堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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アキバよ私は帰って来た!

ネギ達が山でトラブルありのイベントを行っている間、マギはとある場所に来ていた。

 

「ここが秋葉原か。前に千雨とここに来たんだよな」

「はい。その時は色々とトラブルに見舞われましたけどね」

 

秋葉原の駅から周りを見渡しながら呟く。マギは千雨に

 

「今度の休みに私と一緒に出掛けてください」

 

と誘われたのでネギと山に行かずに千雨と秋葉原にやって来たのだ。

 

「どうですか?街並みを見て何か思い出せそうですか?」

「いや、感じるのは騒がしくて元気な街だなっていうことで何も思い出す感じはないな……」

 

マギの返答を聞き少しだけ表情を沈めた千雨を見て直ぐに謝る。

 

「すまん思い出せないで」

「いっいえあたしも変な顔してすみません。辛いのはマギさんだっていうのに……」

 

互いに沈黙してしまう。いたたまれない空気になりそうなのでマギが話題を変えて話しかける。

 

「どうしてここに来ようと思ったんだ?」

「あたしがここに遊びに来たいと思ったのと、少しでもマギさんの記憶が戻る切っ掛けになれば良いなと思ったのと、なによりあたしがマギさんと一緒に出掛けたいと思いました。2人きりでここに来れて嬉しいです」

 

顔を赤くしながら微笑む千雨を見てマギも微笑み

 

「それじゃあ色々と案内してもらってもいいか?」

「はいっ」

 

笑顔でマギと手を繋ぎ秋葉原を案内する千雨。

 

「………っち」

 

遠くから悪意のある視線をマギに向けているのに気が付かないまま……

 

 

 

 

 

「ここは凄い店だな。きらびやかというかファンシーというか……」

 

アニメショップやゲームショップを見た後にマギと千雨はかつて来たことがあるメイド喫茶に来ていた。

 

「ちうちゃん久しぶり!ちうちゃんとマギさんがまた来てくれるなんて!」

「久しぶりさっちゃん。最近色々あってさ、気分転換に来たんだよ」

 

マギと千雨の相手をしてるのは小向幸子。さっちゃんと呼ばれるネットアイドルでここのメイド喫茶で働いている女性だ。

千雨とさっちゃんが他愛のない話をしている中でマギはきょろきょろと店内を見渡している。

 

「ねえちうちゃん、マギさん前にあった時とどこか雰囲気が違うけど何かあったの?」

「まぁ信じられないと思うけど、ちょっと前にうちの学園で大きな学園祭があった時に大きなイベントがあってさ、その時事故が起こってマギさん記憶喪失になって、今は自分の思い出とかが無いんだ」

「記憶喪失!?」

 

思わず大声を出して驚いてしまうさっちゃん。さっちゃんの大声で周りの席の客がマギ達を凝視する。

 

「ちょっとさっちゃん!そんな大声を出したら周りのご主人様に迷惑でしょ!!」

「ごめんなさい!マギさんが記憶喪失って聞いてびっくりしちゃって……」

 

メイド長と書かれたネームプレートを着けたメイドに謝罪するさっちゃん。さっちゃんの話を聞き何人かのメイドが反応する。

 

「マギご主人様が記憶喪失ってそんなドラマみたいな」

「でも本当ならかわいそう」

「せっかく来てくれたんだし私達が癒してあげようか?」

 

彼女らは前にここで起きたトラブルに関わっていたメイド達でトラブルを解決してくれたマギに感謝をしていた。

彼女達も興味ではなく善意で近づいているのは千雨も分かっているつもりではいるが心の中はもやもやしてしまう。

そんな話題の中心にいるマギはというと

 

「お気遣いありがとう、とても嬉しいよ。けどこれは俺の問題だから気にしないで欲しい。それに君達の素敵な笑顔と奉仕を独り占めにするのは贅沢過ぎるサービスだな」

 

と微笑みを浮かべながら断りをいれた瞬間にメイド達は黄色い声をあげた。例えるなら推しのアイドルに手を振っていたら振り返してもらったようなものだろう。女子が好きそうな返し方をしたのを見て千雨も呆然としてしまう。

