中央暦1642年4月7日。神聖ミリシアル帝国、南西海域マグドラ群島。
神聖ミリシアル帝国海軍所属の第零式魔導艦隊は、マグドラ群島で演習を行っていた。
魔導戦艦3、重巡洋艦2、巡洋艦3、小型艦8、計16隻からなるこの艦隊は、世界に敵なしと謳われるほどの練度を誇る。
「ん?」
第零式魔導艦隊の旗艦、ミスリル級魔導戦艦「コールブランド」の魔力探知レーダーを見ていた操作員が異変に気付いた。
多数の人間が集まったような光点を多数発見したのだ。
「これは……まさか!?」
仮想敵国、ムーの機械動力艦を想定した時と同じパターンである。
「対水上レーダーに反応あり!機械動力艦と思われる反応が接近中!!速度27ノット! 距離60km! 反応から想定するに、戦艦2、重巡洋艦3、巡洋艦2、小型艦5、計12隻がこちらに向かっています!あ、速度が29ノットに上がりました!!」
「29ノットだと!?ムーでは、そんな速度は出せないはず……まさか!総員、戦闘配備!!総員戦闘配備!不明艦隊がこちらに接近中!!これは訓練ではない!!」
その報告を聞いた艦隊司令、バッティスタ少将は、即座に命令を下した。
魔信により、全ての艦艇が戦闘態勢に入る。
「不明艦隊、速度30.5ノットまで上昇」
「上空に魔力反応無し!」
「群島に展開中の空軍に援軍要請を出しました。局地戦力しか持っていませんので、『ジグラント2』25機のみ展開可能。艦隊上空到達まであと15分とのことです」
「コールブランド」の艦橋内に緊張した空気が流れる。
「どう見る?」
バッティスタは隣に立つ「コールブランド」の艦長クロムウェル大佐に尋ねた。
「おそらく、グラ・バルカス帝国かと思われます。戦艦を2隻含んでいるにも関わらず、速度30.5ノットと高速なのには驚きます。明らかにムーよりも強力です。
こちらは最新鋭艦であるミスリル級が2隻、ゴールド級が1隻と数では勝っています。
しかし、敵艦の性能は未知数であり、どのような兵器を搭載しているかもわかりません。一方的な戦いにならないとも限らないでしょう」
「ふむ……ならば、我が軍の実力を見せつける必要があるだろうな」
「ですが、問題は敵が機械動力型の天の浮舟を持っていた場合です。人間1人当たりの魔力量は高くないので、人が1人しか乗っていない天の浮舟は、魔力探知レーダーでは捉えられない可能性があります」
「うむ」
水平線には、敵艦の発する煙が見え始めていた。
「黒い煙を吐くとは、優雅さの欠片もないな。やはり野蛮人の集まりだな」
「あれほどの煙を出すなど、いったい何を考えているのか……」
バッティスタは、グラ・バルカス帝国と思われる艦隊に対し闘志を燃やす。
◆◆◆
グラ・バルカス帝国海軍特務軍艦隊は、神聖ミリシアル帝国艦隊に一撃を与えるべく南下していた。
高速戦艦2、重巡洋艦3、軽巡洋艦2、駆逐艦5、計12隻からなる戦艦を含む艦隊としては驚異の30ノットで南下している。
「敵艦隊の方が、我々よりも数が多い。数の上では不利だ。勝てるか?」
「今回の敵は、この世界では最強を自負しているようです。しかし、我が艦隊の威力偵察の相手としては、不足はないでしょう」
艦隊司令官と艦長は、自信に満ちた顔を見せる。
「対空レーダーに感あり。群島より航空機が飛来、機数25!艦隊上空に到達するまであと17分」
「来たか」
「全艦、対空戦闘用意!駆逐艦隊は前方に展開、水雷戦に備えよ!」
マグドラ沖海戦と呼ばれる海戦が始まろうとしていた。
◆◆◆
マグドラ群島基地に配備されている、神聖ミリシアル帝国空軍の多目的戦闘爆撃機「ジグラント2」25機は、時速410㎞という速度を叩き出しながら、戦場へと向かっていた。
オメガは緊張していた。今回が初めての実戦となる。
「行け!!神聖ミリシアル帝国の力を、蛮族どもに見せつけてやれ!!」
オメガは味方に檄を飛ばす。
訓練通りに海面から約50°の角度で急降下する。
「対空砲を撃ってきたぞ! 気をつけろ!」
敵艦から大量の光弾が飛んでくるのが見える。
そんな中、
ドン! と爆発音が響いてきた。
「なんだ!?」
「敵弾の一部が爆発してるみたいです」
(まさか、弾が近づいただけで爆発するのか!?)
オメガがそう思った時、左にいた僚機が撃墜された。
爆発する弾が右翼をもぎ取ったのだ。
「うわぁあああ!!」
別の機体は錐揉みしながら落下していく。
(な……なんだこれは!!)
