中央暦1642年3月26日
「出港!」
提督の声が響くと同時に、岸壁に並ぶ艦艇から一斉に汽笛が鳴り響いた。
使節団護衛艦隊の出発である。
護衛艦隊は旗艦「Bismarck」を先頭にして、戦艦2隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦3隻の編成になっている。
護衛対象は、外交官らを乗せた小型客船だ。
向かう先は、先進11ヶ国会議の会場がある、神聖ミリシアル帝国南端部にある港街カルトアルパスである。
同じ頃、グラ・バルカス帝国、帝都ラグナ。
「カイザル、ミレケネス。間もなく先進11ヶ国会議が開催されるが、準備は整っているな?」
帝王グラ・ルークスは、男性1人と女性1人、2人の軍人に確認した。
「はい、皇帝陛下、準備はすべて整っております。」
帝国海軍東方艦隊司令長官カイザルと、帝国海軍特務軍司令長官ミレケネスは答える。
「陛下、今回の作戦で、現地人どもは……世界は震撼し、我らにひれ伏す事になるでしょう」
外務省長官モポールは、自信をもって発言する。
「よもや、神聖ミリシアル帝国に遅れをとる事はあるまいな?この世界では最強と謳われる国家なのだからな」
グラ・ルークスは念を押すように問う。
「ご安心ください。兵器の設計思想を見れば、かの国の間違った方向性が見えてきました。我が帝国の敵ではありません」
「そうか、では本件は、許可することとする。皆頼んだぞ!!」
グラ・ルークスの言葉に出席者全員が敬礼し、会議室を出て行った。
数時間後。
グラ・バルカス帝国、帝都ラグナにある軍港から外交官らを乗せた、1隻の巨大戦艦が出港した。
戦艦の名は、「グレードアトラスター」ではなく、姉妹艦の「グレートウォール」だ。
そして、別の場所にある軍港では、20隻近くの艦影が静かに動き始めていた…………。
◆◆◆
中央暦1642年4月5日。ついにその時は来た。
神聖ミリシアル帝国南端 港街カルトアルパス。
「神聖ミリシアル帝国第二の心臓」とも呼ばれるこの街は、交易の中心として栄えている。
細長い湾内に広大な港湾設備を持ち、その規模は世界でも屈指であった。
カルトアルパスの港湾管理局、局長ブロントの下に、各国代表団の到着の様子が伝えられたのは、午前10時頃の事だった。
その知らせを受けたブロントは、部下に指示を出す。
「この辺は代り映えせんな」
彼は管理局の窓から、入港する戦列艦を眺めていた。
しばらくすると、第二文明圏担当者が慌てた様子で局長室に飛び込んできた。
「第二文明圏外から、グラ・バルカス帝国の船が到着したとの事です!」
「数は?」
「戦艦1隻のみと聞いております」
「なんだと!?」
ブロントは驚きつつも、冷静に指示を飛ばす。
「何てデカさだ」
「あれが噂の『グレードアトラスター』でしょうか?」
「ああ、おそらくな」
戦列艦やムーの戦艦がおもちゃのようにしか見えないほどの巨体だ。
この艦こそ、グラ・バルカス帝国の誇る世界最大・最強の戦艦、「グレードアトラスター」の姉妹艦「グレートウォール」である。
「グレートウォール」は一気に注目の的となった。
「グレートウォール」は誘導に従い、第二文明圏エリアに進入していく。
「……長! ブロント局長!!」
「ん? ああ、どうした?」
「第三文明圏方面からロデニウス連合が到着しました」
「数は?」
「戦艦2、巡洋艦1、小型艦3隻の計6隻のようです」
「ロデニウス連合か。確かパーパルディア皇国を打ち破った新興国だな。第三文明圏エリアに誘導しろ」
「了解しました」
部下が退室すると、ブロントは窓の外を見た。
「おお……!」
思わず感嘆の声を上げる。
彼の視線の先には、2隻の戦艦の姿があった。
1隻は、連装砲を前後に2基ずつ搭載した戦艦である。もう1隻は三連装砲を前方に2基、後方に1基搭載した戦艦だ。
どちらも「グレードアトラスター」とは違った美しさを持っている。
「今回の先進11ヶ国会議は大当たりだな!」
ブロントは素晴らしい軍艦を見られたことに感動していた。
◆◆◆
「戦艦と駆逐艦だと!?」
戦艦「グレートウォール」の艦橋にて、艦長であるエルク・ドレイファス大佐は叫んだ。
まさか、自分たちと同程度の技術を持っている国家が存在するなど、夢にも思わなかったのだ。
「不味いな……少し苦戦するかもしれん」
「しかし、我々の後ろには空母機動部隊が控えております。敵がどんな船を用意していようと、恐るるに足りません」
「確かにな。だが、油断は禁物だ。万全の体制で臨むぞ」