マギが持て囃される態度が気に入らないのか急に騒がしくなったのを煩わしいと思ったのか何人かの男がマギを睨み付ける。

視線に気づいたマギは謝罪を込めて深々と頭を下げる。大人な対応をして納得して目線を元に戻すが、何人かが舌打ちや小さく文句を呟きながら目線を元に戻す。

 

「なんかマギさん雰囲気が変わったね。その接しやすくなったっていうか」

「あぁ、正直言うとどう接していいかまだ分からない所がある」

「ああいう返しはいけなかったか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

 

頭を抱えながら悩む千雨に何かを思いだすさっちゃん。

 

「そうだちうちゃん。せっかく来たちうちゃんにこの事を言うのはあれだけど実は……」

 

内容を話そうとした瞬間に事件は起きる。何人かのメイドや客が短い悲鳴を挙げる。何事かと悲鳴のする方を見ると

 

「てめぇか。うちの所のもんを泣かせたって外国の野郎は」

 

マギよりも背が高い190cm以上はありそうな難いのいいスキンヘッドの男がマギを睨む。どう見たって客ではなさそうだ。そんな男の後ろに腰巾着のように付いてきてる男が2人。よく見たら前にここでメイド達に酷い嫌がらせをして、マギに制裁を受けて尻尾を巻いて逃げていった男であった。

 

「おいこいつが本当にてめぇらを潰した男だってのか?この外国の兄ちゃんがこの店に入ったっててめぇらが言うから来てみれば、どう見てもただの外国の兄ちゃんじゃねぇか。てめぇらが大袈裟に言ってるんじゃねぇのか?」

「違いますよリーダー!俺達ホントに殺されそうになったんすから!」

「見た目と違ってとてつもないバケモノなんですよ!」

 

色々と喚き散らしている男2人だが、スキンヘッドの男に睨まれると直ぐに口をつぐむ。口答えは許さないと目で言っていた。

 

「俺等はここら辺をしめてる者だ。最近は勢いづいていずれは東京全体を俺等の縄張りにするって寸法……だった。てめぇにコイツらが負けてから他の奴らから『ぽっと出の外国人に負けたグループの奴ら』と指を指される始末だ。このままじゃ俺等の面子が立たねぇ。だからてめぇをシメて病院送りにして俺等の地位を取り戻す」

 

指の間接を鳴らしマギに威嚇するスキンヘッドの男。報復に来たようだ。リーダーがいるからか余裕の表情を見せてる男2人。店内は一触即発の雰囲気となる。だがマギはスキンヘッドの男をじっと見てから

 

「いや、これじゃないな……」

 

と目線を反らし、興味無さそうに呟いた。

 

「あ゛?」

 

まるで眼中にないというマギの態度にスキンヘッドの男は顔に青筋を浮かべた。店内がざわめくがそれよりも男2人の方が大きく喚き出す。

 

「あの馬鹿外人絶対に死んだぜ!!」

「前にリーダーの前で舐めた態度とった奴がリーダーにボコされて病院送りになったら1ヶ月は意識不明になったんだぜ!!」

 

冷や汗を流しながらよくあるバトル漫画の解説者のような台詞を口走り、皆このままマギがスキンヘッドの男に半殺しにされてしまうイメージが頭に浮かぶ。

 

「どっどうしようちうちゃん!早く警察に!!」

 

さっちゃんは千雨に警察に通報するように言うが千雨は

 

「あー大丈夫だろマギさんなら」

(こんな事をさっと口に出る位、あたしも非日常に染まりつつあるのかね)

 

千雨が遠くを見ながら大丈夫と言ったのを見て目を丸くする。

更にマギはあろうことか更なる爆弾を投擲する。

 

「……難いのいい体格、鋭い目、威圧的な口調、そしてスキンヘッド。人を力や恐怖で制圧するにはもってこいだろうな。だがそれが何になるんだ?今はいいかもしれないが、10年20年経てば体も衰えるし、今まで押さえつけられてきた人達が報復に来るかもしれない。何より非道な事をし続けたら真っ当な人生なんて歩めないぞ。そうなった時に後悔するのは自分自身だぜ。なぁ、そんんなの勿体ないと思わないか?」

 

どこか諭す様に言うマギだが、相手がそんな事を聞き入れる訳もなく

 

「……ぶっ殺す」

 

マギの何処か哀れむ視線に完全にキレてしまいマギの胸ぐらを片手で掴みそのまま持ち上げようとする。

 

