堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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明けましておめでとうございます
今年の抱負は日進月歩でスモールステップで頑張りたいと思います


夕映の答え

 夕映が中学に入る前に敬愛していた祖父が亡くなってからは、世の中が全て空虚に思えていた。

 本が好きと言う事もあって、図書館探検部の入部説明会に出てみたが、なんとも馬鹿馬鹿しく思えてしょうがない。

 しかも右隣の女子生徒、今のハルナが図書館島の色々な噂を機関銃の如く夕映に話し掛けるが、その当時の夕映は正直馬鹿馬鹿しいとしか思えていなく、ハルナの話を右から左に受け流していた。

 このまま中学生の生活も無意味で空虚な日々が続くと思っていたが

 

「あの……あっあなたも本が好きなんですか?」

 

 左隣に居た女子生徒、のどかの出会いで夕映の世界観を変えてくれた。

 説明会の帰り、そんな夕映をハルナにのどかにもう1人このかが待っていてくれていた。

 説明会と同じように、しつこく迫ってくるハルナをあしらっている間、のどかが本好きな人に悪い人はいないと自分と友達になってほしいと言ってくれた。

 のどか達と友達になってから毎日が満たされていた。図書館島の冒険によって祖父の死を受け止めて前に進めるようになった。

 そしてネギやマギとの出会いでまた世界は大きく変わる。のどかがマギに恋をして、自分を変えてくれたのどかの恋を応援し、のどかの幸せを心から願っていたのに……

 それなのに自分は――――――

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 重い瞼をゆっくりと開ける夕映。気が付くと、水面にぷかぷかと浮いていた。何が起こったのか、朦朧とする意識の中で思い出す。

 飛び降りた夕映は持っていた鉤爪ロープを崖に引っ掛け、そのこら降りようとした。別に死ぬつもりはない。ただ、図書館島を去ろうとしただけだ。

 だが、ゆっくり降りている途中で道具が壊れ、そのまま落ちてしまった。そしていままで気を失っており、今に至るとと言う事だ。

 まだ意識がはっきりしない間に、今までの自分の行いを振り返る。のどかの告白についてのマギの相談に先延ばしにすると言うアドバイスをしてしまった事、マギに好きな人が居ないと言う事を知ってホッとしている自分が居ると言う事。

 親友を裏切ったと言う最低な事に自分自身を恥じる夕映。

 

「……そうだったんだね、ゆえ」

 

 体を強張らせる夕映、振り返るといどのえにっきを出現させているのどかの姿。

 

「今、マギさんに好きな人が居ないって……やっぱりゆえもマギさんの事が好きだったんだね」

 

 

 

 

 

「そっかぁ~マギさんって今好きな人居ないんだねぇ」

「えぇ、お兄ちゃんもいろんな生徒さんに告白されて、初めての事だからどうしたらいいか分からないって言ってました」

 

 夕映が落ちて行ったのを見て、別の方法で下に下りようとするハルナとネギ。ネギからマギがまだ本命を決めていないと聞いて、肩透かしをくらった気分になるハルナ。

 

「と言うか、ゆえがマギさんに言ったアドバイスって別に裏切りでもなんでもないじゃん。生真面目すぎるのよあの子は」

「それほど、のどかの嬢ちゃんの事を大事に思ってたんじゃねぇか?」

「そうですね、夕映さんはのどかさんの事を大切に思っている素敵な生徒さんです」

 

 夕映の生真面目さに少々呆れているハルナとそんな生真面目な所を褒めるネギとカモ。

 そんな事を話していると、装甲防火扉の通路まで戻ってきた。戻ってみると、分厚い防火扉に大きな穴が出来ていた。そんな事が出来るのはマギしかいない。

 

「お兄ちゃんのどかさんは!?」

「のどかなら先にいっちまったよ」

 

 のどかが先に行ったと知ると、急いで後を追う事にした。

 ……がマギが一向に急ごうとしない。

 

「……先に行っててくれ、俺も直ぐに追いつくようにするから」

「えぇマギさん!?こんな時に何言っちゃってんの!?」

 

 マギが先に行けと発言したことに、ハルナは驚きを隠せなかった。

 