「はい!」
一方、ロデニウス連合使節団護衛艦隊旗艦「Bismarck」の艦橋でも、同様な会話がなされていた。
「マジで大和型戦艦にそっくりじゃねえか」
提督は双眼鏡を覗きながら呟いた。
彼の言う通り、「グレードアトラスター」は大和型戦艦にそっくりだった。
「主砲も46cmか。まあ、あの図体なら積んでいてもおかしくはないな」
「そんなことより向こうは戦艦が1隻だけなの? いくらなんでも少なすぎない?」
「恐らく、どこかに別動隊が隠れているんだろう」
「そうね。用心しないと……」
「ああ、そうだな」
◆◆◆
翌日の4月6日。
いよいよ今日から会議が始まる。8日間に及ぶ会議で定めた方針を、今後の世界の流れとして「世界のニュース」で発表するのだ。
会場である帝国文化会館の大ホールには、既に各国の代表団が集まっている。
今回の先進11ヶ国会議の参加国は
神聖ミリシアル帝国
エモール王国
アガルタ法国
トルキア王国
ムー国
ニグラート連合
マギカライヒ共同体
グラ・バルカス帝国
パンドーラ大魔法公国
ロデニウス連合
アニュンリール皇国
だ。
「これより、先進11ヶ国会議を開催致します」
議長の開会宣言により、先進11ヵ国会議が始まった。
まずはエモール王国の代表が発言権を得た。
「エモール王国のモーリアウルである。今回は、皆に伝える事がある。重要な事であるため、最後まで聞いていただきたい」
エモール王国が行う空間の占いは、的中率98%を誇ると言われている。
その彼らが重要事項があると言うのだから、出席者全員の表情が引き締まった。
「先日、空間の占いを実施した。その結果だが……古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国が近いうちに復活する事が判明した!」
ざわめきが起こる。無理もない。
「な……なんだと!?」
「まさか、本当なのか!?」
「本当に復活すれば、大変な事になるぞ!!」
「静粛に! 静粛に!!」
騒ぎ出す参加者たちを、議長が制止する。
「時期や場所は、空間の位相に歪みが生じており、正確に把握出来ていない。そのため、正確な時期は特定出来ないが今年から4年〜25年の間に復活する可能性が高い。奴らに、どれほど抗する事が出来るのか、伝承がどれほど本当なのかは不明だが、奴らの遺跡の高度さが、その文明レベルの規格外の高さを物語っている。
各国は無駄な争いをせず、軍事力の強化を行い、世界で協力してラヴァーナル帝国復活に準備をするべきである」
モーリアウルは、そう言って話を締めた。
会場はざわつき続けている。
そんな中、笑い始める女性が1人。
「くっくっく……はーっはっはっは!」
参加者の多くが、彼女の方を向いた。
「な……何がおかしい?」
「いえ、失礼。私はグラ・バルカス帝国外務省、東部方面異界担当課長のシエリアという。魔帝だか何だか知らんが、過去の遺物を恐れるとは、随分と腰抜けが多いのだと思ってな」
彼女は嘲笑した。
「貴様! 我が国を侮辱するか!!」
「そもそも占いなぞという、当たるかどうかも分からないものに踊らされるようでは、話にならんな。これで世界会議とはレベルの低いものだ」
「新参者が何を言うか!」
シエリアに対する罵声と怒号が飛び交う。
「凄い会議だな」
ロデニウス連合の代表らは小さい声で呟いた。
「我が国はこの場において、グラ・バルカス帝国に対する非難声明を出させて頂きます。また同国への懲罰的処置として、2年以上の交易制限を課します」
ムー国の代表も侵略行為を続けるグラ・バルカス帝国に抗議を行った。
「1つ言わせてもらおう。我が国は、今回、会議に参加し、意見を言いに来たのではない。通告しに来たのだ。グラ・バルカス帝国 帝王グラルークスの名において、貴様らに宣言する。
我らに従え。我が国に忠誠を誓った国家には、相応の対価を約束する」
「馬鹿な事を!! そのような要求が通ると思っているのか!?」
「愚かな……」
「蛮族が偉そうに……」
「グラ・バルカス帝国の言いなりになるくらいなら、いっそ滅んだ方がマシですな」
誰もが口々に罵倒の声を上げる。
「やはり、今従う国は現れないか……グラ・ルークス陛下は寛大なお方だ。我が国の力を知った後でも構わない。用があれば、レイフォルの出張所に来るがいい。では現地人共、確かに伝えたぞ」
そう言うと、グラ・バルカス帝国代表団は会議室を出て行った。
そして、「グレートウォール」に乗り込むと、昼頃にはカルトアルパスを去って行った。