どうやらデクのハーレム展開   作:ヘビとマングース

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爆豪勝己は怒っている

 室内を窺うと、人の気配はない。

 どこかに隠れている可能性もある。だが、これ見よがしに座らされる人の姿があった。

 いつまでも不安にさせているのは気が引ける。状況を確認する必要があって、急ぐのは決して合理的ではない。それでも飛び込むことを躊躇わなかった。

 

「ああっ! 来てくれたのかヒーロー! 俺はここだ!」

 

 縄で縛られ、椅子に座らされている飯田(いいだ)天哉(てんや)が嬉しそうに大声を出した。これまで不安だったのだろうと思わせる素振りで、やけに声が大きいとはいえ、暗い部屋に一人取り残されていたのならそうした反応になるのかもしれない。

 素早く駆け寄り、麗日(うららか)茶子(ちゃこ)は苦しそうな顔でぐっと唇を噛んでいて、緑谷(みどりや)出久(いずく)は彼を安心させるために優しく笑いかけた。

 

「笑っちゃだめ笑っちゃだめ笑っちゃだめ……!」

「もう大丈夫。(たす)けに来ました」

「ありがとう! 本当にありがとう! 君たちが来てくれるまで俺は本当に不安で、心から寂しくて堪らなかった!」

「わ、わかりました。だから落ち着いて、あまり大声を出さないで……!」

 

 がたがたと椅子を揺らして喜びを伝える飯田を慌てて押し留め、出久は彼の体を椅子に縛り付ける縄を解いてやる。その間、今にも爆発寸前といった表情のお茶子はそんな状態でも唯一の出入り口に目を向けており、誰か来るかもしれないと警戒していた。

 無事に縄を解いてやり、彼を解放することに成功する。

 

 問題はここからだ。

 廊下の先から足音が聞こえて真っ先にお茶子が反応した。

 出久へちらりと目を向け、視線で警戒を促す。

 

「デク君」

「僕が前に出る。麗日さんは彼をお願い」

 

 注意された飯田は両手で口を押さえて喋らないようにしていた。怖がっているのか両足ががくがく震えていて、自分の足で歩くこともままならない。

 今は緊迫した状況。噴き出さないよう気をつけつつ、お茶子が飯田の傍らへ立つ。

 二人の前に出久が立って、近付いてくる足音に注意した。

 

 かくして、その人物はやってきた。

 飯田天哉を誘拐した相手。“個性”を悪用する(ヴィラン)だ。

 勢いよく身を晒して部屋に飛び込もうとしており、姿を視認した瞬間に出久が動く。

 

 間髪入れずに部屋へ踏み込もうとした(ヴィラン)へ跳びつき、両肩を掴んで押しやって、あまりの勢いで押したせいか壁に激突した。

 素早く視線が動いて左右を確認する。

 すでに扉の傍まで到達しているのが一人。廊下の先からこちらへ向かってくるのが一人。押さえた一人を含めて計三人。

 

「左に行くよ!」

「了解!」

「クソナードォオオオオッ!」

 

 肩を押さえた人物が壁に両手を押し当て、掌から爆発が生じる。ズドンと壁を破壊した彼は勢いを使って出久の手の中から逃れようとした。

 確かに勢いは凄まじい。だが出久は彼を掴んだ時点で“個性”を使っていた。

 全身からわずかに光を発して、薄緑色の閃光がバチバチと稲妻の如く表れている。身体能力が劇的に強化されて爆発の勢いにも負けなかった。それどころか彼は咄嗟の判断でその勢いを利用しようとすらしている。

 

 コンマ数秒の中でのやり取りだった。

 狭い廊下で、壁を破壊した勢いで体が宙に浮かぶ。

 すでに攻撃しようと腕を動かしている(ヴィラン)に怯まず、出久は全身を捻り、力尽くで彼を投げ飛ばそうとしたのだ。

 

