鬼神剣客伝【改訂版】   作:春好 優

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第5話

(暖かい…ここは何処なのでしょうか?)

 

テレスは目を覚ますと野原に居た。そこは暖かく光や優しさに満ち溢れる場所であった。目の前をボーッと見るテレスには記憶にない場所でどこにも見覚えのないのに何故か安心してしまう。自身の記憶を思い出しても先程までは森に居たはずでこのような花が咲いている場所ではなかった。

そこはとても綺麗な場所でテレスに程よく暖かく優しい日差しが当たっている。立ち上がろうとする彼女の足には何故か力が入らずその場を動くことは出来なかった。

何も出来ないテレスは辺りを見渡すということしか出来なかった。不意にテレスは後ろを向いたのだがそこには大きな樹があるだけで何もない。しかしその樹には何故か懐かしさを覚えてしまう。

不思議と混乱はすれど慌てることはなかった。そのまま目の前の美しい光景に見惚れているとテレスの名を呼ぶ女の声が聞こえてきた。

 

「テレスティナ、私の可愛いテレスティナ、ほらおいで」

 

声がする方を見ると花が周りを舞いながらこちらに手を伸ばす女性が居た。人間では無いのがその神々しさからテレスは直ぐに理解した。

その女性の顔は美しく、何処か見覚えの感じがした。女性の姿や声が存在が先程の樹のようにテレスの心を刺激してくる。

 

(全てが懐かしい。私の記憶には無いはずなのに)

 

テレスはこの光景全てに愛おしさを感じるのだが何も分からない。それがテレスの心を悲しくそして寂しく感じさせていた。

テレスが色々と考えていると女性は振り返り離れて行ってしまう。

 

(嫌!行かないで!)

 

動かない足を無理矢理動かそうとするのだが動けず引き止めるための声を出そうにも一切の声を出すことが出来ず、テレスの意志を否定するかのように体は邪魔をしていた。

そこにあるのに石のように動かない足を睨みながらテレスは遠ざかる女性の背中に手を伸ばした。届かないその手が虚無感をテレスに与えると同時にテレスの感情を爆発させた。

 

「行かないで、○○!」

 

自分で出した言葉のはずなのにノイズが走ったように最後の単語を聞き取ることは出来なかった。しかし女性にはテレスの声が聞こえたのかテレスの方に振り返り万遍の笑みを浮かべながら手を振っていた。

 

「ありがとう!」

 

その声とともにテレスの意識は闇の中へと瞬時に落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、すまぬな。助かった」

 

暗い夜の森で紫苑の声が響く。そこは先程の場所とは違うようで先程の兵士の死体などは一切なく、月の光が照らす位には場所が開けた所であった。

話している相手は知り合いのように慣れ親しんでいるように話している。ちなみに女性である。

月光に晒され黒く輝く髪とその大和撫子と言えるような綺麗で清楚な顔立ちをしている。その雰囲気は美少女よりも美人が似合う。しかしその狐の耳と尻尾は彼女が

相手の名は狐月八重香(こげつやえか)と言い、先程紫苑の召喚術により召喚された式で少女達をここまで連れてくるのを手伝ってくれたのである。

 

「そないに思うならうちにご褒美くれてもいいんよ?せっかく主様に呼ばれて楽しみにしとったのにこないな女共の世話やら、うちガッカリやったんよ?」

 

紫苑の言葉に微笑みながら言う。嬉しさを含みながら言うが最後の一言は少し棘があった。

 

「そう言うてくれるな。こやつらも好きでこんなことになっている訳では無いだろうから。しかしそうだな、お主も忙しいだろうに世話になったしな」

 

「もぉーそないなことちゃうんよ。うちは主様にこき使われんのは苦に思わんさかいにこき使うてくれていいんよ?」

 

「では何に怒っておるのだ?」

 

「そんなん決まってるやん。せっかく久しぶりに会ったのに若そうな女子と一緒にいるさかいにこっちは怒っとるんよ?主様の節操の無さに!」

 

「なっ!それはこやつらが困っていたから…」

 

「分かっとるよ。主様が困っている人には甘いことは。昔から命を弄ぶような人には容赦がないお人やけど子供や精一杯生きようとする人の不幸は見過ごせない。そんな甘々な主様やからこそうちはあんたと契約したんよ。あっ!主様顔真っ赤やん。可愛ええなぁ」

 

八重香の純粋な言葉に顔を赤くしてしまう紫苑は八重香にからかわれたことでそっぽをむいてしまう。そんな姿を八重香はおもちゃを見る子供のように笑顔を向けながら指摘する。

 

「や、やかましい!そんなことより褒美が何がいい?」

 

紫苑は言い返すことが出来ないために強引に話題を変えた。悲しきかな主であるはずなのに遊ばれるのは。

 

「もぉー恥ずかしがって〜まぁいいわ。そやなぁうちが望むんは…」

 

「望むのは?」

 

「主様と一緒に旅をさして欲しいなぁ。あっ!でもあかんのやったらいいんよ?また呼んでくれたらそれでもいいんやしな」

 

先程の人を遊ぶような雰囲気とは違い真剣に話している姿は乙女。しかし断られると思ったのか直ぐに自分で逃げ道を作ってしまった。しかし紫苑の言葉は八重香の思うようなものではなく軽いものであった

「ん?そんなものでいいのか?いいぞ」

 

「そらあかんよな?主様の旅は…え?今なんて言うたん?」

 

「だから良いって言うとるだろう」

 

「ホンマに!ホンマのホンマに良いんやんな?」

 

「お、おう」

 

余程嬉しかったのか興奮気味に聞き返す。紫苑はそれに少し引き気味に答える。

 

「良かったぁ。主様にとって大切な旅やし断られると思ってたわ」

 

「ああ、少し難航しておるがそこまで困ることは無い。それにお主なら旅に邪魔になることもあるまい。ただし1つ条件がある。」

 

「条件?」

 

「あぁ。当分お主は狐の姿でいてもらいたい」

 

「いいけど。なんでなん?」

 

「こやつらにお主の説明をすると少し面倒だ。まだ俺のことを信じられんだろうからな。信じられんやつが2人も居たら気が休まらんだろう?」

 

「分かった。じゃあ狐の方になっとくさかいによろしゅうな」

 

八重香はそう言うとポンっと言う音が聞こえ辺りに煙が飛んだ。煙は風に飛ばされ直ぐに消えたがその中には八重香は居らずに白い狐が居た。それは紛れもない八重香であるはずなのだが人間姿の黒い髪とは真反対の白である。しかも9本の尾を持っている。

 

(まだそなたは自分を騙すのか…)

 

少し悲しそうに八重香を見つめる紫苑は直ぐに表情を戻しその思いを飲み込んだ。

 

「よし、なったって八重香よ、尾は1本にしとけ。9本は流石に怪しまれるぞ」

 

「キュー」

 

八重香が返事をするように鳴くとまたポンっと音が鳴った。今度は9本ではなく1本であった。

紫苑は八重香の姿を確認すると薪を集めに向かった。もう日は暮れてしまっているので紫苑は飯を作ろうとしていた。

八重香はその間に倒れて眠る少女達を守るように3人の前に座り込み見守っていた。

2人は何も言わず自分達の役目を遂行する。

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