別荘にて数日過ごし、外の時間は数時間とお得な過ごし方をしたマギ達。そろそろいい時間だろうと言うことで、外へ出ることへした。
魔法陣が光り、マギ達が現れたがマギの顔には青あざと紅葉が散っていた。
「……なぁエヴァ、そろそろ機嫌を直してくれよ」
「うるさい黙ってろ!」
顔から火が出そうなほどに真っ赤な顔のエヴァンジェリンが怒鳴ってマギを黙らせる。
何故顔が真っ赤なのかは、別荘での出来事が原因だ。
右腕の暴走が収まった後、数日ほど安静にしていたマギ。
そろそろ文化祭に戻ろうといった話しになり、別荘から出る最終日にはエヴァンジェリンとマギとプールスにてディナーを食べることにした。
茶々丸の姉の人形達が作る料理はどれも豪華絢爛で、プールスは目を輝かせマギも感嘆の声を上げた。
そして食事をいただき、料理を口に運ぶと豪華さに負けない美味であった。
しばらく食べ続けていると、プールスがあることを言った。
「パパとママとご飯を食べてるみたいで楽しいレス!」
人の時の楽しい思い出を思い出したのだろう。両親と一緒に食事をしたことのないマギからしたら分からない感覚だ。
一方のエヴァンジェリンはマギと夫婦として見られていることに気をよくしたのか、ワインをジュースのようにごくごくと次々に飲み干していく。茶々丸が止めようとするが止められそうになく、次々とワインの瓶が空になっていく。
マギが引いてきた時には、顔は真っ赤になるほどにべろんべろんに酔っぱらったエヴァンジェリン。
夕食が終わった後は風呂に入る事になっていたが、悪酔いしているエヴァンジェリンが一緒に入ろうと言いだした。
一応エヴァンジェリンの方が数百歳も差があるが、仮にも教師と生徒。モラルに反するのだが、知った事じゃないとマギの首根っこを掴んで浴場へと向かうエヴァンジェリン。
茶々丸の姉に当たる絡繰り人形2体がマギとプールスの服を脱がす。人形でも相手は女性と言う事で断ろうとしたが、顔を赤くしたエヴァンジェリンが軽く頬を膨らませてこちらを睨んでいる。今断ったらすぐにでも何かされそうなので、仕方なく脱がせてもらった。
浴室の風呂の温度はいい湯加減で、今までの疲労が湯に流れていくようだ。
しばらくゆっくりしていると、ちゃぷと湯が音を立てる。
音がした方を見てみると、服を脱いだエヴァンジェリンが湯に入ろうとしている所だった。幻術でマギと同い年かそれよりも少し年上の姿になって。思わず吹き出してしまうマギ、勢いで上がろうとするが、酔った状態のエヴァンジェリンに捕まってしまう。
身動きが取れずに結局一緒に入る事になった。肩と肩を寄り添いながら入るマギとエヴァンジェリン、女性特有の柔らかさと匂いに肩唾を飲んで平常心を保つ。
何故一緒に入ろうとしたのか。一応目的もあったそうで、なんでもマギの右腕の暴走、一応は収まったが、まだ腕には暴走した時の魔力が溜まっているそう。そこでエヴァンジェリンが血と一緒に残った魔力を吸いだそうということだ。
さっそくと牙をマギの腕に当て、思い切り噛みつく。血が吸われるのと同時に魔力も吸われ、段々と全身に力が入らなくなる。顔が赤いのは湯船につかってるからか、それともエヴァンジェリンに血を吸われているからか。いずれにせよ、お子様に見せられるものではないため、プールスの目は茶々丸が覆っていた。
と吸っていたエヴァンジェリンが急に吸うのを止めた。どうしたのかとマギがエヴァンジェリンに尋ねると、マギの一部分を凝視していた。
マギもエヴァンジェリンの凝視した所を見て、赤い顔に青みがかかる。凝視した部分は下半身、男を象徴するものだった。吸血鬼の吸血行為、血を吸われた者は一種の興奮状態となってしまう。しかも今血を吸っているエヴァンジェリンの姿は魅力的な大人の女性、それを見て反応しないのは難しい話だろう。
黙っていたエヴァンジェリンの体から魔力が溢れだし、さっきまで温かった湯段々と冷えはじめる。プールスは茶々丸が避難させていたのでもういない。
