どうやらデクのハーレム展開   作:ヘビとマングース

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死柄木弔は語りたい

 黒い霧が晴れて、視界が一変した。

 場所は雄英高校の敷地ではなく町を一望できる高いビルの屋上。見渡せば雄英も、出久の自宅も見ることができる。二人が出会った公園もまた然り。

 

 出久は目の前に立つ弔の背中を寂しげに見つめた。

 攻撃する意思は感じない。彼は町を見下ろし、幽霊のように突っ立っている。

 

「こうしてお前と話すのは、2回目だったか? 昔、たった一度だけお前と話した。俺にとっては大きな出来事だったんだ。そんなに少ないとは思えないくらいに」

 

 本当に、友達に話しかける優しい声色。

 つい先程までヒーロー科の実習を襲撃していた人物とは思えない態度だった。

 出久の心情は複雑であり、飛び掛かるようなことはせず、声を発することにとても苦労する。

 

「どうして……こんなことを」

「それを話す前にまず、お前に聞いておきたいことがあるんだ」

 

 弔が振り返る。顔に張り付けた手が邪魔だが視線はちゃんと交わっていた。

 

「お前は今の社会をどう思ってる? ヒーローがありふれた世界だよ」

「どうって……」

「あまりにもヒーローが多過ぎるとは思わないか? あっちもこっちもヒーロー、ヒーロー。今の世の中は無駄なヒーローが嫌というほど存在する」

 

 そう多くない言葉で彼の心情が伝わる。

 弔はヒーローそのものが心底嫌いなのだ。

 

「お前はヒーローが好きなんだろ?」

「うん……子供の頃からの憧れだ」

「俺はヒーローが嫌いなんだ」

「わかるよ。君の眼を見れば」

 

 手が邪魔だが、弔がにこりと笑った気がした。

 

「俺はさぁ、きっと誰かに(たす)けてほしかったんだ。手を差し伸べられるのを待ってた。そのために人が多い場所を歩いた。でもダメだった」

 

 出久は問いかけるのをやめ、その声に耳を傾ける。

 振り向いた弔は町を見下ろしていた。

 過去を振り返り、その頃の情景を脳内に思い浮かべているのだろう。淡々とした口調だが声色はどこか寂しげに思えた。少なくとも出久はそう受け取っている。

 

「俺がヒーローを嫌いなのは単純な理由さ。(たす)けてほしい時に(たす)けてもらえなかった。いざ必要な時にヒーローは俺を見ようとはしなかった。それが大きな絶望の一つ」

 

 出久は、彼の語りに対して簡単に口を挟むことができなかった。

 ヒーローに憧れている自分はきっとヒーローの良い部分をたくさん見てきたのだ。悪いニュースや真偽不明の噂を耳にした経験がないわけではない。しかしヒーローへの盲目的な愛が、真相の追求や思考を継続することを放棄していた節がある。

 今になって思い出す。自分の態度もまた、弔が言う見て見ぬふりそのものだった。

 

「これでも昔はヒーローが好きだったんだ。オールマイトに憧れてた。自分もいつかヒーローに、なんて夢を見たことだってある」

「今は……違うんだね」

「ああ。クソ食らえって感じだな」

 

 嘘偽りない言葉。

 今もヒーローを好きでいる出久にとって鋭く刺さるような言葉だ。

 出久は表情を曇らせるが、ここで逃げてはいけないと、真正面から弔を見つめる。

 

「お前には正直に全部話そうと思うんだ。昔、俺は自分の家族を殺した」

 

 唐突な発言に出久はひゅっと息を呑む。まさかの告白だったが、しかし、驚いてこそいるが意外にも自分がすんなり受け入れている事実に気付く。

 ヒーローを嫌って、雄英高校の施設を襲撃してくるほどだ。よほどのことがなければそんなことはしないだろう。

 

