堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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~第9章~麻帆良大戦
食い止めろ 惨劇を


多くの犠牲を出しながらも何とかカシオペアを起動し、時間の流れに乗ることに成功した。

成功したが、無事と言うわけではなかった。何故なら

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

「きゃああああぁぁぁ!!」

「うひょあぁぁぁぁぁぁ!!」

「レスゥゥゥゥゥ!!」

「うひゃあああああああ!!」

「お嬢様!私の手をしっかり握ってください!」

「これは、凄まじいでござるな……!」

「目を開けられないアル!」

「うっ……っく!!」

「のどかしっかりするです!」

「これ、絶対手を離したらバットエンドまっしぐらだよね!?」

「くそ!もう手が限界だぞアタシは!」

 

ネギ達はまさに青狸のタイムマシンのトラブルの如く時空嵐に襲われていた。今は辛うじて手を繋いでいるが誰かが手を離してしまったら、その人は時空間に囚われたままになってしまう。

 

「皆さん頑張って!きっともうすぐですから!!」

 

ネギは皆にそう言い聞かせるが、いつ戻れるのか分からない。

もう皆が限界が近付いて来たその時、光がもう一度ネギ達を包み込んだ。

そして光がもう一度晴れるとそこにあった光景は

 

「ここは!?」

 

ネギが周りを見渡すと、目の前に飛行船が浮かんでいた。

目の前に、飛行船が浮かんでいた。大事なことだから2回言った。

まさか……とネギ達は顔面を蒼白にしながら下を見る。そこには、小さな学園都市が見えていた。自分達はまさに上空にいた。

次に起こることは目に見える。悲鳴を挙げながらネギ達は落下する。

 

「どどどどうするん!?」

「このまま落ちたら流石に治せねーだろ!!?」

「うーん、無理やろなー……」

 

千雨がこのかを問い詰めるが、このかも無理だと断言していた。そんな事を言いながらもどんどんと地面が眼前に迫っている。

 

「もう駄目だーーー!」

「くっ私が!!」

 

ハルナが諦めの叫び声を挙げ、刹那が翼を出そうとする。

 

「刹那さん待ってください!ここは僕が!」

 

そう言ってネギが詠唱を始めようとしたその時

 

「きゃ!」

「ひゃう!」

「うわ!」

「きゃあ!」

 

のどかと夕映、千雨に亜子が何者かに捕まってしまった。

一瞬の事で何が起こったのか分からないネギだが、目の前には地面が迫る。もう時間がない。

 

「風よ我らを!!」

 

ネギが魔法を発動させると、アスナ達の体が浮きそのままゆっくりと地面に下り立った。

 

「はぁぁぁ、死ぬかと思った」

 

へたりこむハルナ。急にパラシュート無しでスカイダイビングをしたら誰だって肝が冷える。というか失禁する。

下り立った所は、どこかの屋上テラス。本当に戻ってきたのだろうか。

 

「見て!パレードがやってるわ!」

 

アスナが指差した眼下には、学生達が作り出したロボットや着ぐるみやバルーン等がパレードをしていた。

更に放送部が最終日の午前8時半のお知らせを流したところだった。

 

「元の時間に戻ってこれたー!!」

 

無事に元の時間に戻ってこれたことに喜びを表すが

 

「っ!そうだのどかさん達が!」

 

のどか達が何者かに連れ去られたのを見て、辺りを見渡すネギ。まだ近くにいるはずと思っていたら

 

「日本じゃ『親方、空から女の子が』っていう名台詞があるらしいが、何でネギ達が空から落っこちてきたんだ?」

「ついさっき別荘に入れさせてまだ1時間は経ってないが、何故坊や達が此処にいるんだ?」

「ですが皆さんが怪我をしていないようなので良かったです」

 

ネギ達が今一番聞きたい声が聞こえ、声の聞こえた方を見ると

 

「とりあえず、何があったのか話してくれないか?」

 

片腕づつでのどかと夕映をだっこするマギ、結構雑な感じで亜子の首根っこを掴むエヴァンジェリン。千雨を横抱きする茶々丸がそこにいた。

のどかと夕映をゆっくりとおろすマギ。暫くの間呆然とマギを見ていたのどかと夕映。しかし感情が込み上げて来るのは抑えることは出来るわけもなく、終には滝のように両目から涙を流しマギの胸へ飛び込んだのどかと夕映。

のどかと夕映だけではなかった。プールスや亜子、千雨までもが号泣しマギへと飛び込んでいった。

不意も突かれた事もあり、すっとんきょうな声を出しながら、後ろへ倒れ込んでいたマギであった。

 

