堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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魔女の聖水

のどか達がエヴァンジェリンに修行をつけてほしいと頭を下げて懇願した。対するエヴァンジェリンは普段なら面倒だ他を当たれと追い払おうとするが、今回はいいだろうと承諾した。しかし顔には嗜虐的な笑みを浮かべており、彼女が行おうとする修行が今までネギに教わってきた魔法のレッスンとは天国と地獄位の大きな差があるだろう。

エヴァンジェリンが着いてこいとのどか達を何処かにつれてこうとする。着いていくのどか達。暫く別荘の城の中を歩いていたらある1室に到着した。

 

「茶々丸」

「はいマスター」

 

エヴァンジェリンが茶々丸を呼ぶと、音もなくエヴァンジェリンの背後に現れる茶々丸。まさかいきなり茶々丸と組み手でもするのかと身構えてしまうのどか達だがそうではなく茶々丸にある命令を下す。

 

「"あれ"を今すぐ用意しろ」

「………っ"あれ"ですか?失礼ながらマスター、"あれ"は些か性急ではありませんか?」

「のどかやその他の奴らは私に修行をつけてくれと言ったんだ。"あれ"を使わないと着いていくのは無理だろう。だから早く持ってこい」

 

……分かり、ました。とまだ納得していない様子だが、渋々と下がり"あれ"なるものを持ってくるために部屋を後にした茶々丸。

茶々丸と組み手をしないと分かり胸を撫で下ろしたいが、"あれ"なるものの正体が分からないためにかえって不安が強くなるのどか達。

 

「さて茶々丸が"あれ"を持ってくる間に改めて聞いておくか、のどか、綾瀬夕映、長谷川千雨、和泉亜子。何故お前達は私に修行をつけてほしい?その理由が軽いものだったら即刻この部屋から摘まみ出すが、まぁ理由は一緒だろうな」

 

挑発的な笑みを浮かべながら何故自分に修行をつけて貰いたいのか理由を問いてみる。

そしてのどかから口を開ける。

 

「私達が行く魔法世界が危ない所なのは分かってます。マギさんやネギ先生に護ってもらっていては、かえってマギさん達に迷惑をかけてしまいます。なら自分の身は最低限護れるようにして、マギさんを少しでも支えたいです」

「のどかと同じです。恐らく魔法世界は私がこれまで体験したものよりも過激で危険な旅になるのは重々招致してるつもりです。お荷物な私が足を引っ張って皆に迷惑をかけてしまうのは絶対だめです」

「こういった修行イベントを行った場合に、トラブルに遭遇するのはお約束だしな。それにあたしらは自ら治安が悪い場所に足を運ぼうとしてるんだ。それなのに何の準備もしてなくて迷惑をかけて最悪死ぬことになったら笑い話にもならないし、なによりポリシーに反するからな」

「ウチ学園祭の時には何も出来なかった。直ぐにリタイアしてマギさんが記憶を失ってウチは悲しさよりも悔しさと自分に腹が立ってしょうがなかった。だからマギさんの役に立つために、強くなってマギさんが言ってくれた自分の物語の主人公になってやるんや」

 

のどか達は自分達の本心をエヴァンジェリンに話す。しかし本音は話さなかった。

本音は『マギと一緒の時間を増やすために、力をつけて支え支えられる関係になりたい』そんな思いである。エヴァンジェリンも彼女等の本音など見通しているが、黙っていた。その本音が最後まで貫き通せるか見物だとそう思いながら。

のどか達の本心を聞いている間に、茶々丸がキッチンカートを押しながらワインボトルとエヴァンジェリンと茶々丸を除いた人数分のコップが置いてある。

茶々丸がワインボトルのコルクを抜く。小気味ないい音が鳴り順番にコップに液体を注ぎ込む。

注ぎ込まれた液体は綺麗な青であった。馴染みのあるものでブルーハワイを連想するのどか達。

 

「エヴァさん、これは一体なんですか?」

 

のどかがこの得体の知れない液体が何なのか恐る恐るといった形で訪ねる。

 