「リーダーはもう止まらねぇぜ!!」

「あの世で自分の行動を恥じるんだな!!」

 

周りの客やメイドも大惨事になりそうで悲鳴を挙げるかその場から離れようとする。店長も警察に通報をしようとする。

だが悲惨な光景は訪れることは無かった。何故なら

 

「あ……が……!!」

 

持ち上がらない。まるで岩みたいにマギがびくともしないのだ

 

「りっリーダーどうしたんすか!?」

「何時もみたいに持ち上げてビビらせてやっちゃってくださいよ!!」

「うっうるせぇ!黙ってろ!!」

 

男2人を怒鳴って黙らせるスキンヘッドの男だが男自身も困惑している。マギくらいの背丈の男なら片手で持ち上げて振り回して投げるなんてわけなかった。なのにマギはうんともすんともびくともしないのだ。

こんなはずじゃなかった。スキンヘッドの男は頭に血が上って真っ赤になりながらもマギを持ち上げようとする。マギは溜め息を吐くとスキンヘッドの手を掴むと徐々に手に力を込めていく。

 

「いっつう!?」

 

徐々に万力の如く力を込められ段々と骨がミシミシと鳴り始め赤かった顔が段々と蒼白になっていく。遂に痛みに耐えきれなくなり片膝をつくスキンヘッドの男。

 

「りっリーダー!?」

「何痛がってるふりしてるんすか!?早くやっちゃってくださいよ!!」

 

まさかの光景に逆に慌て出す男2人。

 

「このやろう!……離しやが―――」

 

スキンヘッドの男は最後の強がりでマギを睨み付けようとしてマギと目が合う目が合ってしまった。

その瞬間、スキンヘッドの男は視てしまった。自身の死の幻覚を

マギに頭から噛み砕かれる。マギに体を貫かれ心臓を抉られる。マギによって上半身を吹き飛ばされる。どれも出来るはずないあり得ないことだが、目の前のマギは出来てしまう。そんな直感が頭から離れない。

 

「―――もっと自分の人生、大事にしなきゃだめだぜ?」

 

さっきの微笑みと真逆な底冷えするような冷笑を浮かべるマギ。そんなマギを見てスキンヘッドの男は心が折れてしまった。

 

「ひっひいぃぃ!!」

 

さっきまでと違い情けない悲鳴を挙げて店を飛び出して逃げるスキンヘッドの男。

 

「りっリーダー!?」

「待ってくださいリーダー!!」

 

まさか自分達のリーダーが尻尾を巻いて逃げ出したのを見て信じられないといった顔を浮かべる。

 

「おい」

 

マギに呼ばれ肩が大きく動く男2人。ゆっくりと振り返りマギを見ると、冷笑を浮かべるマギを見てそのまま固まったように動かなくなる。

 

「俺に対して報復するために上の人を呼んだかもしれないけど、何でもかんでも上の人に頼っちゃいけないぜ。何かあった時自分を護れるのは自分なんだからな」

 

冷笑を浮かべながら子をあやすように優しく話すマギだが相手はそんな事を気にしてる余裕などなく

 

「ぎゃああああああぁぁあ!!!」

「殺されるぅぅぅぅぅぅ!!」

 

狂ったように叫びながら店を飛び出す男2人。不良達が逃げ出した後の店はシンと静まりかえっている。

――――その後マギによって心が折れて戦意喪失したリーダーは

 

「世の中には手を出しちゃいけない奴がいる。あの男は普通じゃない。俺達がただの不良ならアイツは殺し屋だ。俺はもう無理だこの世界から足を洗ってちゃんと働く」

 

完全に恐怖に心を呑まれ、巨体が縮こまる姿を見せて、逃げるように日雇いではあるが仕事をするようになり、おっかなびっくりになっているリーダーを見て自分達も恐怖に刈られて続くように不良をやめるか、萎縮したリーダーを卑下するかリーダーを擁護する者達がぶつかり合って大勢が逮捕されて、スキンヘッドのグループは自然消滅してしまったのだった。

場面はメイド喫茶に戻り、大きく息を吐いたマギは

 

「―――皆さん、俺の問題に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」

 

先程までの冷たい雰囲気など無くなっており、深々と頭を下げて店にいる全員に謝罪する。

最初は皆呆然としているが、誰かが小さく拍手をし、それが伝染し段々と大きな拍手となり

 

