中央暦1642年4月8日、神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス。
外務省統括官リアージュは、困惑していた。先進11ヶ国会議に出席し、重要な会議がいくつも控えている時に、帝都ルーンポリスに戻るよう指示が届いたからだ。
重要案件のある時期に緊急会議とは、よほどの事が無ければ行われない。
そのため彼は、悪い予感を覚えていた。
緊張しながらも会議室の扉を開ける。
扉を開けると、外務省の幹部、軍の幹部、そして国防省のアグラ長官までもが着席していた。リアージュは恐る恐る自分の座席に座ると、会議が始まった。
「これより、緊急会議を開催致します」
軍の担当官が話し始める。
「概要を説明致します。昨日昼頃、本国の西方にあるマグドラ群島で訓練中の第零式魔導艦隊が、正体不明の勢力と交戦状態に突入いたしました」
ざわめきが起きる。皆が驚愕しているようだ。
「『正体不明艦隊と航空機による攻撃を受けつつある』との連絡を最後に、交信不能に陥っています」
「まさか、第零式魔導艦隊が……」
「ちょっと待ってくれ、第零式魔導艦隊が全滅しただと?あの無敵の艦隊がか?」
「信じられん……何があったのだ」
「あの最強の艦隊がか……?」
軍関係者達は動揺を隠せない。
「相手は、一体どこの国なんだ?」
「敵の国旗を確認したところグラ・バルカス帝国のものと思われます」
「なに!?」
「あの蛮族どもが!?」
「バカな……」
「ありえない……我が国が誇る第零式魔導艦隊が敗れるなど……ありえん!」
「離島防衛基地からは『敵艦隊及び航空攻撃により、第零式魔導艦隊は全滅。同基地も半地下式司令部以外、壊滅。その後、東へ向かった』との報が入りました」
「東!!東だと!?ま……まさか!?」
「はい。想定されるのは、先進11ヶ国会議開催中の港街カルトアルパスへの強襲です」
会議室がどよめく。
「防衛体制はどうなっている!?」
「現在、カルトアルパスには魔導巡洋艦8隻しかいません。第1・第2・第3魔導艦隊を、カルトアルパス周辺に展開させるように手配を行っていますが、距離を考慮すると、敵の方が速くカルトアルパスに到着する可能性があります。空軍はともかく魔導艦隊が間に合わないかもしれません。現在カルトアルパスでは先進11ヶ国会議が行われているため、外務省統括官の意見も伺いたいと思い、今回の会議にお呼びしました」
「じょ……冗談じゃない!世界最強であり、世界に敵なしと謳われる神聖ミリシアル帝国が、国の威信をかけて警備を行っている先進11ヵ国会議の開催期間中に『蛮族に攻められ、守り切れないかもしれないので、避難してください』などと言えるわけがない!」
「しかし、現実問題として敵の攻撃を受ける可能性が高い以上、やむを得ないのでは……」
「何を言っているんだ君は!そんな事を言ったら、我が国の権威は失墜してしまうぞ!!」
リアージュは、怒り狂う。
「そんなことを各国に伝えるくらいならば、『大艦隊に奇襲を受けた』と言ってしまったほうがいい!奇襲を受けて被害が出るならば、まだ各国も対グラ・バルカス帝国で協力してくれるだろう!!」
「しかし、それでは『何故敵の接近を探知できなかったのか』と我が国の能力を疑われます!」
緊急会議は荒れに荒れ、深夜にまで及んだ。
◆◆◆
翌日の4月8日。港街カルトアルパス、帝国文化会館。
「これより、先進11ヶ国会議実務者協議を開催致します」
司会進行の言葉と共に、本日の会議が始まる。
「本日は、議長国の神聖ミリシアル帝国から、皆さまへ連絡がございます。先日、グラ・バルカス帝国の艦隊が我が国の西の群島に奇襲攻撃を行い、地方隊が被害を被りました」
神聖ミリシアル帝国は国益のため、第零式魔導艦隊が壊滅した事を伏せる事にした。
「テロ対策として、本港カルトアルパスには、魔導巡洋艦が8隻警備に就いておりますし、空軍によるエアカバーを行いますので問題はありませんが、万が一の事態に備え、本日の夕方までにカルトアルパスから全艦隊を引き上げていただき、開催地を東のカン・ブリッドに移したいと思います」
会場がざわつく。
「皆様のお気持ちはわかります。ですが、皆様にご理解いただければ幸いです」
一瞬の沈黙の後、エモール王国の代表、モーリアウルが立ち上がって話し始めた。
「あの新参者であり、かつ無礼者が攻撃してきたからといって、世界の強国である我らが逃げ帰るというのは、あまりにもみっともない話である。我が国は陸路だが、ここに来ている者たちは、どこもそれなりの規模の艦隊を連れてきているはずだろう?そのための、外務大臣級護衛艦隊だろう?魔力数値の低い人族のみで構成された、しかも文明圏にすら属していない国を相手に、怖じ気づくような腰抜けばかりなのか?我が国は陸路で来ているため、艦隊は無いが控えの風竜22騎ならば、これを投入しても良いぞ」
「おおっ」
各国の要人達の間にどよめきが起こる。