 

 

 

 

 

 

「――――そうか、1週間先の未来で俺はそんな酷いことを……」

 

学校の図書館の一室にて、泣きつかれて眠ってしまったプールスをあやすそうに優しく撫でながら、ネギ達の話を黙って聞いていたマギの第一声はそれだった。

マギはネギ達の方を向いて深々と頭を下げた。

 

「すまなかった。お前達に酷いこと、怖い思いをさせてしまって」

「そんな!マギさんが謝ることなんて……」

 

アスナが顔を上げさせようとしたが、いいやと首を横に振るマギ。

 

「暴走していたからなんて、そんな理由は関係ない。俺が、俺自身がお前達を危険に晒した。そんな自分が許せねぇ」

 

怒りで体を震わせるマギ。出来ることならカシオペアで1週間後に跳び暴走した自分を殴り飛ばしてやりたかった。

マギの謝罪ですっかり空気が落ち込んでしまう。呆れた様子で溜め息を吐いたエヴァンジェリンがマギの頭を軽くはたく。

 

「いい加減にしろマギ。謝っている暇があるならさっさと動け。そうだろ?」

「師匠の言うとおりだよお兄ちゃん。僕たちは無事に戻ってこれた。だったら次はあの悲劇を起こさないべきだよ」

 

長い時間跳躍をしたせいか横になりながらも、力強い目でマギを見るネギ。エヴァンジェリンとネギの発破により、謝罪の雰囲気から抜け出せた。

改めて話を戻すと、超の目的は世界樹の周り6ヶ所の魔力の溜まり場を占拠しその魔力を媒体として、巨大魔方陣を描き、強制認識魔法を発動させる。つまりは1ヵ所でも巨大ロボットを魔力の溜まり場にたどり着く事が出来なければ魔法が発動する可能性は減るかもしれない。

これは拠点防衛戦であり、1ヶ所でも溜まり場を死守し、その間に超を探し止める。作戦内容はいたってシンプルだ。作戦内容だけはだ

 

「しかし戦力差が有りすぎるのが頂けないでござるな」

 

そう、圧倒的に戦力差がありすぎる。超が作った田中や多脚ロボが合わせては2500体、さらに巨大なロボが6体。更に千草が召喚した鬼が率いる妖怪軍団が数百体。その更にアーチャーと真名が超側についている。

いくらタカミチや学園長といった実力のある魔法使いがいたとしても人数は超の軍団の半分にも満たないだろう。

戦力の要になるマギも片腕が暴走するかもしれないのとマギはアーチャーとけりを着けなければならない。最強のエヴァンジェリンも

 

「私はマギの側からは絶対に離れないからな」

 

マギと行動を共にすることに決めていた。

とこの始末、拠点防衛なら倍の戦力が欲しい程である。

 

「戦力差が明らかなのに防衛するなんて無理ゲーにも程があるだろーが」

 

このままでは敗戦の色が濃く、千雨がぼやいていると

 

「!!あるじゃん巨大な戦力が!」

 

ハルナがいきなり大声を出した。一斉に皆がハルナに注目する。

 

「ハルナ、どこに巨大な戦力があるというのですか?」

 

夕映がハルナ問いかけると、不敵な笑みを浮かべるハルナが口を開く。

 

「巨大な戦力それは……魔法とはまっっったく関係ない一般性と外部から来た観光客よ!!」

 

ハルナが言った戦力に思わず目を見開くアスナ達

 

「早乙女!てめぇ今言ったこと正気で言ったのか!?一般の生徒や観光客巻き込んだら下手したら魔法の存在が明るみになって超の思う壺じゃねぇか!!」

 

千雨が声を荒げて待ったをかける。

 

「大丈夫じゃない?拠点防衛戦をなんかのイベントみたいにすれば一杯人が集まるだろうし」

「だからそういうこと言ってるんじゃ……!」

「それにうちの学校の学園祭自体バカみたいに大規模なんだし、今さらこんな事やっても参加型のショーかなにかと思うでしょ」

 

そうハルナに返され、何も言えなくなる千雨

 

「……ですがハルナさんの言う通り、魔法に何も関係ない人が参加すれば危ないことをしない可能性は高くなります。たしか今日の夜に行われるイベントはいいんちょさんのお家がスポンサーだったはずです。無理なのは承知ですが、急遽この作戦をイベントにすれば戦力差だけなら互角になるかもしれません」

 