「マギご主人様すごーい!!」

「あんな大きい男を何もしないで追い払うなんて!!」

「いやー凄いね兄ちゃん。おじさん腰が抜けるほどビビってたのにな」

 

メイドや客が拍手や称賛を贈る中、自分より巨体のスキンヘッドの男を追い払ったマギに舌打ちや小さく文句を呟いていた客がマギの異常性に恐れて男達に続くように店を後にした。

 

「マギさん、またも店を救って下さってありがとうございます」

「店長さん……」

 

店長が深々と頭を下げてお礼を述べる。

 

「実はあの輩、マギさんに追い払われた後暫くは店に来なかったのですが、最近になってからマギさんに報復するという名目で店に来てはマギさんが来たか確認して居ないと分かった後に店に嫌がらせをしてから出ていくことを繰り返してほとほと参っていたのです」

「そうだったんですか。すみません。前の事は覚えてないんですが、俺のせいで店に迷惑をかけてしまったようで……俺が店に迷惑をかけたなら出禁にしても構いません」

 

マギはもうここへは来ないと店長に告げるととんでもないと店長は首を横に振るう。

 

「元々あの輩が店やメイド達に嫌がらせをしていたのをマギさんが追い払ったのです。それに頭目のあの男がマギさんに屈したのです。もうあの男のグループが店に嫌がらせをすることはないでしょう。店を救ってくれた貴方に感謝こそすれ、出禁にするなんてとんでもない。今後も当店に来ていただけると幸いです」

 

そう言い店長はマギにフリーパスを手渡した。

 

「店長、ありがとうございます」

 

マギは店長に頭を下げる。その後にメイド達に感謝という名目でもみくちゃにされるのは言うまでもなかった。

 

「ホントに凄いねマギさん。目力だけで追い払っちゃうなんて」

「……あぁそうだな」

 

さっちゃんにふられるが元気なく呟く千雨。さっきのマギの冷笑を見て、あのままあの男を殺してしまうんじゃないかと思ってしまい、自分が知っているマギの雰囲気とまるきり違うのに恐怖を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

メイド喫茶を後にして裏通りを観光するマギと千雨。だが千雨は先程よりも元気が無かった。

 

「大丈夫か千雨?少し休もうか?」

「大丈夫ですマギさん。すいません心配かけるような態度とっちゃって」

 

気分が沈んでる千雨は無理して笑うがその笑みが痛々しい。

 

「やっぱりさっき聞いたことで気持ちが沈んでるんじゃないのか?」

 

さっき聞いたこと、それはメイド喫茶を出る時にさっちゃんからある事を聞いたからである。

 

『はぁ!?あのストーカー野郎が釈放されてた!?』

 

さっちゃんから衝撃な事を聞かされ驚きが隠せない千雨。

ストーカー男、それは千雨やさっちゃん等のネットアイドルを盗撮し、千雨を自分のものにしようとして最終的にマギに返り討ちにあい捕まったのである。それなのにあっさりと出てきたことに納得出来なかった。

 

『何でだよアイツのやってたことは許されないことだろ!それなのに何で!?』

『それが、最近分かったんだけど、あのストーカー男有名な議員の息子だったみたい。あの……』

『あぁ聞いたことある。悪徳議員って自分の不祥事を金で黙らせるって黒い噂で有名な。その議員の息子だったのか』

 

前回マギと一緒に来たときに不良に金をちらつかせてマギを襲った件のストーカー男。身なりは汚ならしかったのに金を持っていたのはそうだったのかと納得したくなかったが納得した千雨。

 

『元々色々と問題を起こして表向きは勘当したって話だったけど、金は仕送りしてたみたい。何か問題を起こさないようにって。けどそれでも問題を起こしたら自分の名前に傷が付かないようにするためにお金で黙らせてたみたい。今回もそうだって』

『クソみたいな話だな。でもそんな事をなんでさっちゃんが知ってるんだ?』

『世の中にはお金で気持ちが揺れない人もいて、その人が教えてくれたんだよ。被害にあった女の人に順番に連絡してたみたい。私もつい最近連絡が来たんだ』

 

悪態をつく千雨に色々と教えてくれるさっちゃん。

 

