どうやらデクのハーレム展開   作:ヘビとマングース

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プロローグ

 僕は、ヒーローになりたかった。

 だけど、ヒーローにはなれないと言われた。

 それが僕の最初の挫折。僕のオリジン。

 

 この世界には生まれつき特別な能力を持って生まれてくる人間が居る。かつては“異能”と呼ばれたそれは、我が子を愛する母親の言葉によって“個性”と呼ばれるようになった。

 人は生まれつき平等ではない。

 人々が持つ多種多様な“個性”は、今の“個性”飽和社会をよく表している。

 

 僕は特別な力を持って生まれてこない“無個性”だった。

 総人口の約八割が親譲りの“個性”に目覚める現代において、“無個性”で生きている人は珍しい。

 特に問題なのは、ヒーローになるための大きな条件が“個性”の有無だってことだ。

 

 現役ヒーローは必ず“個性”を持っている。

 例えばそれは体から火を出したり、空を飛んだり、ビルを腕で持ち上げたりできる“個性”。内容はともかく、普通の人にできないことをする。困っている人を(たす)けることができる人こそヒーローに相応しいとされていた。

 “無個性”でヒーローになっちゃいけないわけじゃない。でも前例がないのも確かだ。

 

 僕はヒーローに憧れた。

 この人みたいに、なりたいと思った。

 それがNo.1ヒーローのオールマイト。どんな苦境でも笑って乗り越えて、どんな絶望の中に居ても(たす)けてくれる絶対的ヒーロー。

 

 “個性”は遺伝する。僕の両親は生まれつき“個性”を持っている。鍛えなければ大したことはできないけれど、今の世の中ではそれが当たり前だ。

 その間に生まれた僕は“無個性”だった。

 病院の検査でそれを知らされた時、正直、愕然とした。恐怖を覚えた。ヒーローになれないかもしれないって思って、それが何よりも怖かった。

 今にして思えば、だけどそこは、別にどっちでもよかったんだと思う。

 

 僕が何よりも傷ついたのは、お母さんに謝られたことだった。

 出久、ごめんね。お母さんが悪いの。ごめんね。

 そうかと、思った。

 僕はヒーローにはなれないんだって。

 

 諦めきれなかった。

 “個性”がなくたってヒーローになれるんじゃないか。確かに前例はないけれど、“無個性”の人間がヒーローになっちゃいけないなんて決まりはない。何度も調べたし、電話して確認もした。そんな取り決めはないって答えも聞いてる。

 その一方で、やっぱり危険です、という返答がお決まりだった。

 “個性”を持っている人々はやっぱり凄い。僕にはできないことを平然とやる。どう足掻いたって不可能なことをあっさり可能にしてしまう。

 

 諦め、きれなかった。

 人一倍勉強して、体を鍛えて、たくさん経験を積んで、人を(たす)ける勇気があれば。“無個性”の人間だってヒーローになれるんじゃないか。

 

 僕はとにかく自分のために時間を使った。

 友達と遊ぶ時間を削って、勉強して、体を鍛えて、ヒーローについてたくさん調べた。

 寝る間も惜しんで自分を変えようと努力した。みんなにはバカにされて、“無個性”がヒーローになれるわけがない、って耳にタコができるくらい言われた。でも慣れてしまえば気にならなくて、たまに落ち込んで、諦めそうになったこともあるけど、やっぱり諦めきれないんだ。

 

 あの人みたいになりたかった。

 駆け付けるだけでみんながほっとして、あの笑顔を見るだけで、どんなに辛い境遇に居る人でも救われるんだって希望を抱く。

 人を(たす)ける、ヒーローの象徴。出来過ぎた夢だけど僕もああなりたかった。

 

 みんなが僕の夢を笑ったけど、ただ一人だけ、笑わなかった人が居た。

 幼馴染のかっちゃんは、いつまで経っても諦めない僕にずっと苛立っていた。

 僕と同じでオールマイトに憧れて、将来はヒーローになるって決めていた。掌で“爆破”を生むとても強力な“個性”を持ってて、勉強も運動もできて、ちょっと自信家で口が悪いし短気でよく誰かにキレてるけど、子供の頃からずっとすごい人だった。