 耳元で小さな爆発が起こった。衝撃で鼓膜が麻痺する。しかし顔を狙ったはずのその一撃が外れたのは出久が投げ飛ばすことに成功したからだった。

 咄嗟に出久を取り押さえようとしていた男に激突し、二人揃って倒れる。

 

 部屋を出て右側、二人の男が倒れている。

 素早く左側を見て、こちらに向かってくる男がびくりと震えたのを目撃した。

 

「デク君行くよ!」

「うん!」

「クッソがァ! どけやアホ髪! 邪魔だ!」

「お前が突っ込んできたんだろうが!?」

 

 お茶子が自らの“無重力(ゼロ・グラビティ)”で飯田の体を浮遊させ、しっかりと服を掴んで引っ張ってくる。

 律義に口を塞ぎ続けている飯田に驚いた様子はなく、抵抗もない。重力から解放された彼の体は重さを感じることなく少し力を伝えるだけで移動させられた。

 お茶子は急いで部屋を出て、飯田を連れて左へ走る。

 

 地面を蹴り、姿が消えたのかと思うほどのスピードで、出久は正面から駆けてくる男に有無を言わさず接近した。姿が見えた時にはすでに肩と腰を掴まれていて、体が無意識的にびくっと反応すると同時にぐいっと引っ張られる。

 近頃はあまり見かけない、柔道は背負い投げだ。体は簡単に持ち上げられて地面へ叩きつけられようとしていた。

 まさかの攻撃に瀬呂(せろ)範太(はんた)は悲鳴を発する。

 

「うおわあああっ!? ちょっと待ってぇ!?」

「はっ? てめぇコラァ!」

 

 奇しくも投げ落とそうとしたその先には、素早く起き上がって出久に襲いかかろうとしていた男の体があった。偶然ではない。明らかに狙っている。

 冷静な出久の顔を睨みつけて、爆豪(ばくごう)勝己(かつき)は思わず吠える。

 

「おぐぅ!?」

「クソデクッ!! 逃がすかァ!」

 

 完全に虚を突いて、確実に当たった。そう思った瀬呂の背負い投げは、奇跡的な反射神経で的確に反応した爆豪の右手で受け止められ、掌が爆発を起こすと仲間の体を吹っ飛ばした。瀬呂の体だけが壁に激突して、爆豪は止められていない。

 それでも、人質を連れて逃げられれば自分たちの勝ち。出久は後ろへ向かって跳ぶ。

 

 顔色を変えたのは爆豪の右腕が伸ばされ、構えを見せた時だ。

 彼のヒーローコスチュームは自らの“個性”を強化するための装備が備えられている。手榴弾を模した手元の砲台は“爆破”の力を溜めて前方に撃ち出すためにあった。

 

「ちょっ!? おい、待て! 人質も居るんだぞ!」

「俺は(ヴィラン)だッ! 関係あるかァ!」

「大ありだろ!? そもそも今回は身代金のために人質は傷つけんなって――!」

「死にゃしねぇよ! 脅迫ってのは実際にやるって思わせなきゃ意味はねぇ!」

 

 発射のためのピンに指がかけられた。着地した時にはすでに出久は膝を曲げている。

 

「黒焦げになりゃ親も金出すだろうよッ!」

「お前のその考え方なんなんだよ!?」

「死ねェ!!」

 

 地面を蹴って、高速で駆ける。

 ピンにかけられた指に力が入り、一息に引かれて、発射口から閃光が生じた刹那、辛うじて間に合っていた。

 

 出久の左手が爆豪の右腕を上へ向けさせようと下から力を加えていて、優しく押して上げさせると天井に向けて爆発が起こる。

 コンクリートなどいとも容易く破壊する攻撃。激突するスピードを緩める暇もなく爆豪と、その後ろで止めようとしていた切島(きりしま)鋭児郎(えいじろう)を巻き込み、出久は地面を転がった。

 

 ガラガラと天井が落ちて廊下に瓦礫が積み上がる。

 お茶子は飯田を引っ張りながら思わず後ろを振り返った。

 足は止めない。もしもの場合は気にせず行けと事前に言われていたからだ。

 