何とかエヴァンジェリンに弁明しようとするが、次の瞬間にはエヴァンジェリンの魔力が爆発、浴場は吹き飛んだ。
思わず、「なんでさ」と叫んでしまうマギであった。
「――――――だから悪かったって言ってるだろエヴァ。男なんだしこればっかりはどうしようもないんだよ。言い訳がましいけど」
「分かったから黙っていろ。私も気が動転してたからお互いさまと言う事にしてくれ」
そして今に至る。エヴァンジェリンの魔力の爆発に巻き込まれた後、茶々丸や姉の人形たちの手当てにより大事にはならなかった。
一方のエヴァンジェリンも悪酔いした事への反省とマギが自分を女性として見てくれた事への嬉しさとその時の姿が幻術だったために本当に自分に対してそう言った形で反応したのか分からない複雑な心境であった。
自分が無事に回復したことをネギ連絡する。
『お兄ちゃん!大丈夫!?』
「あぁ大丈夫だ。そっちは?何か変わりはあったか?」
『それが……』
「――――は?超が学校から去る?」
マギが別荘にいる間に色々とことが進んだようだ。
超が学校を自主退学する事を古菲に聞き、件の超は今迄自分が所属していた所へあいさつ回りに行っていたようだ。
ネギも周りの先生から話を聞いたが、タカミチを監禁した話を聞いた。
タカミチを監禁した事と、一般の人達に魔法をばらそうとすることの真相を超から聞こうとするが、そこから超とネギの一騎打ちになり、善戦するネギだが超の仕組みが分からない戦い方にしだいに翻弄されていく。
とネギの危機に刹那と楓が助太刀に入った。が刹那の体術やアーティファクト、楓の忍術をもってしても仕組みの不明な術に返り討ちになりそうになる。
勝てないと判断した楓が撤退を選び、人気が少ない廃校舎へ移動した。移動した場所で、真名が超の応援として合流してきた。
真名が超側につき生徒同士の戦いになりそうになり、ネギがショックを受けている中、まさに一触即発な雰囲気の前で楓が呑気そうに指を鳴らした。途端にベニヤ版の板が一斉に倒れ、光が超達を包み込む。
一瞬自分を捕らえようとする魔法先生やその生徒達だと思い構える超だが、そこに居たのは3-Aの生徒達であった。
古菲に超の事を聞いた楓が3-Aの生徒達に呼びかけて送別会を設けることにした。
行き成りのクラスメイトの登場に毒気が抜けた超が矛を収めてくれた。
廃校舎の屋上にて超の送別会を行って今に至る。
「――――分かった。俺も送別会に向かうわ」
そう言ってネギに対して連絡を終えた。
「超の奴、自主退学するから送別会をするんだと」
「そうか、なら盛大に送ってやらないとな」
そう言ってニヤリと笑うエヴァンジェリンを連れ、送別会が行われる廃校舎へ向かうマギ一行。
マギ達が廃校舎に到着した時には、3-Aの生徒達が飲めや歌えのどんちゃん騒ぎを繰り広げていた。このまま朝まで繰り広げる勢い、いや本当に朝まで騒ぐのがこのクラスだ。
「なんか超そっちのけではしゃいでる感じだな」
生徒達のはしゃぎように苦笑いを浮かべていると、ネギがマギに気づいた。
「お兄ちゃん!」
「おぅネギ、色々と心配かけて悪かったな」
ネギが駆けつけるのと同時に、夕映とのどかがマギに駆け付ける。
「マギさん!」
「ごめんなさいです……私のせいでマギさんがあんな目に……」
「いや夕映のせいじゃあないさ。そんなに自分を責めるんじゃあない」
等と話していると、マギの周りに生徒達が集まってきた。
生徒達と一言話しながら、送別会の主役である超の元へ近づく。
「よぉ超、まさか行き成り学校をやめるなんて聞いて、ビックリしちまったよ」
「いやはや、なにせ急な話だったからナ。本当は皆には黙っていようと思ったんだヨ」
そっかと言いながらマギは超へ簡易な花束を超へと贈った。
「こんな簡単なもんしか贈れないが、新しい場所でも頑張れよ」
「あぁありがとうマギさん」
―――――正直、こんな形でプレゼントを貰っても複雑なだけなんだがナと聞こえない声で呟く超。全員が揃い、送別会は文字通り、朝まで続いてしまった。