「皆さん、今は先を急ぎましょう。お兄ちゃん、直ぐに追いかけて来るよね」

「あぁ、こんな時に呑気に一休みなんてするつもりはねぇさ」

 

 こんな時にさっさと行こうとしないなら、何か訳があるかもしれない。そう判断したネギはマギをおいて先へ進んだ。

 皆が先に行ったのを確認すると、その場に座り込み包帯を巻かれた腕を押さえるマギ。

 別に痛みが後から来たと言う訳ではない。亜子と別れた後に腕が暴走し、マギを襲おうとしたのがまた再発したのだ。

 骨が軋む音が続き、今にも襲い掛かって来そうな所を必死に抑えていた。

 

「少しは大人しくしろってんだよ……!」

 

 冷や汗と脂汗を滲ませながらマギは悪態をつくのであった。

 

 

 

 

 

 話は夕映とのどかの場所に戻る。ゆっくりと近づくのどかに夕映は動けないでいた。

 

「そのっのどか……私はっ……!」

「わかってるよゆえ、全部分かっているから」

 

 気が動転しながらも、のどかの手にはいどのえにっきを手にしていることに気づく夕映。あれは名前の知っている相手なら、どんな事を考えているのかが手に取るように分かるアーティファクトだと言う事を夕映は知っている。

 

「そうですか……ではもう全て……だったら私がどんな人間だと言う事を知っているですよね?私がどんな酷い人間だと言う事が」

「そっそんな事無いよ。私はあなたの口から聞きたいの」

 

 そう言っていどのえにっきをカードに戻すのどか。

 

「ゆえもマギさんの事を好きなの?」

「……はい……!」

 

 観念したかのように重い口からマギが好きだと告白する夕映。

 

「ごめんなさいですのどか!私はあなたの幸せを願って応援していたはずなのにこんな裏切り行為を!私は最低な屑人間です!」

 

 堰を切るかのようにのどかへ謝罪する夕映。夕映を落ち着かせようと近づくのどかだが、自分を責めながら謝罪する夕映の勢いは止まらなかった。

 

「マギさんにあんなことを言ってっすみませんですのどか!いっいやですよね。こんな友人なんてっでっでも分かってください!私は決してマギさんを好きになったと言う訳ではっ!いえっやっぱり友人失格です私は!これ以上のどかに迷惑をかけるつもりはっ―――!」

「ゆえ落ち着いて!」

 

 謝罪しながらも自身の想いへの否定が濁流の如く溢れる夕映の肩を掴み落ち着かせようとするのどか。

 しかし、夕映の自身の否定の濁流は止まりそうもない。

 

「こんなの思春期特有の気の迷いです!恋に恋してるなんて馬鹿馬鹿しい妄想です!時間が経てば薄れて消えるような、なんでもない感情なんです!」

 

 自身の想いを否定し続ける夕映に言葉が出てこないのどか。

 

「お願いですのどか、今日の事は全て忘れて下さいですっ。そうすればすべて元通りですっ」

「ゆえ!?それはっ……」

 

 夕映は今日あった事は無かったことにしてほしいとのどかに懇願する。それはつまり夕映がマギの事を好きだと言う感情も無かったことにしてほしいと言う事だ。

 

「……もしっもしそれでも許されないと言うのなら、私はのどかの前から消えるです。もうこれ以上のどかに不愉快な思いをさせるわけにはいかないですから……」

「っ!バカァ!!」

 

 辛そうに涙を堪えながら必死に笑顔を作ろうとしている親友に遂に我慢できなくなり、夕映の頬を平手で打つのどか。

 のどかに頬を平手で打たれて、膝をつく夕映。

 あぁ嫌われた……そう思った夕映。それはそうだ、こんな事をされれば嫌われて当然だと自嘲する夕映。

 しかしそうでは無かった。平手で打ったのどかは夕映を優しく抱きしめた。

 

「……バカゆえっどうして自分の事をそんな酷く責めるの?私は夕映の自分に嘘をついてもらいたくないし、消えてほしくも無いんだよ。私はゆえがマギさんの事好きになっても嫌じゃないよ」

「なっ嘘です!何を言ってるですかのどか!?」

「……うん、嘘。ほんとはちょっぴり苦しくて辛い」

 

