どうやらデクのハーレム展開   作:ヘビとマングース

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爆豪勝己は怒っている その2

 あいつがヒーローになりたいって言い出した時、一番最初、俺はいいじゃねぇかって言った。

 俺が“個性”に目覚めてからもあいつは“無個性”のままで、なんかそれで泣いてたらしい。

 その当時の俺は自分の“個性”を使って遊ぶのにとにかく夢中だった。あれがやりたいこれがやりたいっつって思いつくだけの実験をしてた。落ちてた枝とか石を爆破したり、飲み終えたジュースの缶を爆破したり、要らなくなった物をとにかく爆破して母親に怒られてた。

 

 しばらく姿を見せなかったあいつがまた俺のところに来て、“無個性”だったって言い出しても、ふーんとしか思わなかった。それよりも俺の“個性”のすごさを見せたくて仕方なかったからだ。

 俺の“個性”は当たりだったらしくて、誰からも褒められた。

 さっさと褒めろって思ってたんだ。だからあいつに何度も爆破を見せてやった。

 

 俺たちはヒーローが好きだった。

 特にオールマイトは俺たちの憧れで、圧倒的な強さ、派手なコスチューム、ごつくて女より男にモテるタイプのゴリゴリの顔と筋肉の塊みたいな体。

 それなのに老若男女に好かれてるNo.1ヒーローで、誰もが憧れる存在だった。

 オールマイトの活躍、というかほとんど伝説みたいなもんは飽きるくらいにたくさんある。

 ヒーローを知った子供が必ず知ってる存在。人気だとかファンだとかは細分化されて色々分かれていくだろうが、オールマイトを知らない子供は当時から居なかった。

 

 俺がヒーローになるって決めたのも何ら不思議なことじゃなかった。

 子供で男で血気盛んだ。強い奴に憧れるのは当たり前。オールマイトみたいに、じゃない。俺は昔からオールマイトより強くなりたかった。

 ヒーローになれば強くなれる。そう信じてたから全く迷わなかった。

 

 デクもヒーローになりたいって言い出した。

 周りの大人は気まずそうに口を噤んで、俺の友達は無理だってしきりに言ってたが俺は、別に好きにすりゃいいじゃん、って感じだった。

 

 無理なら本人も諦めるだろうし、他にやりたいことができたらそっちをやりゃいい。ヒーローになれるんならそれでもいい。

 デクは確かにバカで泣き虫で弱虫で、転ぶだけで泣いちまうような根性無しだけど、あれで意外にいい奴だ。何かと一緒に遊んでたからそう思ってた。

 当時の俺は自分を親分だと思ってて、いわゆる友達がみんな俺の子分だと思い、デクはそこでいう若頭的な、ちょっと特別な立ち位置だったはずだ。決めてたのは完全に俺なんだが。

 

 デクはとにかく泣き虫でよくいじめられた。

 “無個性”だってのは体の良い理由だったんだろう。まあ本気で“無個性”が気に入らない奴も居たのかもしれない。“個性”に優劣をつけて態度を変える奴も居たから。俺にはすぐ媚びてきて頭下げる癖に、見えないとこでデクをいびってる奴だって居た。

 

 デクがどうこうじゃなく単純に気持ち悪ィ笑顔だったから俺がシメたらもう近付かなくなった。

 そうだ。その時あいつは俺に礼を言うのに、俺を止めてきた。

 ヒーローになるんだからそんなことしちゃだめだと。つまり暴力をやめろって言ってたんだ。

 

 その時は意味がわからねぇと思った。

 ヒーローは(ヴィラン)をぶん殴って褒められる。

 デクをいじめてる奴を俺がぶん殴って、俺が褒められるはずだろ。

 (たす)けてくれてありがとうって言ったんだ。(たす)けてほしいと思ってたんだろ。それなのに殴っちゃダメだとはなんだってあいつに怒鳴ったのを覚えてる。

 

 最初から俺とあいつではヒーローに対する認識が違ったんだ。それはオールマイトも含めて。

 俺は圧倒的な強さに惹かれた。誰が相手でも何がなんでもぶっ飛ばしちまう力に。俺もあんな風になりたいって強く思った。

 デクは人を(たす)けることに憧れた。自分もあんな風になりたい、困ってる人を(たす)けられるようになりたいって思ってたんだ。

 同じものを見てるはずなのに俺たちの認識はまるで違っていた。

 それは別に構わない。正直、あっそ、って感じだ。

 

 あいつにイラつくようになったのはいつだったんだ?

 俺は、別にデクが嫌いってわけじゃない。

 ガキの頃はよく泣いてたのに泣かなくなった。ビビりで虫にも悲鳴を上げて思わず泣いちまうような奴が、成長につれて涙を見せなくなった。

 

 そうだ。イラついたんだ。

 泣かないあいつに無性に腹が立った。

 

 ガキの頃、ヒーローになりたいからってあいつが俺に喧嘩の仕方を教えてくれと言ってきた。

 他人に教えたことなんかねぇし教わったことだってねぇ。俺は最初から強かった。喧嘩ふっかけてくる奴なんか大体弱そうで、大体弱そうな奴が何人かで組んでる。リーダーっぽい奴をまず最初にボコって鼻血でも出させれば後は簡単だ。逃げようとする奴を一人ずつ潰していけばいい。

 

 最初はデクにもいちいちめんどくせぇこと教えてた。

 パンチはこうだとか、キックはこうやるとか、とりあえず目ぇ潰しとけって言っといた。

 あいつは虫にもビビる弱虫だから、どうせどっかでやめる。続かねぇだろと思ってた。

 

