鬼神剣客伝【改訂版】   作:春好 優

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第9話

 

早朝、朝の4時頃野営をした4人と1匹のうち最初に目覚めたのは紫苑だった。他の人達はまだ寝ているようであった。

起きた紫苑の表情は少し悪く何か悪い夢を見たようだった。

 

(最悪な気分だ)

 

紫苑の気分は夢により最悪だった。しかし紫苑はその夢を拒むことはしない。なぜならそれは戒めでもあるからだ。

 

(そろそろ朝飯の準備をしなければ)

 

そう思った紫苑は立ち上がり朝食になる者を探しに行こうとした。それを手伝って貰おうと彼の隣で寝ていた八重香の方を見ると狐の姿で気持ちよさように寝ていた。

無理に起こすのも酷と思った紫苑は彼女を寝かして自分一人で探しに向う事にした。

少しして十分な量の山菜と川魚を取り終えた紫苑は野営地に帰って来た。

帰るとクリスが起きたようで紫苑を見るで少し眠そうな顔をして近づいてきた。

 

「早起きですね。すみません、貴方に全てを任してしまって、今からでも手伝っても大丈夫ですか?」

 

全てを1人でやろうとしていた紫苑は彼女の申し出に少し考えた。しかし1人でこのまましても時間がかかると思いクリスの申し出を了承した。

 

「では、薪を探して来て火を着けといてくれ」

 

クリスにそう言うとすぐに薪を探しに行ってくれた。

紫苑はその間に魚の処理をして串に刺していた。次にするのは山菜の汁物しかし昨日と同じではあれなので味噌を使う事にした。

処理を終えるといつの間にかクリスが薪を集め火をつけていた。それを見て紫苑はクリスに礼を言うと鍋を置いて汁物の準備を始めた。

 

「そういえばその鍋何処から出したんですか?最初に会った時は持っていなかったですよね?」

 

疑問に思うのは必然だった。元々持っていなかった鍋がいきなり現れたのだ。疑問に思わないのがおかしかった。

3人とも疲れていて気づかなかったんだろう。それでも落ち着いた今になって気になったようだ。

 

「鍋か?これはこれから出したんだ」

 

そうして紫苑が見せたの掌に乗るぐらいの小袋だった。それは古く少し小汚い様子だった。

 

「そんなものから?いや、まさか異空間袋ですか?!」

 

「ああ、御先祖様から受け継いで来たものだ」

 

「貴方の先祖は何者ですか?」

 

クリスは軽く言う紫苑に少し呆れながら質問をした。

それもそのはず、この世にある異空間袋とは全部で7個だけであった。しかも殆どがどこかの国か光聖院教会と呼ばれる宗教団体によって保管されている。

そんなものと同じものを持っているのを見て驚かない方がおかしかった。

 

「……鬼だ」

 

「え、冗談ですよね?」

 

彼女は紫苑の答えに少し狼狽えてしまった。

鬼とは恐怖の象徴であった。その中でも鬼神と呼ばれる神が昔からよく物語の悪役として出てきているためこの大陸ではマイナスなイメージが定着している。また先程も名前が出てきたが光聖院教会と言うこの大陸での基本的な宗教であるところでも鬼とは邪悪の化身と定義していたのも理由であった。

 

「冗談だ」

 

紫苑は少し笑って言った。それは相手の不安を取り除くための行為だった。

クリスもその笑顔に冗談だと思い安心した。先程は少し真面目な雰囲気があったので本気にした彼女だがどうやら悪ふざけだったようだ。

 

「紫苑殿、私だから良いですけど他の人にそんな事言ってはなりませんよ?光聖院教会の中でも強い信仰がある信者とかだったら冗談にならないですからね」

 

「……分かった」

 

クリスは少し忠告をした。それは完全に自身と主の恩人である紫苑への心配をしていたからだ。

少し間を置いて紫苑は了承した。少し不満げであったのは気のせいだろうとクリスは思った。

少しして完全に飯の準備が出来る頃にはテレスとルーナの2人が起きてきた。

 

「すいません2人とも、2人が準備をしている間も寝ていてしまって」

 

テレスは少し申し訳なさそうに言った。ルーナどうやら同じ気持ちなのか申し訳なさそうに紫苑たちを見ていた。

 