ネギはハルナの戦力アップの提案に賛成していた。

 

「……アスナさん、軽蔑しますか?一般の人やいいんちょさんを巻き込もうとしてるやり方に賛同する僕に」

「何言ってるのよそんな今更な事、こんな言い方卑怯だけど、あんな光景が目に焼き付いちゃったら何が何でも止めなくちゃならないでしょ?」

 

という形で事は進められることになった。ハルナはのどかと夕映を率いてチラシ作り、このかは刹那とカモを連れて学園長の元へ、カモが取って置きな物を学園長に紹介しようという話だ。千雨がネットを使い呼び掛けを、亜子は自身の希望でマギの看病を、そしてネギは

 

「僕がいいんちょさんに直にお願いしに行きます」

「無理しなくていいのよ。いいんちょには私が話をするから」

 

きつそうにしているネギは此処に留まって自身が話をするとアスナが言うが、ネギは首を横に振り

 

「提案したのはハルナさんですが、その提案を決めたのは僕です。それに今からお願いするのはいいんちょさんやいいんちょさんのお家にも迷惑がかかるもの。なら先生の僕が自らお願いするべきです」

「……分かったわ。なら私も一緒に着いていくから」

「弟子のネギ坊主が行くなら私もいくアルよ!」

 

あやかの元へはネギ、付き添いとしてアスナと古菲が着いていく事になった。

事がトントン拍子で進むなかでマギが待ったをかける。

 

「あの傭兵は世界樹の広場でけりをつけるって言ったからな、広場は立ち入り禁止にしてくれ。あいつは俺を殺すなら何だって利用するはずだ。下手に一般人や最悪3ーAの誰かが紛れ込でアイツに狙われたら今の俺じゃ護れるか分からない」

 

そう言ってマギは包帯を取る。包帯から現れた真っ黒になったマギの腕を見て息を飲むネギ達を前に、またマギの右腕から骨の軋む音が鳴り、またもマギの首を絞めようと襲いかかる。

のどかやこのかが悲鳴を挙げるなかでマギは必死に押さえ込む。

汗をにじませながら右腕と格闘すること数分、また大人しくなったのを確認し、包帯を巻き直す。

 

「このようにこの腕が勝手に動くことがあって、エヴァンジェリンにも襲いかかった事もあったから、絶対に巻き添えになる。そこのところ頼む」

 

そういい終えると座り込むマギの顔には汗が滲んでいるのを見て、亜子はすぐさまハンカチでマギの顔を拭く。

話が纏まったところで漸く動き始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――なんと、そんな事が起こってしまったのか」

 

学園長室にて、このかと刹那に1週間後の惨劇を聞き重々しく口を開く学園長。

 

「はい、全て事実です」

「信じておじーちゃん!」

 

このかと刹那の言葉を聞き、学園長は後ろに立たせている眼鏡をかけた女性教師であり、神鳴流剣士の葛葉刀子へ目配せをする学園長。

 

「どう思うね」

「お嬢様や刹那がでまかせを言うとは思えません。ですがマギ先生を亡き者にするために、傭兵を雇ったということなら超鈴音は本気だということですね。それこそクラスの皆から恨まれる覚悟を持っている」

「そうじゃのう。皆に恨まれても計画を完遂させようとするとは、超君も肝が座っておるのう」

「笑い事ではありませんよ学園長」

 

学園長と刀子は信じてくれたようだ。とりあえずこの学園で一番の人に信じてもらえるようで胸を撫で下ろすこのかと刹那。

 

「よく話してくれたのう。後はワシらに任せて、残りの学園祭を楽しむとよいぞ」

「……チッチッチ、馬鹿言っちゃいけねぇよ学園長のじーさん。まだ分かってねぇのかい?アンタラが超の嬢ちゃんを嘗めてかかったから、1週間後には世界は壊滅したんだぜ?」

 

今まで黙っていたカモが不敵に笑いながら待ったをかける。学園長は黙っていたが刀子はカモを軽く睨み付ける。

ここは俺っち達に任せなとカモは丸めていた紙を学園長に渡す。

紙を開いた学園長が眉を動かす。

 

「こんな特殊な魔装具をどうして知ってるおるのじゃ?」

「俺っちには特殊なルートがあってね。まずはこれを用意したい。あんたは此ぐらいの交渉が出来る位かなり顔が利くんだろ?空間魔法の空輸なら今日の夕方には届くだろ?蔵に大量に死蔵されてるんだ。こう言ったことでパーっと使っちまった方が勿体なくないだろうしさ」