「これは通称『魔女の聖水』と呼ばれる薬だ。周りと比べると魔力の弱い子供に少しずつ飲ませて魔力を大きくさせる薬だ。お前達の修行にはこれを飲まないと始まらない。だから早く飲め」

 

エヴァンジェリンに早く飲めと命じられ、匂いを嗅いだ後に恐る恐る口へと運びゆっくりと飲み干した。味は特にないがのど越しが爽やかに感じるのが飲んでみた感想だ。

恐る恐る飲み干したのに特に体に変化がない。妙な肩透かしをくらったと思っているとエヴァンジェリンが

 

「よく疑いもなく飲んだな。それほどお前達が私に信頼しているということなのか、変な感情だな……まぁそれを飲まないと始まらないと言ったが言っておくぞ、気を強く保てよ」

「皆さんお気を確かに」

 

エヴァンジェリンに茶々丸が何を言い出したのかと首を傾げようとしたがそれは急に襲ってきた。

 

「うっ……く………!!」

「あっあああ!あぁぁぁ……!」

「~~~~~!!」

 

のどか、夕映、亜子が踞って倒れ込んでしまった。

 

「おっおい!?急にどうし―――」

 

急に倒れたのどか達に驚き声をかけようとした千雨にもそれは襲ってきた。

鋭利な刃物で身体の内側を何度も突き刺されるような、炎で内蔵が焼き爛れるような形容しがたい激痛が身体中を巡っているのだ。

 

「始まったか……」

「え、エヴァン、ジェリン……!あたし、らに何、飲ませたんだ!?まさか、どっ毒でも盛ったの、か!!つぅ……!!」

 

痛みに耐えながらエヴァンジェリンに叫ぶ千雨に毒なんか飲ませていないぞ、そんな事をしたらマギに嫌われると首を横にふるエヴァンジェリン。

 

「と言ってもお前達には毒のようなものであるかもな。その魔女の聖水は原液では飲めない程の劇薬でな、本来は100倍に希釈して飲むものだ。だがその薬はわずか"10倍"しか希釈していない……その意味が分かるな?」

 

エヴァンジェリンの説明でのどか達は顔から血の気が引いて蒼白になってしまう。本来の10分の1しか希釈していないと聞いて、痛みと絶望で気が狂いそうだ。

 

「私の修行の第1段階は魔女の聖水に耐え抜くことだ。制限時間は今から1日、それに耐えきることが出来れば修行をつけてやろう」

「ふざ、けんな!今でも痛くて狂いそう、なのに1日だって!?ホントに発狂、しちまうだろうが!!」

 

エヴァンジェリンからの最初の修行内容に口汚く猛抗議をする千雨。他ののどか達も痛みで口を開くことが出来なかったが千雨の抗議に激しく同意していた。流石に修行初日からこんな激痛が走るような方法はやりすぎだと、そう言いたくてしかたなかった。

しかしエヴァンジェリンは深い溜め息を吐くと

 

「これでも優しくした方なんだがな……お前達も分かっているだろう。私達は旅行に行くわけじゃないんだ。長谷川千雨、お前も自分の口から自ら治安が悪い場所に足を運ぼうとしていると言ったよな?何かのトラブルで皆と離れ離れになった時に自分の身は自分で護のが当たり前だ。私は非力な一般人ですだから襲わないでなんて道理が通じないのは分かっているだろう。最悪その痛みがましだと思えるような目に会うかもしれない。そんな目に会いたくないなら今は耐えろ。もしやばいと私が判断したらその時は茶々丸がお前達に打消しの薬と気付け薬を投与してやる。しかしその場合は見込み無しとして修行はつけさせないし、魔法世界にも連れていかない。まぁ私としてはマギに近づく者が少しでも減ればそれでいいがな」

 

とエヴァンジェリンが話している間に亜子、夕映、のどかは次々と意識を手放してしまう。踏ん張っているのは千雨だけだがそれでも千雨もそろそろ意識が飛びそうであった。

 