「気にするな、俺が早く起きただけだ。それより飯にしよう。せっかく作った飯をそんな風に食われたらこっちとしては意味が無いだろ。申し訳なく思うぐらいなら美味しく食え」

 

「「はい!」」

 

2人の返事を笑顔で返したあと昨日と同じように紫苑は焼き魚と汁物の入った椀を手渡した。3人の美味しく食べている姿を紫苑は満足気に見ていた。

そして自分も飯を食おうとすると八重香が起きてきた。

 

「眠たそうだなお主。普通主より早く起きるのではないか?」

 

少し責め立てるように言う紫苑だが怒りの感情は無かった。それをわかってなのか八重香は少しも動じた様子は無く紫苑の膝の上へと座った。

 

「仕方のないやつだな」

 

そう言った紫苑は八重香の分の魚を食べさした。それを八重香は嬉しそうに食べていた。何も知らないもの達が見れば狐と男がイチャついている残念な光景に見えているだろう。

それはクリスとルーナも同じで紫苑たちを見ていた。テレスはそれを苦笑いして見ていた。

この大陸では使い魔は普通で紫苑の膝に座っている狐もそのような類のものだろうと2人は考えていたので何も言うことは無かった。

食事が進み全員が食べ終わると今度は全員で後片付けをした。クリスは最初自分が2人の分をやると言っていたが結局は2人に折れてしまった。そして2人はぎこちないながらも皿を洗ったりなどと頑張った。

少し遅くなってしまったことに対して申し訳なさそうにする2人だったが、

 

「大丈夫だ。初めてだったんだろ?次からはしっかり出来るよ」

 

そう言った紫苑に2人は感謝した。

 

「では、そろそろ街に向かおうか」

 

紫苑の言葉に全員が同意し出発することになった。ちなみに八重香は紫苑の肩に乗っている。

紫苑が前で1番後ろはクリスが警戒する。そして間に2人が挟まれるようにして真ん中に配置されている。

昨日の所は危険なので避けて別の方へ進むことにした。

木々や草の中を進むのは数日歩いた程度の2人では少しきついようだ。しかし弱音を吐かず頑張っていた。

大森林は多くの木々のおかげで薄暗かった。それがまた不安を煽るのだが紫苑は気にしてないように進んで行った。それのおかげかテレスとルーナは不安を和らげ進むことが出来ていた。

森を数十分程歩いていると紫苑が止まった。何事かと3人が紫苑の前を見ると前から緑色の小人のようなものが3体歩いてきた。

ゴブリンだ。魔物の強さは基本E~Aのランクがありその中でもゴブリンは1番下のEランクで弱いとされている。しかしゴブリンは上位個体や群れる習性もあり油断すると簡単に殺される。

3人はすぐに警戒する。

 

「小鬼か。皆しゃがめ!」

 

ゴブリンはまだ紫苑達に気づいていなかった。それを察知した紫苑は無駄な戦闘を避けるために後ろに小さな声で言った。それを聞いた後ろに居る3人はすぐにしゃがみ込んだ。幸い長い草は簡単に人が隠れることが出来たため気づかれることは無かった。

 

「グギャ!グギャギャギャ!」

 

「グギャ、アイヅラヅガマエロ。ナガマヨンデゴイ!」

 

隠れている紫苑たちは信じられないものを聞いて驚いていた。ゴブリンとは知能が低いのだ。それは上位個体でも同じで言葉を喋る個体など聞いたこともない。しかしあのゴブリンはたった今喋ったのだ。

3人が唖然としている中紫苑は別のことを考えていた。

 

(あいつら捕まえろ、仲間呼んでこい。…この先に何かおるのか?)

