中央歴1639年9月21日 フェン王国首都アマノキ
この日は、5年に一度フェン王国が開催している「軍祭」の日である。
各国から武官たちが集まり、模擬戦や競技が行われる。もちろんロデニウス連合も参加しいる。
今回の「軍祭」は、いつもより盛り上がっていた。というのも、列強ムー国が観戦に来るからだ。
「おい、お前ら、今年の『軍祭』は凄いぞ。なんせ列強ムー国が来るんだ。俺達の活躍を見に来てくれるらしいぜ!」
「まじかよ!やったぜ!!」
「でも、ムーってどんな所だ?」
「さあ?行ったことないけど、いいとこじゃねぇのかなぁ」
「どうせ、俺たちの国は田舎だからなぁ」
「まあいいじゃないか。とにかく頑張ろうぜ!!」
「おう!!」
そんな会話があちこちで行われていた。
そして時間は過ぎていき、いよいよ「軍祭」が始まった。
まずは射撃大会だ。ルールは簡単で時間内にどれだけ多くの的を倒せるかを競うものだ。
各国の兵士が、自分の持っている弓やクロスボウで的に狙いを定めて撃つ。
「よし!当たった!!」
「まだまだ!次だ次!」
そんな感じでどんどん進んでいく。
「おお!!すごい命中率だ。あの兵士は天才だな」
「ああ、全くだ。あれほどの腕なら騎士団長になれるかもな」
「次は俺の番か……」
次の選手が矢を放つ。
「あっ、外れた」
「惜しい、あと少しだったのに」
「いいや、見てみろ。あいつの放った矢は木に刺さっている。なかなかの腕だ」
「確かに」
その後も、続々と選手達は射撃をこなしていく。
そんな中一人だけ異様な雰囲気を出している兵士がいた。その男は他の選手たちよりも明らかにレベルが違う。まるで誘導されているかのように的の中心に矢を当てていった。
彼は、全ての矢を使い切ると、一礼してその場を去った。
「あの男は誰だ?見たことがないが」
「おい!誰か知ってるか?」
「いや、知らん」
「一体何者なんだ……ん?待てよ。まさか、あの男が噂に聞く『扇の的を射抜いた少年』なのか!?」
「まさか、そんなわけないだろう」
「そうだといいがな……」
(あれがロデニウスの兵士か)
列強ムー国の武官アメリアは、観客に紛れ込みながらロデニウス軍の様子を見ていた。
(正直、ロデニウスの強さは未知数だ。しかし、第三文明圏外の国であることに変わりはない。)
この「軍祭」で見極めることができるかもしれない。そう考えたのだ。
「では、第12戦目を始めます」
司会の声とともに、ロデニウス軍は配置についた。
「開始してください」
開始と同時に、様々な方向から矢が放たれた。
すると会場に「ダン!」という異様な音が響く。
(馬鹿な、あれはボルトアクション式ライフルじゃないか!)
「おーっと、これは凄い!ロデニウス軍が使用している武器はなんと銃です!!ロデニウス軍にこんな技術があったのか!?」
司会も興奮気味である。
しかし、それは無理もない。ロデニウス軍が使用している武器は、第三文明圏の技術力を大きく超えている。
「あの国には、我々の知らない何かがあるようだな……」
アメリアはそう呟きつつ、ロデニウス軍を観察した。
様々な競技が行われる中、彼女は兵士の武器や装備品を見ることができる場所に移動し、彼らの装備を確認する。
ロデニウス軍は他国に比べて派手さがなかったので一目で見つけることができた。そしてアメリアは、あるものを発見する。
(なんだ?あの武器は?)
アメリアの目に留まったものは、奇妙な形をものであった。
パイナップルみたいな形をしていたり、じゃがいも潰し器みたいな形をしていたりと様々だ。
(まさか、手榴弾か?しかし、それならばなぜあんな形をしている?)
