、海面へと叩き落とす。
「ぎゃあああっ!!」
「うわぁぁっ!!」
「!?!?」
阿鼻叫喚の地獄絵図。
ロウリア王国海軍は混乱に陥っていた。
「畜生め!」
ロウリア王国海軍の士官は悪態をつく。
敵は強すぎた。
ワイバーンが全く歯が立たない。
艦隊から離れてみれば空の色が変わるほどの攻撃だった。
絶叫と爆炎が、青空を彩る。
気づけば空を飛ぶものはいなくなっていた。
「何という事だ……」
シャークンは自分の眼を疑った。
今まで、ワイバーンが一方的に狩られる戦いを見たことがない。
まるで、悪夢を見ているようであった。
「艦長、どうしますか? 我々は撤退すべきです」
副長の言葉にシャークンは首を横に振る。
「まだだ! 敵は我々よりも数が少ない! 今なら勝てるはずだ!」
「しかし、我々のワイバーンは全滅しました。もはや、制空権は完全に向こうのものですよ」
ワイバーン隊は全滅し、まともに戦える船は半数近くにまで減っていた。
撤退すれば無能の将軍との烙印を押され、歴史書に無能の将軍として名を記されることだろう。
だが、このまま突撃すればワイバーンを撃ち落した武器で攻撃してくるだろう。そうなれば全滅は免れない。
「……」
シャークンは沈黙する。
彼は決断を下す。
「撤退だ! 全軍、撤退せよ!」
その言葉に全員が息を呑む。
「艦長、何を言っているんですか!? ここまで来て引き返すなど……」
「馬鹿者!! 貴様らは、ここで死ぬつもりなのか!?」
シャークンは怒鳴りつける。
「敵の兵器は異常だ。この海域に留まることは危険すぎる。撤退するぞ!」
シャークンの判断は正しかった。
敵の航空攻撃によって艦隊は半壊まで追い込まれたのだ。
これ以上、ここに留まれば全員海の藻屑になるだけだ。
「わかりました」
ロウリア軍の艦隊は反転し、撤退し始める。
「敵艦隊、撤退を開始しました」
機動部隊からは反転するロウリア軍の艦隊が見える。
「追撃は?」
「必要ありません」
「わかったわ。全艦隊に通達。これより、生存者の救助活動を開始してください」
「「「了解」」」
「阿賀野」「秋月」「照月」「涼月」「雪風」は生存者の捜索と収容を開始する。
こうして、ロウリア王国海軍との戦いは終わった。
(艦隊決戦は)ないです