 

どこから取り出したのかタバコを咥えて火をつけたカモが悪い顔をしながら

 

「こっちは世界の命運とマギの大兄貴の命運が掛かってるんだ。1000、いや2500セット用意してもらうぜ。嫌とは言わせねーぞ学園長のじーさん」

 

交渉というより脅すのであった。

 

 

 

 

 

同時刻あやかにお願いするために、教室に向かうネギとアスナに古菲。がまだネギの魔力が万全に戻っていないので、アスナにおぶってもらっていた。

 

「でもいいんちょは簡単にOKしてくれるアルか?」

 

少なからずの不安を覚える古菲。いくらネギのことを好きすぎるあやかであろうとも今回はかなり無理のあるお願いではないだろうか。

 

「大丈夫でしょ。いいんちょなら二つ返事でOKしてくれるって」

 

アスナも呆気からんにそう言う。なんてことを話していると3ーAのお化け屋敷に到着した。

あやかを探そうとすると3ーAに指示を出しているあやかの姿が見えた。

 

「おーいいいんちょ」

「あら、アスナさん……ってネギ先生がぐったりしてます!?何があったんですか!?」

「いやーそのーさっきまで動きっぱなしだったから、疲れがどっと出たというか……」

「何ですかその歯切れが悪い言い方は!?とりあえずネギ先生を横にしないと!!」

 

有無を言わせず指示を出してネギをクッションへ横にさせる。そしてアスナを睨むあやか。

 

「それで、ネギ先生がこんなになるまでの訳を話して貰えますか?」

「……ごめん、訳は話せない。勝手だと思うけど、いいんちょに頼みがあるの」

「私に頼み事?」

 

訳を話さず頼み事を言うアスナに眉をひそめるあやか。アスナの頼み事を聞いた瞬間に、驚愕の顔に変わる。

 

「大会を急遽変更する!?貴女、今自分が言った事の意味が分かってるんですの!?」

「分かってるわよ!無理難題だってことは!けど、けどこんな事頼めるのはいいんちょしかいないのよ!!」

 

何時ものように互いに激昂し言い合いになるアスナとあやか。

 

「そんな事出来るわけないでしょう!出資者の娘だからってそんな無理を言ったら単なるわがまま金持ち娘ですわ!私がそういう事を一番嫌いなこと一番知ってるくせに!」

「だからその考えを今日だけ曲げろっていってんのよこのバカいいんちょ!!」

 

終には取っ組み合いの喧嘩になりそうなところで

 

「待ってください!!」

 

ネギが無理やり起きて喧嘩を止める。

 

「!ネギ先生無理をして起きないでくださいまし!」

「……いいんちょさん、正直言ってこんなお願いはこっちの方がわがままな言い分です。ですが、こんな事を頼めるのはいいんちょさんしかいないんです。だから……」

 

ネギも懇願する。ネギがお願いをすればネギ大好きなあやかならころっと堕ちると思ったアスナと古菲。

しかし、そんな2人の考えは甘くあやかは顔を渋り

 

「……申し訳ありません。いくらネギ先生でもこればかりは、無理ですわ。学園祭と言えどこの大会のために必要な多額の費用や色々な人の準備、頑張りを私のわがままで全て無にしてしまう。財閥の娘としてそんな事は出来ませんわ」

 

答えはNOだった。

 

「そんな!あんたネギの言うことなら何でも聞くんじゃないの!?」

 

まさかのNOに驚きを隠せないアスナ。

 

「……アスナさん、貴女は何を言ってるんですか?私は確かにネギ先生を好い慕っていますが、盲信しているわけではありません。出来ないことは出来ない、そう厳しくするのが大切です。何故私よりも一緒にいるアスナさんがネギ先生に厳しく出来ないのですか!?」

 

あやかの言っていることが正しい一般論。ネギのお願いは身勝手なものであり、今すぐあやかの家が出資した費用をネギが負担できるだろうか?いや出来るはずない。

アスナも何も言えない。そうだ、元の時間に戻ってきたことの嬉しさで事を楽観視していたが、自分達のお願いはそう言うことだ。

 

「……もう、何も言うことはないですね?ネギ先生もお疲れの様子なので保健の先生を呼ばせてもらいます」

 

あやかがネギへ背を向け教室を後にしようとしたその時

 

「ネギ!?」

「ネギ坊主!?」

 

アスナと古菲が仰天した声を挙げ、クラスメイトもざわつく。

何事かと振り替えると、自身の目に信じられない光景が見え同じく仰天するあやか。

 

