どうやらデクのハーレム展開   作:ヘビとマングース

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山岳ゾーン&セントラル広場

 大小様々な土山が連なる、山岳ゾーン。

 山岳救助の基礎と応用を学ぶための複雑な地形が設けられている。

 視界が開けている場所と狭い場所とが入り交じり、広大な山々の頂点に立てば辺りを眺められるとはいえ、山の陰に入れば姿を隠すことは容易である。

 

 四人の生徒がそこに居た。

 慎重に周辺を確認する八百万(やおよろず)(もも)耳郎(じろう)響香(きょうか)、緊張して恐怖心を隠せていない上鳴(かみなり)電気(でんき)口田(こうだ)甲司(こうじ)が一塊になって身を隠していた。

 

 敵は黒い肉体で脳をむき出しにした、彼らは名前を知らなかったが四足歩行の脳無だった。突然目の前に現れたかと思えば有無を言わさず彼らに襲い掛かり、異常な大口を開いて彼らを食べようとしてきたのだ。回避されても気にせず近くの物に噛みつく脳無は、硬い岩をボリボリ噛み砕いて呑み込む姿を四人に見せている。

 なんでも食べてしまいそうな敵に恐れを抱き、彼女たちは戦闘を避けようとしていた。

 

「居ました。あそこです」

「うわ……また石食ってるよ」

「な、なんなんだよ、あいつ……おれたちを殺そうとしてたよな? っていうかガチで食われそうだったんだけど……」

 

 顔を青ざめさせる上鳴の言葉に、不安そうな顔をしている口田が頷いて同意をした。

 突然の襲撃。大口を開いて食べようとしてきた“悪食(あくじき)”脳無は何でも食べてしまい、頑丈な歯で岩だろうが草だろうが橋だろうが咀嚼してしまう。

 

 唯一の救いはそこまで頭が良くないだろうと思われる点だ。

 咄嗟に逃げたが隠れるのは簡単で、驚きこそあったがダメージはゼロ。

 脳無はきょろきょろ辺りを見回して、あてもなく彼女たちを探し、ふとした拍子に目の前の物を食べる。そうしてまた歩き出すという行動を繰り返していた。

 

「ど、どうする? これからどうすればいいんだ?」

「まずは、先生方や皆さんと合流することを優先しましょう。相澤先生は避難するよう言っていましたから……(ヴィラン)との戦闘は避け、助けを呼ぶべきでしょう」

 

 八百万が緊張を隠せない様子で進言する。

 雄英高校に入ってまだほんの少し。授業の一環で初歩的な戦闘訓練を行ったとはいえ、当然の如く本物の(ヴィラン)と戦うのは初めて。ここに居る全員が緊張して体が固くなっていた。

 そんな状況だからこそ、八百万は基本に則って無理な行動を避けようとしたのである。

 

「逃げる……くらいなら、なんとかなるかな? あいつ、あんまり頭良くなさそうだけど」

「まだ気付かれてねぇぞっ。今のうちに走ろうぜ!」

「落ち着いてください。焦らず、慎重に、常に死角に入って移動しましょう」

 

 逸る気持ちを抑えられない上鳴の肩を口田が押さえ、落ち着かせようとする。

 緊張こそしているが、耳郎と八百万は冷静に行動しようと努めており、深呼吸を繰り返して気分を落ち着けようとしていた。

 

「とにかく、あんま頭はよくないみたいだから、逃げる隙はありそうだね……」

「攪乱しましょう。私たちの“個性”で敵の目を欺き、さらに隙を作ります。今は戦闘を避け、味方との合流を最優先とします」

 

 辺りを窺う耳郎に同意するように、八百万が決断して指示を出す。

 ヒーロー志望とはいえ、自分たちはあくまでも学生であり、独断で更なる危険に身を投じるわけにはいかない。脳無を放置することには不安があるものの、この場は一旦退いて、先生やクラスメイトと合流した上で行動を決めるのが最善。

 

 八百万が後ろを向いた。

 胸元に手を当てて、ぐにゅりと動いた肌から“創造”の“個性”で作った物質を持つ。

 

「慎重にこの場を離れましょう。場合によっては、戦う必要性があるかもしれません」

「その場合って嫌だなぁ~……」

「こっそり動けば大丈夫だって。あの感じだと見つかりさえしなければ――」

 

 不安そうな上鳴に対して、励ますように耳郎が言いかけた時、頭上に影が差した。

 ドンッと大きな音を立てて脳無が着地。“超嗅覚”の“個性”で彼女たちの現在地に気付き、強靭な身体能力を用いて一足飛びで接近したのである。

 四人は同時にぎょっとして、体が硬直したことで反応が遅れた。

 

「ちょっ、やばっ……⁉」

「うわああっ⁉ なんでこっちに来んだよぉ⁉」

「みなさん今すぐ逃げ――!」

 

