どうやらデクのハーレム展開   作:ヘビとマングース

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爆豪勝己は怒っている その3

 そこまで喋る爆豪(ばくごう)勝己(かつき)を初めて見た。

 幼馴染の緑谷(みどりや)出久(いずく)の話を聞かせてほしいと言ったのは自分だが、まさかそれほど情念たっぷりに語られるとは想像していなくて、ついつい気圧されてしまう。

 

 夕日に照らされる校舎を背にして、校舎から出てくるだろう彼を待っていた。

 以前とは違って友人が増えたことは喜ばしい反面、毎日を忙しなく過ごす彼は居所が掴めない。

 放っておけばいいとは言われるものの、放っておけば何をするかわからない奴だ。ちょっと目を離した隙にめんどくさい状況に巻き込まれているというのは避けたい。

 そう言った爆豪を、切島(きりしま)鋭児郎(えいじろう)は心配する表情で見ていた。

 

 近頃は以前にも増して友人として一緒に居る時間が増えている。かといって必要以上にベタベタし過ぎることもなく、特に切島は他のクラスメイトとの交流が多くて爆豪にばかり構っているわけではない。

 彼は違う。能動的に自ら関わるのは出久だけのはずだ。

 

「あいつは、しょっちゅう誰かを(たす)けようとしてた。頼まれてもねぇのにな」

 

 つまらなそうに、多少の苛立ちを混ぜて、爆豪は険しい表情で言った。

 中身を飲み干した空き缶を投げてゴミ箱に入れ、些細な動作だがミスのない、無駄に完璧な一連の光景に感心してしまう。

 地味だが意外に凄い行為なのに、感心する切島とは裏腹に爆豪は当然だとでも言いたげにまるで喜ばなかった。

 

(たす)けを求めてる顔に見えたって。そんなことばっかり言いやがる」

「今と変わってねぇんだな。昔からなのか」

「ああ。それでてめぇが怪我してもなんとも思わねぇ。死ぬかもしれねぇってことがあっても次で全然ビビらねェんだ。誰かを(たす)ける時だけな」

 

 苛立ちがさらに強くなり、目つきが変わっている。

 おそらく過去の出来事を思い出しているのだ。いつにも増して怒りを感じるのに、普段のように声を荒げることをしない。嫌に冷静な声色だった。主に出久を相手に大騒ぎする姿を知っているせいなのか、その姿がやけに恐ろしく思える。

 

「不良かなんか知らねぇが、年上らしいけどよォ、中途半端な連中に腕の骨折られた時も」

 

 切島がぎょっとするのだが彼を見ていない爆豪は気付かない。

 淡々と、苛立ちを抑えようとするのに漏れ出し、吐き出した言葉は止まらなかった。

 

「知らねぇ誰かを庇ったら今度はてめぇが石ぶつけられるようになった時も」

 

 感情が高ぶり、徐々に声が大きくなる。自分でも止められないようだ。

 

「俺がミスって橋から落っこちた時もよォ。てめぇが怪我すんのなんざ怖くねぇって一番に(たす)けに来やがる。他人が痛い想いするなら全部自分が引き受けちまえばいいって思ってる。母親が泣いてんの見て反省してもまたおんなじことやりやがるんだ」

 

 今まで彼のことを、自尊心が強くて自分の“個性”と実力に絶対の自信があって、少々の出来事ではその態度が崩れることはない、それでいて挑発にはすぐ乗るキレやすい男なのだと思っていた。ややこしい奴だがどこか面白いと。

 感情的になる姿なら散々見たとはいえ、そこまで辛そうにしている顔は見たことがない。

 爆豪が思わず俯き、乱暴に自分の髪をぐしゃりと掴んだ。

 

「そういうバカなんだよあいつはッ。(たす)けるためって理由つけたら後先なんか考えねぇで一人で勝手にやっちまって、注意されたら困った顔して笑って流してよォ。誰も見てねぇとこでまた無茶しやがるんだ。自分にゃ全然関係ねぇ奴まで必死になって(たす)けようとして」

 