「行って!」

「うっ……!」

 

 逡巡はある。明らかに迷いがあった。

 それでもお茶子は前を見て走った。

 窓を開けて三階の高さから思い切って飛び出し、すでに無重力状態の飯田を連れて落下する。

 

 “無重力(ゼロ・グラビティ)”の“個性”は彼女の五指の先端にある小さな肉球、五つ全てを触れさせた時にのみ発動することができる。

 地面が近付くとお茶子は自らの肉体に“無重力(ゼロ・グラビティ)”を使用し、自らも無重力状態になると飯田を連れてゆっくりと地面に着地する。

 

 背後にあるビルの中では尚も爆発の音が響いていた。

 気にならないはずはない。だがこれで戻っては何のための作戦なのだ。

 苦しい表情でお茶子は自身の“個性”を解除した。再び重力の影響を受けて、飯田もやっと自分の足で地に立つ。そうなっても安堵する暇はなく、振り向いた時には精一杯の笑顔を意識して、お茶子は飯田の手首を掴むと引っ張った。

 

「もう大丈夫ですよ! でももう少し離れましょう! 私についてきてください!」

「はい!」

 

 元気な返事を聞いて共に駆け出す。

 お茶子は振り返らなかったが、飯田はちらりと背後のビルを確認した。

 誰も出てくる気配はない。外に出られたのは二人だけだったようだ。

 

 

 

 

 やがてお茶子と飯田が救出用に用意されていたダミーの車まで到達した時点で、けたたましい音が鳴って実習が終了する。

 少し待てばビルの中から出久、爆豪、切島、瀬呂の四人が出てくる。

 見ていた生徒、そして監督する教師がビルの前に集い、彼らの前に参加した面々が並べられた。

 

「総評を始める。反論は許すが合理的に判断した上で行うように」

 

 淡々とした声で喋り出したのは長い黒髪に無精ひげ、黒い服に身を包む、見るからにくたびれた外見の血色の悪い男だった。

 相澤(あいざわ)消太(しょうた)はヒーロー科1年A組の担任である。

 合理的な判断を好んで無駄を嫌い、基本的に無愛想で馬鹿騒ぎを嫌っているらしく、生徒に厳しい指導を行う人物であった。

 彼が口を開けば自然と空気が緊張し、生徒たちは静かに状況を眺める。

 

「まず結果は、緑谷・麗日による救出チームのミッション成功。人質に囚われた飯田を無傷で外へ連れ出すことができた。ひとまず褒めておこう」

「は、はい!」

「ありがとうございます!」

 

 本日の実習は市民が誘拐された場合の状況を想定して行う救出ミッション。

 誘拐は“個性”登場以前の世界から存在する犯罪行為であり、目的は様々。攫った後で関係者に何らかの要求をするケースや、ただ攫うことのみを目的とした実例もある。

 

 今日の実習においては潜伏場所と目的のみを鮮明化し、救出チームと(ヴィラン)の人数は互いに不明。誘拐された人物を保護するための車両へ連れ出すことを目的とする。

 実際に誘拐事件が起きれば犯人の目的、人数、拠点など諸々を調査した上で行動する必要があるのだが、その過程を終えた救出の過程を学んでいるのだ。

 習うより慣れろ。実戦形式でただ放り込まれる機会も珍しくなく、教室で授業を行う時とはまた違った空気が流れて、相澤の言葉に誰もが集中していた。

 

「緑谷。お前が作戦を考えたのか?」

「は、はい」

「だろうな。見知った相手であるクラスメイトが相手とはいえ、素早く的確に人質の居所を突き止めたのは見事だ。麗日の能力で陽動したのも悪くない」

「ありがとうございます」

「だが最後はやはりお前だな。なぜ逃げなかった?」

 