「それが嫌なら抗い踏ん張ってみろ。そうすれば次に目覚めたら新しい自分が待っているぞ」

「くそったれ……!絶対、耐えてやるから、首を洗って、待って、ろ、よ……」

 

最後の悪態を吐いて千雨も意識を手放して倒れこむ。しかし意識を失っても痛みでうなされるのどか達。それほど飲んだ薬が劇薬だったことが物語れる。

 

「茶々丸、のどか達を清潔なベッドに寝かせておけ、後にお前の姉達にも手伝わせる。その後24時間体勢でのどか達を監視しろ。私は坊ややマギに神楽坂の様子を見てくる。お前がまずいと判断したら私に直ぐに報告しろ。間に合いそうに無い時はお前の判断で薬を投与しろ」

「……マスター、お言葉ですが今回のやり方は承服しかねます。まだ魔法に慣れ始めているのどかさん達に急にあのような劇物を飲ませるなど。これをマギ先生が知れば……」

「許さないと言いたいんだろ。まぁそうだろうなぁ……あいつ前の性格以上に心配性になってる所あるし、けど今回はのどか達が自分で言い出した事だし、のどか達の覚悟を無下にすることはしないだろうさ」

 

それにとエヴァンジェリンはうなされているのどか達を見下ろして微笑みを浮かべながら

 

「のどか達もあのぶっ飛んだクラスの一員だからなんやかんやで耐えられそうだと私の直感が囁いているよ」

 

分かったらさっさと運べと茶々丸に命じるエヴァンジェリンだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、れ?ここは?」

 

真っ暗な空間で亜子は目を覚ます。目を覚ましてはいるが、意識はまだ朧気である。

 

「皆は何処にいるんやろ……」

 

亜子はのどか達を呼び続けるが、一向にのどか達の姿を見つけることが出来ない。真っ暗な世界にたった独りぼっち。段々と不安で押し潰されそうになっていると

 

『―――!』

『―――』

 

何処からか話声が聞こえて来た。この真っ暗な世界に誰か居る。少しでも不安を消そうと話が聞こえた方へ駆け出す。

しかし駆け出し、声が明確に聞こえて来て段々と亜子の歩みが止まる。何故なら

 

『何で!?何でなん先輩!?どうして急に会うのを止めたん!?』

『あーそのなー』

 

かつて付き合っていたサッカークラブの先輩との別れの場面だったから。

 

『ウチに何か悪い所があるんやったらウチ直すから!だからウチの事避けんといて!!』

 

やめて、それ以上は聞きたくない。亜子は耳を塞ぐが声は聞こえてくる。

 

『正直自分でも最低な野郎の言うことだと思うけど……萎えちゃったんだわ』

『………え?』

『俺も勢いで君の純潔を貰おうとしたけど、君の大きなその傷を見ちゃって、その、勝手な物言いなのは分かってるけど女の子として見れそうになくなったんだわ』

『そんな……ひどい……』

『うん、だから詫びとは言えないだろうけど、このサッカークラブは今週で辞める事にした。君を振り回した俺はもう二度と君に会わない様にするよ』

『先輩!』

『さよなら亜子。君の事を女の子として見てくれる人が見つかるのを祈ってるよ』

 

そう言って先輩が去っていった所で先輩と泣き崩れる亜子が砂のように崩れ去った。自分が忘れようとした心の傷。だが心に刻まれたトラウマがそう簡単に拭えるものではなかった。

 

「何で、何でこんなのが急に?忘れようとしたのに……」

「それがウチのトラウマ、自分が捨てきれない過去なんや」

 

もう1人の亜子の声が聞こえ、泣いている表情を浮かべる亜子の幻影が立っている。

 

「大きな傷持ちのウチ、可愛そうなウチ……でもそんなウチを慰めてくれる素敵な人は現れない」

「ちっちゃう!そんな事ない……」

『きゃはははは!惨めぇ、そうやって悲劇のヒロインぶってるのが更に不様さが増してるわぁ!!』

 