「きっかけは“個性”の発現だった。最初は飼い犬のモンちゃん。寂しくて、辛くて、ただ抱きしめてただけなのに体が突然ボロボロ崩れていった。その次は華ちゃん。助けを求めようとして手を伸ばしたら、俺の前から忽然と消えてしまった」

 

 言うなればそれは自身の“個性”について明かすことと同義。

 敵対する意思がない、と受け取れる。

 弔は本気だと出久は受け取った。本気で、これっぽっちも出久と戦うつもりがない。

 

「全員俺の“個性”で死んだ。言ってみりゃ事故みたいなもんだったよ。あの時の俺にはどうすることもできなかった。みんな跡形もなく壊れた」

「そんな……“個性”の、暴走……」

「ただ一人だけ、父親だけは違ったけどな。アレは俺が明確に殺そうと思って殺した。心の底から本当に、本当に殺したかったんだよ」

 

 淡々とした口調で事も無げに言い切られる。

 出久はぎゅっと目を閉じて聞き入れ、目の中に力強い光を灯して、再び開いた。

 

「うちはヒーロー禁止令があってな。ヒーローのことを話題に出すだけで父親に殴られた。好きになることを否定された。純粋に憧れることすら許されなかった」

「……そう、なんだ」

「別に同情してもらおうってつもりじゃないんだぜ? ただ、知っておいてほしいんだ。あの時、俺はあいつを殺して、本当に……生まれて初めて気持ちよかった」

 

 出久は、目の前に立つ弔からぞっとするような雰囲気を感じ取った。

 それこそが彼の本音。人を殺した際に快感を覚えた。

 ひどく楽しそうに、静かではあるが喜びを隠しきれない声で、堂々と言い放つ。その姿に出久は否定したいと思いながらも“(ヴィラン)”を見た。

 

「家も家族も全部壊して、そのあと俺は、町を歩いた。どうすればいいかわからなくて、人目があるところに居りゃ誰かが助けてくれるって思ったんだろうな。でも助けてもらえなかった」

「ヒーローがなんとかしてくれる……から」

「ああ。町の連中はそう思ってたんだろうさ。でもそのヒーローだって現れなかった」

 

 数え切れないほどのヒーローが居る今の社会。しかし国民全てを救えるわけではない。

 ヒーローにも解決できない数々の問題が存在している。

 出久は悲痛な面持ちで、憧ればかりでまともに向き合おうとしなかったその事実に気付いた。

 

「オールマイトも、エンデヴァーもホークスも、俺からすりゃみんな一緒だ。困ってる別の誰かは助けるのに、俺のことは助けてくれない……俺にとってヒーローはそういうもんだ」

 

 自分が知らない、体験したことのないヒーローの実態。

 ヒーローは大勢の人間を救っているが、取りこぼしてしまう命もある。報道では隠され、世間に伝えられない真実がある。

 弔はその一人。出久の価値観とはまるで正反対である。

 

「それから俺は、先生に拾われて教育された。何もかもを憎んで(ヴィラン)にするために」

「それは、じゃあ、弔君は……(ヴィラン)になりたいの? それとも教育されただけ?」

「はっきり言って後者だよ。俺が望んだわけじゃない。だが今日の襲撃に関しては俺が計画して実行したものだ」

「そうなんだ……」

 

 わずかな光明も潰えた気がして、出久の表情は晴れない。

 彼の心情はあらかじめ想像していたのだろう。弔はくつくつと小さく笑っていた。

 

「ショックだったか? お前が気に病むことじゃない」

「でも、そんな……」

「全て本当にあった話だ。嘘は言ってない。今でも思い出せばどいつこいつも殺してやりたくなるくらいの気持ちにはなるが、今の俺にとってはどうでもいいんだ」

 

 弔が出久に向き直り、互いの視線が正面からかち合った。

 

