「……ここは?」
意識が戻ったマギ。だが周りは闇に覆われており何も見えない。
「ネギや皆はどうなったんだ」
あの後どうなったのか分からずじまい、今分かるのは感覚が無く自分は夢を見ているということ。
さっさと目を覚めろと自分を叱咤していると、目の前が段々と明るくなってきた。
ようやく夢からさめるか……光に包まれながらマギは安堵する。
光が晴れるとそこは……
「おいおいおい……何なんだよこれは……」
思わず呆然とする。そこは地獄絵図、火の海に包まれた麻帆良がそこにはあった。
自分が意識を失っている間に何があった。マギは目の前の現状に理解が追いつけないでいた。
ただ燃え盛っている色々な出し物や炎から逃げ惑っている人々を見て、ただ事ではないと言うのは理解できる。
ネギやプールスにカモはもちろんのどかや夕映にA組の皆の詳細はてんで分からない。
マギは叫びながらネギ達を探す。目の前で逃げている人々が何かに跳ね飛ばされる。
その何かが、マギの前に現れる。黒い靄に包まれた何か、だが異形な形の右腕は黒い靄がかかっていなかった。そして異形の右腕は、マギの異形の腕になったのと同じだ。
黒い靄の者はマギに明確な殺意を抱いていた。目の前の相手を無視する事は出来ないと判断したマギは迎撃するために構える。が体に違和感を感じた。
みればさっきまであった右腕が無くなっていた。
「は?なんで……俺の腕が……」
マギが驚きで絶句している間に、異形の者が一瞬で間合いに入る。
左腕で立ち向かおうとするが、簡単に受け止められてしまう。黒い靄に包まれながらも異形の者が笑みを浮かべているのが分かる。
「キサマノカラダヲモラウゾ……!!」
異形の者は大口を開けると、そのままマギの首筋に喰らいついた。
「ひっ!?ぐああぁぁぁぁぁ!!――――――」
マギは一瞬で喰われる恐怖に襲われ、断末魔の悲鳴を上げる。
「――――――っあぁぁぁぁぁぁ!!!」
ベッドから飛び起きるように目覚めるマギ。全身は汗でびっしょりと濡れていた。
「……夢か。随分とリアルな夢だったな」
今まで自身が見ていたのが全て夢だったことに心底安堵するマギ。だがさっきまでの夢がこれから起こるようなリアルな光景であった。
周りを見渡すマギ。今自身が居る部屋は前にエヴァンジェリンの封印を解いた時に世話になった別荘の一室。
ベットにはプールスが寝息をたてて寝ていた。泣いていたのか、涙の跡が残っている。
心配をかけてしまったプールスの頭を撫でようと、起きて腕を伸ばそうとすると、右腕が重く冷たく感じた。
見れば、異形の形になったままの右腕が氷漬けにされていた。
「エヴァがやってくれたのか」
マギはエヴァンジェリンがやってくれたと直ぐに分かった。と寝息を立てていたプールスがゆっくりと瞼を開けた。
「マギお兄ちゃん?」
「おぅ、色々と心配をかけて悪かったな」
プールスがマギの胸へ飛び込んで行った。震が抱きしめた左腕からプールスが震えているのが感じる。不安を感じさせてしまったせめてもの詫びに、優しく撫でる。
すこし落ち着いたプールスに何故自分がここに居るのかを尋ねると、嗚咽に混じりながらもプールスが話し始める。
『お兄ちゃん!お兄ちゃん!!』
右腕が異形な形となって意識を失ったマギを涙を流しながら揺らすネギ。周りの皆は自分達がどう動けばいいか考えにあぐねていると空から茶々丸とエヴァンジェリンが現れた。
『まっ師匠!お兄ちゃんが……』
『黙っていろ坊や。チッこの馬鹿者が……茶々丸マギを別荘に連れていくぞ』
『了解しましたマスター』
