暖かい日差しのもと肩を並べて歩く2人の男女。着ている制服から2人が高校生だと分かる。というかネタバラシをするまでもなく俺と芳山だ。
「ハルキー、今日もいい天気だね」
「はいはい」
なぜか、急に俺との距離を詰めてきた幼馴染の芳山。一夜明けてもそれは変わらず、というより悪化していた。
ていうかこいつ今朝なんて、直接俺の家に迎えに来やがったんだぞ。挙句、母さんも「紫苑ちゃん、久しぶりねー」なんて盛り上がってたし。
「なぁ、芳山?」
「紫苑」
くそこいつ、頑なに下の名前を呼ばせる気だな。現に芳山って呼んだときはこっちに視線すら向けなかったし。
「‥紫苑」
「よくできました! で、どうしたの?」
にっこりと笑顔をむけてくる芳山。悔しいけど、その顔は可愛いんだよな。もっとも、今はそんなことより聞かないといけないことがあるが。
「お前、本当に何が目的なんだ? 正直、ちょっと怖いんだけど」
ドッキリにしては長すぎるだろ? 大体、俺にドッキリしても喜ぶやつなんていないだろうし。ああいうのは友達の多いやつにやるから盛り上がるんだろうし。
「なぁに、ハルキは私と一緒なのが嫌なの?」
「そういうことを言ってるんじゃない」
「てことは嬉しいんだ?」
「だから!」
正直なところ、全く嬉しくないわけでもないのが困る。こいつは見てくれは悪くないし、なんなら小さい頃はそこそこ仲良くもしていた。あわよくばと思ったことが無いわけでもない。
が、こんな感じで距離を詰められるのは、それはそれで不可解だ。
それを察したのか芳山の方も、少し考え込む素振りを見せる。もっとも時間に直せば大した秒数ではないのだろうけど。そして、口を開くのだった。
「ねぇ、ハルキ。私とハルキって昔はこうして2人で遊んでいた時期があった訳じゃない。だったらいつからその関係って変わったんだろう?‥いやそうじゃないね、誰が私に代わって遊ぶようになったんだろう、の方が適切かな?」
「お前以外に友達ができたって話か?」
実際、友達はほとんどできなかったけど。まあ、それでも仲良くしていた人間が皆無ってわけではなかったが。
「間違ってないけど合ってはいないね。それだとハルキの交友関係に、つまり私という友達が含まれた交友関係に1人新しい子が追加されるわけじゃない? でも、現実には私の役割がとって代わられてる。変わってるんじゃなくて代わってる」
「なんだ、次は言葉遊びに目覚めたのか? 別にそんなのよくある話だろ。年を取ると友達も変わる、それこそ小学校入学なんて大きなイベントがあるとなおさらだ」
「まぁ、それはそうなんだけど。それに、そのことは私がこうしていることに大きな影響を与えているわけでもないんだけれども」
じゃあなんで、そんな話をしたんだよ!と言いたくなる気持ちはあったが、とりあえず心に留めておくか。なぜなら、
「まぁいいか! それより、学校着いちゃったね」
芳山が言う通り、目的地についたのだから。ならば話の決着も一旦ここでつけておこう。そう考えるのもおかしくは無いだろうし、なりよりも周りに誤解されるのは嫌だしな。
---ただ、ここで彼女、芳山紫苑の話を深く掘り下げなかったことは大きな間違いではあった。
結局この日は、これ以降芳山と喋る機会はなかった。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
「あぁハルキ、そういえば言わないといけないことがあったんだった」
「ん、なんですかエルさん?」
例のごとく放課後になると図書館に直行し、エルさんに会いに行く。ちなみに今日はアズミのやつは用事があるらしく先に帰ったそうだ。
俺としては、アズミがいない方が好ましいのは間違いない。
「本当は言わないでおこうと思ったんだけどね。まぁ、実際のところそんなに大したことでもないんだ。ただ芳山さん、彼女のことは気にかけてあげた方がいいよ」
「なんですか、急に」
「ハハ、優しい先輩からのアドバイスだよ」
「でも、昨日アズミのやつは気をつけろって」
「愛純が? いや、愛純ならそう言うのが当然なのかな」
エルさんは人差し指をおでこに当てて何やらうんうん唸っている。昨日のアズミにしてもそうだけど、この2人はどうも何かを知っているようにしか思えない。
「エルさんもアズミも何か知っているんですか?」
実際に、エルさんに聞いてみてもエルさんは首を横に振るばかり。そして続けて口を開く。
「いや、僕も愛純もこの件に関しては深くは知らない。ただ、僕と愛純じゃ考え方が違うからね。単純に僕は、頑張っている方の味方なだけ」
深くは知らない=多少は知っているってことだよな? まぁ、こういう風に答えるってことは、これ以上は聞いても無駄なんだろうけど。
とりあえず今は、答えてくれそうなことに質問をしよう。
「それって芳山のことですか?」
「まぁ、そうだね。せっかく、君との距離を詰めよう頑張っているんだから、応援してあげないと」
理由の方は置いといてだけどね、とエルさんは小さな声でそう付け足す。
さっきからそうだけど、エルさんはあえて俺に対してヒントを出している節がある。大事なこととそうでないことを明確に分けるようにして。
もちろん、エルさんが全て知ってるとは考えにくいけれど、ここは色々な情報をもらっておくべきだよな?
「じゃあアズミは?」
「うん?」
「いや、アズミは何の味方なんですか?」
「誤解のないように言うなら、みんなの味方だね。ほら、愛純は名前の通り純粋だから」
「みんな‥」
ということは俺の味方っていうのも含まれるのか。まぁ、考えてみればアズミとの付き合いも長いけれど、理不尽にあいつに何かをされたことっていうのは無いよな。‥いや、多少はあるかもしれないけど。
「そう、アズミは人間の味方、いや正義の味方なんだよ」
「なんだかアイツには似合ってますね」
まぁ、あいつはそういう頭の悪そうな言葉は好きそうだ。ちなみに意外だかアズミのやつはそれなりに勉強はできる方らしい。余談だがエルさんは本人曰く普通の成績で、アズミよりは下だとか。
「そうかな? 私はいつまでも子供みたいだなぁって思うけど」
実際あいつの見た目は子供そのものだしな。それに精神は見た目に引きずられるとも言う訳で。
ただ、エルさんの口ぶりはどうもそういうことを言っているわけではなさそうだ。何というかどこか羨ましがるような、そんな口調だ。
「それも含めてアズミらしさじゃないですか?」
「たしかに、それもそうかもね」
そう言うとエルさんは、今まで見たことのないような美しい笑みを浮かべるのであった。