 

紫苑は先程のゴブリンの言ったことを考えていた。

しかしその間にゴブリン達は消えていた。

 

「小鬼達は去ったようだ。とりあえず少し迂回して行こうか」

 

紫苑はこの先に進むのは危険と考え迂回することを提案した。それに全員が同意すると紫苑は先程とは違う方向に進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大森林のとある場所

 

薄暗い森の中ある息を切らしながら走る3人組がいた。1人は剣を持った男の剣士、1人は弓を持った女の狙撃手、1人は杖を持った女の魔法使い。

世にいう狩人と呼ばれるもの達である。

彼らは大森林の街道でゴブリンの目撃情報が増えたことに対する調査でここを訪れていた。

痕跡などを探して少し奥に来た時だ、いきなり周りからゴブリン達が待ち伏せをしていたか現れたのだ。しかも退路を立たれた状態だった。その時は狩人達は驚きはしたものの恐怖を浮かべることは無かった。

新人ならまだしもベテランである自分たちならゴブリン程度にやられることは無いそう思っていた。

しかし彼らの予想は外れた。

剣士の剣は彼らを切れず、狙撃手の弓は彼らを射抜けず、魔法使いの魔法は彼らに当たらず、逆に彼らの方がダメージを与えられる状態だった。

無傷の敵と満身創痍になった彼ら。

狩る側だったはずの狩人はいつの間にか狩られる側になっていた。

満身創痍の彼らは退路を絶たれ逃げたくても出来なかった。

着々と追い詰められていく中で魔法使いが全ての魔力を使い後方に爆発魔法を放ったのだ。それにより後方に退路が出来て逃げることが可能になった。

魔力を殆ど失った魔法使いは気絶したために剣士が背負った。

そして剣士と狙撃手は急いで魔法使いが作った退路を急いで進んだ。

後ろからは複数の足音が聞こえた。おそらくゴブリンたちが剣士たちを追いかけているのだろう。

気になるが振り向くことは無かった。振り向けばそこに絶望がある気がしたからだ。

草を掻き分けひたすらに前に進む、限界でも走り続ける。何故なら止まった時が最後になるだろうから。

そして遂に彼らは元いた街道まで戻って来た。後少し頑張れば街に戻れる。そう彼らは安心してしまった。それが少しの気の緩みになったのかは定かではないが魔法使いを背負った剣士が転けてしまった。それが仇となりゴブリン達にまた包囲されてしまった。

 

「くっ!ここまでなのか、せっかくミルが退路を作ってくれったってのに!」

 

「あんたそんなこと言ってる場合じゃないよ!このままじゃ本当にやられちゃうよ」

 

諦めかけている剣士に喝を入れながら狙撃手は牽制のために弓を構えていた。しかしそれが無意味と言わんばかりにゴブリンたちは笑っていた。

 

「でも、さっきも俺らの攻撃がなんにも聞かなかったじゃねぇか!」

 

弱音を吐きながら怒りをぶつけてしまう剣士。しかしそれでも諦めない瞳を持つ狙撃手。

 

「あんたそんなやつだっけ?いつものあんたは自信に満ち溢れて私たちを先導して進んでいた。そんな弱音の吐く男なんかじゃなかったはずよ」

 

それを聞いた剣士はハッとした表情を浮かべた。

 

「……そうだよな。こんな簡単に諦めんなんてどうかしてたよ」

 

そう言った剣士は魔法使いを地面に寝かして剣を抜いた。

 

「グギャ、マダデイ ゴウ ズルゲンギ アルガ」

 

その時、一体のゴブリンが喋ったのだ。

 

「な、なんでゴブリンが人間の言葉を喋ってるんだよ!」

 

「グギャ、オマエ ラガ キニス ルコト ナイ」

 

そのゴブリンは片言ながらもしっかりと喋っていた。群れのボスなのだろうか。体は普通のゴブリンよりも一回り大きく、ゴブリン達はあの喋る個体の言うことを聞いていた。

 

「くっ!まぁいいやることは変わらない!」

 

その言葉に2人は覚悟を決めた。ゴブリンだと侮っていたが今は違う。完全なる格上なる存在。

自分達は狩られる側、それを認識した上で挑むのだ。

そして剣士たちは動き出す。まず近くにいたゴブリンに剣を振り下ろした。しかし傷をつけることは出来ても切り裂くことは出来なかった。しかしそれは承知の上でのこと。ただ蹂躙されるのではなく抵抗して死んでやる。それが今戦っているもの達の思いだった。

切り裂けなかった剣は止まり今度はゴブリンの棍棒が振り落とされる。しかしその時狙撃手が弓でゴブリンの目を射抜いたのだ。先程はゴブリンの異常な強さに驚いてい出来なかったが覚悟を決めてからは落ち着くことが出来たようだ。

 

「グギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

 

痛みによるゴブリンの悲鳴が辺りに聞こえた

そして初めて出来た攻撃に指揮が上がり始めた。

 

「やったぞ!初めてダメージを与えられた!」

 

「気を抜かないでよ!」

 

自分の攻撃ではなかったが仲間の攻撃が通用したことが希望になり嬉しくなったのだ。自分たちにはまだ希望があると信じられたのだ。しかし現実はそう甘くなかった。

 

「チョウシ ノルナ ニンゲン オマエら ドゲ」

 

先程喋ったゴブリンが周りに命令をした。するとすぐさま全てのゴブリンが道を開けて後ろに下がったのだ。

 

「ボスのお出ましか」

 

「あいつを倒したらもしかしたら何とかなるかもしれない」

 

魔物の世界は弱肉強食の世界。そんな中で群れであるゴブリンのボスを倒せば他の奴らが恐れをなして逃げていく。

そういう希望があった。だからこそ2人は何としても勝たないと行けなかった。

 

「俺達は生きるために突き進む!」

 

「オマエら デイド アイデ二 ナラナイ」

 

「絶対に勝ってやる!オリャア!」

 

剣士はゴブリンとの距離を詰め剣を振り下ろした。振り下ろした剣はゴブリンの首に当たった。

 

(やったぞ。急所だ!」

 

しかし先程とは違い傷すらつけることは出来なかった。それに唖然としているとゴブリンが蹴りを剣士の腰に入れてきた。

 

「危ない!避けて!」

 

「えっ?」

 

狙撃手が剣士に警告するが遅かった。気づいた時には剣士は吹き飛ばされ木にぶつかっていた。

 

「ジョシュ!」

 

狙撃手は剣士の名前を呼んですぐに向かっていった。

 

「すまない、リア俺が油断をしてしまって」

 

「そんな事ない。私がすぐに弓を射っていたら」

 

2人はお互いに謝罪をしていた。そしてボスゴブリンが少しずつ2人に近づいて来た。

 

「オマエら ヨワイ イカズ ガヂ ナイ 」

 

そう言ったボスゴブリンは仲間の棍棒を奪い振りかぶった。

 

「ごめんな。俺が転けなかったこんな事には、それにミルもあのままじゃ…」

 

「ううん。仕方ないよ。ミルにはあの世で謝ろ?」

 

「…そうだな」

 

もう何もできることは無かった。全力で抵抗した。しかし勝つことは出来なかった。だからこその諦めだった。

2人は死ぬ事が怖くない訳ではなかった。しかし全力を出しても勝つことが出来ない相手にこれ以上の抵抗を求めることが出来なかったのだ。

2人は同時にゴブリンの方へ向いた。

ゴブリンは棍棒を振り下ろした。

そこでジョシュと呼ばれた剣士は最後の抵抗にリアと呼ばれた狙撃手を庇った。リアはそれにありがとうと心の中で感謝した。

痛みが来ると思っていたが一向に来ることは無かった。もう死んでしまったのかそれとも奇跡が起きたのか。

いやそんなハズない現実は物語ではないとジョシュは考えていた。

しかし一向に来ない痛みに痺れを切らしジョシュは目を開けた。

目を開けるとリアが驚いた表情をしていた。

なんだろうと思い、リアの向いている視線の方、ボスゴブリンの方を向いた。

そこに居たのはゴブリンの棍棒をそれよりも細い黒剣で異国の服を着た男が防いでいる光景だった。

 

「結局遠回りしてもこうなるのか。俺も大概だがあの娘達も結構な運だな」

 

そう言って男はゴブリンの棍棒を払いこちらも一瞬向いた。

 

「お主ら何があったのかは知らんがそこにいろよ?守れなくなる。ほれお主らの仲間だろ?」

 

男はジョシュ達に魔法使い、ミルを投げた。

 

「オマエ ナニモノ ツヨイ」

 

ゴブリンは自分に自信があったのか男に自身の攻撃が弾かれたことを困惑しているようだった。

 

「俺か?別にそのようなこと気にする事はない。今から殺るのは殺し合いよ。別にお主に恨みはないがこの者らを守るためにその命頂戴するぞ?」

 

そう言って男、天鬼紫苑は刀を構えた。

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