中央暦1642年4月9日神聖ミリシアル帝国、港街カルトアルパス。
とある酒場では、酔っ払った商人たちがいつものように話をしていた。
「おい聞いたか?今、先進11ヶ国会議が行われているだろう? その最中、グラ・バルカス帝国が、全世界に向けて実質的に宣戦布告したらしいぞ」
1人の常連客の言葉に、他の常連たちはどよめいた。
「グラ・バルカス帝国は、今第二文明圏の西側にある国家に対し、次々と侵攻し、連戦連勝を重ねているらしい。宣戦布告したって事は、相当に自信があるんだろ?まさか、我が神聖ミリシアル帝国が、やられるなんて事は無いと思うが」
そう言って男は酒をあおる。
「まさか!いくらグラ・バルカス帝国が強かろうと、神聖ミリシアル帝国には敵うまい」
別の男が否定した。
「たとえレイフォルには勝てても、列強ムーにすら勝てないのでは?ムーと我が国が本気になれば、グラ・バルカス帝国など一捻りさ」
「でも、見たか?港に来たグラ・バルカス帝国の戦艦。山のように大きかったぞ……あんなの、どうしようもないんじゃないか?」
「大丈夫だ。我が国が負けることはあり得ない」
「他国の者に聞いたのだが、今そのグラ・バルカス帝国の軍が、ここに向かって来ているそうだ。会議に参加している各国は、外務大臣護衛艦隊で連合を組み、迎撃に出るらしい」
「ほう、なら安心だな!」
「ああ、列強の艦が集まれば、グラ・バルカス帝国ごとき問題ない」
酔っ払いたちは酒を飲みながら談笑を続けた。
◆◆◆
港湾管理者ブロンズは恐怖と期待が入り混じった感情に襲われていた。彼が見たことも無いような巨大戦艦を操る国が、このカルトアルパスへ攻撃してくるのだ。
先ほどから空を見ていると、多目的戦闘爆撃機「ジグラント2」や制空戦闘機「エルペシオ2」が飛行場に着陸している。
恐らく本当なのであろう。
目線を港に移すと、各国の外務大臣護衛艦隊が、続々と出港していくのが見える。
しばらく見ていると、ロデニウス連合の艦隊が、何故か煙幕を展開していた。
「一体何なんだ?」
そのとたん、煙幕の中が少し光ったように見えた。
「なっ!!」
煙幕が晴れると、6隻の艦隊がなんと12隻になっていた。
「どういうことだ!?」
彼には知らないことだが、煙幕の中から見えた光は、艦娘が艤装を展開させた際のものだった。
この世界で、この事を知るのは極わずかしかいない。
◆◆◆
ムーの機動部隊、戦艦2隻、空母2隻、巡洋艦8隻、装甲巡洋艦4隻からなる艦隊の旗艦「ラ・カサミ」の艦橋で、艦隊司令官のブレンダスは横に立つ艦長ミニラルに話しかけた。
「敵の規模が全く不明だが、どう見る?」
「確かに敵の戦力が不明です。おそらく敵の目的は各国の大臣護衛艦隊に、恥をかかせる事……カルトアルパスに1撃を加え、神聖ミリシアル帝国の顔をつぶすのが目的かと」
「なるほどな」
ブレンダスは小さくうなずく。
「相手の量はそれほど多くないと予想されます。一方、こちらは混成とはいえ数が多い。失礼を承知で申し上げると、通常文明圏外国の艦は良い弾除けになるでしょう」
「そうだな。弾除けとなる通常文明国の艦隊を盾にしつつ接近する。我々とロデニウス連合、神聖ミリシアル帝国は後方から援護射撃を行いつつ距離を詰める。敵は我々の射程距離に入る前に、まずは弾除けの艦隊を始末しようとするだろう。そこを狙う」
「はい」
そこへ通信士が声を上げた。
「神聖ミリシアル帝国、ロデニウス連合艦隊より入電!『グラ・バルカス帝国と思われる航空機が南西方向から多数カルトアルパスに接近中。距離140km、数は200以上』とのことです」
「に……200だと! 」
ブレンダスは驚愕する。
「直掩機をあげろ!!上がれる機体は全部上げるんだ!」
「爆装種別はいかがいたしますか?」
「艦隊防衛を優先させろ。機銃のみで良い」
「了解しました」
ブレンダスの命令により、2隻のラ・コスタ級空母は、戦闘機の発艦準備にかかる。
「マリン」と「マリンMk.II」が飛行甲板にずらりと並ぶ。
「発艦はじめ」
やがて発艦命令が下される。
「マリン」と「マリンMk.II」は飛行甲板を滑るように走り出した。
そして両機は次々と発艦し、上空へと舞い上がっていく。
臨時連合艦隊の上空を、神聖ミリシアル帝国空軍の最新鋭制空戦闘型天の浮舟「エルペシオ3」、42機が駆け抜けていく。
各国の者たちは、その光景に圧倒され、勝利を確信する。
「流石だ。神聖ミリシアル帝国の空軍は」
「ああ、グラ・バルカス帝国の航空隊など物の数ではないな」
ただし、ロデニウス連合を除いて。
「ジェット機のくせに零戦より遅いじゃないか。プロペラ機の方が速いってどういうことだ? 」
駆逐艦「雪風」の艦橋で提督は思わずぼやいた。
◆◆◆