しかし、その武器の正体はわからない。
さらに異様な武器を目にする。
それは細長い筒のようだが先端が異様に膨らんでいる。
これもよくわからなかった。
他にも携帯可能な機関銃や短機関銃、半自動小銃などもあった。
アメリアは、ロデニウスの兵器について考察しようとしたが、あまりの驚きで思考が停止していた。
昼食を挟んだ後、午後の部が始まる。
これから本日の目玉であるロデニウス海軍による廃船への砲撃が始まろうとしている。
「これより、ロデニウス海軍の砲撃が始まります。皆さん、どうかお見逃しなく」
「「「わぁぁぁぁぁ!!!」」」
大歓声が上がる。
それもそのはず、今回の「軍祭」で一番の盛り上がりを見せる催し物なのだから。
ちなみにロデニウス海軍から、戦艦1隻・駆逐艦4隻の計5隻が参加して、砲撃を行うことになっている。
「Scharnhorst」の28.3cm三連装砲が回転し、廃船に照準を合わせる。
「主砲発射準備完了!」
「Feuer!」
轟音と共に、砲弾が撃ち出された。
そして、着弾。廃船は一瞬にして木端微塵になった。
戦艦としては口径の小さい主砲だが、それでも威力は十分だった。
「おお!素晴らしい砲撃だ!!」
「全くだ。我が軍の大砲とは比べものにならないな」
「いや、我が国の大砲だって負けてはいないぞ!」
「確かにそうだな。まあ、いいじゃないか」
ロデニウスの軍艦をアメリアは、注意深く観察する。
戦艦には大量の対空機銃が搭載されており、小型艦には筒状の物体を発射する装置のようなものが搭載されている。
(あれは何だ?あんな装備は見たことがない)
アメリアは考える。しかし答えが出ることはなかった。
再び轟音が響き渡った。
今度は、駆逐艦が砲撃を行う。次々と命中していく。
5分足らずで全ての目標を撃破した。
「なんということだ!あの小さな船だけですべての目標を撃破してしまった!」
「なんて火力だ……」
「しかし、ロデニウスの技術力は侮れないな……」
観客は大いに盛り上がったが、アメリアだけは冷静だった。
パーパルディア皇国の国家監察軍に所属するワイバーンロード隊計20騎はフェン王国の首都アマノキ上空に到達した。
「蛮族どもめ、我々に逆らうとどうなるか思い知らせてやる」
彼らの任務はフェン王国に懲罰的攻撃を加えることと、皇国に逆らうとどうなるかを他国に見せつけることだ。
「隊長!あれを見てください」
部下の一人が指さす方向に目を向けると、そこには巨大な船が浮かんでいた。
「何だあれは!?」
「わかりません!とにかく、攻撃を仕掛けましょう」
「そうだな……全騎突撃! 敵はたかだか船のようだ。恐れることはない!」
「全騎、降下用意! 奴らに我らの力を見せつけるのだ」
隊長が命令を下す。
「了解」
20機の竜騎士が2手に分かれて一斉に高度を下げ始めた。
戦艦「Scharnhorst」のレーダーはすでにワイバーンロードの反応を捉えていた。
今日の軍際にワイバーン隊が飛行する予定はない。つまり、この反応は敵のワイバーン部隊だろう。
「敵さんのお出ましみたいね」
Scharnhorstはつぶやくと、即座に指示を出す。
「
艦内にサイレンの音が鳴り響く。
妖精たちが慌ただしく動き出す。
発光信号と電信によるやり取りが行われ、艦隊は戦闘態勢に移行した。
「なあ、今日の軍祭にワイバーンが飛んでくる予定ってあったっけ?」
「(そんな予定は)ないです」
観客たちも異変に気付き、騒ぎ始める。
するとワイバーンは2手に分かれ降下を始めた。
「おい、なんか来るぞ!!」
「なんだあれは!?」
「あれはワイバーンロードじゃないか!!なぜここにいるんだ!」
「知らんよ!!とりあえず逃げろ!!」
人々はパニックになり、我先にと逃げ出した。
しかし、逃げる方向は限られており、混雑によって将棋倒しになる者や押し出される者が続出した。
そんなことはお構いなしにフェン王城に火炎弾を撃ち込む。着弾した個所から火災が広がっていく。
「撃て!撃ち落せ!」
城の中から出てきた兵士たちが、弓で応戦する。しかし、ワイバーンたちは巧みな機動で回避する。
Scharnhorstは見張り員の報告を聞きながら、射撃指揮所に報告した。
「射撃開始!」
「了解。射撃開始」
「撃てぇー!」
轟音とともに、2cm 四連装FlaK 38改、3.7cm FlaK M42などの対空火器が火を噴いた。
ワイバーンロードは慌てて回避しようとするが、避けきれず数騎が被弾し落下していった。
部隊長レクマイアの相棒も回避しきれず、左の翼に光弾を受け、コントロールを失い海へ墜落していく。
何とか回避したワイバーンロードは火炎弾を発射するが、狙いが定まっておらず全く当たらなかった。
「落ち着け! 落ち着いて狙え!」
海面に浮上したレクマイアは叫ぶが、部下たちの動揺は収まらなかった。
光弾が次々に味方を貫いていく。
「クソッ! あいつら一体どこからあんな兵器を手に入れたんだ!?」
ワイバーンは上昇して距離を取る。しかし、対空砲の射程内から逃れることはできなかった。
城下町を攻撃していた者も異変に気付き、海の方へ向かう。
「あれは…… 何だ?」
海には巨大な船が浮かんでいた。
「蛮族どもめ!我が軍の攻撃を受けてみろ!」
ワイバーンロードは低空から接近する。
地上では「扇の的を射抜いた少年」が現れ、逃げ惑う観客たちを騒然とさせていた。
彼は正確に竜騎士の首を射抜いた。
「ぐわぁあああっ!!! 首が!!」
竜騎士はバランスを崩して、ワイバーンロードから滑り落ち地面に激突した。
さらに別のワイバーンロードの右目も矢で射抜かれる。
痛みのあまりワイバーンは暴れだす。やがて失速し、そのまま地面へと墜落した。
残りのワイバーンロードも対空砲により撃墜されていった。
「なんという腕前だ! まるで神業だ!!」
観客は熱狂していた。
「何が起きたんだ?」
「わからん。だが、何かとんでもないことが起きているのは確かだ」
「あの船は何だ? あんな巨大な船は見たことがないぞ」
「馬鹿な! 列強国でもない国にあれほどの技術力があるわけがない」
この様子もアメリアは見ていた。
あれほどの対空弾幕はムーの艦艇をかき集めてもでも無理だろう。
それと同時に、なぜ大量の対空砲を搭載する必要があるのかという疑問がわいてきた。
これまでの様子をグラ・バルカス帝国の諜報員は密かに見ていた。
本当は2話に分けようと思ったのですが、読みにくかったので1話に収めました