中央暦1640年11月11日、第一文明圏(中央世界) 神聖ミリシアル帝国、帝都ルーンポリス。
ルーンポリスの一角にある帝国情報局の庁舎の一室で、二人の男が話をしている。
一人は情報局長のアルネウス。もう一人は、ライドルカ。
「……これは、本当のことなのか?」
「はい、間違いありません」
「なんということだ……」
アルネウスは報告書を見ながら、頭を抱える。
ライドルカはトーパ王国での一件を報告に来たのだが、その内容は彼の予想を大きく上回るものだった。
「まさかロデニウス連合がこれほどの力を持っていたとは……」
彼は痛む胃を抑えながら呟いた。
「それで、今後についてですが……」
「ロデニウスへの使節団の派遣か……外務局の連中が渋るだろうな」
「でしょうね。まあ、私が説得しますよ」
ライドルカは自信ありげに言った。
「頼むぞ」
「ええ」
◆◆◆
ロデニウス連合、トラック泊地執務室
トーパ王国での報告書を読んでいた提督は、コーヒーの入ったカップを手に取ると口元へ持っていった。
が、その手は口元から数cm離れたところで止まった。
そして、飲まずに元の位置に戻した。
「あの、何か問題でも?」
心配そうな表情を浮かべて、霧島が尋ねる。
「いや、なんでもない」
提督はそう言うと、再び報告書を読み始めた。
しかし、先ほどまでと違い、顔は険しいままだ。
「大丈夫ですか? どこか具合が悪いとか……」
「いや、本当に何でもない」
提督は首を横に振ると、もう一度カップに手を伸ばした。
(……やっぱり、飲む気にはなれないか)
結局、提督はそのコーヒーを飲むことはなかった。
◆◆◆
第二文明圏、ムー国、港湾都市マイカル。
今、新型戦艦の建造が行われている。
「これが我が海軍の新たなる力、カイザーライヒ級戦艦だ!」
建造中のカイザーライヒを後ろに、海軍大臣のマインホフ元帥が声高らかに宣言する。
「おおぉ!!」
造船所に集まった技術者たちが歓声を上げる。
名前の由来は神話に登場する、ムーを未曾有の危機から救ったとされる大英雄の名から取ったものだ。
この艦は全長200mを超える巨大戦艦であり、38cm砲を搭載する予定だ。
「国王もお喜びになるだろう!」
マインホフは誇らしげに言った。
「はい! きっと、国王もこの艦の勇姿を見たなら、感涙されることでしょう! 必ずやその期待に応えてみせます!」
造船技師長が興奮気味に答える。
「うむ! よろしく頼んだぞ!」
マインホフは満足気に首肯した。
早ければ、来年には姉妹艦のケーニッヒと共に進水式を行う予定である。
(こいつが出撃することがなければいいんだがな)
マインホフはそう思ったが、その願いは叶わなかった。
◆◆◆
12月12日、ソナル王国。
この国は、元々小国家群の集合体だったものが、中央政権の誕生によって統一され、1200年間続いているという歴史ある国家だ。ムー大陸中心部に位置する国であり、北西にグラ・バルカス帝国領レイフォル州と国境を接している。
国境付近のとある農村。1人の農民が畑仕事をしていた。
すると、ヒュルルルルルヒュイーンという聞いたことのない音が聞こえてきた。
彼は何事かと思い空を見上げると、地面が爆発するような衝撃を受け、身体が宙を舞った。
そして、地面に叩きつけられると、そのまま意識を失った。
村のあちこちで爆発が起きている。村人たちの悲鳴が響き渡り、村は炎に包まれる。
「グ……グラ・バルカス帝国だー!」
1人の青年が叫んだ。
グラ・バルカス帝国陸軍の戦車、装甲車、歩兵が村になだれ込んでくる。
たった数分で村を制圧すると、村人たちを拘束していった。
そして、ソナル王国の深部まで進撃を始めた。
◆◆◆
12月13日、ソナル王国首都。
「グラ・バルカス帝国が宣戦布告なしに我が国に侵攻してきました!」
王宮の会議室に飛び込んできた兵士が叫ぶように報告する。
「なんだと!?」
「なぜこんなことに……」
「陛下をお守りしろ!」
ソナル王国は絶望的な状況に追い込まれていた。
◆◆◆
同時刻、グラ・バルカス帝国陸軍第23爆撃隊。
「あれがソナル王都か」
「はい、間違いありません」
隊長の言葉に、副官が答えた。
彼らの視線の先には、大きな城壁に囲まれた都市があった。
「目標上空に到達し次第、攻撃を開始する」
彼らは「死の鳥」と呼ばれ、多くの人命を奪った。
「了解」
「さて、どんな死に様が見れるかな」
「楽しみですね」
「ああ。それじゃあ、そろそろ行くぞ」
「はっ」
スペクトル型四発爆撃機の爆弾倉が開放される。
20機の爆撃機から投下された大量の250kg爆弾は、吸い込まれるようにしてソナル王国の首都へ着弾した。
地上が紅蓮に染まり、轟音と衝撃波が大地を襲う。
「よし、任務完了だ。帰投する」
「了解」
死の鳥たちは飛び去っていく。そして、ソナル王国に滅びの時が訪れた。
◆◆◆
12月16日、ロデニウス連合、トラック泊地。
提督は執務室で書類仕事に追われていた。
(やれやれ……最近、仕事が増えて大変だな)
提督は心の中でぼやく。
彼の机には(提督からして)山のような報告書が積まれている。
気分転換に新聞を手に取り、目を通す。
『グラ・バルカス帝国、宣戦布告なしにソナル王国に侵攻』
そんな見出しが躍っていた。
「ふむ……」
開戦理由はよくわからない。しかし、ムー大陸にある国家が攻め込まれたということは確かだ。
(どうなることやら……)
彼の予想では、おそらくこの世界は第二次世界大戦並みの戦火に見舞われることになるだろう。
◆◆◆
12月24日、神聖ミリシアル帝国、帝都ルーンポリス
帝国情報局に緊急報告がもたらされた。
それは、「ロデニウス連合とムーが、軍事同盟を締結した」というものだった。
「ムーが!?あの『永世中立』を謳っていたムーが、だと?」
情報局長アルネウスが驚きの声を上げる。
「はい。先ほどムーから正式発表がありました」
「そうか……。わかった、下がってよいぞ」
「失礼します」
情報局員が退室する。
「どういうことだ? 一体、何が起こっているのだ……」
アルネウスは頭を抱えた。
一方、ロデニウス連合のトラック泊地ではそんなことを気にせずに、クリスマスパーティーを楽しんでいた。
ちなみに、ムーにもクリスマスはあるらしい。
(今年も無事に過ごせそうだな)
提督はそう思いながら、グラスを傾けるのであった。