マギがエヴァンジェリンの家で過ごすことになって数日。その間に学生達は避けて通れない試練期末試験を挑むことになった。
ネギにこのままいくと3ーAはまた最下位の順位に戻ってしまうと言われ(ほとんどの生徒はまいったねとそこまで危機感がない様子だったが)あやかに発破をかけられ、皆で差さえ合う形で勉強会を行い、超が抜けてもなお学年2位という輝かしい成績を残すことが出来た。
生徒の変化以外にもネギにも変化があった。クウネルと話した時はまだナギの捜索に一歩引いていたが、マギが自分の元を離れたことで心変わりがあったのか自らナギの捜索をしたいと言い出したのだ。といってもまだまだ頼りない所があると思ったのか、アスナやこのかに刹那とお馴染みのメンバーが同行することになった。
そんな生徒達やネギに変化がある中でマギはというと………
「えー静粛に。今から第1回恋裁判を開廷いたします」
「え?いや、何これ?」
放課後の3ーAの教室にて教卓にハルナが立ち、その教卓と向かい合うようにマギが座り、左に和美右にエヴァンジェリン。その後ろにのどか夕映千雨亜子が座っていた。この配置正に裁判である。
「今裁判って言ったよな?何で裁判?」
「被告人のマギさんお静かに。今の貴方に発言権はありません」
「被告人?え今俺被告人って言われた?」
やはり裁判であった。しかし何故自分が被告人と言われなければいけないのか、マギの困惑は増すばかりである。
「あ、ちなみにマギさんが殺人とか暴力沙汰なんてことはしてないし、私も裁判の仕組みあんまり知らないからゆるーくでやらせていただきまーす」
「いや仮にも裁判?なんだったらもう少し真面目にやろうぜ?というか何で俺が被告人なのかそれよりも恋裁判ってなんだ?」
「はーいツッコミはなしでお願いしまーす。時間が勿体ないのでー」
「もうツッコミって言っちゃったよ……」
マギのツッコミも流されてしまうので、もうなるようになれと諦めてことが流れるのを見ることにした。
「それじゃちゃちゃっとマギさんの罪状を読み上げたいと思います。えーマギさんの罪状は……『他の女の子をほっぽいといて1人の女の子とイチャイチャしてた罪』です!」
「…………はい?」
今ハルナは何て言った?マギは唖然とした顔を浮かべてしまった。
「あれ?マギさん聞いてなかった?もーちゃんと聞いててよ。恥ずかしいけどもう一回言うよマギさんの罪状は」
「いやいやいや聞いてた聞いてた。そうじゃなくてなんだその罪状。頭痛が痛いみたいなおかしい」
「言葉通りだよ。マギさんが1人の女の子だけ相手してるんだから。論より証拠。検察役の朝倉和美さん、例のものを」
はいはーいと和美もこれまた気の抜けた返事をしながら、数枚の写真を取り出す。
「えーこの写真はマギさんがエヴァンジェリンの家に越してきてからの数日を修めたものです。朝起床し一緒に朝食を食べ、帰宅し夕食を食べた後に軽くボードゲームを行った後に就寝。これを集計すると、他の子との会話よりも断然割合は大きい。よって他の女の子をほっぽいといて1人の女の子とイチャイチャしてた罪が妥当だと思われます」
「おいなんだその暴論は!?一緒に住んでいるんだから同じ時間を共有するのは必然じゃないか!!」
「弁護士役のエヴァンジェリンさんはもうちょっと黙っててくださーい。後で話す場は設けますんでー。それで被告人役のマギさん、今の証言に間違っている所はありますか?」
「いや、特にないと思うが……」
裁判長役のハルナに問われマギも特にないと答えるだけ。
「そんじゃマギさんが間違っていないと言ってますし弁護士役のエヴァンジェリンさん反論あるならどうぞー」
「ふんっマギは私の元に、あるべき場所におさまっただけだ。一緒の時間を共有するのは必然だろう」
「一応意義あり。マギさんは不死身の存在となって一緒になっているようですが、マギさんがエヴァンジェリンに好きだと言ったわけではないし、付き合ってもいないのにマギさんを独り占めするのはどうかと思います」
ふんと鼻を鳴らすエヴァンジェリンに意義を申し立てる和美、その意義の内容にううと唸るだけのエヴァンジェリン。エヴァンジェリン自身も自分の反論が半ば暴論であるということは理解しているようであった。
「そんじゃ次は証人……じゃなくてマギさん大好きな恋する乙女達の想いを今ここでぶつけてもらいましょかね」
「はっハルナ!?」
「いきなり何を言い出すですか!?」
「恋する乙女ってさらっと言うんじゃねえよ!自分がそのカテゴリに属してると思ったら鳥肌立っちまったじゃねえか!」
「急に言われるのも恥ずかしいんよ!!」
のどか達はハルナのふざけにツッコミを入れるが、でも事実でしょ?な目で見られ、ぐうの音も出ない彼女らは次々と口を開く。
「最近もマギさんとは本のお話をしました。新しく出た新作の本や最近読んだおすすめの本の話です。けどマギさん時折どこか遠くの方を遠い目で眺めることが多くなって時折私の話を話半分で聞いていることが増えてきました……」
「私ものどかと同じようなものです。他愛のない話を一緒に楽しげに話している時にマギさんは時折私を見る目が儚い、壊れやすいものを見ているような眼差しを向けるです。その目を私に向けた時は必ず自分から話を切ることが多くなったです」