 僕が憧れた、一番身近に居た、僕にとってのもう一人のヒーローだった。

 

「何回言ったらわかんだッ! 目ェ閉じんな! 最後まで相手を見てろ!」

 

 僕はよくかっちゃんに殴られた。日常的に喧嘩していた。でもそれは何もいじめられていたわけじゃない。いや、苛々はしていただろうから、結構本気でそのつもりもあったかもしれないけど、僕が鍛えてほしいって頭を下げたからだ。

 かっちゃんはなんでもできた。勉強も運動も、喧嘩もできる。気に喰わない人には年上でも飛び掛かっていった。年下を威圧するのは、ちょっとどうかと思うけど。

 

 ヒーローになるために、できることはなんでもやっておきたかったからだ。

 ヒーローは戦うばかりが仕事じゃない。人を(たす)けること。町の安全を守ること。もちろん人に危害を加える誰かが現れた時は戦う時だってある。だけど派手なことも地味なこともひっくるめて、自分を守れない人を守ることがヒーローの仕事だ。

 

 “無個性”の僕にできることは少ない。

 せめて自衛と、普通の人間同士の喧嘩を止めるくらいはできるようにならなきゃいけない。

 “(ヴィラン)”を止めることはできなくても、できることはあるはずだと思った。

 

「敵がバーって来たらサッと避けてガーってやり返すんだよ! なんでわかんねぇんだ!」

 

 かっちゃんはあまり教えるのが上手くなかった。

 自分がやれば何でもできるものだから、どうやってるのかを質問しても「なんとなく」としか言われたことないし、理論よりも感覚を大事にしてるらしい。

 僕はかっちゃんのおかげで体の動かし方と、喧嘩に対する度胸を学んだ。

 

 僕自身、きっと良い生徒ではなかったと思う。弱虫で、よく泣きべそかいて、怖いと足が震えて動けなくなる。かっちゃんが苛立つのも当たり前だ。

 昔から常々、かっちゃんには「ヒーローなんてやめろ」と言われていた。

 「お前には絶対無理だ」とも言われている。

 わかっているつもりだった。でもそこだけは頑固な僕が無理を言ってヒーローになりたいって言い続けてて、かっちゃんは苛々しながら僕に協力してくれていた。

 

「お前はうだうだ考え過ぎなんだよ。喧嘩なんか勢いとやる気が大事なんだ。たまには何も考えずに思いっきりかかってこい! 怪我させたくないなんか考えんなッ!」

 

 かっちゃんはいっつも僕を叱っていた。

 諦めが悪くて、中途半端で、何もできなくて。そんな僕に呆れて、嫌いなのに、それでも見捨てずに付き合ってくれていた。僕のために時間を作ってくれた。

 

「そこが一番ムカつくんだよッ! 本気でヒーローになりたいって言うなら! もっと本気で殴りに来いやッ!」

 

 かっちゃんは間違いなく僕の師匠だった。

 やることは筋トレと喧嘩くらいだし、たくさん怪我させられたし、お母さんにも心配されたし、事情を説明してもかっちゃんはお母さんに怒られたみたいだけど。説明しても理解はされなくて、良い師匠だとは思われなかったかもしれないけど。

 僕にとっては、かっちゃんはヒーローになるための道筋を教えてくれる、本当のヒーローだ。

 誰かに笑われても、笑った相手に飛び掛かっていって、僕にもやれって手を引いて、僕の夢を一度も笑わなかった。他の誰よりも信用できた。

 

 ヒーローになろうって、決めた。

 たとえ“無個性”でもできることはある。

 (ヴィラン)を倒すのがヒーローじゃない。(たす)けを必要としている人を(たす)けるのがヒーローなんだ。

 

 

 

 そして、あの日。

 僕は初めてチャンスをもらった。

 僕とかっちゃんを突然襲ったヘドロ事件。評価されたのはかっちゃんだけで、僕は注意。みんなの前で二度とするなって言われた。でも後悔はしていない。

 その日僕は、憧れのヒーローからあの言葉をもらった。

 

「君はヒーローになれる」

 