 ……でもと続けるのどか。

 

「私も本をいっぱい読んでるから分かるよ。三角関係に良い終わり方が無いって、上手な解決方法が無いって事ぐらい。でもそれでゆえと喧嘩して、どっちかが悲しい思いをするなんて、辛くてつまんない思いはしたくないから」

「何を言ってるですかのどかっ私あなたにひどい事したんですよっ?」

「それなら私だって勝手にゆえの心の中見ちゃったし、怒られるなら私の方だよ?」

 

 抱きしめてから、夕映を優しく見つめるのどか。

 

「まだマギさんに好きな人がいないなら、いっしょにがんばろうゆえ」

 

 だから……

 

「だから、友達でいようゆえ」

 

 酷いことをしたのに友達でいようと言ってくれたのどかに遂に涙が決壊し、溢れる涙が止まらない。

 

「でっでもやっぱりだめですのどかっだめなんですっ……」

「ゆえ、泣かないでゆえ」

 

 嗚咽を漏らしながらも未だに自分の想いを否定する夕映をあやすのどか。

 そんな夕映を

 

「こんのバカゆえぇぇぇぇぇ!!!」

 

 蹴り飛ばすハルナ。蹴り飛ばされ変な悲鳴を上げる夕映と行き成り夕映が蹴り飛ばされ、おっかなビックリな感じになっているのどか。

 

「まったく、行き成り飛び降りたりして心配させんじゃないわよバカゆえ。まっ心配することは無かったみたいね。このパル様の出番も無くってよかったよかった」

 

 のどかと夕映が仲違いする事は無かったようで、心底安心した蹴り飛ばしたハルナとネギとこのかとプールスにすこし遅れて到着したマギであった。

 

 

 

 

 

 図書館島の外のテラス、人が少ないのを見計らいカモが魔法陣を描いていた。

 

「ちょっなんで魔法陣を描いてるんですか!?」

「なんでってここで仮契約をするからに決まってんじゃん。ゆえと私の」

「私は仮契約に了承した覚えはないです!」

 

 夕映のツッコミも飄々と流すハルナ。

 

「それに本心じゃマギさんとキスをしたいじゃないのか~い?このこの~」

「なっ何を言ってるんですか!?私はそんな軽い気持ちで――――」

 

 ハルナにからかわれるが、未だに渋っている夕映。とのどかが夕映の肩を数回突くと

 

「私はゆえのアーティファクトを見たいなー……なんて」

「のどか……」

 

 えへへとほほ笑むのどかに渋っていていた夕映も漸く折れた。

 

「のどか……少しの間手を握ってもらっても、いいですか?」

「うん、いいよ」 

 

のどかに手を握ってもらい、覚悟を決めマギと向かい合う夕映。

 

「マギさん」

「おぅ、なんだ」

 

 緊張で息が止まりそうな夕映、深く深呼吸をして何とか落ち着かせようとする。

 

「のどかの事で相談して頂いたとき、私は先延ばしなんてアドバイスをしました。でもそれは私に別の感情があったからです。親友の相手を好きだと言う感情……私は、マギさん、貴方が、貴方の事を好きになってしまいました」

 

 今まで溜めいた感情がまた涙と一緒に流れ出す。

 

「親友を裏切るなんて最低な事をした私ですが、どうか……どうか、嫌いにならないで欲しいです……!」

 

 夕映の告白にマギは黙って聞いていた。そして夕映に近づくとゆっくりと手を上げる。

 叩かれると思った夕映は目を閉じたが、マギはそんな事はせず優しく夕映の頭を撫でまわした。

 

「嫌いになるなんてことはないさ。自分の気持ちをしっかり伝えるなんて、偉い事じゃねぇか。正直、俺には勿体ないぐらいだ」

 

 フッと笑うマギに涙を流しながら、ありがとうございます……と漸く肩の荷が下りたようだ。安心したようでのどかも笑みを浮かべる。

 カモが仮契約の魔方陣を描き終え、準備は完了する。

 

「それじゃあ、ゆえ頑張ってね」

「はい。それと……のどか本当にありがとうです」

 

のどかが離れ、マギと夕映の2人だけで向き合う。が一向に夕映とマギがキスをする気配はない。

 

