どうやらデクのハーレム展開   作:ヘビとマングース

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上鳴電気はウェイウェイしない

 未来のヒーローを育成するヒーロー科であってもそこは学校であり、彼らは学生だ。日直の仕事は当番制で必ず回ってくる。

 その日は偶然緑谷(みどりや)出久(いずく)が日直で、思いついたように日誌を書いていた。

 そこへたまたま目に留まったからという理由で、上鳴(かみなり)電気(でんき)が声をかけたのである。

 

「なぁ緑谷、トランプやんねぇ? ババ抜き」

「悪いね、日誌書いてるとこ」

「ババ抜き?」

 

 彼が居る席にはすでに集められたメンバーである耳郎(じろう)響香(きょうか)と、岩のような風貌を持つ異常に無口な男子生徒の口田(こうだ)甲司(こうじ)の姿があった。異色の面子ではあるが出久に声をかけたところを見ても適当に集めただけなのかもしれない。

 急ぐ用事はない。興味を持った出久は日誌を机の引き出しに直して席を立つ。

 

「ほら、切島が爆豪と腕相撲してただろ? なんか勝負みたいなのいいなーって思って。でもバチバチにやり合うのとか疲れるじゃん? これなら楽だからさぁ」

「根性ない発想だなぁ。あいつら今日早食い勝負してたよ。流石にあそこまで勝負バカだとそれもどうかと思うけど」

「トランプだったら女子ともできるじゃん。今は居ないけど」

「あぁん?」

「冗談です……すいません」

 

 極端に無口な口田は声を発さない。代わりに身ぶり手ぶりで自分の意思を表すため、全く感情が読めないというわけではなく、今は明らかに目つきを変えた耳郎を止め、睨まれた途端に顔を逸らしながら震える上鳴を慰めようとしていたようだ。

 理由はともかく、楽しそうだと思ったのはそうしたやり取りを見たからでもある。

 せっかく誘われたのだし。出久は参加の意思を表明した。

 

「えっと、僕でいいの? 上鳴君は女子の方がいいんじゃ」

「あーいいのいいの。むしろこいつは居ないものとして考えていいから」

「ひどくねぇ!? 発案者俺なのに!」

「とりあえず緑谷座んなよ」

「無視されてる!」

「うっさいなぁ。自業自得だろ?」

 

 テンション高く喋る上鳴と、面倒そうに彼をあしらう耳郎に、まあまあとなだめる口田。見ているだけで楽しい組み合わせだ。

 席が近い上鳴と耳郎が雑談している姿はよく見かける。そこに口田が加わると、無口で強面だが心優しい彼がフォローに回るので二人とも話しやすそうにしていた。

 

 これは、もしや自分が要らないのでは?

 そう思いもしたが承諾した以上は離れられずに、出久は近くの椅子を借りて座り、輪の中に加わると上鳴の見事なカードシャッフルを見る。

 

 学校でこんなことをするのは初めての経験だ。“無個性”だった過去は肩身が狭く、遊び呆ける同級生を見ても加わる勇気はなかった。自分から声をかけることができず、声をかけられることもないから参加できない。時には爆豪(ばくごう)勝己(かつき)と同じクラスになることもあったが、別のクラスであることも珍しくなくて、そうでなくとも毎日一緒に居たわけではない。

 全てを“個性”のせいにしてしまいたくないが、同列に扱われるこの状況が嬉しくて、何も始まらない内から出久は嬉しそうにしていた。

 

「っていうかトランプはいいにしてもババ抜きってさ。どうなの、正直」

「なんでよ。一番簡単だし、最悪喋ってるだけでもいいし」

「それじゃトランプなくてもよくない?」

「手元のやってる感が欲しいんだよ。喋りながら同時になんかやってますよって感じが」

「そうかな。あんたらもそう思う?」

 

 手慣れた様子でカードを配る上鳴は見るからに乗り気で生き生きしている。女子と遊びたいとは言うものの、いざこの場が整うと誰かと遊べる状況そのものに嬉しそうだった。

 一方でどこか冷めた態度の耳郎は他の二人へ問いかけた。

 よく見ればこの二人、外見こそ違うが人の良さそうな笑顔なのはよく似ている。下手すれば気を使わせてそうだな、とわずかに察したりするのである。

 

「僕は嬉しいよ、ババ抜き。学校でトランプするなんて初めてだし」

「あ~、友達居なかったとか言ってたもんなぁ」

「まあ、その、色々……」

 

 上鳴が平然と言った一言に耳郎が反応した。

 恥ずかしそうに頭を掻いてわずかに俯く出久を見やり、意外だと思う事実を知る。

 