翌朝の5時、東の空が少しずつ明るくなっていく中、夜通し騒いでいた3-Aの生徒達は殆どが寝息を立てていた。
「皆いい顔で寝てるな」
「ふふ結局皆、私をそっちのけで楽しんでたナ」
超が寝入っているクラスメイトを見て微笑んでいる。
「超、お前は寝なくていいのか?」
「これでも科学者ダ。徹夜なんて慣れっこだヨ」
別段平気そうな超が答える。少しの間沈黙が漂い、マギから話を持ちかける。
「なぁ超、話があるんだがいいか?」
「うむいいヨ。私も貴方に話があったんダ」
2人は場所を移動する。人知れず特別な進路指導が始まる。
少し離れた校舎の屋上、そこでマギと超が対峙する。
「それで話とは何かナ?まぁ何を聞きたいのか大体分かるガ」
「あぁ単刀直入に聞くぜ。超、どうして魔法を世間に公表しようとするんだ?」
マギの問いかけに余裕綽々な表情を浮かべている超。
「その話をする前に私の正体を話す必要があるネ。私の正体は、遠い未来からこの時代にやってきた火星人なのダ!」
両手を広げ自分の正体を明かす。
普通の人なら超の言動をふざけているものだと判断するだろうが、吸血鬼にロボット半妖に幽霊の生徒がいて、スライムの義妹がいるマギにとっては別段驚くことはない。
「それで、この時代に来て何をしようとしてるんだ?」
普通にまるでこれからの進路を聞くかのような気軽い形で、超に聞くマギに面食らいそうになった超。だがマギに飲まれないように、自分の目的を話す。
「私の目的は2つ。1つは魔法の存在を公にすることダ」
目的を話し、何故自分が過去に飛んだのか語り始める超。
超の時代では、魔法が認知されており、火星はテラフォーマーミングされ、人が住める環境になっている。なっているだけだった。
資源はお世辞にも豊富とは言えない状況。
火星の魔法使いが、反乱を起こそうとするが、資源が枯渇寸前な環境下の中では出来ることなど何一つないかと思われていた。
一人の魔法使いが言った。今じゃなく、過去で反乱を起こせばいいのではないか……と。
そこからは魔法と科学の混合作のカシオペアの製作を進め、完成品で超をこの時代に送り届け、今に至るといったところだ。
「私が過去に飛んだのは、未来の同士を救うため。分かってもらえたカ?」
「……何となくな。この時代で魔法が知れ渡れば未来の出来事を回避できるってことか」
確かにこの時代なら少しずつだが魔法の存在が知れ渡るだろう。インターネットも普及し始めた頃だ。瞬く間に拡散する。
「でも大々的に魔法をばらしたら世界も混乱するだろうな」
「自分のクラスの何人かに魔法を知られてしまった貴方が言えることカ?」
痛いところを突かれ何も言えないマギ。なし崩しとはいえ、アスナやこのかにのどかにと結構な数の生徒に知れ渡ってしまった。
半ば放任主義のマギは覚悟があるならと魔法を教えていった。
「それに魔法使いなら治せない病気も治せるはずダ。このかさんのアーティファクトのように。それなのにその力を使わないなんて卑怯ダ。すべての人が救われる方がいイ」
そうだ超の言っていることは正しい。出来ることなら全ての人が平等に救われる世界ならどんなにいいことだろうか。
だが
「けど世界は自分が描いている世界がその通りになることなんてほとんどない。100を救う為に10を犠牲にすることもあれば、1000を救うために10000を犠牲にすることもある。急に魔法を大々的にばらせばそれこそ混乱を招いて争いになるかもしれない。正直ここにいる魔法使い達は頑固で好きになれないが、混乱が起こらないために踏ん張ってる」
「貴方は私が同士を救うことが間違ってるというのカ?」
「間違ってるとは言わない。がやり方が急ぎすぎてる気がするんだけどな」
それに……と頭をかきながらマギは
「やっぱ過去を変えるっていうのは間違ってるじゃあないかって思うんだよな。確かに未来の世界の超の仲間が苦しんでるっていうのは分かる。けどな、やり直しが出来ないから人生なんだ。簡単に変えるのは今までのことを否定してるんじゃあないかって俺は思う」