「お前だけが違った。たった一度だけ、先生の家を抜け出して外へ出た時、偶然お前に出会って、あの日の出来事に繋がった」

「覚えてるよ。公園のベンチに座って、一緒にサイダーを飲んだんだ」

「あの時間だけが救いだった。自分が壊れそうになっても、出久と過ごしたことを思い出すと正気を保っていられたんだ」

 

 嘘をついているようには思えなくて、確信に変わる。

 薄々そう感じ取っていたのだが、出久の目には、弔が(たす)けを求めているように見えた。

 

「また一緒に行こうよ! 公園で遊んだり、他にも色々……! 僕も友達居なかったから、知らないことがたくさんあるんだ!」

 

 出久はこの時を待っていたとばかり、願うように誘った。

 思うことは色々ある。まだ自分の気持ちを整理できていない。

 それでも何か言わなければならないと思って、弔をそのまま一人にしておきたくなくて、動揺しながらも必死に言葉を探した。

 

「僕も思い出してたよっ。初めて会ったあの日から、今はどうしてるんだろうって。君と友達になりたかったから!」

「じゃあ俺と同じだ」

「うん……話してみて、僕とは何もかも違うけど。僕はきっと君より恵まれているけど。このまま終わりじゃ嫌だから」

 

 出久は悲しげな目をしているが、口元に笑みを浮かべて、縋るように弔へ言う。

 

(ヴィラン)になるの、もうやめよう? 弔君はまだ間に合うから」

「そうかな」

「うん。僕も協力するよ。その先生に怒られるんなら僕が、僕らが守る。ヒーローが嫌いなままでもいいから、一緒に……普通に生きようよ」

「出久、そりゃ無理だ。今更普通になんて生きられない」

 

 優しい声でそっと突き放すように、弔はそう言うと右手を上げ、掌を出久に見せた。

 見た目はちっとも変ではない。だが「無理だ」と言われたことが出久に動揺を与えている。

 

「俺の“崩壊”は五指で触れた物を壊す。危険な“個性”だろ? 普通に暮らしてたって突然誰かを崩壊させてボロクズみたいにするかもしれない」

「たっ、対処法を考えるから! 専用のサポートアイテムを作れば改善できると思う!」

「俺がここまで優しくするのはお前だけなんだぜ。他の人間は信用できねぇ」

「でもっ、じゃあっ、“個性”をコントロールする訓練をして――!」

「出久、俺の手を握れるか? 触ればなんでも“崩壊”させる俺の手を」

 

 試すつもりだったのか、そんなつもりさえなかったのか。弔は出久に問うた。

 そう言われて出久の表情が瞬間的に変わる。

 目の中に力が宿り、戸惑い、気遣っていた先程とは違って、確固たる意志で動き出した。

 

 一歩で弔との距離を詰め、全く迷わず手が差し出された。思わず五指で触れないよう弔が気を遣うほど間を置かずに触れてくる。

 出久が弔の手を握った。

 咄嗟に弔が指を動かして、五指に触れていないため“崩壊”はないが、仮にそうなるとしてでも、というつもりで離す様子が見られない。出久はまっすぐに弔を見つめた。

 

「握れるよ。僕は、ヒーローになるけど、君の友達でいたいから」

 

 大きく息を吸い込み、深く吐き出した。

 弔は心底嬉しそうに笑顔になり、四本の指で出久の手を握り返す。

 

「あぁ……出久、俺は」

 

 喜んでいる、という事実はすぐに伝わった。しかしその直後、出久はなぜかわからないがぞわりとした悪寒を覚える。

 次の一言により、弔の喜びは彼が予想するものとは違っていることを思い知らされたのだ。

 

「世界最高の(ヴィラン)になろうと思うんだ」

 

 それは、予想すらしなかった最悪の答えだった。

 殴られたかのような強い衝撃に出久は息を呑んだ後、状況を理解できないまま必死に口をぱくぱく動かして、ようやく声を出せた時には堪えられずに叫んだ。

 