「そうなの? 緑谷ってなんか、いつの間にかクラスの中心人物みたいになってるじゃん」

「えっ!?」

「ごめん、無自覚だったみたいだわ」

 

 あからさまにびくついて驚愕する反応に本人の自覚がなかったのだと即座に理解した。元々自らの手柄を自慢するようなタイプではなく、自覚していなかったとしてもおかしくはないとはいえ、そこまで驚かれるとは思っていない。

 呆気に取られる耳郎に対して、上鳴はさほど驚きもせずに、カードを配り終えると自分の手札を広げる。彼の行動を見ると各々が自分の前に置かれたトランプを手にした。

 

 カードの並びを変えながら、上鳴は耳郎に同調するつもりで呟く。

 決して目立つ生徒ではない出久は、なぜか以前から注目を浴びることが多く、なぜなのだろうと考えればやたらと目立つ生徒に囲まれているからだ。

 

「でも実際、緑谷って最近頼られること増えたよな。なんだかんだ最初から目立ってたし」

「そ、そうかな。そんなに変なことした……?」

「だってあんた、アレかなり噂になってたよ。入試の時のゼロポイント(ヴィラン)ぶっ壊したやつ。一発で壊したし腕ボロボロだし、めちゃくちゃ変な奴が居るって」

 

 耳郎に指摘されて出久が途端に気まずそうに視線を逸らす。

 半ば伝説的、半ば狂気的に語られている入試で起こった大事件。倒しても得点にならない、絶対に敵わないとされていた仮想(ヴィラン)の巨大ロボットに単身で突っ込み、ただの一撃で風穴を開けて破壊して、しかし自分の腕も粉砕骨折で流血したという、凄いんだろうが素直に褒めていいのかもわからない複雑な出来事。

 

 当事者が緑谷出久だという噂は実しやかに囁かれていた。目撃者が多く、隠そうともせずに朗々と語ったこともあって特定されるまで時間はかからなかった。

 そして本人を確認して、まさか、と信じられずに視線を外すのだ。

 あんなに地味で大人しそうな奴がそんなことできるはずがない。今ではそう囁かれている。

 

 本人や周囲が認識を改めさせようとしないため噂が変わる様子はない。

 それよりも今は、入学してからわかった個性的な面々の新たな噂や出来事で忙しない。特にA組は良くも悪くも話題になることが多いクラスだった。

 

「あの時は、とにかく必死で。正直自分でもなんであんなことしたのか……」

「緑谷の“個性”って便利だけど結構リスキーだよな。殴った自分の拳が破裂するってよ」

「破裂って、そこまでじゃないよ。確かに使い方間違えるとすぐ骨折するけど」

「十分ヤバいわ」

「便利だけどリスクあるって、喜んでいいのかどうかわかんないね」

 

 ぽつりと呟く耳郎の呟きには何か含みがあるように感じられた。

 能天気に話していた上鳴は咄嗟に彼女へ視線を移す。

 

「そうか? かっこいいだろー、リスク付きの力とか」

「骨折れるんだよ」

「リアルに考えるとヤバいか……」

「リアルに考えなくてもヤバいって。そういう“個性”で嫌じゃなかったの?」

 

 耳郎が出久に問いかけると緊張する様子が窺えて、笑顔ではあるが思わず体が動いていた。意外に繊細なところに触れただろうかと心配になる。

 その態度で察しただろう、上鳴が出久の顔を覗き込んだ。

 

「そういやお前、あの話ってしていいの?」

「う、うん。もう男子のみんなには言ってるし」

「何? 何の話?」

「その前に誰から引く?」

 

 持ったはいいがトランプはすっかりそのままで、いまだゲームは始まっていない。

 だから言ったのに。そう言いたげな顔で耳郎が眉間に皺を作った。

 

「いやもう話集中しちゃってるし。やっぱいる? これ」

「いるだろ。んじゃ俺から時計回りな」

「勝手に決めてるし……」

 

 上鳴が耳郎の持つカードを引き、笑顔になって二枚を机の上に放り出した。

 ようやくゲームが始まって仕方なく耳郎も従う。

 順にカードを一枚ずつ引きながらもやはり先程の会話が気になって、中断したままになっていた出久の話題に再度焦点が当てられる。

 

「で、緑谷のあの話って何?」

「お前自分で言う?」

「うん、いいよ。信じられないかもしれないけど、僕は元々“無個性”だったんだ。今の“個性”が出たのは中三の頃で」

 

 耳郎はきょとんとした顔をした。二秒ほど経つと優しい笑みを浮かべる。

 