『そんなに酷い奴なんだな。何か被害にあったことは?』

『ううん。私や他の人には何も被害はないです。けどそのストーカーはちうちゃんに固執してたからもしかしたらと思って』

 

まだ自分を狙ってる。それを聞いて嫌悪感で体が震える千雨の肩に優しく手を置くマギ。

 

『大丈夫だ千雨。そんなストーカーなんか俺がなんとかするから』

『マギさん……』

『そうですね。さっきの見たマギさんがいれば大丈夫かなって思えます。ちうちゃんのことお願いしますね』

 

そして今に至る。マギはそのストーカーのことなど覚えてない。しかし千雨の元気がなくなるほど、そのストーカーは千雨にとって心のしこりとなっているのだろう。

 

「そんなストーカーなんて俺に任せて、少しでも笑顔を見せてくれると俺は嬉しいな」

 

そう言ってマギは千雨の肩を抱き寄せて少しでも安心させようとする。

 

「ちょっマギさん近いって!」

 

流石に恥ずかしく赤面する千雨に微笑むマギ。

 

「俺がやりたいから。少しでも千雨が元気でいてもらいたいから」

 

だから…と微笑みから急に無表情になり、裏路地の角を見る。

 

「いい加減、こっちをじろじろと見るのは止めてくれないか?なぁ……ストーカーさんよ」

 

えと表情が固まる千雨。暫くすると角からあのストーカーの男が現れた。以前よりも汚ならしい格好をしており、何日も風呂に入っていないのか異臭が離れていても臭ってくる。現にストーカー男の周りにいた観光客やチラシを配っているメイド達が鼻を摘まんで男から遠ざかっていく。

しかしストーカーは周りの視線など気にせず血走った目でマギを睨んでいた。

 

「何時から気づいてたんだよマギさん!?」

「結構前から。メイド喫茶に入る時に何処からか嫌な視線を感じてな。最初は俺に報復しようとしたあのスキンヘッドかとおもったが違かった。スキンヘッドは殺気だけだったが、嫌な視線は殺気と一緒に陰湿さが混じっていてな。それで俺に熱烈な視線を送っていたのはなにようかなストーカーさんよ」

「……こっここここ殺してやる!!俺に酷いこきききことしたてめぇをこ殺しゅてやりゅ!!」

 

明らかに呂律が回っていない口調でマギを殺すと喚き散らすストーカー。奇声に近い声で叫んでいるので周りの者達も尋常ではないと察する。

 

「殺すとは穏やかじゃないな。元はと言えばそちらさんがストーカーなんて人の道に反する真似をしたんだぜ。それなのに俺を恨むなんてお門違いもいいところだろ」

「だっ黙りぇ!おおお俺は選ばれた人間なんだぁよぉ!!選ばれた人間は何をしてもゆりゅされんだよぉ!だから俺の邪魔したてめぇは俺に殺されるべぎなんなりょ!!」

 

常識を説いても聞く耳を持たないストーカー。自分を選ばれた人間と喚く位だ。だめだこれはもう末期で戻ることは出来ない。

そうマギが判断していると、ストーカーは奇声の笑い声をあげながら懐から大きめのナイフを取り出した。

 

「こっこここ怖いだろぉ!?このナイフでてめぇの心臓を刺してからばばばりゃばらに切り裂いてやる!その次はちうだぁ!俺のものになる名誉なことなのに、なのになのに断りやがってぇ!!俺の言うことを聞けないならその邪魔な手足切って犬みたいにして飼ってやるぅ!!」

 

異臭にふまえて正気ではない言動に吐き気を覚える千雨。世の中にはここまで歪んだ人がいるのだろうか。

だがマギは顔色も変えずに

 

「わーこわーい……なんて言うと思ったか。ふざけんじゃあねぇぞ。千雨をもののように言いやがって。千雨は俺にとって大切な人の1人だ。それを飼うだと?何馬鹿な事を言ってるんだ。もう一度道徳と倫理を学び直してこいこのすっとこどっこい」

 

抉るように常識と正論を叩き込んでいった。観光客やメイド達はマギが火に油を注ぐような行為に信じられないと言いたげな目線を送った。倫理も常識も欠如してる人間にそんな事を言えば

 

「うるせぇ!ボケ!!死ねえぇぇぇぇぇ!!」

 