「あたしは前に一緒に出掛けたけど、それっきり話をしてくれる時はしっかり話をしてくれるけど、たまにあたしの事を避けるようになったよな」
「ウチも部活の事で悩んでいた時もマギさん親身になって聞いてくれて嬉しかった。けど最後ら辺でウチの事を寂しげに見て、ウチが寂しげに見てたこと聞こうとしたら無理やりに話止めちゃって……」
『まとめると寂しくなってもっと構って貰いたいです』
マギに恋する乙女達の本音を聞いてマギも開いた口が開かなくなる。
「まーこのように彼女らは話を急に終わらせられたり、露骨に避けられるようになったけど、マギさんの事を想っているわけなのです。だからあんまりマギさんを独占するような真似はやめるさねエヴァンジェリン。この子らはアンタと違って時間が有限なんだから」
「…………分かった。確かに私も露骨すぎた。すまない」
和美に諭され、数秒沈黙していたエヴァンジェリンが謝罪する。
「それで、マギさんも色々と思ってたことがあったんじゃないかにゃー?のどか達も胸のうちを明かしたんだからそっちもゲロっちゃいなよ!」
ハルナに迫られ、マギも自身が抱えていた思いを打ち明ける。
「エヴァと過ごし始めてから、心の底から安心することが出来た。のどか達とも話していると気持ちが安心して癒されることもあった。けど、時折思ってしまうんだ。俺はもう時間の概念から逸脱してしまった存在で、のどか達の時間を無駄に奪ってるんじゃないかって。そう思ってしまったら申し訳なくなって……」
マギは己の内を打ち明けた。マギは不死身の存在となった結果考え方も変わってしまったのだろう。マギの考えを聞いて黙り込むエヴァンジェリン。
しかしハルナはそんなマギの考えなど鼻をかんだ塵紙のごとく粗末なものと考えており
「マギさん、こんな言い方あれだけどマギさんの考えとっっても小さいからね」
「そっそうなのか?」
そうっとハルナは教卓を思い切り叩き大きな音を出す。
「好きな人と一緒に過ごすのは互いの他愛のない無駄な時間を素敵な時間にするのであって、どっちかがその誘いを断ったらほんとに無駄な時間になっちゃうんだから!恋は全力投球で相手が全力ならこっちも全力で捕ってあげなきゃ。それに恋は熱しやすくて冷めやすいものなんだから。どうするの?のどかが急に他の男と仲良くしてるのを目撃しちゃったら」
「それは……」
「嫌でしょ?だったらそんなうだうだした考えなんて持ってないでもっとのどか達との時間を大事にしないと」
ハルナの忠告にマギは首を縦に動かす。
マギの反応に満足したハルナは軽く教卓を叩き。
「よって判決はもっとマギさんはのどか達の事を相手にすること。出来ないのならマギさんはのどか達との関係は先生と生徒の関係に戻ること」
「分かった。もっとのどか達との時間を大事にするよ」
「よっしOK。そんじゃ恋裁判はこれにて閉廷!!」
あっさりと判決が出てあっさりと裁判は終わった。端から見たら茶番劇甚だしいものだが、今の彼女達には必要なものだった。
「随分と大袈裟なものだと何時もの私だったら笑っていたが、私も少々意地を張りすぎた。私の悪い癖だ。あのままではマギを独占し続けていた。すまなかったな早乙女、それとありがとう」
「おっとあのエヴァンジェリンが素直に謝って礼を言うなんて珍しいねー。まぁ私としては裁判のネタになるかなと思ったのと修羅場見れるかなーって思ってやっただけだからね」
「私も芸能人のスキャンダルの練習と思って参加しただけだし、良い経験になったさね」
「本当にぶれないなお前らは」
自分等のスタンスを貫いた和美とハルナに感心と呆れの半々なエヴァンジェリン。
それにとハルナはマギに近づくのどか達を見る。
「マギさんまた本のお話とかいっぱいしましょうね。私、今マギさんとお話をするのが一番楽しいですから」
「私もマギさんとお話をすると自分の世界が広がると思ってるです。だからこの1分1秒を無駄にしたくないです」
「マギさんあのストーカー野郎に言ったよな、あたしは自分にとって大切な1人だってな。だったら大事にしてくれないと拗ねて引きこもって不登校になってやるからな」
「ウチの物語にはマギさんは欠かせない登場人物なんや。だからマギさんがいないといつになっても始まらないからもっとウチの物語に登場してもらわないと!」
「皆……すまない。俺もっと君達の事を大事にするよ」
マギものどか達に謝り一応は落着しただろう。
「恋って同じように見えて違うものだから、その恋1つ1つに全力で当たれないと、中には何をしでかすか分からない子だっているからさ」
「分かったよ肝に銘じておくさ」
こうして第2回が起こるかどうか不明だが恋裁判は終了したのであった。
1学期の終業式が終わり、生徒達が教室を後にしマギが生徒の出席簿に何かを書いている。
「お兄ちゃん。そろそろ打ち上げのカラオケ回だよ」
「あぁ分かってる。もう書き終わったから」
書き終わり満足な顔を浮かべたマギは出席簿を閉じた。
「何を書いたの?」
「俺にとって大切なことさ」
マギの言ったことに首を傾げるネギ。マギは出席簿を職員室に戻しに行った。
――皆との時間、1日1日大切に過ごそう――
出席簿の端に新しく記したマギ。記した通り大切な皆との時間を大切にしようと誓う。
こうして長い夏休みが始まるのだ。