エヴァンジェリンが魔法でマギの右腕を凍らせると、茶々丸がマギを抱き起す。
『エヴァさん……』
『のどか、ここは私に任せておけ。行くぞ茶々丸』
『はいマスター』
『エヴァお姉ちゃん私も行くレス!』
プールスはエヴァンジェリンに抱っこされ、ジェット噴射して飛んだ茶々丸に続くように、自身の家へ向かって飛んで行った。
「やっぱエヴァのおかげか。色々とアイツには迷惑をかけちまったな」
「そう思っているなら、早く私に言え馬鹿者が」
凍った右腕を見ながら呟いていると、呆れの混じった声色で部屋に入ってきたエヴァンジェリンと茶々丸。
「茶々丸、プールスを連れて部屋から出ていろ。私はこの馬鹿と話がある」
「分かりましたマスター。マギ先生お気を付けて」
プールスと茶々丸が部屋から出た瞬間、瞬間的な冷気がマギを襲う。見ればエヴァンジェリンの周りの床が凍りついた。
マギは直ぐに理解する。今のエヴァンジェリンは明らかに怒っている。部屋がどんどん冷えてくるのと同時にマギの体も冷えはじめる。
「あー……そのエヴァ、色々と迷惑をかけた――――」
「表へ出ろ」
マギの謝罪も聞かずに、表へ出ろと命令するエヴァンジェリン。
「聞こえていなかったのか。さっさと表に出ろ」
「えっとエバ?その、な……」
エヴァンジェリンの気迫にヴァではなくバと発音してしまうマギ。マギに有無を言わせず首根っこを掴むと、外へ向かって放り投げる。
かなりの高さから落ちるが、魔力を使い受け身を取ったため大事な怪我にはならなかった。
「まったく大切な事を黙っているなんて、ここまであの馬鹿に似るなんてな。お仕置きだ、覚悟しろよ」
「ちょっ待ってくれエヴァ、俺はまだ……」
「問答無用だ」
待ったなし、エヴァンジェリンがマギに向かって魔法の矢を放つ。
「おっおいエ――――」
待ってくれと言おうとした瞬間、凍っていた異形の右腕が勝手に動きだし、氷を砕いて障壁を展開した。
闇の障壁が魔法の矢を全て防ぐ。そしてさっきまで収まっていたはずの激痛がまた走る。
「ぐっまただ……」
右腕は勝手に動き、エヴァンジェリンの方を向いた。まるで標準を合わせたかのように
「逃げろエヴァ!」
「ふん誰に言っているんだ?闇の福音の私を随分と甘く見てるじゃないか」
余裕そうに鼻で笑っているエヴァンジェリンに向かって、右腕が勝手に闇の魔法の矢を数百発放つ。対してエヴァンジェリンも同じ数の氷の魔法の矢を放ち相殺する。
こんどはエヴァンジェリンに引っ張られるかのように、右手が勝手に向かっていく。引っ張られるせいで足がもたれかけるマギだが右手はお構いなくエヴァンジェリンに向かう。
右手がエヴァンジェリンに向かって振り下ろされる。大きさもあり振り下ろされた腕が咆哮を上げているようだ。
しかしエヴァンジェリンは涼しい顔で右腕を受けとめると、投げ飛ばす。
投げ飛ばされても負けじと今度は断罪の剣を出す。何時もよりも数倍大きく、禍々しい力を感じる剣だ。
軽く振るうだけでも剣圧で地が抉れていく。そんな攻撃でもエヴァンジェリンは涼しい顔で防いでいく。
マギの右腕の暴走する攻撃をエヴァンジェリンは軽くあしらう。そんな攻防が休むことなく、数十分続いた。
「はぁっはぁっ……」
あれから数十分休まずに攻防、という名ばかりで、実際はマギがエヴァンジェリンに完膚なきまでに叩きのめされて、文字通りお仕置きをされた。
「いやエヴァ、お前、闇の吹雪とか氷の矢300とか闇の矢500とか殺す気か……!」
「お前の右手も闇の業火や炎の矢で抵抗してしてたじゃないか。まぁ一応全部絞り出せたようだな」