「どうしてっ⁉」

「お前のためさ。やっぱりお前は俺が欲しかった答えをすぐに出してくれた。俺を(たす)けてくれるのはお前しかいない」

 

 わけがわからないと言いたげな出久のために、弔は声を弾ませて言ってのける。

 

「この世界にはヒーローが多過ぎる。ヒーローを名乗る連中も、ヒーローを当たり前と思ってる有象無象も、ヒーローの価値を忘れてしまってる。どいつもこいつも偽物だ。だから俺が、無意味なヒーローどもを一掃する最高の(ヴィラン)になって、この世界を変えてやる」

「そんな……⁉ だからって、(ヴィラン)にならなくても!」

「俺がお前を、世界最高のヒーローにしてやるっ」

 

 ぐいっと手を引っ張られて、顔を近付けて宣言された。

 青ざめた出久は激しく混乱し、それでも彼に何か伝えなければ、止めなければならないと思う。

 

「みんな勘違いしてる。本物は一人でいいんだ……それなら俺は、その一人がお前であってほしいと思ってる。嘘じゃない、本心さ。お前だけが、俺を(たす)けてくれたヒーロー」

「違う! 僕はまだ何もできてない! 君を(ヴィラン)にさせたくないんだ!」

「それは無理だ。俺は何もかもぶち壊したくてたまらない」

 

 パッと手を離して弔が距離を開ける。

 出久はいっそのこと物理的に止めるために飛び掛かろうかとも考えたが、混乱していたせいか、自分の体をいつものように動かすことができずにいた。

 

「お前はきっと見捨てられない。俺が誰もが恐れる(ヴィラン)になっても、俺を(たす)けに来てくれるだろ? その時お前は誰よりも最高のヒーローだ」

「ダメだ……そんなのダメだよ」

「ありがとう。お前のおかげで、俺はようやく生きる喜びが見つかった」

 

 このままではダメだ。そう思った出久が弔へ手を伸ばそうとしたその瞬間、突然空中に黒い霧が発生し、彼の体を呑み込もうとする。

 抵抗しても逃れられない。またワープさせられる。

 出久は必死にもがいてその場に留まろうとするのだが効果はなかった。

 

「弔君っ‼ 待って!」

「また(たす)けに来てくれ。待ってる」

「もっと君と話したいんだ‼」

「ああ、俺もだ」

 

 黒い霧に包まれてほんの一瞬、出久の姿は消えてしまった。

 言いたいことは最後まで言えず、説得に失敗したという自覚がある。結局は弔の決意を後押ししただけであり、手と手を取り合うことはできていない。

 黒霧の“ワープゲート”によって元居た場所へ帰されて、仲間たちに安堵して迎えられたが、出久は無傷でありながら絶望感を隠し切れなかった。

 

 

 

 

「満足しましたか?」

 

 背後から黒霧に声をかけられた弔は、ああ、と呟いた。

 街並みを眺める彼は普段とは異なる心境で居て、そのせいなのか、不思議と景色が輝いているかのように見えている。

 

「俺の予想した通りだった。あいつは(ヴィラン)でも構わず(たす)けようとする。本当のヒーローってのはそうじゃなきゃな」

「オールマイトの後釜ですか。不思議と気質が似ている」

「いい人選だよ、本当に。俺が何もかもぶち壊してやりたいと思ってるのは変わらないが、今は出久と友達になりたい」

 

 黒霧は無言で、やれやれと言いたげに首を振る。

 弔はまだ成長途中。着実に強くなり、自らの意思で行動しているものの、その理由や目的は教育に従ってのものとは言い難い。“先生”の思惑通りとは言えないだろう。

 そうした思考に気付いたのか、或いはあらかじめ覚悟していたのだろう。

 弔が唐突に黒霧へ尋ねる。

 

「黒霧。お前はどっちの味方だ?」

 