また聞きたくない声が聞こえ、プールスと出会ったときに襲ってきたサキュバスが亜子を嘲笑いながら立っていた。しかし目の前のサキュバスも亜子のトラウマとなった幻影にすぎない。

 

『あんたみたいな傷物のブスがぁ、人に愛されるなんて笑い話にもならないわぁ』

 

サキュバスが亜子に手を伸ばす。

 

「いっいやぁ!近づかんといてぇ!!」

 

悲鳴を挙げながら亜子は腕を振り回す。亜子の手がサキュバスに当たり霞のように霧散する。が幻影であるために消えてもまた亜子を嘲笑う嘲笑が暗闇の中で響く。

 

「もう夢を見るのはやめよな。ウチみたいな何の取り柄もないモブキャラは背景として生きていくのが一番やって」

 

無理だ諦めろどうせ自分は輝けないと亜子の幻影は亜子の心を折るような言葉を延々と吐き出す。

 

「………やっぱウチ、主人公になることは出来ないのかな……」

 

折れかけ、亜子は体育すわりで縮こまり顔を伏せてしまう。もう自分は終わりだと諦めそうになったその時

 

『そんなことない!!』

「え?」

 

また亜子の声が聞こえ、顔を上げると小さいが輝いている亜子の幻影がじっと亜子を見つめている。

 

『あの時マギさんはウチに言いよった!お前の人生の物語の主人公はお前だって、確かにウチはあの先輩に振られてあのおばさんのせいでマギさんに傷を見られた、それはもう覆せない過去や。けど!過去がなんや!大事なのは過去を乗り越える一歩や!一歩も踏み出せずに主人公になろうやんてそんな甘い話なんてこの世にないわ!!』

 

小さい亜子が亜子を叱咤する。だが何故だろうか、泣き顔の亜子の言葉と違い自身の心を奮い立たせる熱さがあった。

 

「そうや、主人公は皆自分から一歩踏み出してた。一歩踏み出してその結果物語は動いて輝くんや……!」

『無駄やって。そんなことやっても損して無駄な結果に合うんはは自分なんやから』

 

泣き顔の亜子の幻影が立ち上がった亜子をまた否定する。かもなと亜子も自身の幻影の言ったことを否定しない。けどなと続け

 

「ウチの人生まだまだこれからなんや。今はマギさんと一緒の時間を歩めるために頑張って、もし振られてもマギさんのために使った時間は決して間違いじゃないって胸を張るために」

 

そう言って亜子の手元に馴染みのあるサッカーボールが現れる。現れたサッカーボールを亜子は

 

「いっけぇ!!」

 

某少年探偵張りのボレーシュートを泣き顔の亜子の幻影といつの間にか元に戻っていたサキュバスの幻影に向かって蹴りだした。

サッカーボールは幻影に当たると幻影達は断末魔の声も挙げず、ガラスのように砕け散ってそのまま消滅した。幻影は再生せずに亜子の心を折るような声も聞こえなくなった。

「今は全力で人生を楽しむんや!!」

 

改めて決意を新たにするのだった。いつの間にか小さい亜子の幻影も居なくなっている。もう大丈夫だと言うことだろう。

変わらず真っ暗な空間ではあるが、遥か先に星位の小さな光が見える。

 

「行くで!まずは前に前進や!」

 

届かないであろう光に向かって亜子は駆け出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「よかった亜子さんはもう大丈夫そうですね」

 

倒れ魘されているのどか達を姉達と一緒にベッドがある部屋に移した茶々丸は、先程まで激しく魘されている亜子が少しだけ治まった様子を見せたのでほっと胸を撫で下ろした。

 

「うっうう……」

「あ……あ……ああ……」

「あぁぁ、うあああぁ……ああああ……」

 

だがまだ千雨と夕映とのどかはまだ呻き声を挙げる程魘されていえる。まだ予断も許さない状態だ。

 

「のどかさん、夕映さん、千雨さんどうか気を確かに持ってください……!」

 

己が何も出来ないことを歯痒く思いながらも、茶々丸はのどか達が乗り越えられるように、今は願うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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