 しかし、八百万が言い終える前に脳無の体は泥のように崩れ、地面に広がって消えていく。

 何が起きたのか理解できなかった。

 脳無が現れ、何もしない内に消えてしまった。四人は呆然と脳無が居た場所を見つめる。

 

「た……助かったのか?」

「なんだっての、一体……」

「油断せずに、警戒しましょう。そう見せかけて、“個性”を使ったのかもしれません……状況から考えて確率は低そうですが」

 

 念のために、と警戒する八百万は緊張しながら冷静に立ち振る舞おうとしていた。

 彼女たちは他の場所で何が起きているのか知らない。

 中々標的を見つけられずにウロウロしていた脳無の謎の行動も、見つかったと思ったらその直後に体が消えてしまった状況も、意味がわからないせいで安心できずにいる。

 

 その後も四人は八百万をリーダーとして、警戒しながら恐る恐る避難を開始する。

 結局、それ以降は(ヴィラン)に出会うことはなかった。

 

 

 

 

 正面入り口の大階段下、セントラル広場。

 そこでは激しい戦闘が繰り広げられていた。

 投入された脳無と、トゥワイスが作り出した偽物の脳無が敵へ飛び掛かり、強烈な攻撃でいとも容易く殴り飛ばされている。

 

 No.1ヒーローでありオールマイトだが、疲れを隠せなくなりつつあった。

 その背中を献身的に守る生徒、緑谷出久。

 死柄木弔が欲しているのはオールマイトではなく彼だ。そのため出久から目を離さない。

 

「もー無理っ⁉ 元気百倍だァ! さっさとやってくれ死柄木! ゆっくりでいいぜ!」

「しょうがねぇなぁ。でもお前はよくやったよ」

「褒めてもらえて嬉しい! 全ッ然嬉しくねぇけどな!」

 

 ついに弔が動こうとした。

 その些細な挙動に気付いた途端、出久の目は迷わず弔を捉える。

 

「行くぞ黒霧。フィナーレだ」

「御意」

 

 黒霧が弔の隣に立ち、目標を出久へと定めた。

 元より警戒していた上に、状況を見て嫌な予感がしたのだろう。脳無に囲まれていた相澤が自身の戦闘よりも優先して黒霧の“個性”を一時的に“抹消”させようとする。

 相澤とオールマイトは咄嗟に出久へ叫んだ。

 

「退け緑谷! そいつに近付くな!」

「緑谷少年! 私の後ろへ!」

 

 二人は心配してそう言っていたが、出久には明確な意思があった。

 退こうとしないばかりか、弔の姿を真正面に見据えて向き合おうとしている。それを良しとする弔はにやりと笑っていた。

 

「ハァ、ハァ……弔君」

「少し話そうか。でもここじゃ騒がしい」

 

 黒霧が手を振った途端、脳無が意思を同じくして同時に動いた。

 オールマイトの視界を塞ぐべく一斉に飛び掛かり、咄嗟に反応して彼が拳を振るう。

 黒霧を注視していた相澤は思わぬ速度で後頭部を殴られ、吹き飛ばされた。そして吹き飛ばされた先に、瞬間的に黒霧が発生させた“ワープゲート”が存在して、相澤の姿がどこかへ消える。

 

 出久は動揺した。オールマイトは無事だがすでに余裕がないことを知っている。それだけでなく相澤がどこかに消された影響は大きい。

 大きな緊張に体を支配され、視線は考える前に勝手に動き、弔から目を離していた。

 

 懐に飛び込まれるまでほんの一瞬。

 弔が出久へ手を伸ばす。

 

「向こうで話そう」

 

 四本の指でトンっと胸を押して、出久の体を黒い霧による“ワープゲート”の中へ放り込んだ。

 直後に弔も同じ穴の中へ飛び込み、姿を消した。

 彼らを見送り、黒霧が腕を振ると次々に“ワープゲート”が生まれて脳無を呑み込んでいく。

 

「では失敬」

「待て! 緑谷少年を返せェ!」

 

 寄り集まる複製の脳無をまとめて弾き飛ばし、高速で駆けてオールマイトが黒霧へ接近する。

 ここで逃がすのは絶対にまずい。そう思って必死に手を伸ばすのだが、彼の行動と判断は早く、届く前に霧の中に消えてしまう。

 

 オールマイトが勢いよく地面を転がり、素早く顔を上げた時、周囲には誰の姿もなかった。

 彼は一人取り残されて、状況を理解すると絶望感を覚える。

 

 敵の思うままに動かれてしまった。

 相澤は自分で上手く対処しているはず。死んでいるとは思わない。

 その一方、出久が連れ去られてしまったのは教師としてのミス。

 オールマイトはすでに体の限界を迎えていて、肉体が徐々にしぼんでいき、これ以上戦闘どころか動けそうにもなかった。

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