オメガは自分の命の危機を感じながらも、必死に操縦桿を動かす。25機いた味方は、気づけば20機に減っていた。
残りの20機は、無事に爆弾を投下することに成功した。
しかし、敵艦が回避行動をしたため、命中したのは2発だけだった。
「ちっ! ダメだったか……」
オメガは舌打ちをした。
だが、彼の任務は達成されていた。
「やはり航空機で戦艦は沈められんな」
そう言うと、部下と共に全速で弾幕から退避した。
◆◆◆
「やはり航空機で戦艦を沈めるのは難しそうだ。全艦、砲撃戦準備!」
敵が、小型艦5隻を前方に押し出す陣形に疑問をいだきつつも、バッティスタ少将は全艦に命令を下した。
「主砲、発射用意。目標、敵戦艦」
「砲弾への魔力完了。主砲への魔力注入開始」
主砲が敵艦に向き、砲身が持ち上がる。
「敵戦艦発砲!」
艦内用魔信機を通じての報告が入る。
「何?主砲への魔力注入中止!水属性魔法障壁展開!」
「了解。水属性魔法障壁展開」
艦体に水属性の魔力が注入され、一瞬だけ青白く発光する。
その直後、敵戦艦の放った砲弾が第零式魔導艦隊の前方に着弾する。
「まさか我々の主砲の最大射程とほぼ同程度あるとは……」
敵艦との距離は約30kmほどある。これには艦長クロムウェル大佐も驚いた。
「散布界が荒いらしいな。装甲強化解除、主砲への魔力注入開始! 」
再び、主砲へ魔力が注ぎ込まれる。
「充填完了!発射5秒前。4、3、2、1、発射!」
ミスリル級「コールブランド」・「クラレント」、ゴールド級「ガラティーン」の38.1㎝砲が火を噴いた。
残念ながら、第一斉射は外れてしまった。敵艦隊は臆すること無く真っすぐ向かってくる。
「命中弾無し。照準修正」
「次弾装填急げ」
敵も黙ってはいない。
「敵艦発砲!!」
「属性そのまま、魔法障壁展開」
展開完了後、砲弾が落下する時の甲高い音が聞こえてくる。
「衝撃に備えよ」
艦長の言葉と同時に、艦隊の周囲に水柱が立ち昇った。かと思うとゴールド級魔導戦艦「ガラティーン」から報告が入った。
「左舷に被弾!喫水線付近に被弾した模様!」
「ガラティーン」は左舷喫水線付近に穴が開き、そこから海水が流れ込んでいた。
「なんだと?魔法で強化した装甲を貫通したのか?」
「おそらくは……」
どうやら主砲の威力も我が方と同等であるようだ。
「主砲への魔力注入完了しました」
「よし、第二斉射。撃てぇー!!!」
轟音とともに、二斉射目の砲弾が敵戦艦に向かって放たれた。
『我が方の砲撃、命中弾2。派手に爆発しています』
「おお!」
「ガラティーン」の仇と言わんばかりに、敵戦艦は派手に爆発している。
「敵戦艦、速力が低下」
どうやら機関部にダメージを与えたらしい。
撃ち合いを続けているうちに敵艦隊との距離は10㎞に迫る。
「敵小型艦、転進!!離脱して行きます」
「何だと!?」
バッティスタ少将は驚く。今回のような戦艦同士の砲撃戦では小型艦は役に立たない。強いて言えば弾避けに使える程度である。敵の意図が読めない。
「まあ良い、あの足の遅くなった戦艦に止めを刺すぞ」
艦隊同士の殴り合いは、第零式魔導艦隊の勝利に終わった。足の遅くなった戦艦を滅多打ちにした結果、弾薬庫が誘爆を起こし、敵戦艦は轟沈。
これが決め手となり、敵艦隊は反転すると全速力で離脱していった。
さらに敵巡洋艦、小型艦にも多数の損害を与えていた。
「うむ!!勝ったな。しかし、被害は……」
「はい。小型艦1隻を喪失。戦艦1、重巡洋艦1、巡洋艦1隻が大破。巡洋艦1隻が中破。その他艦に多数損傷があります」
「新鋭艦隊がこれほどまでに被害を受けるとは……」
バッティスタは呟くように言った。
文明圏外国家に、ここまでやられるとは思っていなかったのだ。
これは彼にとって屈辱的であった。
「海上に異常探知!!海の中を何かが進んできます!!」
バッティスタが次の指示を出している最中、見張り員の叫び声が響いた。
「なんだ!?」
海面を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
白い航跡が多数、大破して足の遅くなった「ガラティーン」に近づいている。
グラ・バルカス帝国の駆逐艦が放った魚雷が、ようやく到達したのだ。
「い、いかん!!!!」
「ガラティーン」も気づいたのか左に舵を切った。
しかし、次の瞬間、鈍い音と共に3本の白い水柱が立った。
「ガラティーン」は右に傾いた後、左に大きく傾いた。
そして、そのまま海中へと引きずり込まれていく。
「お……おのれ!!」
まさか戦艦を撃沈されるとは思ってもいなかった。
バッティスタは怒りに身を震わせる。
「グラ・バルカス帝国め……許さん!!」
◆◆◆
「威力偵察のつもりが、随分とやられましたね」
「ある程度の損害は覚悟してたが……帰ったら、報告書が大変だな……」
「まあ、上からの命令ですから。仕方ありませんよ」
「そうだな。次は空母機動部隊の航空部隊がを攻撃するはずだ。あの程度の艦隊では、あっさり全滅するだろうな」
その数分後、空母機動部隊から飛び立った攻撃隊200機がグラ・バルカス帝国艦隊を飛び越え、第零式魔導艦隊へ向かっていった。