中央暦1641年4月19日、トーパ王国。
グラメウス大陸の調査を終えた調査隊は、帰還のためトーパ王国の王都ベルンゲンに集結した。
一か月間調査した成果としては、古の魔法帝国のものと思われる遺跡を発見したことくらいである。
また、調査の過程で魔物との戦闘も何度かあった。
だが、大きな被害もなく撃退に成功している。
いよいよ調査隊が帰還するという前日。事件は起きた。
◆◆◆
トーパ王国北東海域で訓練中の王国海軍第二艦隊の旗艦にて。
「艦長!大変です!」
一人の兵士が艦橋に駆け込んできた。
「どうした?」
「正体不明の怪物が接近中とのことです」
「なに!?」
兵士の報告に艦長は驚く。
「数は?」
「およそ20」
「多いな……」
「どうしますか?」
「決まっているだろ。敵の正体を確かめるんだ」
「了解しました」
◆◆◆
同時刻、トーパ王国海軍第二艦隊から50km地点。
そこには、異形の怪物たちがいた。
人間のような姿をしているが、肌は白く軍艦の装備らしきものを身に着けている。
それらは、深海棲艦と呼ばれる存在だった。
その数はおよそ20体ほどである。
「アァ……テキ……ミナゴロシ……」
「コロス……ゼンイン……コロス……」
深海棲艦たちは殺意に満ちた目で王国海軍第二艦隊へ向かう。
「なんなんだこいつらは?」
「分かりません」
「とにかく、戦闘準備だ」
「はい」
こうして、異世界で初めて深海棲艦との海戦が幕を開ける。
◆◆◆
数分後、戦闘が始まった。
「砲撃開始!」
「撃ち方始め!!」
トーパ王国海軍第二艦隊の戦列艦が一斉に火を噴く。
轟音とともに砲弾が発射される。数秒後、水柱がいくつも立った。
そして、いくつかは見事に命中した。
「よしっ!」
「やりましたね」
「このまま押し切るぞ」
だが、それは叶わなかった。
「なっ……!?」
「な、何だと!?」
「無傷……だと?」
「ばかな……直撃だぞ?」
「効いてないのか……?」
艦砲の直撃を受けてなお、深海棲艦は平然としている。
「まさか……こいつら不死身か?」
「そんな馬鹿な……ありえない」
「なら、もう一度だ」
再び一斉攻撃が行われる。
しかし、結果は変わらなかった。
今度は深海棲艦の反撃が始まる。
駆逐艦型の深海棲艦の主砲が火を噴き、複数の艦が被弾する。
ドガァァァンッ!!
爆発音が響き渡り、戦列艦が一撃で沈没する。
戦列艦だった木材やパーツが海面に浮かぶ。
「なんて威力……」
「化け物め……」
「怯むな!奴らを近づけさせるな」
「はい!」
艦隊は果敢に立ち向かう。しかし、戦力差がありすぎた。
徐々に劣勢へと追い込まれていく。
そして、旗艦にも魔の手が伸びようとしていた。
「海中から何かが来ます」
「何だ?」
直後、旗艦は大爆発を起こした。
魚雷によって魔導砲の砲弾が誘爆したのである。
旗艦にいた乗組員のほとんどは蒸発してしまった。
旗艦を失ったことで艦隊の統制が取れなくなり、全滅して終わった。
この世界において初めて深海棲艦と人類の戦いが行われた瞬間であった。
◆◆◆
それから数時間後、トーパ王国、王都ベルンゲン。
「第二艦隊との連絡が途絶えた?」
提督は、宿で長門から報告を受けていた。
「ああ。つい先ほど王国海軍の兵が報告に来た」
「そうか……」
「それと、艦隊との連絡が途絶える前、人型の化け物と遭遇戦になったらしい」
「人型?それって……」
「おそらくな」
「……」
提督は黙り込む。
人型の化け物。言うまでもなく深海棲艦のことである。
「艦隊にいつでも出撃できるよう待機命令を出してくれ。加賀に偵察機を飛ばしてもらうように頼むのを忘れずに」
「分かった。すぐに手配しよう」
「頼む」
長門は部屋を出て行った。
彼はこれから起こるであろう戦いについて考え始めた。
◆◆◆
翌日。
トーパ王国軍は昨日の事件により警戒態勢を取っていた。
そのため、王都ベルンゲンにはピリついた空気が流れる。
ロデニウス連合海軍泊地艦隊、調査隊護衛艦隊からも「彩雲」や「零式水上偵察機11型乙」が飛び立ち、周辺の海域を警戒していた。
そんな中、戦艦「長門」の21号対空電探改二が反応を示した。
「ん……これは……!?」
「どうした?」
「敵の反応だ。艦隊から方位0-3-0、距離130km。数は40以上」
「やはり来たか……」
「どうする?」
「もちろん迎撃さ。長門、艦隊に通信を繋いでくれ」
「了解」
◆◆◆
トーパ王国海軍第二艦隊を全滅させた深海棲艦たちは、そのまま王都ベルンゲンへ進撃していた。
空母ヲ級flagshipが艦載機を発艦させ、地上を攻撃する。
制空権を確保するためだ。
さらに、重巡リ級eliteや軽巡ホ級flagship、駆逐イ級が続く。
深海棲艦艦載機が編隊を組み、ベルンゲンへ向かっている。
攻撃隊は、一直線に進む。
その先の上空には「加賀」から飛び立った「烈風 一一型」の姿があった。