マギの文句にぶっきらぼうに返してきたエヴァンジェリンの容赦のない魔法の攻めに、暴走していた右手によって防ぐ。
そのおかげもあってか、マギの右手は異形の形ではなく元の人のものへと戻っていた。
「まぁ元に戻ったし、痛みも無くなってきた。色々と無理をし過ぎたんだな。迷惑かけたなサンキューエヴァ」
「……」
マギがお礼を言っても、エヴァンジェリンは何も答えない。首を傾げているとどうして……と悲痛な呟きをする。
「どうしてお前は私に謝ってばっかりなんだ!?本当はこんなことになったのは私のせいだって分かってるんだろ!?」
「……なんでエヴァのせいなんだ?俺の右手が変になったのは俺が闇の魔法を無理に使ったせいだろ?」
変なの事言うなと思いながら首を傾げるマギを見て、エヴァンジェリンは息を飲む。本当に自分せいだと思っているようだ。つまりエヴァンジェリンは自ら墓穴を掘ってしまった。
「……エヴァ、お前何か俺に隠してることがあるのか?」
立場が逆転し、マギがエヴァンジェリンに問いかける。別に怒っているわけではないマギ。
観念したエヴァンジェリンがマギへ白状する。
「マギ、お前が私の呪いを解いてくれたことは覚えてるか?」
「あぁあの時は血を流し過ぎて流石に死ぬかと思ったな。それがどうかしたのか?」
「あの時、私はお前に私の血を輸血した。吸血鬼の血をだ」
「エヴァの、吸血鬼の血か……それって何か普通の輸血と違うのか?」
マギの疑問に全然違うと首を横に振る。
「私の血をお前に分け与えた事で、お前は半強制的に不老不死の吸血鬼になった。つまり今のお前は私と同じ……化け物だっ」
下唇を噛みながら全てを吐いたエヴァンジェリン。本当は呪いを解いてくれた直ぐにでも告げるつもりだった。だが出来なかった。告げたら散々に罵った後に自分の前から去ってしまうのではないかと思ったからだ。
のどかの事を自分のライバルだと偉そうな事をほざいておきながら、何とも尊大な態度をとったのだろうなと自分で自分を蔑むエヴァンジェリン。
すべては言った。そろそろ罵倒が飛んでくるだろう。エヴァンジェリンは構えていたが、エヴァンジェリンはマギがどういった人物かをまだ分かっていなかった。
「そっか、それじゃあ今迄死にかけてもなんでもなかったのはエヴァのおかげ、て言う事なんだな」
軽く頭を掻きながらマギはそう呟いた。
「ありがとうなエヴァ。もし俺が不死じゃあなかったら、京都の時の知らないままで闇の魔法を使った時には死んでたかもしれないんだよな。エヴァのおかげでまだまだ生きられそうだ」
マギは罵倒などせずにエヴァンジェリンに感謝した。
「なぜ、何故私に感謝するんだ?私は許されない事をしたんだぞ……」
「許すも何も、日本の特撮で悪の秘密結社が主人公を無理やり改造、なんて話があるのは聞いたけど、お前の場合は俺の命を助けるための救助活動みたいなもんだろ?それに感謝こそすれ、罵倒なんて事は俺はしないさ」
それに……とマギはエヴァンジェリンの額を軽く突きながら続ける。
「なんかまるで俺に怒ってもらいたいって顔に出てたからな。だったら怒るんじゃなくて許すのが今のお前にとってのお仕置きかなぁってな」
マギの笑みに数秒呆然とするが、吹き出してしまうエヴァンジェリン。
「まったく……お前と言う奴は、アイツに似てない様で似ているんだな」
目尻に涙を浮かべるエヴァンジェリン。その涙は笑い過ぎての涙なのか、はたまた別のものなのか……
これにて、マギとエヴァンジェリンの互いへの仕置きは完了したのであった。