叫びながらナイフを構えてマギに突っ込んでいく。周りの人達は叫びながらストーカーのナイフに刺されないように横に跳んだりして逃げる。

 

「千雨、お前は離れてろ」

「マギさん!!」

「大丈夫だ。心配するな」

 

マギが千雨を自分から離して、ストーカーの相手をするつもりだ。千雨が相手にしないでとマギに叫ぼうとした瞬間

鈍い音がしてマギの心臓のある位置に深々とナイフが刺さった。即死だ。目の前で殺人事件が起こったことに人々はパニックになる。

 

「ざまぁみろ!殺してやった!殺してやったぞ!!次はちうてめぇだ!!」

 

勝ち誇った笑みを浮かべよだれを滴しながら千雨を嘗めるように見る。あまりの気持ち悪さに後退りする千雨。

もう自分の邪魔をする者は居ない。あとはゆっくりと千雨を自分のものにするだけだ。ストーカーは自身の勝利を確信していた。

……自分が今刺した相手が"普通の人間"ならばだ。

 

「………な」

「は?」

 

マギが何か呟いている。最期の言葉でも言おうとしてるのかと思ったストーカーは余裕の表情を浮かべながら聞こうとする。もう数秒もすればこいつは何も言えない骸となり果てる。だったら聞いてやろうじゃないかと下品な笑みを浮かべていると

 

「臭いなほんと、何日風呂入ってないんだ?風呂が無理ならシャワー位浴びろよなほんと。臭くてくらくらしてくるぞ」

 

異臭に耐えきれないのか鼻を摘まみながら冷たい目で睨んで来るマギを見て思考が停止するストーカー。

 

「は?え?なん、で?」

 

パクパクと何も言えずに口を開閉するストーカー。そんなはずない。自分は確かに心臓にナイフを突き刺した。即死のはずなのに何でマギは普通に喋れるのだ。頭の中が混乱し思わず心臓に刺さったナイフを抜いてしまうストーカー。

抜き取られて痛かったのか顔を多少歪めるマギ。だが痛がるだけで死んでいないマギを見て段々と恐怖がストーカーを支配していく。

 

「つつ……死にはしないが痛みはある、か……ぶっとい注射針をぶすっと刺された感じだな。この痛みも慣れちまえばいちいち痛がることもないんだろうな。ホントに俺人じゃあなくなったんだな。まぁこれも慣れていくしかないな」

 

そう呟いているマギはシャツを少々はだけさせて刺された場所を晒して見てみる。心臓部分に深々と刺さった刺し傷はみるみると塞がり刺し傷なんて最初からなかったかのように綺麗に消えてしまった。更にストーカーが持っているナイフの刃に付いていたマギの血もしゅうと音を立てて蒸発してしまった。

目の前であり得ない光景を見て、正気を失い地面に座り込んでしまう。座り込んだストーカーの目線に合わせるようにマギもしゃがみこんで

 

「そんな物騒なもの、人に使ったら危ないぜ」

 

スキンヘッドに向けた冷笑をストーカーに見せた。これが決め手となった。

 

「ぎゃああああああ!!ああああああああ!!ああああああああああああああああ!!」

 

精神が崩壊し発狂するストーカー。異臭に交じりアンモニアと硫黄のような臭いが鼻につく。どうやら恐怖で色々と漏らしたようだ。

暫くしてパトカーのサイレンが聞こえ警察がやって来た。どうやら誰かが通報したようだ。

狂ったストーカーを警察が数人がかりで押さえ込み連れていった。恐らくこのまま精神病院に連れていかれるのは確実。誰も死亡してはいないが、ストーカーはナイフを所持して振り回していたからそれ相応の罪も加算されるだろう。

残った警察官が襲われたマギに事情聴衆をしようとしたが千雨が

 

「前に襲ってきたストーカーがまた襲ってきました。特に実害はなかったですが、持っていたナイフは本物だと思います。正直私達は関わりたくないのでそちらで対処をお願いします」

 

と千雨が淡々と説明した。話を聞き終えた警察官は一礼するとパトカーに乗り去っていった。

時間が経つと先程まで事件があったことがなかったかのように何時もの賑やかさに戻ってしまった。

だがマギと千雨はもう遊ぶ気にもなれず

 

「帰りましょうマギさん」

「……そうだな」

 