その数は20機。零戦の後継機として設計された機体である。
「行くぞ」
隊長機が合図を送る。
そして、一気に急降下を開始した。
20㎜機関砲をぶっ放し、その勢いのまま敵編隊を突っ切る。
深海棲艦戦も烈風の後を追おうとするが、速度が違いすぎるため振り切られてしまう。
敵味方が入り乱れての戦闘が繰り広げられている。
深海棲艦戦は烈風に食らいつくことができない。
逆に、烈風の攻撃を食らってしまう。
一方的な戦闘が続いた。
それもそのはず、「加賀」の妖精パイロットは練度が桁違いなのだ。
対深海棲艦戦争の初期から実戦を経験してきたベテランばかりなのである。
そんな彼らにとって、この程度の相手など雑魚以外の何物でもないのだ。
一方、深海棲艦爆と深海棲艦攻はというと……
調査隊護衛艦隊の猛烈な対空砲火を浴びていた。
「ビッグ7の力、侮るなよ」
長門は笑みを浮かべながら、主砲を放つ。
第八駆逐隊の朝潮、大潮、満潮、荒潮、もそれに続く。
彼女たちの主砲も次々と火を噴き、12.7cm連装砲が砲弾を吐き出す。
主砲に負けじと、25㎜機銃も火を噴き続ける。
だが、数が多すぎた。
撃ち漏らした敵機が市街地へ侵入する。
「まずい!」
深海棲艦爆が攻撃態勢に移ろうとしたその時だった。
緑色の物体が深海棲艦爆撃を襲う。
それは、加賀の「烈風 一一型」であった。
「みんな優秀な子たちですから」
加賀は涼しい顔で言った。
深海棲艦の攻撃隊はあまりの損害率に撤退した。
その後、加賀はすぐさま攻撃隊を発艦させる。
攻撃隊の群れが空の彼方へと消えていく。
深海棲艦の位置はすでに把握している。
◆◆◆
数時間後。
加賀攻撃隊による反撃が始まっていた。
「敵艦隊見ゆ!」
「全機突撃せよ!」
合図と共に攻撃隊は二手に分かれる。
「彗星一二型甲」が高空を、「流星改(熟練)」が低空を飛行する。
深海棲艦戦が迎撃に向かうが、「烈風 一一型」によって阻止される。
「彗星」が爆弾投下体勢に入る。
ダイブブレーキを開き、翼が折れそうなほど傾ける。
対空砲火で数機が撃墜されるが、残りは無事に降下を続ける。
そして、爆弾が切り離された。
何発かは外れて水柱を上げるが、そのうちの数発が空母ヲ級に直撃した。
爆発が起こり、ヲ級は炎上しながら海へ沈んでいく。
他の艦にも命中弾があり、火災が発生している。しかし、沈没は免れそうだ。
そこへ低空から侵入してきた「流星」が魚雷を投下する。
魚雷は何本もの航跡を描き、戦艦ル級2隻、重巡リ級1隻に命中した。
直後、轟音とともに巨大な水柱が上がる。戦艦ル級1隻は撃沈され、重巡リ級も大破した。
◆◆◆
制空権を確保したところで、いよいよ艦隊同士の殴り合いが始まる。
攻撃隊によってボロボロになった深海棲艦艦隊の前に、調査隊護衛艦隊が現れた。
「待ちに待った艦隊決戦か。胸が熱いな」
長門はそう言いながら、砲撃を開始する。
41㎝砲弾は命中はしなかったものの、至近に着弾する。
「握手や写真はいいけどぉ、贈り物は鎮守府を通してね♪」
「よし、突撃する!」
「大潮、負けませんよー!」
「撃つわ!」
「かわいそうかしら?」
長門に続き那珂、朝潮、大潮、満潮、荒潮が突撃していく。
「ふっふーん!生まれ変わった摩耶様の本当の力、思い知れ!」
摩耶も突撃を援護するように主砲を撃ちまくる。
砲撃戦で先に命中弾を浴びせたのは、調査隊護衛艦隊の方だった。
長門の放った一式徹甲弾が、戦艦ル級の右手の艤装を吹っ飛ばす。
お返しと言わんばかりに、重巡リ級eliteの放った砲弾が那珂に命中する。
「きゃあっ、顔はやめて…」
「大丈夫ですか!?」
朝潮が声をかける。
「うん、平気だよ……」
「よかった……」
ほっとした表情を見せる朝潮だったが、すぐに厳しい顔に戻る。
「この摩耶様に歯向かったことを後悔させてやるぜ!」
摩耶の放つ砲弾が軽巡ホ級flagshipの胴体を貫いた。
ホ級は炎に包まれ、そのまま海中へ没していった。
41㎝砲が2隻目の重巡リ級を轟沈させ、朝潮の放った12.7cm砲が駆逐イ級を1隻沈める。
その後も激しい砲撃戦の後、雷撃戦へと移っていく。
那珂、朝潮、大潮、満潮、荒潮が一斉に61cm四連装(酸素)魚雷を放つ。
大日本帝国海軍が大戦中に唯一運用した酸素魚雷が、深海棲艦に襲いかかる。
そして、決着がついた。
酸素魚雷が戦艦ル級に突き刺さり、爆発を起こす。
重巡リ級と駆逐イ級にも魚雷が命中。
たったの一撃で、4隻とも海の藻屑となったのである。
「敵艦隊は全滅したようです」
「そうか」
加賀の報告を聞き、長門はうなずく。
「では、帰るとするか」
「えぇ」
こうして、深海棲艦との海戦は終わったのであった。
◆◆◆
深海棲艦との戦いが終わった後、調査隊護衛艦隊はベルンゲンへと戻った。
そこでトーパ王国国王と面会し、今回の戦果を報告した。
その後、調査隊は数日遅れてロデニウス連合へ帰還したのだった。