綺麗事だ。マギ自身そう思ってる。けどこれがマギの答え。教師が生徒を否定するのはいけない。だがこの考えは曲げてはいけないと思っている。
超は黙ったままだったが、ふっと微笑みながらマギの方を見る。
「貴重な意見をありがとう。だが私と先生では考えがまるっきり違う。これ以上話しても平行線ダ。だから、私を止めて見せロ。マギ先生」
「あぁ、生徒の勝手な行動を止めるのも先生の務めだからな」
一旦この話は終わることとした。
「そして私のもうひとつの目的、それは……」
その後の言葉が出ずに口を紡いでしまう超。しばらく経ち口を開いた瞬間
「それは貴様の抹殺だ。マギ・スプリングフィールド」
どこからか声が聞こえ、自身へ向けられた突き刺さるような殺気に反応し、明後日の方向へ断罪の剣を振るう。
振るった瞬間に金属同士が弾かれるような音が響き、なにかが突き刺さる。
「こいつは……」
それは剣を極限まで細くし、矢のようになったもの。これを使うやつをマギは1人知っている。
「よく反応したな。この学園祭で府抜けてしまったと思ったが、杞憂だったか」
修学旅行で辛酸を舐めることとなり、辛うじて勝った傭兵アーチャーがそこにいた。
「てめぇがなんでここに」
「何故ときたか。そこにいる超鈴音に依頼を受け、貴様を殺しに来ただけだ」
超の方を見たが、超は目をそらしこちらを見ようとしない。
「それでどうする?私としては狩れる獲物が目の前にいるなら、さっさと狩ってしまいたいんだがね」
アーチャーは白と黒の雌雄剣を出現し構える。マギも構えようとするが
「ほぅ、私がいるなかでマギを狙うか……生きて帰れると思うなよ貴様」
マギの影からエヴァンジェリンが現れ、爪を鋭く尖らせる。そして超を冷たい眼差しで睨む。
「超鈴音、貴様が何故この男にマギの殺しを依頼した?返答しだいでは、先に貴様を食い殺す」
「おっと、依頼主が教われたらたまったものではない。では、こちらも人質を使わせてもらおうか」
そう言った瞬間、アーチャーが手を掲げると100本をゆうに越える剣が空中に現れた。剣先が向いている方向は、未だに寝ている3ーAの生徒達が寝ている校舎の屋上だ。
「今手を引いてくれるなら私は何もしない。君が私の依頼主を食い殺す前にまだ眠っている少女達を永遠の眠りに誘う方が早いと思うのだが……試してみるかい?」
「……エヴァ、何もしないで手を引いてくれ」
マギの頼みに小さく舌打ちをしながら矛を納めてくれたエヴァンジェリン。仮面越しに笑みを浮かべるアーチャーに、歯が砕けそうになるほど噛みしめながらも耐えるマギは改めて超の方を見る。
「こいつに俺を殺すように依頼するということは、相当の理由なんだろうな。けど俺はまだ死ぬつもりなんてないんだよ」
「すまなイ。私が貴方に詳しく言える資格などなイ。だがこれだけは言えル。貴方が生きていると、私たちの時代の同志が皆不幸になル。貴方を好いている人達には悪いガ、私達の為に私は悪魔に心を売っタ。許してくれとは言わなイ。それが私の覚悟だからダ」
「悪魔と呼ばないでほしいな、私としては正義の味方を貫いているつもりなんだがね」
肩を竦めながらアーチャーは言う。そして超がこれからの目的を話す。
「私は最終日に奇襲を仕掛け、世界樹を利用し強制認識魔法を発動するつもりダ」
「ちなみにこの事をここの学園長に話したら、この件に関係ない者が血の海に溺死することになる。これが脅しでないということは理解してほしいところだな。そしてマギ・スプリングフィールド。私は世界樹の前の広場で待つ。そこで決着をつけようじゃないか。もちろん、逃げるなんて選択肢はないと思いたまえ」
「……わかったよOKだ。折角のデートのお誘い、受けないのは男じゃあないよなぁ」
軽口を叩くマギではあるが、内心腸が煮えくり返りそうだった。魔法とは関係ない生徒達を人質という扱いを受けて冷静でいられるほど人間ができているわけではない。
かくして人知れず、戦いの火蓋が切って落とされそうになっていた。