 欲しかったのは“個性”なんかじゃない。その言葉だ。

 お母さんに、謝ってもらう必要なんかなくて、ただ、その言葉が欲しかったんだ。

 

「私が君を! ヒーローにする!」

 

 何よりも欲しかったものを、憧れの人からもらえて、涙が止まらなかった。

 同時に勇気が湧いてきた。僕は絶対にヒーローになる。そう思えたのはこれまでの努力と、そして目標にしていた彼との出会いがあったからだ。

 

「共に行こう。Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)、更に向こうへ、だ。私が君を導くよ」

 

 差し出された手を強く握った。

 僕はこの時、こんなヒーローになろうと誓った。

 彼のような平和の象徴。ただそこに居るだけでみんなが安心して笑顔になる。困っているなら誰をも(たす)けられるヒーローに。

 今度は僕が手を伸ばしたい。手を差し伸べられる人間になりたい。

 その日、僕の人生は大きく変わるきっかけを与えられたんだ。

 

 

 

 

 

 興奮した面持ちで呼び止められたのは、ヒーロー育成の教育機関として最も有名と言っても過言ではない国立雄英高等学校、その入試を間近に控えたある日だった。

 このところ苛立ちを隠せなかった爆豪(ばくごう)勝己(かつき)は、何やら興奮した面持ちで駆け寄ってきた幼馴染を見てさらに恐ろしい形相となる。

 

「かっちゃん! かっちゃんってば!」

「うるっせぇぞクソナード! 一回言われりゃわかんだよ!」

「ご、ごめん……ちょっと聞いてほしいことがあるんだ!」

 

 怒声をぶつければ一瞬はたじろぐものの、すぐに笑顔になって前のめりになる。

 様子がおかしい、と咄嗟に思った。

 らしくない態度の緑谷(みどりや)出久(いずく)を前にして、爆豪はふと不安を覚える。

 

「あのね、実はさ、僕……“個性”が目覚めたんだ!」

「あ?」

 

 心底嬉しそうに言われた。

 出久は目をキラキラさせて、期待した様子でリアクションを待っている。

 数秒、受け止めるまでに時間を要して、にこりと笑った爆豪は手の中で火花を散らせた。

 

「緑谷出久君、今日はエイプリルフールじゃないんだよ」

「ち、違うって!? 嘘じゃないよ! 本当だよ!」

「ふっざけんなァ! てめぇが“無個性”なのは昔からずっと知ってんだよ! 今更目覚めたっつうのかアァ!?」

「そ、そうなんだ! 僕にも“個性”があったんだよ!」

「てめぇまさかそう言って“個性”があるのを隠してたんじゃ……!」

「そそ、そんなことするわけないじゃないか! 意味ないから! 僕も“個性”が欲しかったって泣いたのかっちゃんだって知ってるだろ!?」

「だからこそ許せねぇんだろうが……あの涙は何だったんだ! クソデクがァ!」

「嘘じゃないんだってばぁ!?」

 

 先程は右手だけだったのが今では両手でボンボンッと小さな爆発を作っている。いつそれを体に押し当てられるかもわからない状況で、出久は涙目で必死に訴えた。

 簡単に受け入れられる話ではない。

 “個性”の発現は幼少期が一般的だ。多少は個人の差があれども、大抵は四歳前後の頃に何らかの変調はあるはずで、十五歳まで“個性”が発現していないのは明らかにおかしい。

 何より出久は病院で検査を行い、身体的特徴により“無個性”だと判断されたのだ。

 

 幼馴染として一部始終を知っている。

 ヒーローを目指し、数々の努力をしてきて、笑われてもバカにされても継続してきて、それでも折れそうになった夜に「僕も“個性”が欲しかった」と涙した彼を知っている。

 それ故に、冗談だとしたら性質が悪い、悪過ぎると爆豪は怒りを覗かせているのだ。

 

「じゃあ何か? てめぇがある日突然俺を避け始めて、何も言わずに帰ってどっか消えちまったのは“個性”に目覚めたからだって言うつもりか?」

「さ、避けてはないけど、確認とかしなきゃいけないなって思ってさ。ちゃんと使えるようにならなきゃ報告しても信じてもらえないだろうし、途中で力が消える可能性もあるかもと思って」