 黒霧は弔のお目付け役として主に行動を共にしている。これまでにも多くの忠言をして、彼の成長を見守り、多くの事柄を教育してきた。

 間違いなく味方であるはずの彼への問いかけ。それは弔の覚悟を示している。

 驚きつつも感情を見事に隠して、黒霧は冷静に答えた。

 

「私はあなたの味方です。言わずともわかっているでしょう」

「いいや。お前は先生に言われて俺の近くに居る。俺が先生を裏切れば先生につく」

 

 ただそれでもいい。

 弔は迷わず上機嫌に言い切った。

 

「先生……どうせ聞いてるんだろ? あんたは俺の体が欲しいんじゃないのか? 死にかけの体のままじゃ満足に(ヴィラン)やれないもんなぁ。丁寧に俺の憎しみを教育して、あの日、怒りはしなかったけど二度と俺を外に出さないようにしてた。俺と出久の関係が怖かったんだろ」

 

 弔は黒霧に対して、同時にこの場には居ない“先生”へ向けて語りかけていた。

 

「俺のやるべきことは決まったよ。心配しないでくれ、ちゃんと今の社会は壊す。気に入らない物は全部塵にして消し去ってやる」

 

 ひどく楽しそうな声だった。

 ケラケラ笑いだしそうな、今までに聞いたことのない声色。

 黙って聞いていた黒霧は不意に決して小さくない悪寒を覚える。

 

「そのあとはあんたを殺すよ、オール・フォー・ワン。俺の体はあげない。俺がこの世界の支配者になって、俺を倒そうとする出久を迎えなきゃいけないから」

 

 耐えられなくなって弔が笑い声を発し始めた。

 

「くっくっく……黒霧ぃ。これはなんなんだろうって言ってたよな? 再会してやっとわかった」

 

 弔は歓喜していた。

 まるで自分を抱きしめるような姿で、語る声は恍惚としており、吐き出す息は本人も意図しない色気を伴っている。

 今にも躍り出しそうなほどに、かつてない喜びを隠し切れずにいた。

 

「恋だよ、これは。そいつのためなら命を落とすことすら厭わない。育ててくれた先生すら殺す覚悟ができる。こんな感覚は初めてだ……今ならこの街を一人で粉微塵にできる気がする」

 

 弔はいまだ成長途中。

 世間一般で常識とされていることを知らず、純粋な悪意と殺意を募らせ、憎しみを育ててきた。しかしここへきて新たな感情が芽生えているようだ。

 

 一部始終を聞いていた先生は、しかし機嫌を損ねてはいなかった。

 それどころか彼を褒め称えるための言葉を脳内へ伝える。

 

《それでいいんだ、弔。思うままに壊しなさい。気の向くままに殺しなさい。君の成長こそ僕の悲願であり、結果が同じであれば過程は問わない》

 

 その言葉をどう受け取ったかは不明だが、弔はその言葉に驚くことなくにやりと笑った。

 

《次の支配者は、君だ》

 

 

 

 

 セントラル広場に戻ってきてすぐ、出久は叱られていた。

 今にも泣きだしそうな顔でお茶子が睨みつけてきて、それまでの混乱と動揺もあったというのに一時的に忘れてしまい、たじたじになった出久は何も言えずにいる。

 

「バカッ! 勝手に一人で突っ走って、死んでたかもしれんやんかっ!」

 

 突然の怒声にびっくりして背筋が伸びる。お茶子は目にいっぱいの涙を溜めて、こぼすのを堪えながら彼のために精一杯怒っていた。

 見れば彼女の背後では同行していた常闇と芦戸も出久を見ている。常闇は多くを語らずに鋭い視線を向けていて、芦戸はわかりやすく怒りながら腕を振り回していた。

 

「まったくだ。お前の無鉄砲さには呆れ果てる」

「私たちが居るでしょーが! せめて一緒に行け~!」

 

 常闇と芦戸の後ろにも、無事だったらしいクラスメイトたちが並んで出久を見つめている。

 そこに居ない人物に気付く前に、事実を伝えるためにお茶子が言った。

 