 冷ややかな視線はいつものことだが、出久はびくりと反応した。

 相澤に問いかけられて口ごもってしまい、必死に考えて答えようとするがそれよりも早く相澤が再び口を開く。

 

「お前の作戦は隠密行動、つまり(ヴィラン)退治を目的としていない動きだ。事実内部で警戒していた三人を上手く掻い潜って戦闘を避け、人質の居る部屋まで到達している。にもかかわらず、最後の戦いでお前は一人残って逃げなかった」

「お、応援が来るまでの時間稼ぎのつもりでした」

「嘘はやめろ。時間の無駄だ」

 

 確かに嘘をついた。本当は何も考えていない。ただ気付けば体が動いていただけだ。

 聞かずとも見抜いている相澤は驚く様子もなく淡々と彼に告げる。

 

「自分一人で勝てると思った、というならそれもいい。俺は合理的だとは思わんがオールマイトのようなヒーローも居る。全てのヒーローが同じ方法を取らなければならないとは言わん。お前の行動について俺がどう思うかは別としてな」

「はい……」

「だが、お前は(ヴィラン)を傷つけさせまいと動いているように見て取れた。相手が(ヴィラン)役のクラスメイトであることを差し引いてもだ。自分が囮になって、人質と仲間だけが逃げ切れればいいと思っていなかったか?」

 

 ぐうの音も出ない。

 真っ直ぐに目を見つめ返してはいるが出久は不安そうな顔をしていて、答えずともわかる。その瞬間は何も考えられなくても、後になって冷静に考えればまさにそう思っているに違いない。

 優先するのは何よりも(たす)けを求めている人。自分のことは二の次。

 

 非常に、危うい。

 相澤だけでなく他の先生や友人からも注意されているはずだがいまだ悪癖は直らず。いずれ取り返しのつかないことにならなければいいが、と思わずにはいられなかった。

 

「再三言っているとは思うが、自己犠牲を履き違えるなよ。自分の身を守れない者に他人を救うことはできない。人命救助を優先に考えるなら尚更、時には退くことも覚えろ」

「はい。すみませんでした」

「麗日。避難の最中に足が止まった。緑谷の行動に不満があったな?」

 

 意見を求められたお茶子は驚きこそしたが、ちらりと隣に立つ出久を見てから正直に答える。

 頷き、肯定して、その通りだと相澤へ返した。

 

「はい。デク君が来なくて、すごく……不安になりました」

「想定があったならそうならないようにお前が止めろ。緑谷の性格を知っていれば、こうなることを防ぐ作戦を考えることもできたはずだ。己の意見を呑むな」

 

 お茶子の体に力が入ったように見えた。

 黙っていては変えられない。彼のことを知っていればこそ、一緒に逃げるためには強引に連れ出すくらいの想定をしていなければならなかったはずだ。

 理解し、納得して、お茶子は力強く頷いた。

 

「わかりました。次はデク君を置き去りにはしません!」

「そうか。緑谷、味方がこう思ってる。お前に万が一があれば他のヒーローを潰すことになると心得ておけ」

「は、はい。わかりました」

 

 救出チームに属した二人へ言い終えて相澤が一呼吸置く。

 その時爆豪は、話を聞くことに集中もできずに出久を見ていた。その視線はまるで睨みつけるようであり、同チームの切島が注意のために軽く背を叩いても視線を外さない。

 

「続いて(ヴィラン)チームだが、爆豪。まあお前の作戦だろう」

 

 名前を呼ばれてようやく視線を外した。自身を見る彼に相澤は冷静に伝える。

 

「救出に来たヒーローを自分たちの方から討ち取ろうって考えは、俺個人の意見は置いといて否定はしない。だがそれにしてもお粗末だったな」

「こいつらが動けねぇから」

「お前基準で考えんなって!? 俺たちの“個性”に適したやり方があるだろって話だ!」

「先読み外れるし、後手後手で指示がどんどん変わるし……俺ほとんど走っただけ」

 