「へー」

「信じてないな」

「あはは、そうだよね」

「だってさぁ、“個性”って大体三、四歳で出てくるでしょ。記録的に一番遅いので九歳だか十歳だかのケースがあるって話だし。“個性”ある人って大体子供の頃にわかってるよ」

 

 疑わしいという目で耳郎が出久にじっとりした視線を向けると、身ぶり手ぶりで口田が記録されているのは九歳だと補足する。

 それですらレアケース。一般的には遅くとも五歳の頃には“個性”が発現すると言われている。

 

 中学三年生と言えば十代も半ばに達する頃。

 “個性”を持つ人間は自身の力をそれなりに扱えるようになっているのが当然とされていて、感情的になっても暴発しないよう、精神的にはすでに安定している頃だ。

 その年齢になって“個性”が発現しただなんて話は今まで聞いたことがない。

 耳郎は驚いており、先に聞いていた上鳴と口田は平然としていた。

 

「それマジ?」

「一応、マジなんだけど……」

「それ聞いてから腕破裂したって話聞くとあーなるほどなって感じするよな。上手く使えなくて自分にもダメージあるとかそんな感じ?」

「多分そうだと思う。あの時は、まあ、右腕壊れてもいいやって思った気もするけど」

「おっ。そうなると話変わってくるぞ」

「緑谷ってたまに怪我してもいいやって感じで無茶するからな。あれ本気でハラハラするからほどほどにしときなよ」

「う、うん。気をつけるよ」

 

 うんうんと頷く口田も含めて視線を集められたことに動揺し、出久は気まずそうに頷く。

 実習を見る教師だけでなく他のクラスメイトにも重ねて注意される点だ。気をつけようと思っていても咄嗟に体が動いてしまう時がある。それがヒーローたる所以だと褒める意見がある一方で、絶対に早死にすると心配されてもいた。

 

「こういう話ってしちゃいけないんだろうけどさ……“個性”って、やっぱり当たり外れみたいなのあると思うんだ」

 

 頬杖をついて視線を落とし、耳郎がぽつりと呟く。

 なんとなく明るく話せる話題ではなくて、空気が変わったのを感じながら上鳴が反応する。

 

「あ~、“個性ガチャ”みたいな話な」

「言っちゃだめだって言われるけど、結構露骨に感じたりするじゃん。この学校だと轟とか爆豪はもうプロが注目してるらしいし」

「確かになぁ。どっかの地方だと“個性”差別とかまだ残ってるみたいな話聞いたし」

「緑谷、ほんとに“無個性”だったんならきつくなかった?」

 

 心配されているのだろう。耳郎の問いかけに戸惑いを見せるものの、彼女たちに隠し事をするのはきっと良いことではない。出久は困った様子を残しながら、できるだけ空気を悪くしないようにと微笑みを浮かべて質問に答えた。

 

「楽ではなかった、かな。まずヒーローは無理だって言われたし、“無個性”だからって色々言われることもあったから」

「あ~ほんとっぽいなぁ。ウチの“個性”めちゃくちゃ褒めてくれたことあったし」

「俺もある! つーかもうこのクラスの奴全員餌食になってるだろ」

「え、餌食って……」

「なんか、“個性”マニアっていうか、博士くらいになってる感じだぞ」

 

 褒められていると受け取ってもいいのだろうか。笑顔で言ってくる上鳴に苦笑を返し、これからは念のために気をつけようと心に秘める。

 自分でも、自分の好きな分野になると早口で一方的に語り尽くす癖は気になっていた。やめた方がいいなと思いながらも脊髄反射で何度か他人に見せてしまっている。やはりあまり見せない方がいいのだろうと恥ずかしく思ったのだ。

 

 感情が表情に出るから非常にわかりやすい人間だ。

 一瞬口籠った仕草を見て、そう思ったことにも気付いたようだ。上鳴は出久が何か言うよりも先に晴れやかな笑顔で言った。

 

「別にそれが悪いって言ってるわけじゃなくて。お前はよく人のこと見てるなってこと」

「そ、そう? ……それってでも、気持ち悪くない?」

「あっ、俺も言ってみてからキモイかもって思った」

「すすすいませんでしたぁ!?」

「あはははっ! いいって、別に。お前はキモくないし。お前が俺らの“個性”認めてくれるから自信持てたって奴も居るしな」

 

 上鳴が口田に笑いかけると、頷く彼は声こそ出さないが手を動かして出久へ感謝を伝える。

 予想していなかったのもあって出久は驚いた後に安堵し、照れた顔で頬を緩ませた。

 その様子を見ていた耳郎もまた笑顔で見守っていた。

 