「爆豪君と轟君、重傷だって……」

「え」

 

 全く考えていなかった事態を聞かされて、出久は目を丸くする。

 言われてから慌てて探してみれば、確かに二人が居ない。

 轟はプロヒーローに注目される有望株。爆豪は、出久から見れば誰かに負ける姿が想像できないほど喧嘩が強い男。

 その二人が怪我をしたと知って、なるほど、彼らが必死になる理由がよくわかった。

 

「そんな……」

「デク君も、うっ、どうなっててもおかしくなかった……から」

 

 我慢できずにお茶子がはらりと涙をこぼした。

 他のみんなも心配しているのが伝わって、申し訳なくなった出久はやっと冷静になる。

 以前から注意されていたとはいえ、これまでのどんな言葉より重くのしかかった。

 

「ごめんなさい……僕がやらなきゃって思って、一人で突っ走りました」

「まあ、そのおかげで助かったとオールマイトは言っていた」

「ってことはオールマイトを(たす)けたヒーローってこと? 緑谷すごいじゃん! でもなんか言ってからにしてほしかったけどねー」

 

 出久は再び謝罪し、頭を下げる。

 言い訳のしようもない。これまで繰り返し不安視されていたことが現実になった。これは自分の落ち度だと思う。

 

 一方で、彼を責めるばかりではなく、いつものことながら困っている人を(たす)けようと必死に動く出久の姿を評価する声もあった。

 (ヴィラン)が退却して、徐々に落ち着きつつある状況がそうさせるのか。

 不安がなくなったわけではなく、だからこそクラスメイトたちは会話しようとしていたようだ。

 

「私らは逃げ回ってただけだからさ。あんたが暴れたおかげで(たす)かったみたいだけど」

「動けなくなるよりよっぽどすげぇだろ! はぁ~マジで焦ったぁ……」

「無理をするのはいけませんが、あなたの勇気に救われる人が居るのも事実です」

 

 耳郎(じろう)響香(きょうか)上鳴(かみなり)電気(でんき)八百万(やおよろず)(もも)の発言の後、口田(こうだ)甲司(こうじ)がうんうん頷く。

 彼女たちの優しさに礼を言うものの、出久の表情は浮かないものだった。

 

 考えることがたくさんある。

 今日の反省も、弔のことも気になるが、仲間たちの気遣いを無視するわけにはいかない。

 出久は冷静になろうと努めて、改めて謝罪をした。

 

「みんな、ごめんなさい。何度も言われてたのにまだわかってなかった。本気で改めるよ……このままじゃダメだって僕も思うから」

「緑谷君! 反省はとても大切だ! そして俺たちにも反省すべき点はたくさんあった!」

「ま、これに懲りたらもっとみんなを頼れってことだな」

「怪我人は出てしまったけれど、とにかくみんな生き残れてよかったわ」

 

 誰もがひとまず落ち着こうとしていたのだろう。叱責しながらも優しく声をかけてくれる。

 そうした状況下において、それでも出久の表情は優れなかった。

 彼が暗い顔をしているのを見て、涙を拭ったお茶子は今もまだ不安が拭い切れず、確かめたい一心で彼へ声をかける。

 

「デク君、まだ何かある?」

「え? あ……」

 

 言っていいものか迷う。しかし、ついさっき仲間を頼れと言われたばかり。黙っておくのも忍びないと思って、決断は早かった。

 それでも全てを明かす気にはなれず、出久は簡潔に答える。

 

「どうしても……(たす)けたい人と出会ったんだ」

 

 状況が状況だけに、端的に答えたところで察するものがある。

 言うなれば誰であろうと(たす)けたがる、彼らしいとも言える態度。しかし今回ばかりはあまりに危険が大き過ぎて不安が勝った。

 お茶子は不安そうな顔で何も言えなくなり、出久への心配はちっとも消えていなかった。

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