第7制空戦闘団の団長シルバーは、初めての実戦を前にして武者震いしそうだった。
「グラ・バルカス帝国か……奴らは俺達をなめている。舐めきっている。だから勝てる」
彼はそう自分に言い聞かせた。
途中、基地司令直々の魔信による訓示があり、パイロットたちの士気は上がる。
「行くぞ、野郎ども、初陣だ!!」
「おおーっ!!」
しばらくして、ついにその瞬間が来た。
「敵機大編隊、発見! 左30、下方45!」
部下から報告が入る。
「来たな……」
彼の視界に、敵の姿が見えてきた。
「数が多いな……」
シルバーは敵機をよく観察するが、どれが制空戦闘機でどれが爆撃機なのか、見分けがつかない。
(まあ良い。全部叩き落としてやる)
彼はニヤリと笑った。
「全機に告ぐ!まずは敵の先頭集団をやるぞ!敵編隊上方から攻撃を行った後、そのまま敵後方低空へすり抜ける!」
『了解!!』
シルバー率いる第7制空戦闘団は、敵の大群へ突撃を開始した。
魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの高音が機内に響き、機体は速度が上がるにつれ、振動が激しくなる。
「!?」
微かな違和感を覚えて、太陽を見る。
「!!!!」
光が眩しいため目を細めたところ、いくつもの微かな黒い点が見える。
「て……敵襲!!前方上空!!!太陽から来るぞ!!」
シルバーが叫ぶと同時に、第7制空戦闘団は回避行動に入った。
だが、敵のほうが早かった。
次の瞬間、5機のエルペシオ3が撃墜され、敵機20機が第7制空戦闘団とすれ違う。
「お……おのれ!」
シルバーは、いきなり5機を失った怒りで歯噛みした。
彼を含め、37機のエルペシオ3が散開し、グラ・バルカス帝国のアンタレス型艦上戦闘機20機と交戦する。
先手は取られたが、数はこちらが多い。すぐに押し返せるだろう。
シルバーはそう考えていた。
しかし、それは甘すぎた。
『何なんだコイツら!?』
『速い!! それに動きが違う』
『うわっ! う、うしろを取られた! 助けてくれ! 』
『ちくしょう! 振り切れない!』
悲鳴のような魔信が飛び交う
ある機体は旋回戦を挑んだが、あっさりと背後を取られ、翼をもぎ取られた。
別の機体は機体後部を切り裂かれ、炎に包まれる。そしてまた1機……。
20対37という数的有利にもかかわらず、たった10分の間に味方機は半数まで減っていた。
「バカな! ありえん! こんなことが!」
シルバーは信じられないといった表情を浮かべる。神聖ミリシアル帝国空軍が誇る最新型の制空戦闘型天の浮舟が、たかだか文明圏外国の飛行機械に、遅れを取っているのだ。
「こいつ! 」
シルバーは必死になって、敵を振り切ろうとするが、敵はぴったりとくっついて離れようとしない。
「ええい! しつこい奴め! 」
シルバーは機体を右に急旋回させるが、敵はその動きについてくる。
「くそっ!くそっ!」
悪態をつくが、状況が好転するわけではない。
直後、シルバーの機体はアンタレス型艦上戦闘機の20㎜機関砲に貫かれた。
「ぐおおおぉぉぉー!」
断末魔の叫び声を残し、シルバーのエルペシオ3は空中でバラバラに分解していった。
◆◆◆
カルトアルパス空軍基地では、魔力探知レーダーの操作員は自分の目を疑った。
画面に映る大きな点は「エルペシオ3」のもの、小さな点はグラ・バルカス帝国の航空機。
その大きな点が次々に消えていくのだ。
それが意味しているのはただ1つ。
「ま……魔力探知レーダーから、第7制空戦闘団の反応が消えました。全滅です」
「ば……馬鹿な……最新鋭機の、練度の高い部隊だぞ!レーダーの故障では無いのか? 」
「いえ、故障ではありません。反応は完全に消失しています」
「まずい!新型機も旧式機も、上げられる機体は全部上げろ! エモール王国の風竜騎士団に応援要請を出せ!」
「は、はい」
「まずいな……このままでは、臨時連合艦隊の上空直衛が、ムーの飛行機械とニグラート連合のワイバーンロードのみになってしまう」
空軍基地は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
◆◆◆
「42機いて墜とせたのはたったの3機か……」
提督は、制空戦闘の結果を見てそう言った。
「全艦、対空戦闘の準備は出来ているな?」
『『『はい!!』』』
『もちろんです!!』
『いつでもいけるわ』
「よし! 全員、必ず生きて帰るぞ! これは命令だ! 」
『『『了解!!』』』
駆逐艦「雪風」の艦橋に気合の入った返事が響く。
編成は
戦艦 「Bismarck」「Scharnhorst」
重巡洋艦「摩耶」
軽巡洋艦「矢矧」「Helena」「Atlanta」
駆逐艦 「Jervis」「雪風」「天津風」「磯風」「浜風」「谷風」
である。