 別にそれでもいいと思ってたし、そもそもあいつは喧嘩なんかできねぇ弱っちい奴なんだから、勉強なら俺には敵わねぇけどそこそこできるし、警察がやってるみたいなことやりゃいいんだ。

 ヒーローったって色んな奴が居るんだから別に強くなきゃいけねぇわけじゃねぇだろ。ガキの俺でも勝てそうな弱い奴がヒーローやってたりするし。

 本気でそう思ってた。だから最初は手ぇ抜いたし、教える気なんかさらさらなかった。

 

 

 

 

 「痛いのは慣れてるから」

 

 そうだ。怪我しやがったんだ。

 どっかのバカがやりやがったんだろ。“無個性”をごちゃごちゃ言う奴は一定数居る。

 やり返したんだろって当然聞いた。適当とはいえ俺が喧嘩を教えてやったんだ。そりゃあやるに決まってると思う。

 デクは困った顔で笑ってやがった。それだけでわかる。

 あぁ、やられっぱなしで帰ってきやがった。

 

 そいつらを探し出して俺がボコった。デクを(たす)けたかったわけじゃない。俺がイライラして仕方なかったからだ。

 鼻血が出るまで殴ってやって、目なんかめちゃくちゃ腫れてた。その顔見たらまたムカついた。

 泣きじゃくって謝ってきやがるんだ。

 こんな奴が偉そうに出しゃばって囲みやがったのかって。

 

 それがあったから、俺は一回、本気でデクをボコった。

 あいつにもめちゃくちゃ腹立ったからってのもあるがそれ以上に、やり返せないんならヒーローなんか諦めろって言ったんだ。

 

 (ヴィラン)なんか本気で殺そうとしてくんだぞ。

 オールマイトだって怪我したことくらいあんだぞ。

 人が死ぬことだってあるんだぞ。

 虫も殺せない奴が、他人を殴れねぇ癖にヒーローなんかできるわけねぇだろ。

 

 本気でボコった。鼻血も出たし目も腫れた。やり過ぎて骨を折っちまったこともある。それでもあいつはまた俺のとこに来るんだ。

 ヒーローになりたいからって、またやろうとしやがる。

 何回ボコってもまだやろうとする。強くしてくれって頭下げてきやがる。

 こいつは本気のバカなんだと思った。

 まさか死のうとしてんのかと思って、本気でぞっとしたこともある。

 

 もうやめるって言えば元に戻れるはずだったんだ。

 親が泣いても続けようとするあいつに、俺は腹が立つばっかりで、絶対にやめさせてやるってムキになってた。

 普通に生きるのだっていいじゃねぇか。なんでヒーローにならなきゃいけない。

 お前がなったって死ぬだけの癖に。

 

 

 

 

 何年もそんな生活が続いて、遊んでりゃ普通にいつものデクなのに、ヒーローのことになるとなんかムカつく。特に意味もなくあいつを殴る毎日が続いてた。

 中三の春、ようやくそれが終わった。

 俺があのヘドロに襲われた後だ。あれも腹が立ったが自分じゃ何もできなかった。そうだ、あの時もムカついたんだ。来んなつってんのに出てきやがって。操られてる俺が爆破で殺しちまうことだってあり得た。それなのに勝手に(たす)けようとして出てきやがるんだ。

 

 あれがあった後、ようやく俺との特訓が終わった。

 その後避けるみたいに一人で帰ってどっか行くのはムカついたけど、あぁ、やっと諦めたんだなと思って安心したんだ。

 ヘドロみてぇな奴はムカついて仕方ねぇが、あれがきっかけでデクが諦めたんならいい。それで俺を避けんのはムカつくから何度か問いただしてやったが何も言いやがらねぇし、明らかに何か隠してる顔で、質問してんのに答えねぇからまためちゃくちゃ腹立ったんだけど。

 なんにしても、これでようやく、ヒーロー以外の道を探すんだろって思ってた。

 

 そしたら雄英に入学するって言い出しやがった。

 普通科じゃなくてヒーロー科だ。

 しかもある日突然“個性”が出たとか抜かしやがる。

 

 いやぁ、久々キレたね。

 久々に人に対して“個性”使って本気で攻撃したわ。

 

 散々ヒーローになるとか言ってむちゃくちゃして心配させてて、やっと落ち着いたかと思ったらまだヒーローになるとか言ってて、しかも“無個性”だった奴が“個性”が出たとか言って高速移動しやがんだ。見えねぇんだよ。ふざけんな。お前そんな足速くねぇだろうが。俺の前を走ったことない奴が俺が見えねぇスピードで走れるわけねぇだろ。

 

 正直偽物か、カルトの宗教にでも洗脳されたか、じゃなきゃショッカーに攫われて改造されたのかと思った。

 ある程度ボコってから本人だって気付いたんだが、危うく殺してたな。

 別に問題なんて何もなくて、それまで避けてたのは“個性”を上手く扱うための特訓をしてたんだとか言いやがって。じゃあなんで俺に言わねぇんだって言ったら、それは一人でやりたいだとか言うのが不安とかうだうだうだうだ……!

 

 俺は正直、反対だった。

 雄英に入るのも、そもそもヒーローになるのも。

 デクの母ちゃんにも言った。あいつがヒーローになんかなったら自分からまず死ぬって。でもあの人は負い目があるからデクを応援するしかできなかったんだ。俺が散々ぶん殴って怪我させたのも責めねぇで、デクがそうしたいからって泣きそうな顔で言う。

 

 “無個性”を一番気にしてんのはあの人なんだ。本人は気にしてねぇのにな。

 俺は、もっと本気で止めてほしかった。

 雄英に来たのは間違いだ。

 あいつはヒーローになんかならない方がいい。

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