「ネギ先生なっ何をやっているんですか!?」

 

あやかが見たもの、それは

 

「いいんちょさん……いや、あやかさんお願いします」

 

土下座。まだ年幼い少年のネギがあやかに向けて綺麗な土下座をする。

 

「かっ顔を上げてくださいネギ先生!いくらそんな事をしても無理なものは無理ですわ!」

 

そう言われてもネギは顔を上げはしなかった。もしここで諦めてしまったら、1週間後にはあの惨劇になってしまうかもしれない。

自分達に頼み逝った超、自分達を前に行かせるために留まってくれた真名、茶々丸に葉加瀬。そして一緒に永遠とも言える長い時間を眠る事になったマギとエヴァンジェリン。皆の犠牲や覚悟を無駄にしてしまう。

そう思ってしまったら、ネギの目からまた大粒の涙が流れ床を濡らす。

 

「あやかさん、僕もこんな事は身勝手な願いだっていうのはわかっています。けど、ここで諦めてしまったら僕は一生後悔することになります。だから……だから……お願いします!!!」

 

ここまで来ると子供の我が儘と一緒だ。下手をすれば鬱陶しいと邪険に扱われるぐらいだろう。ここまで感情に任せた懇願に折れる者は少ないだろう。

だが、ネギの懇願はあやかに届いた。

 

「……そこまでするなら、相当の事情と覚悟をお持ちのようですね。分かりました。難しいでしょうが、父に大会を変更してもらうように頼んでみますわ。けど、過度な期待はしないでくださいね」

 

あやかが折れ、父親に変更のお願いをしてくれると言った。

顔を上げるネギはあやかにお礼を言う。

 

「あやかさん……ありがとうございます!!」

「お礼なんて言わないでくださいまし。ですがネギ先生これだけは覚えておいてください。時には自分の思い通りにならないことがあるということを」

 

それだけ言うと、父親に連絡をとろうとする。そんなあやかをぽかんと呆然とした顔で見るアスナ。

 

「何か言いたげですわね」

「いや、あんな事を言ったわりには随分簡単に折れたなぁって」

「……貴女にはそういう風に見えていたかもしれませんが、そう簡単にころころと考えを変える安い女であるつもりはありません。ですが、あそこまでしたネギ先生の覚悟を汲み取ったまでです。それに……盲信していないと言いましたが、ネギ先生を心の底から信じていますから」

 

あやかの弟を想うような優しげな微笑みを見て、調子が狂うアスナ。

 

「けど、ありがとねいいんちょ」

「だからお礼は言わないでと言っているでしょう?ネギ先生の男の覚悟を汲み取ったとしても出来ないときは出来ないのですから」

「お願いするわね。それと……」

 

アスナはあやかに抱きついた。いきなり抱きついてきたアスナに驚く。

 

「いきなり何をするんですの?」

「ごめん。けどどうしてもやりたくて。また元気ないいんちょを見ることが出来て嬉しい」

 

さっきまで一緒にいたのに変なことを言うなと思ったあやかだが、自身の頬に水滴が着いたのを感じ、調子が狂いますわねと悪態をつきながらも、微笑みながら優しく背中をさすってくれた。

抱擁を終えたアスナが目元を拭いネギの方を見る。

 

「これだけいいんちょに無理をしてもらうから、ネギは学園祭が終わったらデートでもしてあげれば?」

 

アスナの提案にあやかの体が大きく揺れた。

 

「はっはい!僕たちのためにあやかさんが無理を通してくれるのなら、デートなんてお安いご用です!!」

 

ネギが自分とデートをしてくれる。その事を聞いてあやかは覚醒する。

 

「この雪広あやか、見事ネギ先生のお願い事を完遂させて見せますわ!そしてゆくゆくはネギ先生との甘いデートを手にして見せますわ!!」

 

何時ものあやかに戻り、雄叫びをあげながら父親の元へ駆けていった。

あやかの暴走っぷりに思わず吹き出すアスナ。

 

「なんやかんや言って、いいんちょはあんな感じがちょうどいいわね。それと、あんたいいんちょの事をあやかなんて呼ぶなんてね」

「そっそれは、あんな頼み事をするのにいいんちょさんて言うのは失礼だと思ったので……」

 

顔を赤くするネギの頭を優しく撫でるアスナ。

 

「ネギ坊主も少しずつ大人の男へ近付いたアルな」

 

大切なものを護るために頭を下げる。自身の弟子の成長を嬉しく思う古菲であった。

 

 

 

 

 


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