「わ……我が国の戦列艦7隻も、無礼なグラ・バルカス帝国の軍を退治ためならば、喜んで手を貸しますぞ!」
中央世界のトルキア王国も、会議の移動を反対する。
「我が第二文明圏では、グラ・バルカス帝国が我が物顔で暴れまわっている。中央世界と共に戦えるならば、我が艦隊も参戦いたします」
第二文明圏内国家、マギカライヒ共同体の代表も参戦を表明した。
続いて、ムー国とニグラート連合の代表も、自分達の艦を出すと表明する。
「対パーパルディア皇国での貴国の数々の伝説は伺っています。ロデニウス連合はどうされるのですか?」
「開催地変更についての意見は、本国に問い合わせます」
ロデニウス連合の代表は、本国からの返答を待つという姿勢を示した。
◆◆◆
あれから4時間後。
「という訳で、やはり万が一の安全を考え、早期に移動をお願いしたい!!仮にカルトアルパスに強襲してきた場合、本当に時間がありません。ここで、のんびりと話をしている場合ではないのです!!」
危険だから、大規模戦力のない今、避難をする。
なぜ、そんな単純なことがわからないのか。ロデニウス連合の代表は理解に苦しむ。会議は紛糾した。
そしてついに、最悪な形で会議は終わる事となった。
「皆さま、静粛に!静粛に!!これより重要な伝達事項があります」
議長が声を上げる。
「先ほど、我が国の哨戒機がカルトアルパス南方約150㎞地点を北上する、グラ・バルカス帝国艦隊を発見致しました。敵艦隊は、現在、速度20ノットでカルトアルパスに向かっている模様です。この速度とここから海峡までの距離を考えると、避難はもう間に合わないでしょう。つきましては皆様の案を採用し、迎撃作戦を行うことと致しました」
議場は騒然となった。
「外交官と外務大臣の身の安全だけは、我が国の義務として確保させていただきます。早急に鉄道で東に避難していただきます」
会議室に緊張が走る。
◆◆◆
神聖ミリシアル帝国政府首脳部もまた、今回の事態への対応を協議していた。
世界の中心とも言える帝都ルーンポリスのさらに中心、皇城アルビオン城において、緊急会議が開かれている。
今回の会議には、皇帝ミリシアル8世を中心とし、軍務大臣シュミールパオ、国防省長官アグラ、情報局長アルネウス、外務省統括官リアージュの他、国の幹部が勢揃いしている。
「今回の会議を開くきっかけとなった事案の概要を説明致します」
国防長官アグラが口を開いた。
「先日、先進11ヶ国会議初日において、西方の文明圏外国家グラ・バルカス帝国が、我が国を含む世界へ向け、従属せよと要求いたしました。グラ・バルカス帝国は現在、第二文明圏西側各国を陥とし、連戦連勝を重ねています。列強レイフォルを単艦で破ったことから自信をつけ、このような暴挙に走ったものと思われます」
「野蛮な奴らだ」
軍務大臣シュミールパオが吐き捨てるように言った。
「グラ・バルカス帝国使節団は、先進11ヶ国会議で暴言を吐いた後、カルトアルパスから彼らの乗ってきた戦艦で立ち去っています。その後、別の艦隊がマグドラ群島において、当時訓練中だった第零式魔導艦隊に奇襲をかけました。第零式魔導艦隊は、辛くもこれを撃退していますが、敵の航空隊の猛攻に晒され、全滅しした」
会場がざわつく。
「戦闘航行中の戦艦が航空機ごときにやられる筈が無い!一体どういうことだ!?」
総務大臣が疑問を呈する。
「詳細は不明ですが、国防省では航空攻撃前の海戦で、すでに戦艦は損傷していたと分析しています。マグドラ群島は警備用の航空機を少数しか配備していなかったため、エアカバーは事実上ありませんでした。グラ・バルカス帝国艦隊は、離島防衛基地に艦砲射撃を加え、その後東に進路を取りました」
アグラは更に話を続ける。
「彼らの侵攻目標は、先進11ヶ国会議開催中の港街カルトアルパスと思われます。ただ、首都に来る可能性もあるため、首都警戒中の艦隊は動かせません。現在東方展開中の第1・第2・第3魔導艦隊をカルトアルパスに向かわせていますが、間に合わないでしょう。対応可能戦力は、カルトアルパス警備隊の巡洋艦8隻と空軍によるエアカバーのみであり、同戦力で戦います。カルトアルパスに被害が出る可能性は高く、各国に対して東の街カン・ブリッドに会議場所を移すように申し入れるも、受け入れてもらえず、グラ・バルカス帝国と対峙する道を選びました。なお、アニュンリール皇国のみは、すでに離脱しています」
アグラの説明に、外務統括官リアージュは疑問に思い、質問する。
「各国の戦力で対抗できるのですか?」
「相手は第零式魔導艦隊を葬った艦隊です。戦力として期待できるのは、ムーの艦隊と、ロデニウス連合の艦隊くらいだろうと思います。他は、的になるでしょう。しかし、数が多いので、「弾除け」として役に立つかと……」
「なるほど……」
会議場に、重苦しい空気が流れる。
「我らに恥をかかせた代償、蛮族どもの血では釣り合わぬが、払ってもらうぞ」
中央世界の雄、神聖ミリシアル帝国皇帝ミリシアル8世は、静かに闘志を燃やしていた。