「どうしたのよゆえー早くぶちゅってやっちゃいなさいよー」

「黙ってくださいですハルナ!こういったのは心の整理が必要じゃないでうすきゃ!!」

 

 顔を赤くしながら、目を回し噛みながらもからかってきたハルナに言い返す夕映。

 いい加減まどろっこしく感じたのか、ハルナがマギに提案する。

 

「マギさん、ちょっと屈んでもらってもいい?」

「?……ほら屈んだぞ。屈んだがどうするんだ?」

「こうするんだ……よ!」

 

ハルナの指示通りに屈んだマギ。そしてハルナは夕映の背後に忍び寄り、そのまま夕映の背中を押した。

押された夕映は、そのままマギの方に向かい、屈んだマギの唇に自分の唇を当てた。

 半ば強引なキスとなったが、ここにマギと夕映の仮契約は完了した。

 

「ぷふぁ!なっ何をするですかハルナ!?」

「いやぁなかなかゆえが一歩を踏み出せない様だったから、お姉さんとして一押ししてあげたのだよ」

「余計な一押しです!今のは!」

 

 ハルナの行動に憤慨するが、夕映のアーティファクトのカードが出来上がった。

 

「これがゆえのカード!?へーいいじゃんいいじゃん!」

 

 夕映のカードを見て、興奮の色があせないハルナ。

 

「すっすみませんマギさん。何か事故みたいな形になってしまって」

「いや、まぁ俺は気にしてないから、あんまり深く考えるなよ」

 

 これでのどかと夕映と2人の仮契約を行ったが、どちらも事故のような口づけだったなぁと振り返るマギ。

 

「さぁて前座は終了!本番は……」

「あのハルナさん?どうして僕の方を向くんですか?」

「ゆえの仮契約は建前、本音は……私のアーティファクトのカードだぁぁぁ!」

 

 ハルナに襲われるネギ、悲鳴を上げ逃げようとするが一足遅く、あやかが見てれば怒り狂うだろう形でネギの唇を奪い、ハルナとネギの仮契約が終わる。

 

「まったく……やれやれだぜ」

 

 ネギがハルナと仮契約をしている光景を眺めながら、お決まりの台詞を呟きながら、静かに笑う。

 色々と騒動はあったが、のどかと夕映による騒動は無事に幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――だが、毎回毎回良い幕引きになるなんて甘いことはなく、時に運命は残酷に牙を向く。

 

「――――――!!?グァァァァァァァ!!!」

 

 今までにない激痛がマギを襲い、そのまま倒れのた打ち回る。

 

「お兄ちゃんどうしたの!?」

「マギお兄ちゃん!」

「大兄貴!!」

 

 さっきまでの楽しげな雰囲気から一気に緊迫した空気に変わる。

 呻き声を上げながら、包帯が巻かれた腕を押さえるマギ。さっきから骨が軋む音と、腕の中がナニかに喰われているような感覚に襲われる。

 

「くそっ……!なんだこの痛みは……!」

 

 そしてついにその時は来た。上着の袖が破れ、人の腕ではなく二回り大きくごつごつとして棘の生えた、人ではない化け物の腕が現れた。

 

「ひっ!?」

「まっマギさん!」

「ちょっ!マギさん行き成り変身とかどんなイベントよ!?」

 

 のどかは短い悲鳴を上げ、夕映は驚きで息を呑みハルナは驚きすぎたのか、何とも場違いな事を口走った。

 皆を心配させまいと何とか化け物になった腕を押さえようとするが、遂には制御が出来ず、暴れはじめる。このままではのどかや夕映にハルナが危険に晒されるかもしれない。

 しかも時間はまだ午後が始まったばかり、人通りが少ないからと言って、一般人に見つかりでもすれば大変な事になるだろう。

 

「おっお前ら、危なイカラ離れテイロ……!!」

 

 痛みのせいか、はたまた他のナニか分からないが、片言になりながらも皆に離れるように叫ぶが、遂にマギの中で何かが切れ、ゆっくりと意識を失っていく。

 

(クソッタレが……)

 

 自分自身に悪態をつきながら、マギは意識を闇に手放した。

 

 

 

 


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