 心配などではない。それは激しい怒りだ。

 切島は彼の姿から目を逸らし、胸の内に広がる感情を隠せずに悲しげな顔をする。

 気付かない爆豪は勝手に出てくる言葉を止められない。

 

「終いにゃ“痛いのは慣れた”ってよ。それでもまだやめようとしてねぇんだ。自分が死ぬかもしれねぇのにヒーローになろうとしてやがるッ」

 

 ぐっと歯を噛んで、体に力が入った。

 誰かが見ているかもしれない。聞いているかもしれない。そんな考えは毛頭なくて、彼は感情的になって大声で叫んだ。

 

「俺はあいつが、大ッ嫌いだ!!」

 

 初めて聞いた彼の慟哭。

 辺りに人が居なかったせいか、やけに遠くまで木霊したようだった。

 誰も聞いていなかったのはよかったと思う。

 切島は小さく息を吐いて、わずかだが緊張から解放されながら呟いた。

 

「俺には、そうは見えねぇけどな……」

「目ェ腐ってんのかてめぇはッ!」

「腐るかぁ! 目がっ!」

 

 気に障ったのか、次に口を開けばいつも通りの彼だった。

 咄嗟に言い返した切島もまた気を取り直して、表情が落ち着いて肩をすくめる。

 

「つまり、緑谷を守ってきたんだろ? お前はなんつーか、本当に根性ひん曲がってるっつーか、素直じゃないっていうか……」

「アァッ!? 喧嘩売ってんのか!」

「売ってねぇよ! そういうとこだろうが!」

「チッ! 大体なんでてめぇが居んだ。さっさと帰れ!」

「別にいいだろうがよ。緑谷待ってんだろ?」

「違ぇわ! 失せろ!」

「はいはい」

 

 近頃彼の扱い方がわかってきた。適当に受け流してその場を動かず、切島は出久を待つために振り返って校舎を見る。

 授業が終わってずいぶん経つ。大方、また誰かの手助けでもしているのか、それともクラスメイトと遊びでもしているのかもしれない。

 そう思って眺めていると、校舎から見知った人物が出てきた。

 

 右半分の髪が白、左半分の髪が赤、容姿端麗で冷静沈着な男子生徒、(とどろき)焦凍(しょうと)が歩いてくる。

 爆豪は微塵も興味を持たず、ちらりと確認こそしたもののすぐに視線を外して、切島は同じクラスに所属する関係として気軽に声をかけた。

 

「轟、今帰りか? 結構遅いんだな」

「今日はたまたまだ。自主訓練の場所が欲しかった」

「そっか。あ、緑谷見た?」

「教室に居た。もうすぐ来るだろ」

「ありがとよ。せっかくだからお前も一緒に帰らねぇ?」

「遠慮しておく」

 

 切島の質問には答える一方、足を止める気配はなく、彼は迷わず二人の前を通り過ぎる。しかし二人の姿が背後に移った後、ふと立ち止まった。

 振り返る焦凍が爆豪を見る。

 視線には気付いたが目を合わせようとはしない。気にせず声をかけられた。

 

「聞きたいことがある」

「あぁ?」

「緑谷が“無個性”だったって、本当なんだな?」

 

 反応は存外早かった。

 爆豪が顔を動かして焦凍と目を合わせる。

 冷静な眼差しを確認し、対して爆豪の顔つきは見るからに感情的だった。怒りと呼ぶほど明確ではないが脅迫するように強い意志を見せる。

 場合によっては迷わず動く。その顔を見るだけでよく伝わった。

 

「だったらなんだ?」

「いや……本当だとわかればそれでいい」

 

 話題に出して彼の反応を見ればそれで理解した。

 満足した焦凍は表情一つ変えずに歩き出す。

 その後は一度として振り向かず、それ以上言葉を交わさずにその場から去っていった。

 

 轟焦凍と八百万百は推薦入学で雄英に入ったエリートだと称されている。

 以前から対抗心でも持っているのか、爆豪は特に彼には近付こうとはしない。焦凍もまたクールな性格で群れるのを嫌うようで、クラスメイトとはむやみやたらと関わりを持たなかった。性格こそ正反対だがどこか似た部分がある気がする。