学園に戻る事にした。

余談であるが、ストーカーは完全に精神が壊れてそのまま入院した。もうストーカーや盗撮等人に対して害する行為は二度と出来ないであろう。議員でありストーカーの父親は今回も揉み消そうとしたが、自身の不祥事が明るみに出て自身も逮捕され収容される形となった。親子で好き勝手やっていたが、これで年貢の納め時となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

学園に戻ってきたマギと千雨。電車の中では2人とも沈黙して何も話さない状態だった。

 

「……今日はすみませんでした。あたしが誘ったせいであんな事に巻き込まれるなんて」

「何言ってるんだ。あんなの偶然に起こったことじゃないか千雨が謝る必要なんてないさ」

 

沈黙を破って千雨が謝罪するが千雨が謝罪するのはお門違いである。

 

「それよりも今日は怖い目にあわせてごめんな。目の前で刺されたの見て正直参ってるだろ?」

「それは……はい、正直言うと参ってます」

 

また気まずい空気が漂う。何とか話題を出さないととマギは思案して

 

「エヴァに言われてまだ信じられなかったが、ほんとに不死身になったんだな。ナイフ刺されても死ななかったし」

「あたしも俄には信じられませんでしたけど、目の前でスプラッタ事案が発生しても何事もなかったように終わりましたし、もう納得する他ないですね」

 

マギも自分が死ねない体になっていることに多少ではあるが内心ショックだった。千雨やネギ達も事前にもうマギは不死の存在になったとエヴァンジェリンに教えられた。最初はにわかには信じがたいと思っていたが、今回のことで思い知らされる結果となった。

 

「なぁ千雨、俺は不死身の存在になった。ていうことはもう寿命で死ぬこともない。だから――」

「マギさん」

 

マギが何かを続けて言おうとするが、千雨がそれを遮りすかさずマギの頬を両側から思い切り引っ張る。

 

「ちっちふ?いひなひなひすふんふぁ?」

「マギさんあんたこう言う積もりだっただろ?俺とお前の歩める時間は違うから俺に無理して合わせなくていいってさ?だったらあたしの答えはこれだ」

 

千雨は頬を引っ張っていた手をマギの後頭部に回すとそのまま自分の元へ引き寄せマギの唇と千雨の唇を合わせた。

いきなりキスをされて目を丸くするマギ。キスは一瞬で終わらず10秒も経つぐらい長めのキスだった。

記憶を失った後の初めてのキスだったこともあり顔が赤くなり動揺するマギ。

 

「千雨いきなりなんで……」

「いきなりこんなことして卑怯だと思うけど、記憶を失う前のマギさんには面と向かって言えなかったから今言うよ。あたしはマギさんが好きだ。記憶を失う前と後でどこかマギさんの感じが違うから諦めようかなって思った。でもやっぱりあたしは自分の想いから裏切りたくない。マギさんが不死身とか関係ない。あたしは今のあたしの気持ちに正直になる」

 

それが先程のキスになるのだろう。自分に正直になった千雨への答えは……

 

「分からない。俺はどうすればいいんだ……」

 

千雨に対してどういう風に答えればいいのか分からなかった。

 

「マギさんがあたしの事を考えてくれてるのは分かってる。それは嬉しいよ。けど今日のことがあってその場の流れで言っているならNOとあたしは答える」

 

千雨の固い想いに押し黙ってしまうマギ。千雨の言うとおり今日のトラブルもあって気持ちも沈んでいることもあって言おうとしてしまった。

 

「意地悪ですけどマギさんは今はうんと悩んでください。悩んで悩んで悩みぬいてそれで答えを導いて。その間はあたしはマギさんのそばにいます。それにマギさんあのストーカー野郎に言ったじゃないですか千雨は俺にとって大切な人の1人だって。なら、もっとあたしのこと大切にしてください」

 

言いたいことを言いきったのかとてもいい笑顔をマギに見せてから駆け抜けていった。

ポツンと残されたマギはそのまま帰路につき、ネギ達が居ない部屋で夕食も取らずにそのまま横になった。

だがいくら経っても眠気はこなずもんもんとしてしまった。

 

「女の子ってよくわからない……」

 

そう呟き、やっと眠気が来たのは朝日が昇り始めた時刻だった。

 

 

 

 


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