「そりゃ緑谷はキモくないけど上鳴の方がキモイもんな」

「言葉の暴力!?」

「き、キモくないよ上鳴君! 大丈夫! 上鳴君は優しいしムードメーカーだし、電気使い過ぎるとウェイウェイしちゃうのも好きだから!」

「ブフゥッ!?」

 

 フォローのために出久が叫んで、奇襲のような衝撃に耳郎が噴き出した。

 上鳴の“個性”は“帯電”。体に電気を帯電させることができる。それ自体はいわゆる数多ある中でも当たりの“個性”として見られているのだがリスクもあった。強力な電気を一気に使い過ぎてしまうと自分の脳がショートしてしまい、両手でサムズアップしながら歩き回って「ウェ~イ」としか言えなくなってしまうのだ。

 

 以前に実習でその状態になった時、クラスメイトは心配やら面白いやら反応が分かれ、阿鼻叫喚の大騒ぎとなったものだ。ただでさえ成績がよろしくない上鳴がさらにアホになってしまうのだ。あれが実習中の出来事でよかったと誰もが口を揃えた。

 

 その状態を指して出久はウェイウェイ状態と表現する。

 心配していた側に属した出久と口田、笑っていた側に属する耳郎で全く反応が違う。

 誰よりもツボにハマって笑っていた耳郎はその言葉を聞くだけで笑い出し、必死に堪えようとしているのだが見るからに肩が震えていた。

 

「ぶふっ、くっ、くひぃっ……! う、ウェイウェイしちゃう、って……」

「ウェーイってやってたから」

「ブハッ! ちょっ、やめっ、も、モノマネしないで……!」

「ウェイウェイウェーイ。って」

「アハハハハハッ!」

「ハマってんなぁ!? 俺そこまでやってねぇよ!」

 

 出久が顔つきや仕草や間抜けな表情までモノマネした。特技と言ってもいいのではないかと近頃囁かれている彼のモノマネはオールマイトに爆豪、飯田を完璧に模して披露した経験がある。髪型や体型はそのままなのに言動と仕草と顔つきまで本人そのものではないかと言われるのだ。

 

 思い出してほしいという気持ちでした突発的なモノマネで耳郎が爆笑していた。

 特に笑わせようという気持ちもなかったのだが彼女にはとても効果があったらしい。体を震わせて手で腹を押さえ、呼吸がおかしくなっている。なんとか堪えようとしているらしいのだがちっとも堪えられていない。

 その姿を見て口田もくすりと笑ってしまい、反対に上鳴は憤慨した。

 

「お前らそうやって笑うけどなぁ! 俺の“個性”結構便利なんだからな! 充電できるし!」

「くふっ、ふっ、でもウェイウェイしちゃうんでしょ?」

「しねぇよ!? なんだよウェイウェイって! あっ! 俺もうウェイウェイしないぞ!」

 

 がたんと椅子を揺らして立ち上がった。

 ババ抜きはどこへ行ったのやら。しばらく手札が変わっていない。

 すでに自身が誘ったことなど忘れていそうな態度で、上鳴は決意を込めて拳を握る。

 

「よーしわかった! そこまでバカにするなら当面の目標“ウェイウェイしない”にする! これからは見たくたって見れねぇんだからな! 後悔しろ!」

「いや、全然、大丈夫。多分無理だろうし」

「無理とかじゃねぇ! 俺はやると言ったらやるっ」

「いいじゃん、そのままで。リスク付きの方がかっこい……ブフッ!」

「ハマってんなぁ相変わらず!? むしろ心配だわ! 大丈夫か!」

「でも、別に、バカにしてたわけじゃないよ。バカだなぁって思ってただけで」

「おんまえ見てろよぉ! 絶対ウェイウェイしねぇからな!」

 

 上鳴はそう言って目標を立てて燃え始めたようだが彼のことだ。期待より不安の方が大きい。

 果たして本当に変化はあるのやら。

 期待していない耳郎とは裏腹に、出久は彼を応援するために声をかけた。

 

「頑張ってね上鳴君。僕もできることは協力するから」

「ありがとう!」

「なんかずるくない?」

「え? 何が?」

 

 特にやることもなく雄たけびを上げる上鳴が騒がしく、彼を無視して耳郎がじとりと見つめて、出久は何かやってしまっただろうかと不安に襲われた。

 誰もがすっかりトランプのことを忘れている。

 仕方ないなと思いつつ、彼らを眺めて誰よりも優しく笑っていたのは口田であった。

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