 それにしたってここまで緊迫感が漂うのはどうなんだと、切島は二人が離れたタイミングで密かに胸を撫で下ろした。

 

 放っておくと爆豪は再び黙り込む。焦凍の姿は見たくもないと言わんばかりにそっぽを向いて、用件がなければ自分から口を開くタイプではない。

 機嫌は悪そうだが、近くに居るだけでキレ始めないのは進展があった。

 やれやれと言いたげな顔でいつものように切島が爆豪に声をかけた。

 

「轟となんかあったのか?」

「なんもねぇよ」

「じゃあライバルか」

「あぁ!? ふざけんな! 俺の方が上だわ!」

「めちゃくちゃ対抗してるじゃん」

「うるっせぇ! どうでもいいわ! あんな奴!」

 

 こういうところをめんどくさいと思うのだ。しかし案外わかりやすいと理解してからは反応にも困らなくなった。

 おっと声を漏らした切島が校舎から出てくる出久に気付く。

 

「おーい緑谷」

「おっせぇんだよクソデクッ! ダッシュ!!」

「ごめんかっちゃん。切島君も待っててくれたの?」

「おまけだ、俺は」

 

 にかっと笑う切島は快く迎え入れ、爆豪はいつもの通り怒声を発して急かした。

 合流した出久はにこやかに笑っており、日頃からキレてばかりいる爆豪の前に来ても怯えた様子は全く見られない。

 これも慣れのせいなのか。何気なく彼の肩に手を置いた切島が深く嘆息した。

 

「お前って苦労してるんだな」

「へ?」

「こいつがじゃねぇ。俺が苦労してんだッ」

「ああ、かっちゃんね。何の話してたの?」

 

 チッと舌打ちをしてから爆豪が歩き出す。

 彼の後に続くようにして出久と切島が並んで歩き、ようやく学校を離れ始めた。

 

「お前らってなんで仲良いんだろって思ってたけど、お互い面倒見合ってたんだな」

「お互い?」

「あっ、殺す」

「わあ!? 嘘うそ! いつもお世話になってます!」

 

 出久が小首を傾げるとすかさず爆豪が振り返った。腕を伸ばして彼の頭を掴もうとして、恐怖を感じた出久が素早く逃げようとする。しかし地力の違いは明らかであり、“個性”を使用しているならまだしも単純な速度では爆豪に勝てるはずもない。

 早くも捕まり、鼻先が触れそうな至近距離から怒声を浴びせられている。

 聞き方を変えれば彼を心配しているのだろうがそうは聞こえない態度と声色。必死に謝る出久の姿も相まって、今まで散々誤解されただろうなぁと察してしまった。

 

 切島は一歩引いた位置から二人を見る。

 爆豪に話しかけようと思ったのは他人に興味を持たずに孤立しているように見えたからだ。賑やかなクラスで一人にしておくのが嫌に思えて、話しかければ返事が来る轟焦凍と違って取りつく島もない。だから自分くらいは友達になろうと思った。

 

 その彼が出久だけは気にかけていると気付き、両者に対する興味も大きくなった。

 全てを知ったわけではない。だが一片を知って言い切れないほど色々あったのだろうと思う。

 少なくとも傍目には楽しそうに見えるやり取りを見てほっと安堵できた。

 

「どうしたの切島君?」

「聞けコラ! 無視すんな!」

「し、してないよ! でもほら、切島君が来てないから……」

「無視しろ!」

「どっち!?」

「うるせぇ! てめぇで考えろ!」

 

 相変わらず騒がしい様子に思わず笑ってしまった。

 しばらく見ていたかった気持ちもあったが出久のためにはそろそろだろう。

 切島は間に入って止めてやり、肩を押さえて爆豪を落ち着かせてやった。彼が思いのほかあっさりとそうするものだから出久が驚き、二人が仲良くなったのだと指摘すれば、照れ隠しのつもりかまた爆豪が怒声を放ち始める。

 それが平和の光景なのだと思って、少なくとも出久と切島は笑っていた。

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