 喰ってかかる切島を爆豪が無視して、瀬呂は気疲れした様子でため息をついた。

 個人の能力以前にチームとしてのまとまりがなかった。それが大きな課題だろう。特に爆豪は普段の実習ならいざ知らず、出久を相手にすると冷静さに欠ける特徴を持つ。今回も妙に意識し過ぎて裏を掻かれ、得意とする戦闘においても半歩ほど遅れた節があった。

 

 呆れてはいるが相澤にとっては想定内。

 チームの不和を見てもまるで動じず、一人ずつの顔に目を向けて伝えていく。

 

「切島。お前はバランスを取り過ぎようとするきらいがある。爆豪が先行したならお前と瀬呂で人質を見張る考えもあった。どちらにも気を使った結果が今回だ。爆豪を参考にしろとは言わんが、自分の判断を優先することも念頭から考慮に入れておけ」

「はい……」

「瀬呂。お前は他の二人に任せ過ぎた。自分の“個性”を生かすならどちらかに張り付いて援護するだけでも効果はあったはずだ。指示で右往左往したのは爆豪にも責任があるが、孤立して判断が遅れたのはお前の自信の無さが理由だ。判断を他人に委ねるな」

「すいません……」

「爆豪。そんなに緑谷に負けるのが嫌か?」

 

 問われて虚を突かれ、爆豪は顔の向きを変える。

 出久と目が合い、不安そうな表情を見た。

 明らかに顔つきが変わって不機嫌そうになり、ぷいっと視線を逸らしてから答える。その声には隠すつもりのないあからさまな感情が籠っていた。

 

「べっつにィ~……!」

「お前の私怨はどうあれ、リーダーを気取るならいついかなる時でも冷静に思考しろ。身勝手に振り回して仲間を死なせるなよ。まあ、お前の場合は他の奴が相手なら問題はないが……」

 

 爆豪の成績は悪くない。むしろ国語や数学といった普通科でも学ぶ教科だけでなく、ヒーロー科特有のヒーローになるための実習においても好成績を納めている。やり過ぎるところがあって時として信じられない低得点を叩き出す時もあるとはいえ、ムラが少ない場合の冷静な彼は名実ともにA組のNo.1として君臨していた。

 緑谷出久だけだ。彼を狂わせる要因となるのは。

 

 二人の間に何があったかは知らないが露骨に仲が悪いわけではない。傍から見ている限りはキレやすい爆豪が何かと出久にキレているだけだ。しかし出久はそれを嫌がるわけでもなく、仕方ないなとでも言いたげに付き合っている。

 幼馴染だと知っていても、なんだかよくわからない関係だと思われていた。

 

 一通りの総評を終えて相澤が息を吐き出す。

 この後も実習は続く。言いたいことは言ったが先を急ぐ理由はある。

 それでも言いたいことが残っていたのか、相澤は再び顔を上げた。

 

「飯田。お前は演技がひどい。もう少し冷静に喋れ」

「はい! 失礼しました!」

 

 それは関係ないのでは、と生徒の大半が思うものの、彼らにはわからない問題が伴うのか、はたまた単純に気に入らなかったのか。

 どちらにせよ飯田は素直に受け入れていたためわざわざ問題視する者は居なかった。

 

「よし、次のチームに移るぞ。さっさと所定の位置について準備しろ。時間は有限だ」

 

 元気よく返事をした生徒が移動していく。

 次なるメンバーが訓練用に設けられたビルの中で実習を行う。果たして次はどんな設定で、どんな救出劇が行われるのか。見ることもまた学習だ。見学者はぞろぞろと移動を始める。

 

 その時、不機嫌そうに視線を外したまま爆豪は振り向かない。

 出久が心配そうに彼を見ていても、敢えて目を合わせようとはしなかった。

 考えてみればそんな姿は珍しい。彼らはあまりに騒がしくて注目を浴び、それが当たり前になるほど日常的に会話しているのだ。

 何かあったのだろうかと気にする切島だけが二人を見て表情を変えた。

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