「確認だぁ? 病院には行ったのか」

「ん?」

「聞こえてるかな出久くーん。もしもーし」

「ああ熱いっ!? 耳元で発火しないで!」

 

 言葉に詰まれば容赦なくボンっと爆発してきた。耳元へ手を伸ばされたため至近距離で強い熱気を感じ、思わず仰け反った出久は怯えた表情でわずかに彼から離れる。

 さっぱり意味がわからない。受け入れ難い。

 爆豪は出久の言葉を聞いても状況を理解しかねているようだった。

 

「とにかく、今は僕にも“個性”があるから、これでヒーローになれるよね」

「“個性”がありゃ誰でもなれるわけじゃねぇんだよ。バカが。大体なんでそんな急に“個性”が目覚めんだ? あ? 今まで十五年近くうんともすんとも言わなかったのになんで都合良く雄英の入試直前に目覚めんだ? コラ」

「それは、多分、ほら……がむ、頑張ってきたから」

「てめぇ……まさかくだらねぇ嘘で俺をバカにしようって腹積もりじゃ」

「違うよ!? 違うちがう! 本気で言ってるんだから! あっ、証拠! 証拠見せる!」

「証拠だぁ?」

 

 怒りがピークに達しようとしている爆豪は姿勢を整えるために右足を動かした。

 これは早く信じてもらう必要がありそうだ。でなければ幼馴染とてどうなるかわからない。

 出久が小走りで移動を始め、自身が向かう地点を指差しながら言う。

 

「あっちから走ってくるから見てて!」

「うぜぇぇぇ……! なんでんなもん見なきゃいけねぇんだ」

 

 ぶちぶちと文句が止まらないが、出久はすぐに自らが定めたスタート地点に立つ。

 手を振りながら「行くよー」と声をかけられ、爆豪はポケットに両手を突っ込んだまま、馬鹿馬鹿しいなどと思いながら一応目を向ける。

 その時、確かに異変を見た。

 

 ぐっと身構えた出久の全身がわずかに光ったように見えたのだ。

 表情を変えて咄嗟に見入った途端、姿が掻き消える。

 次の瞬間、爆豪の傍を強烈な風が駆け抜けて、振り向けばそこに出久が居た。勢い余って転びそうになっているが辛うじて体勢を立て直し、こちらに振り向いてくる。

 「どう!?」とでも言いたげな期待した表情がやけにイラついた。

 

 爆豪は素直に感情を表した。

 両手からボンっと大きな爆発が起こる。

 それを視認して、まずいと思った出久は表情を変えて青ざめ、考える前に駆け出していた。

 

「やっぱり隠してやがったんじゃねぇかてめェ!!」

「うわあああっ!? 違うよかっちゃん! 隠してたんじゃなくて目覚めたんだってば!」

「ふざけんなァアアアッ!!」

「おち、落ち着いて、話を……!?」

 

 爆豪は怒りのままに襲い掛かるのだが、“個性”が発現したと主張する出久はぎこちないながらにその力を使いこなし、超スピードで逃げ回る。その姿は“無個性”だった男とは思えない。やはり騙されていたのではないかと怒りが燃え上がるのだ。

 今まで散々面倒を看てやったのに、なんだこれは。

 爆豪はしばらく暴走と爆発を止めず、怒りとは裏腹な冷静な判断力と豊かな喧嘩の経験で、確実に彼を追い詰めようと努めていた。

 

「とりあえず一回殺させろコラァ!!」

「い、嫌だよ!? 一回殺されたらそれはもう終わりだよ!」

「クソナードォオオオオオッ!!」

「うひいっ!?」

 

 結局その日は出久が丸焦げになるまで追跡が中断されることはなく、どうやら本当に目覚めたばかりのようで出久は“個性”を扱い切れない様子だった。最後にはスタミナと経験の差で勝って爆豪が追いついたのである。

 一時はぎこちなかったはずの彼らが再び元の関係に戻り、ヒーローになるため、雄英高校へ入学する少し前の出来事であった。

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